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回収箱  作者: しー
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第十九話 内緒

ここまで「回収箱」を読んでくださって、本当にありがとうございます。

一話、また一話と読み進めていただけることが、書いている側にとって何より嬉しいことです。

今回のお話では、翔平が少し気になる場面に出会います。

何気ない会話の中に、気になる言葉が混ざっていることってありますよね。

その言葉が何を意味するのか。

そして、翔平が何を感じたのか。

ぜひ、翔平と一緒に追いかけてみてください。

今日も最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

足音を殺す。

壁越しに、二人の声だけが響いていた。

「おじさん、俺、どうしたらいいんでしょう。」

瓜の声だった。

「このままだと——。」

言葉が途切れる。

「思っていたより、早いわね。」

妻の声だった。

瓜が小さく息を吐く。

「それでも、この順番は——。」

また、言葉が途切れた。

俺は耳を澄ませた。

何を話しているのか。

意味が分からない。

——分からないはずだった。

なのに、声だけは妙にはっきり聞こえた。

妻の声。

瓜の声。

二人の息遣いまで分かる。

聞いてはいけない。

これ以上聞けば、何かを思い出してしまう。

そんな気がした。

床が、小さく軋んだ。

「——!」

二人が同時に振り向く。

——しまった。

「翔ちゃん?」

妻がこちらへ駆け寄ってきた。


「怪我してない?」

妻は俺の腕を掴み、肩を確認する。

それから顔を覗き込んだ。

昔から、自分のことより先に相手の顔色を見る。

その仕草を見ていると、胸の奥が妙にざわついた。

知っている。

この仕草を、俺は知っている。

なのに——。

「大丈夫?」

妻の声に我に返る。

「ああ……。」

妻は、ほっとしたように笑った。

その横で、瓜が俺の肩を叩いた。

「翔、助かったぜ。」

俺は瓜の顔を見る。

いつもと変わらない。

けれど——。

その目だけが、一瞬だけ揺れた。

妻も同じだった。

さっきまで、あんな話をしていたとは思えない。

——何を話していた?

聞きたい。

なのに、口が動かなかった。

「……ああ。」

それだけを答えるのが精一杯だった。


妻は何事もなかったように、患者のいる部屋へ向かった。

瓜も後を追う。

二人の背中が廊下の奥へ消えていく。

俺は呼び止めなかった。

いや。

——呼び止めたくなかったのかもしれない。

そのとき、廊下に残った匂いが鼻を掠めた。

血の匂い。

獣の匂い。

さっきの熊から漂っていたものと同じだった。

鼻の奥に、その匂いが残る。

嫌なはずなのに——。

腹の奥が、わずかに反応した。

「……」

俺は自分の腹に手を当てた。

何も起きていない。

なのに、身体だけが何かを待っているようだった。


俺は振り返った。

けれど、そこには何もない。

「……何なんだよ。」

俺は一人、診療所を後にした。

第十九話まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

「回収箱」は長いお話なので、ここまで読み進めてくださっていることが、とても嬉しいです。

一話を書くたびに、

「ちゃんと楽しんでもらえるかな」

「次も読んでもらえるかな」

と考えながら書いています。

だから、ページを開いてくれたこと。

そして、ここまで翔平についてきてくれたこと。

その一つ一つが、書き続ける力になっています。

これからも少しずつ、物語の奥へ進んでいきます。

もしよかったら、もう少しだけ翔平に付き合ってあげてください。

次のお話も、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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