60.愛故に
「ちゃうねん、ちゃうねん。」
「何がやー!!」激高した、依頼人の女性は、台所に走り、流しの下の扉を開けて出刃包丁を振りかざした。
阿吽の呼吸で、倉持は、依頼人を羽交い締めにした。
○月〇日。
俺と倉持は、依頼人と一緒に亭主の浮気現場に踏み込んだ。
「ちゃうねん、ちゃうねん。」
「何がやー!!」激高した、依頼人の女性は、台所に走り、流しの下の扉を開けて出刃包丁を振りかざした。
阿吽の呼吸で、倉持は、依頼人を羽交い締めにした。
俺は、説得しながら依頼人の動きを封じ込めようとしている隙に、ハンカチを出して、包丁をハンカチで握って流しの下の扉裏の包丁差しに入れて、扉を閉めた。
「殺そうとしたな。殺人未遂やぞ。」凶器が消えたのを確認してから、亭主は叫んだ。
俺は、バッグからペットボトルを出して、依頼人の目の前に差し出した。
依頼人は、興奮しながらも反射的にペットボトルを受け取り、キャップを外して、中の水を一気飲みした。
「ほな、帰りますわ。」
俺は、録音していないICレコーダーの、録音スイッチを切る真似をした。
唖然としている男女を尻目に、俺は倉持を促して、外に出て、止めてあった自動車に乗った。
倉持が、ゆっくりとスタートさせた。
アパートの窓から男女は見ていた。
ペットボトルをキャップで蓋した依頼人は、「お金、払わないと。」と言い出した。
「経費で先払いして貰ってますやん。」と、俺は言い、依頼人に『おまじない』を教えた。
「グーチョキパー、グーチョキパー、グーチョキパー!!だい、じょう、ぶっ、だい、じょう、ぶっ、だい、じょう、ぶっ!!」
事務所に帰ると、横ヤンと花ヤンが帰っていた。
「ご苦労さん。今、EITOエンジェルズが捕まえた通称リー・康夫の追加調査から2人が帰ってきたとこや。横ヤン、済まんが、もう一度。」と、所長が言った。
「お安い御用で。リー・康夫の目の前で死んだ飛鳥吾郎は、『看護師の和田和子』というダイイングメッセージを遺した。『三つ子の魂百まで』、そそっかしいリーは看護師の和田和子に復讐を依頼したと思い込んだ。『調べ』で、正確なメッセージを再現させたら、『あいつ・・・看護師・・・小和田和子・・・頼む』やった。小和田の部分は、小学校の時に帰国したリーが日本の文化をあまり知らんかったから類推せずに『和田』と聞き違えた。花ヤンの方は外れやったが、大阪市内の病院で『小和田和子』という名前の看護師で、飛鳥と『交際』していた人がいた。飛鳥はリーに、『あいつらからまた虐められんように、看護師の小和田和子をよろしく頼む』と言いたかったんや。小和田さんは、仲間の看護師からイジメに遭っていた。入院していた飛鳥は、見るに見かねて庇った。それで交際が始まった。リーが飛鳥と親友になったのも、イジメから救ってくれたからやった。全てを知ったリーは、『償いが済んだら飛鳥の墓参りに行きます』と言って号泣したそうや。」
「ええ話やナア。」と、いつの間に『おかもち』を2つ持って立っていた、澄子は、横ヤンの持っていた写真を覗き込んだ。
「今日は、特別や。おでんの出前、頼んだ。」と、南部所長は得意げに言った。
「えらい別嬪やなあ。あの人みたいや。」
澄子は、早死にした、往年の女優の名前を出した。
皆、おでんを頬張りながら、頷いた。
―完―
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