クエスト48【料理改善編_原因究明1】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、どうなされましたか!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお、騎士団長か……実はな」
直立不動で立つ騎士団長に、王は己の抱えた苦悩を漏らす。
「最近、料理が不味くないかの?」
「あ、あー私も最近そう思っていました!」
意見が一致して意気投合する二人。
「やはりか、騎士寮の食事がまともで、ワシの晩餐だけ不味かったらなんか別の心配をせねばならん所じゃった」
「もしや城の料理に何かしら毒を盛られているのでは?」
「えー飯が微妙に不味くなる毒とか地味に効くのう」
「遅効性の毒でじわじわと蝕むタイプなのでは、味覚異常はその予兆の可能性も?」
「じゃとしたら井戸水とかに毒が混入されておるかもしれんの!」
「それは危ないですね! 大臣に相談してきます!」
そう言って騎士団長は素早く部屋を出て行って。
また素早く部屋に戻ってきた。
「水質調査は定期的に行っているので問題ないそうです!」
「まぁそうじゃろうな……流石に水質に問題があったら城の宮廷料理長が何か言ってくるじゃろうし」
「言い難いのですが、もしや料理長の腕が落ちたとかは?」
「いや、軽食に出される焼き菓子類は非常に美味じゃった、腕前は落ちとらんと思うがの」
そこで騎士団長が思い出したかのように。
「そう言えば、兵士達も最近町の食堂の料理がおいしくないと嘆いていた気がします!」
「なんと!」
「メイド達も、城下町のカフェのランチが最近いまいちだと」
「何と言う事じゃ!? 城だけではなく町全体に起こっておるとは!」
「一度本格的に調査を行う必要がありそうですね、ちょっと調べてきます!」
いうや否や、騎士団長はまた部屋を飛び出して、またすぐ戻ってきた。
「早かったの」
「大臣に聞いてみたんですが、別に食材の入荷先も、調理過程も変わっていないそうです、あと食えない訳じゃないんなら我慢しなさいって言われました!」
「嫌じゃー毎日の晩餐が過酷な日々の唯一の癒しだというのに、これだから元軍属は」
「まぁ私としても、戦地で仕方なく食べる軍用食に比べればだいぶマシだとは思いますけど!」
「そう言う事言うからお主らは、宮廷料理長にちょっと嫌われるんじゃ! こうなったら料理長を呼ぶのじゃ!」
「は、しばしお待ちを」
こうして、ブージ王国の台所の総責任者、宮廷料理長が王の前へと連れて来られた。
「うむ、よく来たの面を上げい」
「畏まりました」
そう言って40代くらいの、いかにもシェフが来てそうな白いシャツ姿、痩身ではあるが背の高い男性が顔を上げる。
「召喚に応じはせ参じました」
「うむ、よく来たのフリーデン料理長よ、こと料理に関してお主以上に腕の立つ者は街には居るまいと思っておる」
「ありがたき幸せ」
王の言葉に、料理長は深々と頭を下げる。
「それゆえに、わざわざ呼び出してこういう事を聞くのは、無粋じゃと思うんじゃが、最近料理の味付けを変えたかの?」
王の言葉に、料理長はピクッと体を震わせ、ゆっくりと体を起こした。
「やはり、その事ですか」
何やら事情を知っているかのような口ぶりで、料理長は言う。
「やはりお主何かを知っておるのか!?」
「我が主、先に申し上げますとこの度料理の味を落としてしまった責任は、すべて私にございます、もし何かしらの処罰を考えているのであれば私が負います」
「あ、いやワシは別に料理が元の味に戻れば、それでええんじゃが。んん? 普通に味付けを間違えただけかの?」
「しかし国王様、一回だけならそれで済みますが最近ずっとなのでしょう? さらに言えば、騎士寮の食事も美味しくなくなっています、流石に料理長も一兵士の食事は作って居ないでしょうし、町の料理だって影響が出ているんですよ!」
「そうじゃの! 事はお主が抱え込める状況ではないと判断したぞ、知って居る事を話すと良い!」
「……それでは。話は数日前に遡ります」
重い口調で、料理長は語り始めた。
「巷で最近妙な噂を聞いたのです。何でも教会から儀礼用に使った塩が余っているらしく、それらを安価に市場に卸しているらしいのです。塩が安く手に入るのは一般市場にとっては良い事でしょう、しかし料理の世界では違います、その塩の産地や保管状況、さらに言えば岩塩か海塩かでも料理の味付けに大きく影響を受けるのです、私はこれは不味いと思い市場に出向きましたが時既に遅く。市場は安い清めの塩とやらに溢れていました。もはや従来の良質な塩は貴族達の投機の対象となり僅かですら入手困難な状況に」
「……また教会かの」
「しかし清めの塩も、塩には違いはないのでは?」
「私もそう思い、一応使ってはみたのですが。精製純度が悪く不純物も多い、塩釜焼や塩漬け等には使えますが、料理の味付けに使うには向きません」
「なるほど、そのような事が」
「仕方なく城の備蓄の塩を、節約しながら使っていったのですがそろそろ底をつきかけており……大臣に相談したものの、塩なんて抜いても気付きませんよ、節約節約と軽く流され」
「それは相談した相手が悪かったの」
料理長は溢れ出る感情を胸中にとどめた。
(ああ、なんと嘆かわしい。塩味とは食材の味の基本、料理の浸透圧といっても過言ではありません、最適な味と濃度で整えられたスープは、まるで体が欲する命の源といっても過言ではない栄養吸収率を誇るのです、それらを節約の一言で済ませる等と、なんとアンタッチャブル!)
溢れ出る感情を抑えるあまり、料理長は両手を頭上で組み、腰を捻り、さらに足まで絡めた姿勢で立っていた。
「あの国王様、料理長が何やら愉快な格好になっておりますが?」
「うむ、たまにああなるの」
しばらくして、我に返ったように料理長は直立の姿勢に戻った。
「はっ、申し訳ありません、少々考え事を」
「そう言えば、料理長は私のことを嫌っているというのは本当ですか?」
急に騎士団長は料理長に問いかけた。料理長は何も答えず。
「ちょっとフリーデン料理長? 何で顔を逸らすんですか? アレですか! 国宝級の大皿を割ったからですか? それとも銀の食器を念力で曲げようとして捻じ切ったからですか! それとも!」
料理長は何も言わなかった。
後日。
「国王様! 町の料理が不味かったのはやはり噂の清めの塩の所為でした、ほらコレを!」
そう言って騎士団長は、屋台で売っている芋の塩煮を王に差し出す。
「ふむ、不味いといっても所詮塩じゃろ、特に変わりはまっずぅ!」
「えぐみが凄いですよね!」
「ふぅむ、しかしまともな塩は無いんじゃろう? 料理長にはこの塩で何とか美味しい料理を作って貰わなくてはの」
「またなんか愉快なポーズ取りそうですね!」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




