↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回収箱  作者: しー
PR
46/55

第四十六話 熊谷の家

おはようございます。

今日も読みに来てくださって、ありがとうございます。

朝の空気が少しずつ街を満たし、いつもの一日が始まっていく。

見慣れた景色も、何気ない会話も、普段と変わらないはずなのに、ふとした瞬間に違って見えることがあります。

気のせいだと片づけてしまえば、それで終わる小さな違和感。

けれど、その奥に何かが隠れているとしたら——。

静かな朝のひととき、この物語の続きを楽しんでいただけたら嬉しいです。

熊谷の家の前まで来ると、玄関の扉が少し開いていた。

「すみません」

声をかけて中へ入ると、熊谷の息子が顔を出した。

「あれ、鳥居さん? ちょうど呼びに行こうと思ってたところなんですよ」

「それならよかったです」

息子はほっとしたように笑った。

生肉を思わせる匂いが鼻をつく。

その奥に、鉄のような匂いが混じっていた。

「……何だ、この匂い」

土間には業務用の冷蔵庫。壁には何本もの包丁。

作業台には大きなまな板と、肉を吊るす金属製のフックが並んでいた。

まな板には、刃物を何度も当てたような傷が走っている。

「……家じゃなくて、店みたいだな」

「親父は、ここで商品の準備をしていましたから」

息子は作業台を見つめた。

「小さい頃は、危ないから入るなって、よく怒られました」

「そうだったのか」

「……今なら、その理由も分かるんですけどね」

息子は寂しそうに笑った。

「もう怒られることもないんだなって、変な感じです」

作業台に手を置く。

何度も熊谷が肉を捌いてきた場所だ。

そのはずなのに、指先に妙な感覚が走った。

——ここで、何かをした。

腹の奥がきゅっと縮む。

生肉の匂いが濃くなり、喉の奥に唾が湧いた。

何に反応しているのか、自分でも分からない。

——何かを思い出しかける。

けれど、記憶は形になる前に消えた。


「魚住さん一家が行方不明になったって話、聞きました?」

俺が尋ねると、息子の顔から笑みが消えた。

「——魚住先輩が?」

「ああ」

「昨日、診療所で会ったんですよね?」

「そうだ。少し話をしたよ」

「……先輩、何か言ってませんでしたか?」

「いや、特には」

息子は視線を落とした。

「魚住先輩には、親父も世話になっていたんです。何事もなければいいんですけど」

その視線が、作業台へ向かう。

「……すみません。さっそく始めましょう」


「鳥居さんは二階の親父の荷物をお願いします。僕は一階にいるので、何かあれば声をかけてください」

「分かった」

「……お願いします」

息子は小さく頭を下げた。


俺は階段へ向かった。

一段。

また一段。

二階に何があるのか、俺は知らない。

それなのに、足は迷わなかった。

——まるで、何度も上ったことがあるように。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

新しい朝が始まっても、すべてが昨日までと同じとは限りません。

何気ない景色の中に残された違和感や、ふとした仕草に隠れた意味。

そのひとつひとつが、やがてどこへつながっていくのか。

これからも、物語の行方を見届けていただけたら嬉しいです。

皆さまにとって、今日が穏やかな一日になりますように。

よろしければ、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。