第十三話 回収箱
箱の中に刻まれた名前。
昨日は、熊谷。
そして今日はーー。
回収箱は、ただ物を入れておくための箱ではないのかもしれない。
そこに刻まれた名前が意味するものを、翔平はまだ理解できずにいた。
肉を食べ終えると、妻は食器を片づけた。
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
妻は笑う。
「私、そろそろ診療所へ行くわね」
「ああ」
身支度を始める妻に、俺は声をかけた。
「昨日の箱のことなんだけど——」
そこまで言って、口を閉じた。
「……いや。何でもない」
「そう?」
「ああ」
妻は家を出ていった。
扉が閉まる。
俺は一人になった。
熊谷の息子。
肉のパック。
そして——回収箱。
外へ出る。
箱は昨日と同じ場所に置かれていた。
蓋を開ける。
——中には、肉が入っていた。
「……鶏肉?」
白いものが、肉の表面に張りついている。
見慣れた肉のはずなのに、何かがおかしい。
肉を持ち上げた。
その下に刻まれていた文字を見て、息が止まった。
「……鳥居?」
昨日、ここに刻まれていたのは「熊谷」だった。
それが今は、俺の名字に変わっている。
「……順番」
その言葉を口にした瞬間、さっき食べた肉の味が蘇った。
甘い匂い。
白い粉。
あの肉の感触。
「……まさか」
胃の奥が冷たくなる。
俺は肉から目を逸らした。
それでも、箱に刻まれた自分の名前だけは、頭から離れなかった。
「順番」という言葉が、初めて自分自身へ向けられた。
箱に刻まれた「鳥居」の文字。
その上にある肉は、本当にただの鶏肉なのか。
そして、もし順番があるのならーー次に回収されるのは、誰なのか。




