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ディッチ ―裏街の賞金稼ぎ―  作者: ポンコツロボ太


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名を呼ぶ 1

「いつも思うんだけどよぉ、何故に取り分が8:2な訳?」


 群雄割拠する摩天楼の只中に、ひっそりと佇む茶けたレンガ造りの建物がある。

 この場所こそが俺達がいつも世話になっているスパイクシティ警察16分署だ。


 俺に金玉をこれでもかと蹴り上げられたあげく、気を失ったシアンをしょっ引いた帰り、俺は分け前をさっそくアルと分け合っていた。


 俺より分厚い札束を、似合わないドレスを着て、これまた似合わないポシェットにねじ込むアルが答える。


「それは俺がお前を雇ってるからだろう?」


「ん? いつ俺があんたに雇われたんだ? 言ってみな」


 俺とアルの間に一瞬不穏な空気が流れるが、アルが一息ついて冷静に話始める。


「ディッチよ……。てめぇと出会った一年前にそう約束したはずだろ? 取り分は俺の方が多く取るぞって」


 言われてみればそんな話もした気がする……。


「……そうだっけ?」


 誤魔化すためにわざととぼけてみせるが、さすが一年間の付き合いだけあってアルには通用しない。


「適当なヤツめ……。ま、それだけありゃ当分は食うには困らんだろ?」


「……そうだけどよ。俺、金玉蹴られたんだぞ? 東の国じゃ労災《ローサイ》ってのがあるらしいじゃねぇか?」


 最近通っているストリッパーから知りえた知識を披露してみた。


「甘えたこと言うんじゃねぇ。ここじゃ全部自己責任に決まってんだろ。んな、あほなこと言ってないで、さっさと帰るぞ」


「あいよぉ」


 アルは路肩に止めた車『黒棺桶(ニグラーカ)』へさっさと乗り込んだ。

 鍵を差し込み己の魔力をエンジンに注ぎ込むと、その名の通り棺桶のような車体が獰猛な排気音《エキゾーストノート》を上げ走り去っていく。


 俺も自分の二輪魔動車《バイク》に跨り、エンジンを作動させようとポケットから鍵を取り出す。


 その時、16分署から定年間近の男が腹の肉を揺らし俺の元へと走ってくるのが見えた。


「……はぁ、はぁ。ま、待ってくれぇ!!」


 呼び止められ俺はバイクにまたがったまま男と向き合う。


「ん? デスクに張り付いてばかりの経理課の警部様がお出ましとは珍しい。ダイエットでも始めたのかい?」


  ちんたらと走って来た男、経理課の警部は「ゼエ、ゼェ……」と息を切らせながら俺に声を掛けた。


「ち、違うんだ。先月賞金稼ぎの男が自作自演で犯罪をでっちあげて賞金をだまし取った事件があったろ?」


 警部はハンカチで汗を拭きながら息を整える。


「ん? ああ……アルの奴がそんなこと言ってたな。それで? そいつと俺に何の関係があるんだ?」


「いやな、上からの命令で一千万を超す高額賞金首を捕らえた者から調書を取ることになってだな……」


 警部は何やら言いにくそうに自分の足元へ視線を落とした。


「ん? さっき届けたシアンは確か三百万の賞金じゃなかった……」


 俺の声を遮るように警部が言葉をかぶせてくる。


「いやいや、一年前の人形遣い(パペットマスター)の事件だ。申し訳ないが少し俺のデスクまで来てくれないか?」


 警部から人形遣い(パペットマスター)事件という言葉が出て、一瞬脳裏にとある女の顔が浮かんだ。


「……」


「実に面倒だと言う事は分かっている。……ただ調書に答えてもらえないと、そのだな……。言いにくいんだが賞金を返却してもらうって事にもなりかねんのだよ」


 別に金が惜しいわけじゃない。ただ、彼女の事を思い出した俺は一人この感情を持て余すことが嫌になった。

 だから、バイクを下り警部の後に続いて分署の中に足を踏み入れることに決めた。


 さほど広くない警察署内は相変わらずのお祭り騒ぎだ。


 あちこち顔中にピアスを開けた青白い顔した魔族の女が制服警官に罵詈雑言を放つ傍ら、酔っ払いのドワーフがゴミ箱を抱えゲロを吐いている。

 そんな奴らをしり目に俺は警部のデスクへと向かった。


「じゃ、座ってくれ」


 警部は自分の隣のデスクから椅子を引っ張り出し、座るよう勧めた。

 俺は出された椅子に腰を下ろす。キャスターがいかれてるのか、ガタついて座りにくい。


 だが、俺の方はまだましだ。警部の椅子は彼の体重で今にも壊れそうなほど歪んで見ていて可哀そうなくらいだった。


「……えぇっと、どこにしまったかな」


 警部はデスクの引き出しの中をゴソゴソと漁り、あれでもないこれでもないと書類の束をひっかきまわしていた。


「あんたの引き出しはダンジョンにでもなってんのか?」


「すまんすまん、ちょっと待ってくれ。……ああ、あった、あった。これだこれ」


 警部はくしゃくしゃになった書類を取り出すと自分のデスクの上に置いて掌でしわを伸ばす。


「じゃあ、さっそく……人形遣い事件について話してくれるかね?」


 警部は自分の胸ポケットに入っていたペンの先をぺろりと舐めると調書に筆を走らせ始める。

 俺は生ごみの中から宝石を探し出すように頭の中の記憶を漁り、小さく息を吐いた。


◇


 ……あれは俺がスパイクシティ(この街)に流れ着いて賞金稼ぎを始めたころだったと思う。


 当時はチマチマと安い賞金首をとっ捕まえては日銭を稼ぐ日々。

 住んでいたのはスパイクシティでも貧乏人が住む外れの区画(ハーレム)だった。


 たしかあの日も小さな仕事を終えて安宿に帰ろうとしていた時だ。


「なぁ、ディッチ。俺すげぇ情報を持ってんだけど、いくらで買う?」


 話しかけてきたのは風邪薬を麻薬だと嘯《うそぶ》いて売るゴブリン族の男だ。無理して入れた金歯がうさん臭さに拍車をかけている。


「お前の話が本当だったことなんてねぇだろ? 風邪薬でラリってんのか?」


 足を止めることなく火の着いた煙草を持つ手でゴブリンをあしらう。それでも奴は俺の周りを糞にたかる蠅のようについて回った。


「誰があんなもんでラリるかよ。それよりも聞いてくれよ。俺見たんだ。今巷で話題の人形遣い(パペットマスター)をよぉ!!」


 俺はその通り名を聞いて足を止める。


「……それ本当か?」


「ああ、死んだ母ちゃんに誓って本当だ」


 あてにはならない誓いだが、もしこいつが見たのが本当にあの人形遣いなら、その不細工な顔にキスしてやったって良い。


 なにせ人形遣いと言えば三千万の賞金が付いている超大物賞金首だ。

 脳裏に手配書に書かれた奴の顔が浮かんだ。やせ細り頬骨が出っ張った不気味な男。本名スピンドル・ヤーン。


 手配書に乗ってた情報じゃ奴は天才的な魔法人形《オートマギアータ》職人だったらしい。

 売りに出された三十体近くの魔法人形《オートマギアータ》のほとんどに買い手が付くほどだ。

 だが、その売った人形がある日突然暴走して持ち主を殺しちまった。それも胃なんてない癖に死体の一部を食い散らかして、だ。


 なのに罪状は未認可魔法道具売買ってことになっている。たかだか違法人形を売っただけの男に三千万とは何かが臭った。


「で、その人形遣いをお前はどこで見たってんだ?」


 ゴブリンは誰に聞かれるわけでもないくせに、辺りを警戒して声を落とした。


「お、俺さ。最近ここらじゃ薬が売れねぇからよ。リンゴーン通りの方まで足を延ばしてんだ。そこで奴を見たんだ。フードを目深にかぶってたけど、ありゃ間違いねぇ人形遣いだ。奴から漏れ出る魔力……普通の奴なんかじゃねぇ」


 わざとらしく身震いをしてみせる。

 もともとゴブリンってやつは種族的に力の弱い者だ。だからこそ強者に対しての嗅覚は信頼できるように思えた。


「奴を見た場所を詳しく教えろ」

 

――ゴブリンに詰め寄る俺の耳に微かになるサイレンの音響いた。

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