第十六話 違う方向
村で何かが起きると、いつもより少しだけ人の姿が増えます。
普段はそれぞれの場所で過ごしている人たちが集まって、声を掛け合ったり、情報を交換したり。
そんな中で、翔平も村の人たちと一緒に動くことになります。
今回は、そんな慌ただしい夜のお話です。
いつもとは違う翔平にも、ぜひ注目してみてください。
外へ出ると、村のあちこちから声が聞こえていた。
「熊が出たぞ!」
村人たちが広場へ集まっている。
俺もその流れに混じった。
広場には、猟銃を持った男たちが集まっていた。
誰も口を開かない。
銃を握る手だけが、妙に強張っている。
「おーい。遅くなってすまない。」
俺が声をかけると、張り詰めた空気が少し緩んだ。
村人の一人が、俺の顔を見て言った。
「鳥居さん、髪どうした?」
「髪?」
指先で触れる。
一本だけ、妙に硬い毛が指に触れた。
髪というより、細い針のようだった。
「なんだ、これ。」
つまんで引っ張る。
抜けない。
力を込めても、それはびくともしなかった。
「痛くない……。」
それどころか、触れている感覚すら妙に薄い。
まるで、皮膚から生えているものが自分の身体ではないようだった。
俺は髪から手を離し、帽子を深く被った。
「何でもない。」
「おい、行くぞ!」
男の一人が声を上げる。
俺たちは診療所へ向かって歩き始めた。
俺も、その後を歩いた。
けれど、どこかおかしかった。
診療所へ向かっているはずなのに、自分で道を選んでいる感覚が薄い。
周りに合わせて歩いているだけなのに、足だけが勝手に進んでいく。
足を止めようとする。
一瞬、止まった。
けれど、また歩き出していた。
「……俺、今。」
自分の足元を見る。
歩いているのは俺だ。
それなのに、自分の身体を少し離れた場所から眺めているような感覚があった。
また一歩。
そのとき、遠くで鳥が鳴いた。
頭が、声のした方へ向いた。
「……?」
身体より先に、首が動いていた。
その方向を見た瞬間、胸の奥が妙に落ち着いた。
知らない道なのに。
なぜか、知っている気がする。
「俺の身体だよな。」
呟いた瞬間、足が止まった。
「止まった……。」
ほっと息を吐く。
足元を見る。
身体は診療所ではなく、ほんの少しだけ別の方向を向いていた。
視線の先には、診療所とは反対側へ続く道。
「こっちじゃない。」
そう思った。
——けれど。
なぜか、その道から目を離せなかった。
足が、ほんの少しだけそちらへ向く。
「……違う。」
俺は足を戻した。
それでも、身体はまだその道を向いていた。
「俺が行きたいのは、診療所だ。」
そう言い聞かせる。
けれど、身体は答えなかった。
ただ、遠くで鳴いた鳥の声だけを追うように、俺の首がゆっくりと動いた。
夜の村で人が集まっていると、それだけでちょっとしたお祭りのような雰囲気になることがあります。
もちろん今回は、そんな楽しい夜ではありませんが(笑)
村の人たちが集まることで、普段は見えないそれぞれの様子も少しずつ見えてきます。
翔平が向かった先には、何が待っているのでしょうか。
次のお話も、ぜひお付き合いください。




