クエスト04【ドラゴン討伐4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
そこの王城内にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、お連れしました!」
そこに勇ましい足取りで全身甲冑の騎士が姿を現す。今夏は珍しく、後ろに若い研究者といった出で立ちの女性を引き連れていた。
「ほうお主が……」
研究者は王前にて膝をつき、丁寧に挨拶する。
「この度は、我ら大陸間竜種研究組合にお声頂きありがとうございます」
女性は大陸をまたいで竜を研究している研究者であった。
「なんでもエメラルドドラゴン、正式にはエメラルド・フォレスト・ドレイク(有翼)について詳しく聞きたいとの事ですね」
「うむ、王国近隣の森に巣くうておってな、是非とも対処法を教えてはくれぬか」
「了解しました、様々な国家にドラゴン保護を訴えている我ら組織にお任せください! 必ずやこの王国にも、ドラゴンの素晴らしさを広げて見せます!」
「あれ何か呼ぶ専門家、間違えたかもしれん」
膝を着かせたまま話すのもなんだという事で、一同は王城内の会議室へと場所を移した。
そこで研究者は持ち込んだ資料を広げると、開口一言。
「皆さんはドラゴンを誤解しているんです!」
その発言に、国王は毅然とした態度で応答する。
「しかし周囲に被害も出ているしの、焼き滅ぼされた村もあるというなら討伐も致し方なあるまい」
近隣の村から、ドラゴンの被害を訴える陳述書が毎日届いてくるのだ。
「ドラゴンが村を焼くなんてただの噂です! ドラゴンの火の吐息は、体内に蓄積した可燃性老廃物の排出なので、同種族や苦手な敵に対する切り札として使われます、無意味に村を焼く事はありません、大方ただの山火事を擦り付けられたのです」
そう言って、ドラゴンの生息地域の記された地図を広げる。
「そもそも頻繁に火を吐く種はキングレッド種とブラックロード種、これらは火山帯や砂漠地帯などの火の気の多い土地に元々住んでいます。人里に降りてきやすいフォレスト系、ワイバーン系、ワーム系は火を吐く事は稀ですし、どちらかというと威嚇目的が強いでしょう、火力もそれほど高くありません」
そう言って分厚い本を開き。複数のドラゴンのスケッチを見せる。
「あ、ちなみに当研究所ではドラゴンの飼育も研究してまして、先日可愛い幼竜が卵から孵ったんですよ」
そう言っておまけとばかりに、可愛らしい小さなドラゴンのスケッチも見せる。
「え、可愛いじゃないですか!?」
ドラゴンに次会ったら絶対殺すとでも言わんばかりの騎士団長も、その可愛らしさに思わず声を上げる。
「いやいやそうは言ってもドラゴンであろう? 大きくなれば人をも殺す恐ろしい魔物であろう!」
スケッチの可愛らしさを払いのけようと、国王は頭を振った。
「いえいえ近年研究が進んでおりまして、ドラゴンはかなり頭が良い生き物ですので幼竜の頃から世話をすると大人しく育てることが可能なんですよ。そもそも野生種が凶暴なのは、出会った人間が大抵集めた財宝や卵を狙って襲い掛かっているのが発端でしょう。少なくとも積極的に人間の住処を荒らしたり、人間を好んで捕食する事は無いはずです」
「むぅ、先に攻撃を仕掛けたのはこちら側というわけか」
「その証拠に、火山帯や山脈などの竜の住処と呼ばれるところに足を踏み入れても、全然襲われないんですよ、もっとも餌が豊富な時期に限られますが」
そう言って研究者は納得したように頷く。
「つまり人間と敵対しているのは、竜の住処を追われた弱い個体、しかも満足に餌が取れず弱って気が立っているから、衝突してしまう結果になっているという事です」
その言葉に、押し黙っていた騎士団長が口を開く。
「では竜とは共存出来ると?」
「生憎と生存環境が違いますので生息域が被った場合に共存共栄とはいきませんが、王侯貴族くらいの土地と資金があればドラゴンを飼いならす事は可能と言えます」
「との事ですが王様!?」
騎士団長の目に輝きが宿る。しかし国王は首を振った。
「駄目じゃうちでは飼えません」
「何でですか!?」
「そもそも餌代だって馬鹿にならんのだぞ、今も森の前に餌を届けておるが」
現在ドラゴンの被害を防ぐ為に、王国が森の手前まで毎日餌を運んでいた。
「ああそれでしたら、ドラゴンは空腹時には大量に食事を必要としますが、周期がありまして普段なら魚とか野菜類でも賄えますよ、むしろ栄養を考えると肉ばかりでなく時折鉱物なども加えると健康的です」
そう言ってドラゴンの健康的な餌という資料を取り出して見せる。
「戦った直後で気が立っていると肉を求めるんですが、いずれ落ち着いて休眠が多くなると植物や鉱石なども積極的に摂取しだします」
ドラゴンの外皮には金属の成分が含まれている、その為恐ろしく硬くて柔軟なのだ。
「先生! 餌の他には何を与えたらいいんですか?」
騎士団長が手を挙げて質問する。
「趣向は人間に近いですかね、煙草等の物が燃える匂いは仲間の匂いに近いのかリラックス効果があります、アルコール類は嗜好品ですので欲しがったら適宜与えてください、あげ過ぎは健康を害します。また金銀財宝を好むので渡してあげると喜んで寝床に溜め込みます、ここがドラゴン飼育にはお金がかかると言われる所以ですねぇ」
ドラゴンが巣に金銀財宝を溜め込むのは、噂ではなく本当らしい。一説には熱伝導率の高い貴金属で体温を下げている、溶けた財宝を鱗にまとって強度を上げているという話もある。
「あと組合では年に一度健康診断を行っておりますので、そこで育成方針のチェックと怪我や病気の検査も行います」
「先生、やはり大きな檻に入れた鎖に繋がないとダメなんでしょうか?」
それはちょっと可哀そうだと騎士団長が質問をする。
「そうですね、普通生体のドラゴンに単身で勝てる人間は居ないのですが、貴方が力で勝っていたのならドラゴンはもう敵ではなくボスとして見ている可能性があります、なので他所へ行かずに森に帰ってきたのでしょう。後は餌を直接与えてみて関係の構築を目指しましょう。飼育場所は任意の場所に財宝などを集めておけばそこに居着くと思います、居着いた後は時折気ままに飛翔させるくらいでボスのそばでは大人しくなるでしょう」
「どうですか王様!?」
「いやしかし、一国がドラゴンを手懐けて飼育している等と他国に知られたら、大問題に……いやならんか、そもそも魔王が侵略してくる方がよっぽど大ごとじゃった」
むしろドラゴンを手懐ければ戦力になるかもと王は考えて。
「いやうちでは飼わんからな!?」
竜に跨る騎兵師団というのも悪くないという表情ではあった。
後日。
「国王様! 中庭にてドラゴンの誘導を完了いたしました。今はやや警戒している様子ですが、飛び立つ気配はありません」
「ううむ、これは国民を守る為の最善の策、致し方ない事なのじゃ……」
少なくとも専門家のお蔭で、餌代で国費が圧迫するという心配はなさそうであった。巣に使う金銀財宝は、とりあえず兵士の予備の剣や鎧でひとまず間に合わせた。
「それで、名前はどうします? 国民に公募を掛けましょうか?」
「いやちょっとまだ国民には黙って居たくて……」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




