表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/10

第7話



 12


 翌朝、一同に見送られて、俺は旅立った。

 アシナヅチが「海に添って東に進まれるのがよいでしょう」って言ったから、その通り、海岸線を歩いている。


 ステータスを確認してみた。


  [個体名]サルタ

  [種族]神族

  [類別]客人神

  [属性]なし

  [体力]10/10

  [精神力]10/10

  [スキル]ステータス・スキャン(使用可能回数:0/1)


 体力と精神力は回復しているけど、スキルは回復してない。

 やっぱりそうですか。


 岩に腰掛けて海を見ている男がいる。

 神族だな。

 話し掛けてみよう。


「こんにちは。

 悲しそうに海を見つめて、どうなさったのか」


「ああ、こんにちは。

 兄の釣り針をなくしてしまったのです」


 どこかで聞いたような話だ。


「そうか。

 それはお困りであろう。

 私の名はサルタ。

 あなたの名は?」


「私はホオリと申します」


 おお!

 堀尾君か。

 じゃなくて。

 ホオリ。

 火遠理命(ほおりのみこと)、つまり山幸彦(やまさちひこ)だ。

 やっぱりね。


 山幸彦は山で獣をとり、兄の海幸彦は海で魚をとって暮らしていた。

 あるとき、山幸彦が強いて願って互いの道具を取り替えた。

 だが、海幸彦は山でさんざんな目に遭い、山幸彦は釣り針を魚に取られた。

 山幸彦は謝ったが、海幸彦は許さなかった。

 大切な剣から千本の釣り針を作ったが、やはり海幸彦は許さなかった。

 海辺で嘆き悲しんでいると、塩椎神(しおつちのかみ)が通りがかり、事情を聞いて山幸彦を船に乗せ海神(わだつみのかみ)の宮殿に導いてくれるのだが。


 うーむ。

 どうもここは、あれの出番な気がする。


 俺は懐から一枚のうろこを取り出した。

 昨日、アシナヅチの屋敷で目覚めたとき、手につかんでいたのだ。

 たぶん、これは。


 俺は、うろこを海に落とした。

 遠くの波間がキラキラと光り始め、三筋の白波が近づいて来た。

 三筋の白波は、海岸線に到着すると、うねうねと持ち上がり、三人の美しい女性に変化した。

 見事な変身シーンだ。


 俺は、一番左に立っている青い衣をまとった女性のおっぱいにさわった。

 次に、まん中に立っている黄色い衣をまとった女性のおっぱいにさわった。

 最後に、一番右に立っている桃色の衣をまとった女性のおっぱいにさわった。

 これだ。

 俺は、一番右の女性に深々と頭を下げて言った。


「この前は、助けてくれて、どうもありがとう」


「よく私だと分かりましたね」


「受けた恩は忘れぬ」


「私をお呼びになったのは、なぜでしょう」


「ここにおられる堀尾、ではなくてホオリ殿が、魚に釣り針を取られて困っているのです。

 魚をとって食べようとしたのに、釣り針を取られて困るというのも身勝手な申しようではありますが、できたらお助けいただきたいのです」


「海の幸を食して身を養うことは、天地のことわりの中で定められたこと。

 海は(おか)を養い、陸は海に滋養を下ろして、支え合っているのです。

 魚を食することに何のツミもケガレもありません。

 私どもの父がご相談に乗れると思います。

 父の宮殿にご案内いたします」


 俺とホオリは、三人の竜女に連れられて、海神(わだつみのかみ)の宮殿を訪れた。

 海神は、魚たちを呼び集めた。

 八万八千八百八十八匹の魚が集まった。

 海神が問いただしたところ、赤鯛が喉が痛いと言った。

 果たして赤鯛の喉に探している釣り針が引っかかっていた。


「見つかってよかったの。

 しかし、サルタどの。

 一度しか使えぬ召喚のうろこを、行きずりの者のために使うとは、見事な振る舞い。

 何か欲しいものはないか」


 げ。

 あれ、一回しか使えないの?

 今からじゃキャンセルできないよね。

 などと俺が考えていると、


「ないか。

 無欲なご(じん)よ」


 と海神は言い、俺たちは海岸に送り届けられた。

 ホオリは喜び勇んで、「兄さんの所に行きます」と言って走り去り、俺は一人で海岸に残されたのだった。


 このイベント、何だったん?





 13


 お腹がすいてきたなあ。

 それにしてもイベントが起きない。

 不思議だ。

 こんなにイベントがないと、顧客は不満に思うんじゃないかなあ。

 などと思いながら歩いていると、アラートが鳴り、システムメッセージが表示された。


 〈一定期間パーティーリーダーがパーティーメンバーと交渉を持たなかったので、パーティーは解散されます〉


 えええええっ!

 何それ。

 それ何。


 待てよ。

 離ればなれにはなっていたけど、何かパーティー機能は使えたのか?

 呼び掛けるとか、呼び集めるとか、何かそんなような。

 解散してしまった今では確認のしようもないが。

 どうも俺は本当に独りぼっちになってしまったようだ。

 がっくり。


 気力を大幅に削られながら、なおも歩いていると、何やら大勢の人が集まって言い合いをしている。

 人間族だ。


「おお。

 神族のかたがお越しになったぞ」


「うむ。

 これは、われらの問題を解決しに来てくださったに違いない」


 などといわれ、一同のまん中に座らされてしまった。

 事情を聞かされた。

 広大な山脈を支配する一族がいて、鬼のように強いらしい。

 その一族は人々を苦しめているので、それぞれの村から代表が出て征伐することになった。

 ところが、隊長のほかは三人しか同行できない。

 誰がいいかを話し合っているが結論が出ないので、どうか決めてほしい、ということだった。


 隊長が決めたらいいやん、と思ったが、どの村の代表を選んでもしこりが残るらしい。

 なるほどね。

 俺はよそ者だから、しこりなんて知ったこっちゃない。


「なるほど。

 分かった。

 ところで、山の一族というのは、最近になってやって来たのか?」


「いえ。

 ずっと昔からこの辺りに住んでたようです。

 わしらは最近になって、ここらに村を作りましたから、前のことはよう知りません」


「そ、そうか。

 では、山の一族は、そなたらにどんなひどいことをしたのか」


「そ、それが、やつら鉄を独り占めしとるんです。

 やつらにはどこで鉄が出るか分かるようなんですが、見つけ方を教えてくれと頼んでも教えてくれんのです。

 しかも、鉄を鍛える方法も秘密にしているんでさあ。

 自分たちだけでうまい汁を吸って、わしたちのことはどうなってもいいと思ってやがるんで。

 もうこんなひどいやつらは、人質を取って鉄を鍛える方法を聞き出したら殺してしまうしかねえんで」


 俺の感覚では、どうも山の一族とやらに理があるような気がしてならない。

 まあ、クエストだからな。

 粛々と進めよう。


「では、代表のかたがたの名前を教えていただこう」


 リーダーは、モモタロウというらしい。

 まあ、だいたい読めてたけどね。

 でもどちらかというと、キビツヒコのほうかと思ってた。

 そしてほかの代表は以下の通り。


 犬飼健(いぬかいたける)

 犬塚信乃(いぬづかしの)

 猿丸太夫(さるまるだゆう)

 楽々森彦(ささもりひこ)

 木地智美(きじともみ)

 留玉臣(とめたまおみ)


 をい!

 難易度が突然むちゃ高いやんかっ。

 と心で突っ込みつつ、俺は、四道将軍の一人である彦五十狭芹彦命ひこいさせりびこのみこと、すなわち後の大吉備津日子命の家来たる三人の名を上げた。

 つまり、犬飼健、楽々森彦、留玉臣の三人である。

 そういえば犬飼健は五一五事件で暗殺された犬養毅の先祖だと聞いたことがある。

 どうでもいいが。


 俺が三人を指名すると、反対が出ることもなく討伐隊のメンバーは決まり、みんなに見送られて出発した。

 あれ?

 俺は?

 俺はどうすればいいの?


 討伐隊が帰って来るまで待ってくれと言われてしまった。

 ヒマだ。

 腹が減ったのでそう言ったら、きびだんごを出してくれた。

 うまい。

 この味は、広栄堂武田のより廣榮堂本店のに近いな。


 ずいぶん待ってから、討伐に成功して敵の総帥であるオンラを捕らえたという報告が入った。

 みんなは大歓声を上げている。

 オンラね。

 温羅と書き、ウラとも読む。

 あんな間抜けな討伐隊につかまるなんて、人のよい性格なのかもしれない。


 それからさらに時間がたち、総帥を人質にして砂鉄と鉄鉱石を取り上げ、製鉄ができる一人を残して全員を谷に突き落として殺した、という報告が入った。

 聞かなきゃよかった、と俺は思ったが、みんなはうれしそうだ。

 それからさらに時間がたち、モモタロウが俺の所に来て言った。


「憎き敵の総大将オンラの首を切り落としたのですが、その首が()くのです。

 呪力のこもった()き声らしく、作物は枯れ、人は病気になります。

 困って釜の下に埋めたのですが、()き声は静まりません。

 どうしたらよいでしょうか」


 今の間に、ずいぶんいろんなことやってたんですね。


「オンラの妻の親族がお分かりか」


「分かりますとも。

 オンラの妻は、私の妹です。

 このたびは間諜の大役を見事に果たしてくれました」


 こいつ自分の妹をスパイに仕立てやがったのか!

 聞かなきゃよかった。


「では、妹君とその一族子孫に釜の番をさせ、ご飯を炊かせなさい。

 凶事は収まり、鳴き声は慶事を告げるようになるでしょう」


「は、は!

 ご教示ありがとうございます」


 俺は村人たちから礼を言われて旅立った。

 用が終わったら出て行けということだね。

 もうすっかり日は暮れていた。

 夜の海岸を歩きながら、俺は考えた。


 さすがにここまでくれば、俺にも分かってきた。

 なぜイベントが起きないのか。

 起きても参加できず、置き去りにされるのか。


 条件が足りないのだ。

 イベントが起きるだけの。

 そのイベントに参加できるだけの。


 ふつうのRPGでも、あるキャラクターをパーティーに入れたときだけ発生するイベントというものがある。

 あるいは、あるアイテムを所持していたときだけに起こるイベントというものがある。

 パラメーターやレベル次第で発生するイベントもある。


 今の俺は独りぼっち。

 何の力もなく、徒手空拳。

 だから、イベントから見放された状態なのだ。


 ごめん、社長。

 クリア、無理っぽい。


 あ。

 流れ星が落ちる。

 何かお願い事しなくちゃ。


 ええっと。

 せ、世界中の人が幸せでありますように?

 それと、社長がせめて幸せな夢を見られますように。(←ちょっぴり伏線)







次回9月22日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ