第五十話 箱崎
今回も「回収箱」を読みに来てくださり、本当にありがとうございます。
ここまで物語を追いかけてくださった皆さまに、心から感謝しています。
今回、ひとつの名前が、翔平の記憶とつながります。
その名前が何を意味するのか、ぜひ翔平と一緒に見届けてください。
「——箱崎」
その名前を、ゆっくり口にする。
聞き覚えがある。
いや——知っている。
妻の旧姓だ。
「どうして——」
息が詰まる。
なぜ俺宛ての手紙に、妻のことが書かれている?
手紙は、そこで終わっていた。
机の隅に置かれた一枚の写真へ、目を向ける。
笑っている小さな女の子と、その家族が写っていた。
「——箱崎さつき」
名前を口にした瞬間、頭の奥で何かが弾けた。
この笑顔を知っている。
「——さつき」
自然に名前がこぼれた。
俺の妻だ。
なのに——。
なぜ、何も思い出せない。
写真を見つめたまま、どれほど時間が経ったのかも分からなかった。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「鳥居さん? 進んでますか?」
扉が少しだけ開き、熊谷の息子が顔を覗かせた。
「——どうしたんですか」
俺を見るなり、息子の声が止まった。
「——何でもない」
「泣いてますよ」
「——え?」
頬に触れる。
濡れていた。
「——ああ」
自分でも気づいていなかった。
「昔のことを考えてたら、な」
「——昔のこと?」
息子の指が、扉の縁をきつく握った。
表情が一瞬だけ固まる。
「……そうですか」
声が、妙に小さかった。
息子は写真に目を向けかけ、すぐに逸らした。
「じゃあ、もう少ししたら下に来てください」
「分かった」
「……無理はしないでくださいね」
そう言って、息子は静かに扉を閉めた。
カチャ。
一人になった部屋で、俺はもう一度、写真へ目を落とした。
——さつき。
その名前だけが、頭から離れなかった。
第五十話まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
ここまで「回収箱」を読み続けてくださっていることが、とても嬉しいです。
少しずつ明らかになっていく過去と、翔平の中に残された記憶。
ここまで積み重ねてきた物語が、少しずつ一つにつながり始めています。
最後まで一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
これからも「回収箱」をよろしくお願いいたします。




