クエスト41【猛暑対策2】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、凄く暑いです!」
そこに勇ましい足取りで、普段は全身甲冑だが、今日は略式礼服で騎士団長が姿を現した。
「おお、騎士団長か、まだまだ暑いのう」
「王国内は記録的猛暑だそうです」
「一体どうなっておるのだ、これも魔王軍の新たな兵器か!」
「パねぇっスねー」
唐突に、部屋にギャルっぽい語彙が響く。
「おお、冒険者ギルドの支部長! 何時の間にここに!?」
王が驚いた先に、やたらと裾や袖やスカート丈の短い服を着た女性が立っていた。
「これは賢者さんではないですか、どうしてここに?」
騎士団長の問いに、賢者は顔の前にピースサインを出して。
「えへ、来ちゃった♪」
「うむ、あんまり非番だけど暇だったから職場に顔を出してみた感じで謁見の間に来んで貰えるかな」
「えーもしかして、キャパい感じー?」
「もしかして忙しかったかと云聞いておるのなら、暇ではあるがのう」
「そう言えば先日は大量の氷ありがとう御座いました! もう溶けましたけど!」
「やっぱしー。あーしの模倣って威力激オチでー、しゃばいんよ」
「ではまた、氷を作りに来てくれたんですか?」
「今―、この前の台風で南側の海がひえひえでー、風がびゅーって吹かないんよ、だからこの国のお空の上で、高気圧が停滞しちゃって、あちちが逃げられなくなってるんス。そのうち海面温度が上昇して、風がびゅーびゅー吹き荒れたら、アチチもばいばーいっててどっか行っちゃうっスね」
「うん、何を言っているか分からんし、何と言っているか分っても難し過ぎて分からんな!」
「なるほど、そんな事が!?」
「まじか騎士団長、今の説明で理解できたのか?」
「はい、えーっと要約すると、アツくてヤバイって事ですね!」
「要約し過ぎじゃ!」
「ともかくー。皆で乗り切るっきゃない感じ―」
「なるほどのう、そうじゃ折角賢者が居るのじゃから、何か暑さを乗り切る知恵とかを聞かせてはくれない物かのう?」
「ソダネー、ムリしないのも努力の内だから、ハート優先で行こー!」
「おおお流石賢者の格言ですね! なんだか力が沸いてきますよ!」
「うむ、でも別に対して凄い事言ってないんじゃよな」
「あ、あとあとー城の魔道具見せて欲しくってー」
「魔道具に興味おありですか、しかし生憎と魔道具に詳しいヘイワーズ大臣はしばらく居なくてですね、我々では詳しい説明が出来ないんです」
「あー大丈夫―、あーし魔法とかむっちゃ詳しいからー。全属性魔法使えるしー」
「それが詳しいレベルなのかワシらに判断が付かないんじゃよな」
「ともあれ我々では、その魔道具が何処に有ってどんな形状かすらわからないのです」
「しゃーなしー」
「いっそ城全体を冷やして貰いますか? 嵐の時みたいに」
「止めるんじゃ! もうこれ以上城を壊すでない!」
王様の悲痛な叫びが、部屋に木霊した。
「あー城弄るの駄目な感じ―?」
「まぁ建て直したばかりなので王はいささか神経質気味だとは思いますが」
「あ、じゃぁあーしがこの暑さいつまで続くか占ってあげちゃう!」
「ふむ、占いか」
「気休めでもあと何日とか分かればいいですね!」
「よっし、じゃいっくよー」
そう言って賢者は目を閉じて、胸の前に手を組む。そして薄目を開けると、今まで出した事のない声音で。
『……王国歴、385年、魚の月、多くの実りが茂る頃。東の地より災い起こる。光を喰らう者、それすなわち間を統べる者なり』
「なんか雰囲気違うのう」
『王国歴……390年、羊飼いの月、荒涼たる大地と実りの無き頃、西の地に希望が起こる。闇を払いし』
「ちょちょちょっと! それなんか占いじゃない、多分予言!」
王様の突っ込みに、賢者から怪しい雰囲気は消え、いつもの感じに戻る。
「え、あーごめちょっちぼーっとしてたかも。何か言ってた?」
「えっと、魚が沢山取れて美味しいヤミーって言ってました!」
「なんか近いけど絶対違うぞ!」
「ありゃ占い失敗かもー、今日ちょっとちょーしヤバー」
「むぅむしろ調子悪いと予言が降りてくるんか、恐ろしいのう賢者とやらは」
「へへへー」
ちょっと照れたように頭を掻く賢者。
「しかし何やら重要そうなことを言ってそうじゃったが、雰囲気に驚いてあんまり聞いておらんかったな」
「じゃもう一回お願いしてみましょう! 結局暑さが何時まで続くか分かりませんでしたし」
「いいよー」
軽いノリで、賢者は再び両手を組む。
再び薄目を開けると……底知れない雰囲気が部屋に充満した。
部屋が凍り付くような。
命が枯れ行くような。
そんな絶望と破滅の入り混じった、生き物の魂が拒絶する嫌悪感。
そして賢者の口からは、また聞いた事も無い声音で。
『…………我こそは魔王である』
その瞬間王は椅子から立ち上がり身構え、騎士団長は剣を素早く抜き放ち。
「……あーうそうそ、冗談っス」
慌てて賢者は両手を上げて種明かしをした。
後日。
「まったく、あのような賢者の茶目っ気に全力でビビるとは我が王ながら情けない」
「そういう騎士団長こそ、結構本気で剣を抜こうとしておったではないか」
「はーなんかすっごい冷や汗が出ましたね」
「うむ、不思議と部屋も涼しく感じられるわい。しかしあれは本当に演技じゃったのか?」
「というと?」
「一瞬だが、本当に何か良からぬ存在を卸したのかもしれんぞ。そうでなくとも、あのただならぬ気配は心底肝が冷えたわ」
「だとしたら本当に、この暑さを乗り切る知恵を貸してくれたのかもしれませんね」
「いやだとしたら怖過ぎじゃろ、ってか、え、魔王ってあんな怖いもんなのか?」
「会った事無いんで分かりません!」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




