第四十四話 標本
読んでくださってありがとうございます。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない日常。
けれど、ほんの些細な違和感が積み重なることで、当たり前だと思っていた景色は、少しずつ違って見えるのかもしれません。
気づかなければ、そのまま通り過ぎてしまうような小さな変化。
それでも、一度気になってしまえば、簡単には目を逸らせなくなるものです。
今回も、主人公の日常に潜む違和感を感じながら、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
レジを開け、釣り銭を数える。
「千円札、よし」
「五百円玉、よし」
壁の時計を見る。
まだ開店まで時間がある。
ふと、土間に目をやった。
いつの間にか、袋が置かれていた。
「——?」
見覚えのある袋だった。
店を出ようとしたときだった。
袋を持ち上げる。
カサリ。
中で何かが擦れる音がした。
袋を覗く。
四匹分の魚の骨。
「——そうだ」
持って帰ってきた。
……そうだった気がする。
いつ、どこから。
そのあたりは、曖昧だった。
「俺、何でこんなものを?」
答えは浮かばなかった。
捨てればいい。
そう思ったのに、手は袋を離さなかった。
袋を手にしたまま、店を出た。
次に気づいたとき、俺は家の台所に立っていた。
手には、魚の骨が入った袋。
いつ店を出たのか、覚えていない。
袋を開く。
一本。
また一本。
折れないよう、慎重に骨を並べていく。
頭。
背骨。
尾びれ。
どこに何があるのか、妙にはっきり分かった。
一本も欠けていない。
四匹とも。
俺は頭を少し傾け、並んだ骨を眺めた。
まるで、生きていた頃の姿へ戻すように。
「——俺は、何をやってるんだ」
乾いた笑いが漏れた。
それでも、崩す気にはなれなかった。
皿の上には、四匹分の骨が不自然なほど整然と並んでいた。
「……」
何かを間違えた気がした。
けれど、何を間違えたのかは分からない。
皿を流し台の隅へ、そっと置く。
「帰ってきたら、妻に笑われるな」
そう呟き、店へ戻った。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
当たり前だったはずの日常に、少しずつ違和感が混ざり始めています。
その違和感がどこへつながるのか、引き続き見届けていただけたら嬉しいです。
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