第二話 覚えているはず
人は、自分の記憶をどこまで信じられるのだろう。
毎日見ている場所。
昔から知っているもの。
当たり前だと思っていた日常。
その中に、ひとつだけ「覚えているはずなのに、思い出せないもの」があったとしたら。
それは本当に、初めて見たものなのだろうか。
店の商品を探すため、裏の蔵へ向かった。
この蔵は、祖父の代から使っている。
子どもの頃は、ここが秘密基地だった。
どこに何があるのかくらい、覚えているはずだった。
それなのに——。
蔵の奥まで進んだところで、足が止まった。
見慣れた棚。
積み上げられた段ボール。
使わなくなった農具。
その奥に、古びた金属の箱があった。
「……こんなもん、あったか?」
昨日までなかった。
——そう思った。
けれど、本当に昨日までなかったのか。
自信が持てない。
箱だけが、周りの景色から切り離されたように見えた。
ゆっくり手を伸ばす。
指先に、冷たい金属の感触が伝わった。
その瞬間、指がわずかに強張った。
知っているはずのない冷たさだった。
なのに、なぜか懐かしい。
その感覚に、妻の笑顔が浮かんだ。
胸の奥が、わずかに温かくなる。
けれど、何が懐かしいのかは分からない。
「あなた。」
背後から妻の声がした。
「そろそろ開店の時間じゃないですか。」
「ああ。」
妻は先に店へ戻っていった。
俺も箱から手を離し、蔵を出る。
途中で一度だけ振り返った。
箱は、そこにあった。
まるで、ずっと前からそこに置かれていたみたいに。
——なのに。
俺には、それを見た記憶がなかった。
回収箱、初登場です。
翔平にとっては見覚えがあるような、ないような不思議な箱。
この時点では、まだ何のための箱なのかは分かりません。
ただ一つだけ。
「知らないはずなのに、知っている。」
そんな感覚を、少しだけ覚えておいてもらえると嬉しいです。




