第二十八話 写真
夜の「回収箱」へ、ようこそ。
今回は、少しだけ昔の話が出てきます。
古い写真。
懐かしい景色。
子どもの頃の記憶。
どれも、本来なら温かくて懐かしいもののはずです。
けれど——
写真に写っているものを、すべて覚えているとは限りません。
夜に読むには、少しだけ怖いお話かもしれません。
もし今、近くに古い写真があるのなら。
ほんの少しだけ、気をつけてください。
第二十八話「写真」
どうぞ、最後までお楽しみください。
ふと、瓜が店の壁に飾られた写真へ目を向けた。
「この村も変わったな」
「そうか?」
「ああ。昔は子供がもっといたろ。祭りの日なんて、歩く場所もないくらい賑わってたのにな」
「——あぁ」
瓜は懐かしそうに写真を眺めていた。
その横顔に、昔のこいつを思い出す。
いつも俺より先に走って、追いつくまで待っていた。
俺も写真へ目を向けた。
色あせた村人たちの集合写真。
その中に、幼い頃の俺と瓜がいた。
そして、俺の隣には一人の女の子が立っていた。
小さな手が、俺の手を握っている。
笑い声。夕暮れの道。泥だらけの服。
握った手の温かさまで覚えている。
それなのに、名前だけが出てこない。
「……誰だ?」
呟くと、瓜の表情が一瞬だけ固まった。
「おいおい。忘れたのか?」
冗談めかした声だったが、笑ってはいなかった。
「俺とお前、それに——」
瓜の口が止まった。
「……なんだ?」
「いや。あの子だよ。毎日のように三人で遊んでただろ」
「……ああ」
短い返事だった。
いつもの瓜なら、昔話の一つくらい笑いながら話すはずなのに、何も言わなかった。
俺は写真の女の子を見つめた。
「でも……いつから、いなくなったんだ?」
いなくなったことは覚えている。
なのに、その時期だけが思い出せない。
「瓜。お前は覚えてるのか?」
瓜は写真を見つめたまま、しばらく黙っていた。
「……忘れるわけないだろ」
その声は、いつもの軽い調子ではなかった。
「大人に相談しても、誰もまともに取り合ってくれなかった。俺たち、まだ子供だったからな」
「……そうだったのか」
瓜は苦笑した。
「何を言っても、子供の戯言にしか聞こえなかったんだろ」
俺は何も言えなかった。
瓜は写真の女の子を見つめていた。
「……悪かったな」
「何が?」
「いや。何でもない」
その言葉が妙に引っかかった。
もう一度、写真を見る。
笑っている女の子を見ていると、妻の顔が浮かんだ。
胸の奥が、わずかに痛む。
「……変な感じだな」
「何が?」
「この子の顔を見てると……妻を思い出す」
その瞬間、瓜の笑みが消えた。
「……そうか」
「似てると思わないか?」
「……似てない」
返事が早かった。
「そうか?」
「ああ」
「でも、何となく——」
「翔」
低い声に、俺は言葉を止めた。
「……昔のことは、もういいだろ」
「なんでだよ?」
「お前が苦しそうな顔してるからだよ」
「俺が?」
「ああ。昔から、そういう顔すると分かりやすいんだよ」
「……お前、昔から俺のことばっかり見てたよな」
「幼馴染だからな」
瓜は笑ったが、その顔はどこか寂しそうだった。
俺は写真から目を逸らした。
それでも、胸の奥のざわつきは消えない。
何かを確かめるように上着のポケットへ手を伸ばした。
だが、何を探しているのか、自分でも分からなかった。
そのとき、瓜の視線が俺の胸元で止まった。
「……翔」
「ん?」
「いや……何でもない」
瓜は視線を逸らした。
俺は自分の胸元を見下ろした。
何かが気になったはずなのに、理由が分からない。
ただ、心臓が妙に速く鼓動していた。
第二十八話を読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回は、翔平の幼い頃の記憶に触れるお話でした。
昔の写真を見返していると、
「こんなところに写っていたんだ」
「この頃はこんなことをしていたな」
と、忘れていた記憶がふと蘇ることがありますよね。
でも——
もし、写真に写っている誰かのことを思い出せなかったら。
それでも、その人と過ごした時間だけは覚えていたら。
その記憶を、あなたならどう思うでしょうか。
夜にこのお話を読んでくださった皆さん。
読み終わったあと、もし古い写真を見ることがあったら……
少しだけ、隣に誰かが写っていないか確認してみてください。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。




