第二十九話 電話
ここまで「回収箱」を読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回は、翔平と瓜のもとに、突然の連絡が入ります。
何気ない会話の中で感じた小さな違和感。
そして、少しずつ見えてくる異変。
それが何を意味するのかは、まだ分かりません。
ただ、いつもの日常が少しずつ変わっていく感覚を感じながら、読んでいただけたら嬉しいです。
第二十九話「電話」
どうぞ、最後までお楽しみください。
俺は上着のポケットに手を入れた。
指先に紙の感触が触れた。
取り出しかけて、薬袋だと気づく。
——いつ入れたんだ?
考えようとしたが、思い出せなかった。
「——これ」
瓜の視線が、俺のポケットに止まった。
薬袋の端が、少しだけ覗いていた。
中で、白い錠剤がかすかに透けて見えた。
「お前……薬、飲んでないのか?」
「ああ。今日は調子が良かったからな」
瓜は薬袋を見つめたまま、指先を握りしめた。
「……そうか」
「どうした?」
「いや。ちゃんと飲めよ」
「分かってるって」
「……本当に?」
「何だよ。急に医者みたいなこと言って」
「俺は医者だぞ」
「そうだったな」
二人で笑ったが、瓜の笑顔はすぐに消えた。
そのとき、携帯電話が鳴った。
「はい。瓜です」
電話の向こうから慌てた声が聞こえ、瓜の表情が変わった。
「落ち着け。何があった?」
少し黙って話を聞いたあと、瓜が呟いた。
「……またか?」
その一言に、胸の奥がざわついた。
「どんな状態だ?」
瓜は俺を一度見てから、視線を逸らした。
「……分かった。すぐ行く」
電話を切る。
「どうした?」
「急患だ」
「熊に襲われたのか?」
「いや。病気とは少し違う」
瓜は、また俺の薬袋に目を向けた。
「……身体に変化が出てる」
「変化?」
「ああ。見れば分かる」
「そんなにひどいのか?」
「俺にも、まだ分からない」
瓜は俺の肩を軽く叩いた。
「だから、一緒に来てくれ」
「俺も?」
「お前に見てもらいたいんだ」
「何を?」
「それは向こうで話す」
瓜は笑おうとしたが、うまく笑えていなかった。
「……頼む」
その声は真剣だった。
「ああ」
身体に変化が出ている。
いったい、どんな変化なのか。
医者でも分からない症状に、興味が湧いた。
自分の目で確かめてみたい。
ただ——。
頭の中に、別の光景が浮かんだ。
骨に残った肉。
それを歯で削ぎ落とす感覚。
舌が無意識に歯をなぞった。
口の中に唾液が溜まる。
——食べたい。
俺は慌てて、その考えを振り払った。
それでも、骨に残った肉を削ぎ落とす感覚だけは、妙に鮮明に残っていた。
第二十九話まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回は、これまでとは少し違った形で、物語が動き始めるお話でした。
「またか」という何気ない一言。
その言葉の意味が分からないまま進む翔平と一緒に、少しずつ謎を追っていただけたら嬉しいです。
そして、ここから先も翔平の周りで起こる出来事が、少しずつ繋がっていきます。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
次のお話も、ぜひお付き合いください。




