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回収箱  作者: しー
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第三十八話 いただきます

第三十八話では、翔平が食事をする場面を描きます。

いつもなら何気なく口にする料理。

食卓に並ぶ、当たり前の一皿。

けれど、ほんの小さな違和感が、少しずつその感覚を変えていきます。

「食べる」という何気ない行為の中に、翔平自身も気づいていない変化が隠れているのかもしれません。

第三十八話「いただきます」

どうぞ、最後までお楽しみください。

瓜が焼き魚を俺の前へ置いた。

皮はこんがり焼け、脂がじわりと滲んでいる。

「ほら、焼きたてだ。冷める前に食え」

「いただきます」

箸で身をほぐし、一口食べた。

「——ん?」

美味い。

なのに、喉が魚を受けつけなかった。

飲み込もうとすると、身体の奥が拒むような感覚がある。

「魚なのに……肉を食べてるみたいだ」

妻が首を傾げた。

「それは、あの粉をかけてないからよ」

妻が魚に白い粉をかけた。

さらり。

その瞬間、箸を持つ手が止まった。

腹の奥がきゅっと縮み、唾液が溢れる。

目の前の魚を見る。

さっきまで、ただの焼き魚だった。

なのに、粉がかかった途端、匂いが変わった。

香ばしい魚の奥から、別の匂いがする。

懐かしい。

それでいて、嫌な匂いだった。

「……食べたくない」

「どうして?」

「分からない」

食べたくないと思っているのに、唾液だけが溜まっていく。

「——やめろ」

誰に言ったのか、自分でも分からなかった。

箸を置こうとした。

けれど、魚から目を離せない。

白い粉の下から、肉の匂いがする。

「……一口だけ」

自分に言い聞かせるように呟き、魚を口に運んだ。

噛む。

「——美味い」

声が漏れた。

自分の声なのに、他人のもののように聞こえた。

もう一口。

止めようと思うより先に、箸が伸びた。

二口。

三口。

食べるたびに、空腹が満たされていく。

頭では、やめろと思っている。

それなのに、舌は次を求めていた。

「やめろ……」

声だけが弱くなる。

妻が嬉しそうに笑った。

「やっぱり、この魚美味しいでしょう?」

「ああ」

俺も笑った。

なぜ笑ったのか、分からなかった。

皿には、ほとんど何も残っていない。

箸を握る手が震えていた。

——食べたくなかった。

それなのに。

舌は、もう一口を欲しがっていた。

皿に残った白い粉だけが、妙に白く浮いていた。

第三十八話では、これまで少しずつ書いてきた翔平の身体や感覚の変化を、食事という身近な場面を通して描きました。

普段なら何も疑問に思わないことでも、ほんの少し感覚が変わるだけで、同じものがまったく違って感じられることがあります。

翔平が感じた違和感が何を意味するのか。

これまでのお話に出てきた出来事とも重ねながら、考えていただけたら嬉しいです。

次のお話では、また新たな変化が翔平の前に現れます。

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