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回収箱  作者: しー
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第四十八話 もう遅い

いつも「回収箱」を読んでくださり、ありがとうございます。

皆さまに読んでいただけることが、執筆を続ける励みになっています。

今回も、物語の中に漂う小さな違和感を感じながら、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。

——少し、空気を入れ替えるか。

窓を開けると、冷たい風が流れ込んできた。

遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。

「……鳥?」

小さな声なのに、妙にはっきり聞こえた。

窓の外を見回したが、何も見つからなかった。


机に視線を戻すと、本の隙間から一枚の紙が覗いていた。

「——なんだ、これ」

引き抜くと、「鳥居君へ」とだけ書かれていた。

その下には、一冊の本。

表紙には、見覚えのある文字があった。

「回収箱」

店の前に置かれた鉄の箱が脳裏に浮かぶ。

この文字を見るだけで、指先が表紙を強く掴んでいた。

力を緩めても、なかなか指が離れない。

ようやく手を開くと、爪先に赤い跡が残っていた。


俺は本を開いた。

『回収箱を使用する際の注意』


一、回収するものは、箱の中へ入れること。

「回収するもの……」

あの錆びた箱が浮かぶ。

俺は、あの箱を店の前に置いた。


二、回収されたものを、口にしてはならない。

「——」

熊の頭。

魚。

なぜか、その二つの言葉が引っかかった。

魚の脂と生臭さが、ふいに口の中によみがえる。

「……何だ、今の」

覚えはない。

なのに、もっと食べたいという感覚だけが、腹の奥に残っていた。

「俺は……」

言葉が続かなかった。


三、順番を飛ばしてはならない。

「順番……」

熊。

鳥。

魚。

そして——瓜。

名前を追うたび、熊の頭や魚の骨が脳裏に浮かんだ。

別々の出来事だったはずなのに、なぜか一つの流れに思えた。

「……次は、瓜なのか?」

その名前が浮かんだ瞬間、腹の奥がわずかに動いた。

身体の奥だけが、何かを待っている。


四、名前を書いたものを入れてはならない。

「——名前?」

熊谷。

その名前を目にした瞬間、右手が強張った。

肉の匂いが鼻の奥によみがえる。

指先に、ぬめるような感触が走った。

刃物を握る手。

肉を押さえる指。

骨を避け、刃を滑らせる感覚。

「——っ」

思わず手を引いた。

何も触れていない。

それなのに、指先にはまだ感触が残っていた。

肉を捌いた記憶なんてない。

なのに、手は知っていた。

「……俺は、何をしてたんだ」


五、思い出のあるものを入れてはならない。

「思い出……?」

妻。

さつき。

十七年間。

その言葉に触れようとすると、胸の奥が痛んだ。

妻と過ごした日々は覚えている。

なのに、思い出そうとすると、肝心なところだけが抜け落ちてしまう。

ルールの意味は分かっている。

それなのに、俺の記憶には、どうしてこんな空白があるんだ。


ページをめくると、赤い文字が目に入った。

——一つでも破れば、人間ではなくなる。

「……人間では、なくなる」

背中を冷たいものが走った。

鳥の声に反応する身体。

勝手に動く手。

食べることを止められなかった自分。

そして、思い出せない記憶。

ばらばらだった出来事が、この本のルールでつながっていく。

「……俺は」

違う。

そんなはずはない。

俺は人間だ。

ずっとそう思って生きてきた。

けれど、もし、この本に書かれていることが本当なら——。

俺はすでに、いくつものルールを破っている。

もう、とっくに。

「……遅い」

その言葉が、口からこぼれた。

今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

物語を追いかけてくださる皆さまに、心から感謝しています。

少しずつ深まっていく「回収箱」の世界を、これからも見届けていただけたら嬉しいです。

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