クエスト59【料理改善編_生産改善4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、謁見の申し込みが来ております!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑姿の騎士が姿を現す。
「最近謁見が多いのう、今度はどこの誰じゃ、教会の関係者か、商人か、それともまた勇者かのう」
「それが、今度の謁見の相手は……その、魔物でして」
「魔物じゃと!?」
「はい、魔物達が謁見を希望しております」
「ど、どういう事じゃ? まさか敵の幹部がついに宣戦布告をしに来たのではあるまいか?」
「そうですね、ついに全面戦争の火蓋が切って落とされようとしています、魔物側の出方次第では、その使者達の首を旗に下げ、先陣を切って殴り込みに行く次第でございます!」
「ま、まぁ待つのじゃ、謁見を申し込んできたという事はじゃ、まだ話し合う余地があるという事」
「国王様! 魔物側との交渉など成り立つわけがない!」
「しかし相手がこちらの礼に倣って謁見を申し込むのであれば、こちらも誠意を見せねばなるまい、向こうが礼を守っている限り、我らは使者をちゃんと返すのじゃ」
「……歯痒い限りです」
「あまり待たせて暴れられてもことじゃ、連れてくるが良い」
「は、しばしお待ちを」
長い事平和そのものであったこの謁見の間が、珍しく静まり返っていた。
国王は目を瞑り、色々と思いを馳せる。
やがて、扉が開かれた。
「国王様、魔物の使者を連れてまいりました」
そうして連れて来られたのは、葉っぱや木々、そして獣の骨と皮で作られた衣装を身に纏った、三人組であった。各々毛皮のフードを被り顔は見えない。
「ワレワレハ、森の民ダ!」
「うん、何か思った魔物と違うかな」
「思っタチガウ、何故?」
王の発言に、毛皮の一人が尋ねる。
「いや、ちょっと魔物っぽい格好をしておるが、お主ら人間じゃろ?」
「チガウ、一緒にスルナ!」「我ラ森の民、誇り高き森のケダモノ!」「お前達ニンゲンとはチガウ!」
「結構言葉通じておるしな」
「国王様! どうしますか、彼らを血祭りにあげ、戦いの狼煙を上げますか!」
「うん、ちょっと落ち着くのじゃ騎士団長よ、コレあれじゃ多分野生化した村人とかじゃ」
「ワレワレ森のケダモノ」「血沸キ肉躍ル」「狂乱ノ宴ノ始マリ!」
「国王様! これは宣戦布告と受け取っていいのでしょうか!」
「だから早まるなと言うに! お主らも謁見に来たのならもうちょっとちゃんと話すのじゃ、絶対受付で申込書描いてる時はそんな口調で喋っとらんじゃろ!」
「ワレワ……ゴホンッゲフッ」
「ほら咽とるし、それで何の用じゃ?」
「オ前達、我ラの森を奪う」「開拓ヨクナイ」「森を汚スナ!」
「例の農業開拓地の事かのう?」
「出身地は、その農業開拓地のさらに奥となっています」
「なんと、あんな森の奥地にまだ人が住んでおったのだな」
「我ㇻ人間ジャナイ」
「記録によると、いくつか農村があったみたいですね、ただ随分前に廃村になっています」
「その村の生き残りがこうして野生化したわけか」
「我ラ森の民、でも面倒ダカラ話し続ける」
「そうじゃな、それで、森は自分達の領土だから開拓を止めろと」
「お前達、何故森を切り開く」「食材が欲シイナラ」「森の恵みを」
「ほう、森の恵みとな?」
「お前達ハ効率ガ悪イ」「森にはキノコや木の実、薬草、果実、芋等沢山の食べ物がアル」「交渉ダ食材が欲しきれば我らと交渉セヨ」
「ふむ」
「なるほど、確かに手間をかけて開拓するよりも、森に詳しい彼らから食材を買い取った方が手っ取り早くはありますね」
「ふむ、ならば交渉しようではないか、お主らは何が欲しいのじゃ?」
「我ラの森では手に入らないモノ望ム」「塩、砂糖、麦」「あと酒、煙草、香草」
「結構俗っぽいのう」
「無論相応の森の恵み渡ス」「何なら我ラの宝」「究極の森の恵み[カカオ]をヤル」
「[カカオ]、何じゃそれは?」
「さぁ私にも聞いた事はありません」
二人して首を捻っていると、謁見の間の扉が大きく開かれた。
「話は聞かせてもろたで!」
現れたのは、南部の商人といった衣装を纏った、褐色肌の耳の長い商人であった。後ろに数人の黒服を引き連れ、我が物顔で謁見の間へと入ってくる。
「ええやないか、その交渉、ウェイシェン商会が仕切らせて貰うでぇ!」
「何ですか、実に勝手な」
噛みつく騎士団長を、商人は茶化すような口調で。
「なんやぁ? 苦い宝石も知らんのに交渉に口出さんで欲しいわぁ」
「苦い宝石? カカオの事ですか、そんなに価値がある物なんでしょうか?」
「こいつぁ使い方を知ってるんと知らんとで価値が変わるんや、まぁウチに任せとき、悪い話にゃぁせんよ」
「ふむぅ、交渉となれば商人が適任かのう、この話お主に預けよう」
「おおきにな、森の恵みとやら市場にいっぱい卸したるわぁ!」
「良いのですか王様、それに奴等カカオを独占するつもりですよ!」
「とはいえ、カカオが何か知らんでのう、もうちょっと待ったら部下が口を滑らせそうなんじゃが」
「ボス」
「ボス言うなや、おっとこれ以上はお口にチャックやでぇ、ウチの計画の最後のピース、カカオが手に入ったんや、ここは気も良く帰らせろやな」
商人は部下が口を開く前に、静かにとジェスチャーで口を封じた。
「なんか調子乗らせたら当人から勝手に喋りそうじゃな」
「そういうの悪役の性なんでしょうかね」
後日。
「国王様、大臣にカカオについて知らないかと聞いたのですが」
「ほう、何か知っておったか?」
「はるか遠い国の、苦い飲み物らしいです、要らないって言ってました」
「ふむ……知るものと知らぬもので価値が変わる、か」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




