第十話 順番
「順番」という言葉には、不思議な力がある。
誰かの次に、自分がいる。
自分の次には、また誰かがいる。
もし、その順番が最初から決められていたとしたら。
そして次に呼ばれる名前が、自分のものだったらーー。
店へ戻ると、背後から声をかけられた。
「鳥居さん」
振り返ると、熊谷の息子が立っていた。
その腕には、肉の入ったパックが抱えられている。
「——熊谷さんのところの息子か」
「はい。親父の代わりに、肉を届けに来ました」
男は腕の中のパックを抱え直した。
「親父、大丈夫そうです」
「そうか」
「はい。意識も戻ってますし、話もできました」
男はほっと息を吐いた。
「……よかったな」
「本当に。でも、俺、親父があんなふうになるの、初めて見ました」
男は店の入口に目を向けた。
「……どうかしたのか?」
「いえ。……何でもないです」
そう答えながらも、肉のパックを抱える腕には力がこもっていた。
「親父、何か言ってませんでしたか」
「いや。俺は、何も聞いてない」
「……そうですか」
男は何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに閉じた。
小さく頭を下げ、そのまま帰るのかと思ったとき、ふと口を開いた。
「そういえば……親父が言ってたことがあるんです」
「何を?」
男は少し黙った。
「——順番が来るって」
「……順番?」
「はい」
「何の順番だ?」
男は答えなかった。
ただ、俺の顔をじっと見つめている。
まるで、俺が何か知っているのか、確かめるように。
「……何だ?」
やがて男は視線を逸らした。
「それじゃ、俺はもう行きます」
「おい。待て」
呼び止めようとしたが、男は振り返らなかった。
扉が閉まる。
カタン。
静かな店内に、その音だけが残った。
「順番って……」
答えは返ってこない。
俺は店の外へ目を向けた。
そこには、回収箱が置かれている。
何も変わっていない。
——ただ。
なぜか、あの箱が気になった。
俺は店を出た。
回収箱の前まで歩いていく。
蓋を開ける。
箱の底を覗き込む。
そこに、文字が刻まれていた。
その文字を見た瞬間、息が止まった。
「——熊谷」
ここで、回収箱に初めて「名前」が刻まれます。
熊谷。
それは偶然なのか。
それとも、誰かが決めた順番なのか。
翔平には、まだ何も分かりません。
ただーー。
箱の中にあるものが、少しずつ「物」ではなくなってきました。




