第8話
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さて、いよいよ最終日だ。
昨夜はセーフティーエリアで飲み過ぎたな。
ちょっと頭が痛い。
こんな高級な酒や食い物には、もう一生縁がないかもと思ったら、ついね。
お、川だ。
渡る方法もないし、この川に沿って上流に歩いていくとしよう。
ん?
あれは何かな。
近づいてみたら、皮が赤むけになったウサギだった。
事情を聞くのも面倒な気分だったので、俺はウサギに、
「川の真水で体を洗って、ガマの花粉を敷き詰めた上で転がりなさい」
と教え、結果を見もせずに、さらに上流に歩いていった。
すると一人の青年に出遭った。
神族だ。
しかも、そうとう神気が強い。
ヒミコたち高天原の神族に匹敵するのではないか。
「ほう、これは珍しいかたにお会いするな。
私はコトシロ。
豊葦原神族の長だ」
ヒミコが高天原神族の長という設定だから、コトシロは文字通りそれに匹敵する立場ということか。
「私の名はサルタ。
異郷の神です。
この地の神を統べるあなたが、こんな草むらで何をしておいでか」
「いや。
先ほど庭で雉を射たのだがな。
矢が雉の体を突き抜けてどこかに飛んで行ってしまったのだ。
強いまじないが掛けられた矢で、放っておくのも危険かと、こうして探している」
なんだろう。
胸がざわざわする。
何かよくないことが。
雉?
庭で射た?
貫いて。
矢が消えて……。
返し矢だ!
「コトシロ殿。
よくない予感がする。
鎧はお持ちか」
「それは、館に帰ればあるが」
神話では誰だった?
ワカヒコだ。
矢は高天原に届いてしまい、誰だったか忘れたが高位の神が呪をかける。
射た者の所に還るように。
そして、矢は。
矢は、ワカヒコのもとに戻って。
体のどこに当たった?
「コトシロ殿。
そこに太い木がある。
その木に胸をつけて立たれよ」
「何?
妙なことを言うかただな。
そんなことをして何になるのか」
と言いながらも、おもしろがるような顔つきで、コトシロは大木に胸を付けて立った。
「さあ、木に胸を付けて立ったぞ。
いったい、これが」
コトシロは、言いかけた言葉を言い終えなかった。
どこからともなく飛んで来た矢が、大木に突き刺さったからだ。
ちょうどコトシロの胸の位置に。
返し矢のモチーフは、メソポタミア神話などにもみられる。
英雄ニムロッドは神を信じず、天に向かって矢を放った。
神は矢を地上に投げ返し、ニムロッドは胸を射抜かれて死ぬ。
それは、天に唾する者が天罰を受ける、いわば自業自得の構図だ。
だが、コトシロは雉を狙ったのだ。
いったいどこに届き、何者が返し矢の呪法を行ったのか知らないが、いきなり命を取ろうとするのはやり過ぎではないか。
矢が届いただけで、無礼であり不遜であり天罰に値する、とその相手は考えたのだろうか。
それともひょっとして、コトシロの矢は、偶然にも誰かに当たって致命傷を与えたのだろうか。
返し矢は、その報復なのだろうか。
復讐の矢は必ず当たるといわれる。
ファイナルファンタジーでも、アビリティ「矢返し」は必ず当たる仕様だった。
「驚いたな。
これは確かに私の矢だ。
サルタ殿。
あなたは恩人だ。
屋敷にお越しいただけようか」
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「なるほど、返し矢か。
その呪法は知っているし、豊葦原神族でも高位の神なら誰でも使えるが。
よくあの場面でそれを思いつかれた」
「いや、それは思いつかんじゃろう。
兄者。
狙って射たわけではないのだ。
こんな危険な呪法を返してくるとは、いったいどこの誰じゃ」
そうだ。
返された矢には雉以外の血は付いていなかった。
誰かに当たったのではなかったのだ。
やはり、この返し矢には、傲慢が感じられてならない。
「それに思い当たられたサルタさまは、まことの賢者。
コトシロさまに矢が当たっていたらと思うと、ぞっとしますわ」
今、俺の前には、豊葦原神族の幹部が勢ぞろいしている。
長のコトシロ。
その弟分のミナカタ。
コトシロの妻タマヨリ。
タマヨリの妹でミナカタの妻トヨタマ。
老いた男神ヤマツ。
真っ白な肌の子どもの姿をしたミジャグジ。
「本当にそうですわ、姉様。
それにコトシロさま。
サルタさまは、叡智をお持ちなだけでなく、深い慈悲の心をお持ちなのですわ」
「ほう?
トヨタマは、なぜそう思う?」
「今朝ほど、河口のあたりで、皮が赤むけたウサギが苦しんでいました。
旅人が通りかかって、岩塩を体に塗って山の風に当たればよいと嘘を教え、その通りにしたウサギはいっそう苦しんでいたのです。
そこにサルタさまが来られて、真水で体を洗い、ガマの花粉を体中につけるよう教えなさったのです。
その通りにしたウサギは、毛が元通り生えて喜んだのですが、そのときにはサルタさまはもう、立ち去っておられたのです。
一部始終を妹のソトオリが見ておりました」
いや。
見てたんなら助けようよ。
と俺は思ったが、口にはしなかった。
「そうか。
そして私を助けてくれたのだな。
サルタ殿。
あらためて御礼申し上げる」
豊葦原の神々が、一斉に俺に頭を下げた。
ステータスは見られないが、好感度が軒並み上昇してるだろう。
彼らは、名とともにそれぞれの能力まで明かしてくれた。
それぞれ大変強力なスキルを持っている。
うまく連携して戦えば、高天原神族にも勝てるかもしれない。
サルタでなくスクナを選んでいたら、豊葦原神族とパーティーを組むことになったのではないだろうか。
特に根拠というほどのものはないが、ゲーム構成からすると、それが自然に思われた。
「ふおっほっほ。
それにしてもサルタさま。
もう少し早くお越しになっておられたらのう。
この二日というもの、わしらは、昔語りのような冒険をしておったのじゃ。
ご一緒したかったわい」
あ、やっぱりね。
「じい。
それは言うてもせんなきことよ。
新しい友を得られて、まことに愉快。
今夜は皆で飲み明かそうぞ」
いや、コトシロの旦那。
それはうれしいんですけどね。
俺はクエストを進めないといけないんで。
ってゆーか、夜九時になったらゲームは終わってますがな。
うーん。
豊葦原側で顧客がプレーできるキャラは、ミナカタ、タマヨリ、トヨタマ、ヤマツ、ミジャグジかなあ。
コトシロはSCだよな。
豊葦原側のほうが、パーティー人数多いみたいだな。
あれ?
たしか主役以外に八人がプレーできるんだよな。
てことは、ヤタもPCか!
と、ミジャグジが初めて口を開いた。
「誰か来る。
とても強い力を持った者たち。
とても強い敵意を持った者たち。
来る」
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美しきヒミコ。
赤髪を逆立てたカグツチ。
ごつごつした巨漢ミカヅチ。
真っ黒な翼に身を包み、金色の目を猛禽のごとく光らせた少年神ヤタ。
高天原神族の最高神たちだ。
コトシロの館に向かって近づいてくる。
俺の仲間だったはずの神々。
横に並んでたときは思わなかったけど、こいつら怖い。
いずれも一騎当千の戦闘力を持っている。
カグツチの発火能力は巨木をも一瞬で焼き尽くす。
攻撃半径はおよそ十メートル。
ミカヅチは大力の戦士で、物理攻撃にはほとんど無敵。
しかも百メートル先まで届く雷撃が撃てる。
ヤタは、空を飛ぶ速さはサイボーグ002に匹敵し、地を駆ける速さは009に匹敵する。
範囲攻撃以外は当たらないといってよく、その速度で振るわれるかぎ爪は戦慄すべき威力だ。
ヒミコの桁外れの攻撃力はいうまでもない。
「サルタ殿。
こんな所におられたのか。
お探ししたぞ。
無事でよかった」
ヒミコが俺に向けた目には、しかし冷たく厳しい光が宿っていた。
「豊葦原の神ども。
ここにおわすは、高天原神族の長にして、おのころ島至高の神ヒミコさまじゃ。
控えよ!」
いや、カグツチ君。
番組終わりごろの水戸黄門じゃないんだからさ。
そんなに高圧的にいかなくても。
ほら。
豊葦原神族の人たち、反発してるよ。
「高天原の神たちよ。
こちらにおられるのが、豊葦原神族の長にしておのころ島の究極神コトシロさまじゃ。
人の縄張りに踏み込んだら、それなりのあいさつがあるんもんじゃねえかな」
ミナカタ君も負けてないね。
しかし至高に対抗して究極って、何なの?
料理対決にもっていくつもりですか。
「さきほど、ヒミコさまに向かって矢が飛んできた。
幸い、ヤタがつかみ取ったから大事に至らなんだが、まことに不遜の極み。
おう!
あの矢は誰が射たんじゃいっ!」
カグツチ君。
キミはそうでなくてもファイアーなキャラなんだから、少し冷静になろうね。
「それは私が射た。
ヒミコ殿に向かったとは、まことに相済まん。
許されよ。
だが、狙ったわけではなく、雉を射た矢が飛びすぎたのだ。
悪意があったのではない」
「何じゃと!
ヒミコさまに当たりかねん矢を射ただけで、万死に値する大罪。
そんなことも分からんのか!」
だから、ファイアーくん。
ちょっと理性的に会話しません?
「やめよ、カグツチ。
言い過ぎじゃ。
それが本題というわけではないしな。
そなたがコトシロ殿か?」
「いかにも。
お初にお目にかかる。
ヒミコ殿。
ほかの神々もようこそ。
立ち話もなんだな。
まずは屋敷に上がられよ。
うまい麦茶が煎り上がったところだ。
馳走しよう」
次回9月25日




