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回収箱  作者: しー
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第二十三話 食材

朝という時間には、不思議な安心感があります。

窓から差し込む光。

静かな家。

これから始まる、いつも通りの一日。

けれど、そんな穏やかな朝にも、ほんの小さな違和感が紛れ込むことがあります。

気のせいだと思っていたものが、もし気のせいではなかったとしたら。

朝の静けさの中で、翔平の身に起こる出来事を見届けてください。

第二十三話「食材」。

どうぞ、最後までお楽しみください。

逃げるように箱から目を逸らした。

その直後、腕に重みを感じた。

「——え?」

腕の中に、熊の頭があった。

「……なんで。」

いつ持ち上げたのか、思い出せない。

毛はまだ湿っている。

生臭い匂いが鼻の奥へ入り込んでくる。

「気持ち悪い……。」

手放そうと腕を下ろす。

けれど、指が熊の毛に食い込んでいた。

「……離せ。」

力を抜く。

それでも、腕は熊の頭を抱えたままだった。


俺は熊の頭を抱えたまま、家へ向かった。

家の中は静まり返っていた。

寝室から、妻の寝息が聞こえる。

「……まだ寝てる。」

そう確認すると、胸の奥から力が抜けた。

こんな姿を見られたら、妻は怯える。

いや。

泣くかもしれない。

「……捨てよう。」


台所へ向かい、熊の頭を置く場所を探す。

まな板。

流し台。

どちらにも置く気にはなれなかった。

床へ置こうと腕を下ろす。

そのとき、指がようやく毛から離れた。

「……」

ほっとした。

その直後、手がゆっくり横へ伸びていく。

指先が何かに触れた。

冷たい感触が掌に伝わる。

——包丁だった。

「…………」

冷たい柄が掌に馴染む。

なぜ、これを持っている?

分からない。

それなのに、熊の頭へ向けると、腹の奥がまた小さく鳴った。

その瞬間、首がわずかに傾いた。

熊の頭を、別の角度から見ようとするように。

「……何をしてるんだ、俺。」

答える声はなかった。

ただ、包丁を握る手だけが、妙に自然だった。

第二十三話を読んでくださって、ありがとうございます。

朝の時間に「回収箱」を読んでくださっている方も、きっといらっしゃると思います。

一日の始まりに読むには、少し不穏なお話だったかもしれません。

けれど、朝の静かな時間だからこそ、日常の中にある小さな違和感が、いつもより鮮明に感じられることもあるのではないでしょうか。

今回のお話が、読み終えたあとに少しだけ心に残ってくれたら嬉しいです。

ここまで翔平の物語を追いかけてくださって、本当にありがとうございます。

次のお話も、ぜひお付き合いください。

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