クエスト06【盗賊退治2】
勇者は激怒した。
必ず、あの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。勇者は政治が分からない。勇者は村人である。口笛を吹き、友人と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明勇者は村を出発し、野を越え山越え、だいぶ離れたこのオイヘンブージ王国にやって来た。
勇者には妹が居た。この度は妹の誕生日という事もあり、祝いのご馳走と共にプレゼントを買いにはるばる街までやって来たのだ。勇者には竹馬の友があった。その友はこの街に住んでおり、友から王の悪行を聞いたのだ。
聞いて、勇者は激怒した。
呆れた王だ。生かしては置けぬ。
勇者は、単純な男だった。話を聞いてそのまま、王城へ入っていった。
「と、この者は王城前で捕縛した兵士に語っております」
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その国王ブージ三世は、捕縛され目の前に座らされた男の説明を、傍らに佇む騎士団長から聞くのであった。
「え、ワシそんな世間での評判って悪いの!?」
驚きの事実に王は慄き狼狽する。
「まさか国王ともあろう方が、隠れてそのような非道な行いをしていたとは私も遺憾です」
「お主は一番に[王はそのような事をする人ではない]と断言するべき立場であろうが!」
そこで王の御前に引っ立てられた若者が、呻くように声を発した。
「私は、国を……暴君の手から救わなければならないのだ!」
「いや志は立派だがの……だからっていきなり正面から殴りかかるのもどうかと思うのう」
騎士団長は、捕縛されている男の腰から短剣を取り外して見せた。
「とりあえず武器を所持し、王城内へ侵入、そして王を殺すと発言しているので、現時点で国家反逆罪及び王侯貴族への暗殺未遂が成立しますね、王国法規では死刑ですが……」
「私は死ぬ覚悟はできている、命乞いなど決してしない!」
「いやお主も馬鹿よのう……気の迷いでしたもうしませんと反省するのなら帰したものを……」
「王様、この暴漢を捨て置くのですか?」
「こんなんいちいち投獄しておったら牢屋が足りんわ、それになんか妹の誕生日とか聞いちゃったし」
王と騎士団長の会話を聞いて、若者は苦笑いを浮かべる。
「ああ、王は利口であられる。そのまま自惚れているとよい。私に情けを掛けるつもりか」
「逆に情け以外に何を掛けられたいのだお主は」
呆れた様子の王に、若者は言葉をつづけた。
「だがもし情けを掛けたいのならば、私の処刑を三日待って欲しい」
「いやだから帰って良いと言うに」
「妹の誕生日を祝ってやりたいのです」
「三日間も盛大に祝うだなんて妹さんは幸せですねぇ」
呑気そうに騎士団長が感想を述べる。
「三日の内に誕生日を祝い、必ずここに帰ってきます!」
「だから帰ってこなくて良いというに」
「私は必ず約束を守る、そんなに私を信じられないのならこの街に私の友人がいる、その者を人質としてここに置いていこう」
「どうしますか国王、本人の同意も無く勝手に取引材料にされている友人をしょっ引きますか?」
「っと言うか話を聞く限り、こいつにあらぬ噂を吹き込んだのその友人じゃろう? そいつ一回城に呼んだ方がいいかもしれんな」
「なにを言うか王よ! 私は必ず帰ってくる!」
「とりあえず貴様はもうちょっと人の話を聞けい! 大体ワシがどう悪逆の限りと尽くしたと言うのじゃ! そんな命令は出しとらんぞ、今の治世に文句があるのなら大臣に言え!」
王の言葉を、戯言と一瞥するかのように、男は怒りの表情で言った。
「なにを言うか、異形の魔物を従え、近隣の国々を疑心暗鬼に陥れ、この世を侵略しようとしているというのにしらばっくれるつもりか!」
「どう考えても魔王の事じゃろ!」
後日。
「国王様、ただいま戻りました、いやー妹さんの誕生日会にすっかりご厄介になってしまってー」
あの後、1人で返すのは心配なのでと騎士団長が付き添って彼の村まで送っていったのであった(事実上の連行)。
「ふむ、妹さんには事情はちゃんと説明できたかの?」
「ええ、兄にはよく言って聞かせるとの事です」
「大丈夫かの……今度は魔王の城へと乗り込んで行かぬか心配じゃ」
「それはたぶん大丈夫ですよ、しばらくは野山走らせたりとかして余計な事する体力を削っておくって言ってました」
「普段からあんな奴なんじゃな、でもそういう奴がそのうち先走って何やかんやあって魔王とか倒すんじゃろうか」
王の苦悩はまだ晴れそうにない。




