クエスト60【食事改善編_料理完成】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、大変でございます!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお、騎士団長か……実はな、ん、何じゃそっちが大変とは珍しいのう」
騎士団長が、何やら慌てた様子で王の元に立つ。
「はい、それが宮廷料理長がですね」
騎士団長が報告するよりも早く、謁見の間の扉が開かれた。
姿を現したのは、王国の宮廷料理長その人であった。
「おお、噂をすれば、どうしたのじゃ? 何やら大変な事になっとるようじゃが?」
料理長は、王を前に丁寧にお辞儀をした。
「これはご無礼を閣下、少々話が大げさに伝わったようです」
あくまでも冷静に、静粛に料理長は姿勢を正した。
「この度、森の民から森の恵みなる食材が大量に届きまして、どう調理しようか悩んでいた次第であります」
「でも、給仕のメイドや目撃した兵士が悉く怯え報告を上げています、料理長が不思議なポーズで食材を魅入っていると」
騎士団長の報告に国王は。
「何じゃいつもの事ではないか」
軽く受け流した。
「しかし他にも、アレは何やら危険なキノコを食材に居れようとしているのではないかと疑いも」
「どうなのじゃ料理長よ、危険な食材でも混ざっておったのか?」
「いいえ、森の民の目利きは確かなものです、ちゃんと一般的に食材として流通している物ばかりでございます」
「ほら安心できそうじゃぞ」
「何で国王様は宮廷料理長にそんな全幅の信頼を置いてるんですか」
「その辺は普段のお主らの行いから察して欲しいのう」
その時、料理長が姿勢良く腰を下げて進言する。
「陛下、この隊は大量の食材をお配備いただき誠にありがとうございます、つきましては、この食材を使って晩餐会を催したいと思います」
「ほう、特定の決まった時期か、貴賓客が来る時しか開かないというのに珍しいのう」
「いえいえ、折角の食材に料理人としての血が騒ぐのです」
そう言いながら、料理長の胸中には思いが渦巻く。
(ここ暫くという物、塩不足に随分と悩まされました。味を濃くすれば良いという物ではないのが宮廷料理という物ですが、肉料理の最後の味付けに、スープの濃度調整に、そして魚にも。やはり伝統ある料理に塩は不可欠、何とか薄く、別の味付けで誤魔化してはきたもののそれも限界が来ていました。そこにようやくの塩、解禁! 自由に塩を使えるというのは何と心地よい事でしょうか、しかしそこで安易に塩に飛びついてはいけません。しばらくの薄味に、皆慣れているからこそ塩の味付けには繊細な調整が必要となります。そこに舞い降りた森の幸、これは食材を生かす為にシンプルな塩の味付けが非常に合います。そのコース料理をもって、改めて薄味と言う名の、食材そのものの美味しさを感じてもらい、最後に伝統ある料理をご用意すれば、普段よりもなお極上の味に感じ入る事は必然! これぞまさにル・スーパーラティフ!!)
「国王様! 料理長が両足を大きく広げ、腰を落とし腕を組んだ状態で上半身が後ろを向き、一周回って首がこっちを向いて非常に薄気味悪い格好をしていますが!」
「いつもの事じゃ」
「じゃぁ久しぶりに晩餐会ですか、羨ましいですねぇ」
「よろしければ、今回は身内でささやかな夕食会としまして、貴賓等は招かず城の者で行うのはいかがでしょうか?」
料理長の申し出に、騎士団長は歓喜の声を上げた。
「身内と言う事は、この鎧のままで出席してもいいんですか!?」
「いやそこは別に脱いでええじゃろ、そもそも兜を取らんと食事は出来まい」
和気あいあいとした雰囲気の中、さらに扉を開く者が現れた。
「話は聞かせてもろたでぇ」
現れたのは、褐色肌に南部の民族衣装風の遺書を纏った、耳の長い少女の商人であった。いつも通り黒服を数人連れて、大手を振って王の前に現れる。
「身内だけもええけどね、ちょっとは友人も招かんと盛り上がらんやろ、ウチ等ウェイシェン商会が盛り上げ係買ったるわ」
「……どなたで御座いましょうか、この(いささか無礼で陛下への口の利き方のなっていない)方は」
「おっさん、えらい含みある言い方しよんなぁ?」
小馬鹿にするように、商人は料理長を見返すと。
「本音を言うとなぁ、ウチ等この街の食事処手中に収めようと思うとんのよ、美味い飯店には星付けるゆうてな、おっさんも料理人なら知っとるやろ? んでな、勝負しようや、おっさん、宮廷料理人ゆうならこの街で一番飯美味いやろ、互いに料理持ち寄って一番決めようや」
「おお、これは面白そうですね!」
「確かに面白そうじゃが、料理長よお主の料理の腕は知っておる、この様な難癖など受けずとも」
「いえ、陛下。この勝負是非受け褪せてください」
「ほう」
「乗り気とは思いませんでした!」
その時、料理長の胸中にはある思いが渦巻いていた。
(なるほど、この方が巷を賑やかしたウェイシェン商会でしたか。確かに料理に評価を付けるという発想は面白い、料理中や食事中に会話をはさむのはマナー違反ですが、食後に料理を語らうのは良い事です、しかし噂では店の環境や料理人の態度で評価を決めるとか。店の奇麗さ、料理人の態度など、私からすればそれもまた調理過程の味付けに相当する物ですから、疎かにするべきではないと思いますが、だからと言ってすべての料理が私の目指す宮廷料理の様になれば良いという事でもない、庶民の料理、大衆向けの料理、家庭の料理、様々な形があってこその評価のはず、そもそも私はその星の格付けに声をかけられていない。私が監修させて貰えれば、料理人にもお客にも助けになる評価軸を作れたというのに、ならばその仕組みは私の望むトラディッションに即していない、この勝負)
「私は負けません」
「ひいい! 見てください国王様、料理長の体が両腕を大きく開き、飛翔する翼を現し、片足はゆっくりと持ち上げ強襲する猛禽類を模す、まさに荒ぶる鷲の如き格好に!?」
「騎士団長よ、そろそろ慣れい」
後日。
「兜の下の部分を開閉できるようにしたので、これで鎧を着たまま食事ができます!」
「そんな恰好で席に着いたら、料理長が卒倒するぞ」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




