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氷姫といっしょに人探し  作者: 軽井広@北欧美少女ノベル5巻が8/25から発売!


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15/19

氷姫の嘘

 翌日の放課後、和弥は市立図書館に立ち寄った。二階にある端末を立ち上げ、図書館専用の新聞のデータベースにアクセスする。

 これに「仲木戸」という名前を入れれば何かわかるかもしれない。

 ネットでは何も情報はつかめなかったが、このデーターベースなら過去のかなり細かいニュースでも調べられる。

 地名としての仲木戸に言及する記事ばかりだ。

 諦めかけたそのとき、和弥は一件の記事を目にした。


 十五年前の殺人事件だ。

 簡単な事件の内容だけが紹介されている。

 二〇〇二年七月、当時三十七歳の男、仲木戸一が、隣家の女性を殺害した。

 事実は、それだけだ。

 理由はおそらく騒音トラブルで、仲木戸一は粗暴な人物だったらしい。

 場所は名古屋市内。

 これが智樹の実の親である可能性はある。


 そして、被害者女性の名字も、珍しい名字だった。

 とりあえず、週刊誌なども当たってみよう。

 夏原夫妻に話を聞ければ一番良いのだが、そういうわけにはいかない。

 和弥は立ち上がろうとした。すると、急に光が遮られ、ディスプレイの上に大きな影が落ちた。

 誰かが和弥を頭上から覗き込んでいるのだ。


「神谷よね? 何しているの?」

「それはこっちのセリフだよ」


 和弥は顔を上げて、姫宮をぼんやりと眺めた。姫宮も学校帰りなのか、制服のブレザーを着ている。

 姫宮は両手を腰に当て、不機嫌そうに和弥の目を覗きこんだ。


「昨日、神谷は学校に忘れ物をしたのよね」

「ああ、うん」


 そういえば、そんなことを別れ際に言ったような気がする。実際には、和弥は葉月と会っていたのだが。

 姫宮は、切れ長の目で和弥を睨みつけた。


「嘘つき」

「え?」

「葉月さんと話しこんでいたでしょ?」

「ええと、どうして知っているの?」

「それは……」

「もしかして俺の後をつけていた?」

「ええ。それでわかったの。神谷が嘘つきだって!」


 姫宮は顔を赤くして、閲覧席の机を手のひらでばんばんと叩いた。


「場所を移そう。ここだと他の人の迷惑になるからね」

「……わかったわ」


 和弥はさりげなく端末の電源を切った。

 この市立図書館は、市内でも有数の規模を誇る公園のなかにある。二人は図書館を出て、歩きながら話すことにした。

 もう日は沈みかけていた。だだっ広い広場には、人がまばらにしかいなかった。


「それで、わたしに嘘をつくなんて真似までして、葉月さんと何をこそこそと話していたの?」


 和弥の横を少し離れて歩く姫宮が、冷え冷えとした声で言った。和弥は肩をすくめた。


「悪かったよ。葉月が追加で話したいことがあるって言うから」

「今日だって、授業が終わったらわたしを置いて勝手に帰ったし」

「それは事前に約束していなかったから」

「そうだけど、一言ぐらい声をかけてくれてもいいのに」

「ごめん」

「そんな謝り方じゃ、許してあげない」


 姫宮はくすりと笑った。


「でも、何か夏原くんの行方の手がかりになりそうなことを聞けたなら、許してあげる」

「一つだけ重要なことは聞けたけど」

「え、なにを聞いたの?」

「何を聞いたかは、言えない。それが葉月との約束だからね」

「わたしのことが信用できないの?」

 

 和弥は立ち止まった。

 じっと姫宮の顔を見つめる。


「な、なに?」


 うろたえた様子で、姫宮は顔を赤らめた。


「俺は姫宮のことを信用できない。俺に嘘をついているからだ」

「な、なんのこと?」

「正直に話してくれないかな」

「嘘をついて葉月さんの家に行ったのは、神谷よ。私を責めて、誤魔化すつもり?」

「そういういわけじゃない。東雲さんと親友というのは、姫宮の嘘だよね?」

「いきなり、何を言い出すの? わたしと東雲さんは親友だし、東雲さんからも話を聞いたでしょう?」

「親友っていう概念は曖昧だ。だけど、失恋したことを秘密にするような相手を、親友と呼ぶかな」

「どういうこと?」

「東雲さんは智樹に振られている。そのことを姫宮に隠したままだったんだよ」

「そう、だったんだ」

「そもそも、二人は気の合うタイプだとは思えない。それに姫宮のあだ名は氷姫。他人を気軽に親友なんて呼ぶ柄じゃない。なのに、姫宮は東雲さんのことを親友だと言い、東雲さんも姫宮のことを親友だと言う。そして、それを理由に俺に智樹を探させた。姫宮はどうして智樹を探そうと思った?」


 姫宮は何も答えず、ただ和弥を見つめていた。


「べつに姫宮を責めているわけじゃない。ただ、本当のことを話してほしいだけだ」

「わたしは、話せない」

「話せないなら、俺は調査から降りる」


 和弥は姫宮の目を見た。

 どうあっても、姫宮は秘密を話す気はなさそうだった。


「神谷はわたしのことが嫌いなんだ」

「そんなことはないよ」

「嘘つき」


 姫宮は身を翻して、走り去っていってしまった。

 嫌いなわけなんてないのに、と和弥は心のなかでつぶやいた。

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