第二十話 服薬
ここまで「回収箱」を読んでくださって、本当にありがとうございます。
気づけば、今回で第二十話になりました。
一話ずつ物語を書き進めながら、こうして読んでくださる方がいることを、とても嬉しく思っています。
今回のお話では、翔平の身近にある「あるもの」に、少し気になる変化が起こります。
何気なく見ていたものでも、ほんの少し見方が変わるだけで、不思議に感じることがありますよね。
翔平と一緒に、その違和感を追いかけていただけたら嬉しいです。
今回も最後まで、どうぞお付き合いください。
家へ戻った。
妻は、まだ帰っていない。
静まり返った居間に明かりをつける。
俺はいつものように、棚の引き出しを開けた。
薬袋を取り出し、椅子に腰を下ろす。
袋を開く。
白い錠剤が掌へ転がった。
そのとき、袋に書かれた文字が目に入った。
——魚住。
「……魚住?」
名前を口にした瞬間、喉の奥がひどく乾いた。
魚屋の店先で、あいつが笑っていた顔が浮かんだ。
困ったときには遠慮なく言えと、声をかけた気がする。
けれど、何を話したのかは思い出せない。
なぜ、こいつの名前が。
その下へ目を落とす。
——鳥居翔平。
俺の名前だった。
「……なんでだよ」
袋を裏返す。
何度確認しても、名前は変わらない。
鳥居翔平。
俺の名前。
それなのに——魚住の名前がそこにある理由だけが分からなかった。
喉が鳴る。
「飲め」
声がした。
顔を上げる。
誰もいない。
妻じゃない。
瓜でもない。
——俺の声でもない。
「……嫌だ」
薬を握りしめる。
飲んではいけない。
身体の奥だけが、はっきりと拒んでいた。
「飲むな」
そう言い聞かせる。
なのに、腕が上がった。
「——やめろ」
腕に力を込める。
それでも、手はゆっくりと口元へ近づいていく。
「やめろ……」
声だけが震えた。
指が開く。
白い錠剤が、舌の上へ落ちた。
「——っ!」
吐き出そうとした。
けれど、その瞬間——喉が動いた。
ごくり。
白い錠剤が、身体の奥へ消えていく。
「…………」
俺は自分の喉を押さえた。
今。
俺は自分の意思で飲んだのか?
それとも——。
身体が、俺より先に飲んだのか。
第二十話まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
ここまで一話ずつ読み進めていただけたことが、とても嬉しいです。
「回収箱」は長いお話なので、二十話というところまで一緒に来ていただけたことに、改めて感謝しています。
書いている途中では、
「この先も読んでもらえるかな」
「ちゃんと楽しんでもらえるかな」
と不安になることもあります。
それでも、ページを開いてくださる方がいることが、次のお話を書く力になっています。
これから物語は、少しずつ新しいところへ進んでいきます。
もしよかったら、もう少しだけ翔平の物語に付き合ってください。
次のお話も、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。




