愛するあなたに花束を・中編
ルーファスが集めてきた、と言っても人数は少なかった。クライド、ルーファス、リリアンを含めて六人。他にマティアス、エイミー、ノエルだ。人選が微妙である。だがまあ、主要人物と言ったらこうなるだろうか。
「何なんだ? 何かあったのか?」
クライドがほかの五人を見渡して尋ねた。大有りだ、と答えたのはリリアンである。
「アーサーを振ったと聞いたのだが」
「! どこでその話を……陛下か」
驚いて尋ねたクライドだったが、自分で答えを出していた。リリアンはこくりとうなずく。
「とりあえず、弁明を聞いてやる。何故断った」
「……無駄に偉そうだな」
「元からこういう性格だ」
だが、多少イラついているのは認める。リリアンはクライドに向かって言った。
「いいか。クライドさんとアーサーの間がこじれると、私にしわ寄せが来るんだ。機嫌が悪いのも察しろ。私だってもっと心穏やかに過ごしたいわ」
ここまで言えば、クライドも何故自分が呼び出されたか察しただろう。
「いや、しかし、身分が……」
「それはどうとでもなるだろう。私の義弟にでもなるか」
ルーファスがさらりと言った。やはり、リリアンが考えることと同じだ。そこでクライドはさらに問題提起。
「いや、しかし……俺が抜けると、ナイツ・オブ・ラウンドの統率者が……」
みんなの視線がマティアスに集まった。現状、ナイツ・オブ・ラウンドでクライドの次に位置するのが彼だからだ。不安しかない。
とはいっても、もともとクライドとリリアンの兄ウィルがいて、二人でバランスが取れていた。だが、その一方であるウィルが亡くなってしまったため、現在、ただでさえナイツ・オブ・ラウンドのバランスは悪い。
「これはアーサーに聞いてみなければ確定できないが、私にはナイツ・オブ・ラウンドを率いる覚悟はあるとだけ言っておく」
「……」
撤回されていなければ、リリアンは一度ナイツ・オブ・ラウンド第四席になった。第五席であるマティアスより席次は上だ。まあ、アーサーが認めれば、だが。もう一度叙任式をしなければならない可能性もある。
「ああ、だからリリアン、最近セオの教育に力入ってるんだ」
ノエルが納得したようにうなずいた。エイミーが「私もマティよりはリリアンがいいなぁ」と言った。マティアスは大げさに嘆く。
「お前ら……仲間だろ……」
「マティ。ややこしくなるから黙っていろ」
「はい」
リリアンに鋭く言われ、マティアスはすぐに黙った。
「アーサーも同じ心配をしていたのだが、そう言った問題は割と解決できる。私たちが考えうる問題には、たいてい解決方法が存在するものだ」
「……いや、それ考えられるの、リリアンと宰相くらいじゃないかな」
ノエルがツッコミを入れたが、リリアンはそのまま聞き流した。
「要するに、あとは二人の心もちの問題だな。特にクライドさん。ヘタレかっ」
「……お前、ウィルが乗り移ってないか……」
クライドが若干心配そうに尋ねた。いくら精神干渉魔法が使えるからと言ってシャーマンではないのでそんなことはできない。しかし、若干キャラ崩壊しているのは認めるところのリリアンである。なぜなら。
「面倒くさいんだよ、君たちは!」
みんなが避けて、あえて言わなかったことはっきりと言ったリリアンであった。
「でもさー。どうするの? クライドさんもだけど、陛下も結構頑固じゃない?」
「陛下は既に一回、クライドさんに告白してるんだから、クライドさんが陛下にプロポーズすればいいんじゃないかな」
「一度断っているのに、今度は自分からプロポーズするの?」
「そこは、自分からしたかったんだー、とか言ってさ」
主に普通の意見を出してくるのはエイミーとノエルだ。この二人は感性がまだふつうであるらしい。マティアスなどは「押し倒せばいいんじゃね?」などと言って各方面からバッシングを受け、最終的にリリアンに蹴られていた。
「要するに、アーサーがうなずかざるを得ない状況を作り出せばいいわけだ」
「リリアン、発言が作戦立案めいてきてる」
ため息をついてエイミーが言った。たぶん、アーサーは理詰めで説得すればうなずく。納得する。だが、この場合は感情に訴えたほうが正しいのだろう。
「……まあ、不謹慎ですけど、宰相はメアリ様になんと言ってプロポーズしたんですか?」
ノエルがルーファスに尋ねた。この中で既婚者はルーファスだけだ。最も、彼の妻メアリは、内戦時に亡くなっているが。彼女が、アーサーのナイツ・オブ・ラウンド第二席である。
「……メアリからプロポーズされたんだ。脅迫まがいだった……言わせるな、恥ずかしいだろう」
というようなことを真顔で言うルーファスなので、リリアンは彼と同じくくりに入れられてしまうのである。
「やっぱり、紅い薔薇の花束じゃない? 歌にもあるし」
エイミーが言った。確かに、有名なオペラでそう言う歌はある。
「エイミーは薔薇の花束をもらってうれしいのか?」
「わあっ、とはなるね」
マティアスの問いにエイミーが答えた。確かに、インパクトはある。
「ちなみにリリアンは?」
「処理に困る」
「お前、そう言うやつだよな」
「ちなみに、百八本で『結婚してください』になるらしいぞ」
「何でそう言うのは知ってんだよ」
マティアスとのやり取りである。ふざけるのをやめれば、彼も結構まともな意見を出す。貴族の女性はこう言ったことが好きなので、リリアンも有名どころはだいたい知っていた。
「へえ。他には?」
興味を示したのはエイミーだ。彼女が一番反応したものを送るのが一番無難かもしれない。すでに、薔薇の花束+プロポーズに落ち着きかけていた。
「あとは、三百六十五本で『一年中あなたを思っています』」
「重い!」
「あとは、九十九本で『永遠の愛』、十二本で『私の妻になってください』、三本で『あなたを愛しています』だったか。諸説あるが」
個人的には、三本の『あなたを愛しています』が一番いいと思う。本数で花言葉が違ってくる薔薇だが、だいたい愛の告白に使える。
「……薔薇を送ることは確定なのか」
そう言ったのはクライドだ。彼はまだ納得していないらしい。
「というか、俺じゃなくても、陛下にはもっとふさわしい人が……」
「あなたの言う身分で言えば、セオ辺りがふさわしいってこと?」
「……」
リリアンの指摘に、クライドはこわばった表情になった。自分はふさわしくない、と訴えながらも、アーサーが自分以外の男のものになるのが嫌なのだろう。
「わかったならおとなしく覚悟を決めろ。面倒くさいから、私が」
本当に、間に挟まれるリリアンは面倒くさいのだ。
「ロマンティックな状況も用意しておけばいいんじゃないかな」
「おお! 楽しそう。でも、誰が演出すんの?」
ノエルとエイミーも意見を出し合うが、エイミーが鋭い指摘をした。確かに、誰が演出するのだろう。まあ、このメンバーの中ではこの二人がやるしかなさそうだけど。
「つーか、薔薇は?」
マティアスのさらなる指摘である。リリアンはクライドを見て言った。
「クライドさん、自分で買ってきなよ」
「本当に!? やるのか?」
この期に及んで及び腰のクライドだが、リリアンはスルーして「こういうのは自分で買いに行く方がいいだろう」とだけ言った。こういうのは、自分で買いに行き、その姿を目撃される方がいいだろうと思った。
「決行は三日後。とりあえずクライドさんは薔薇を見に行けばいいと思う。その他諸問題は私たちに任せて、口説き文句でも考えておけ」
八歳も年上の男性に対して、とても偉そうな態度だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
プロポーズ大作戦、ってなかったでしたっけ。




