第三十九話 扉
ここまで「回収箱」を読んでくださって、本当にありがとうございます。
第三十九話では、翔平がいつもの日常を過ごす中で、少しずつ違った感覚に引き寄せられていきます。
何気ない会話。
いつもと変わらない時間。
そして、ふと感じる小さな違和感。
日常の中にある些細な変化が、どこへ繋がっていくのか。
これまでのお話とも重ねながら、翔平が感じる空気の変化を楽しんでいただけたら嬉しいです。
第三十九話「扉」
どうぞ、最後までお楽しみください。
「……もうこんな時間か」
瓜が時計を見た。
「先生、そろそろ戻りますよ」
妻が笑う。
「そうだな」
瓜が立ち上がった。
「俺も帰るよ」
「外は暗いから気をつけろよ」
「ありがとう」
瓜は休憩室を出ていった。
俺は妻と食器を片付け、ナースステーションまで一緒に歩いた。
「じゃあ私、仕事に戻るね」
「おう。頑張れ」
妻が振り返る。
「家に帰ったら、お薬忘れずに飲むのよ」
飲みたくない。
そう言えばいいのに、声にならなかった。
「分かった」
いつもの返事が口から出た。
「よし。いい子ね」
妻に肩を軽く叩かれる。その手の温かさが、妙に心地よかった。
妻と別れ、一人で廊下を歩く。
「診療所って、こんなに暗かったか」
そのとき、生臭い匂いが鼻をついた。
「何だ、この匂い……」
無意識に息を吸い、匂いのする方へ顔を向ける。
廊下を曲がり、さらに進むと、いつの間にか見覚えのない場所に立っていた。
その先から、匂いが漂ってくる。
嫌な匂いのはずなのに、腹の奥が熱くなった。
「ここからか……」
俺は扉を開けた。
第三十九話まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
ここまで一話一話、「回収箱」を読んでいただけていることを、とても嬉しく思っています。
今回は、いつもの日常の中にある小さな違和感と、そこから少しずつ変わっていく感覚を描きました。
何気ない言葉や仕草。
普段なら気に留めないような変化。
そうしたものが積み重なることで、いつもの景色が少し違って見えることがあります。
ここまでのお話を思い返しながら、翔平が感じているものをそのまま受け取っていただけたら嬉しいです。
そして、ここまで物語に付き合ってくださった皆さまに、改めて心から感謝しています。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。




