クエスト38【勇者謁見4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、勇者から謁見の申し込みが来ております!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお騎士団長か、なんとまた勇者か……最近多いな」
「暖かくなってきましたからね」
「そんな旬の野菜みたいな感じなんかな勇者って」
「しかも謁見を申し込んできた勇者がですね……例のスキルの無い勇者でして」
「何と、あ奴まだ街に居ったのか」
「どうしましょうか? また集りに来たんじゃないですかね?」
「もしかしたらいよいよ出立の覚悟が出来て、最後のあいさつに来たのかもしれんぞ、よし通すが良い」
「は、しばしお待ちを」
こうして王の前に、1人の若者が連れて来られた。若者は旅立ちの服がだいぶ草臥れた感じで、ちょっと薄汚れていた。
「うむ、よく来たの面を上げい」
王に促されて若者は顔を上げた。
「王よ再びお目にかかれて光栄でございます」
「いやお主ずっと街に居ったであろう」
王がすかさず突っ込みを入れる。
「はい、その事で私も思う所がありまして、この度ついに旅立とうかと思うのです」
「うむ、頑張ってくるのだぞ」
「はい、それでですね、城の方で旅立ちの仲間を用意して貰えないかなぁと」
「うん?」
「お城の方で私の仲間を手配して欲しいと」
国王は騎士団長に小声で尋ねた。
「えっとどうなんじゃ? こういうのって、基本は自分で勧誘したり仲間に誘われたりするもんじゃないんじゃろうか?」
「え、って言うか冒険に仲間とか要りますかね? 一人旅の方が気楽でいいですよ、髪とか服とか洗わなくても臭いって言われないですし」
「一人旅だと! 怪我した時に困るじゃないですか! お腹痛くなった時とか、剣の攻撃が通用しない敵と出会った時とか!」
「いやまぁそういうのを経験して強くなっていくのが冒険じゃろう」
「強い仲間を連れて旅立つ方が安全で確実に強くなれるじゃないですか!」
「んもう、最近の若者はやっぱ我儘ですね、いっそ私が一緒に旅立って適当なダンジョンで放置して帰ってきましょうか?」
「いやまぁそこまでせんでもいいが……」
「いやちょっと冒険仲間は同年代がいいかなって、あと騎士って勇者と前衛って役割被ってるじゃないですか、それだと自分が活躍出来ないって言うか」
「あれ? 私を仲間に入れるのに不満がるような言い草ですね、ちょっと先日攻略されたばかりの最難関ダンジョンの調査依頼が来てるんですけど一緒に来ませんか? この城周辺の魔物なんか目じゃないくらいの難敵が沢山歓迎してくれますよ?」
「まぁ落ち着くんじゃ騎士団長よ」
ヒートアップする騎士団長を抑えて、王が言葉をつづける。
「むしろ仲間の斡旋じゃったら冒険者組合が本業ではないか? ちょくちょく勇者を紹介してくるぞ? お主も行けば冒険に出たい勇者の一人や二人見つかるじゃろうに」
「ああいう所で仲間を募集している連中は、1人で冒険に出る勇気のない奴ばかりだから頼りにならない」
「いや見事に人の事言えんがの」
「僕は仲間にするのは頼りがいのあるプロにしようと考えているんです。でもとりあえず前衛が被っているので騎士はいらないかな」
「はぁお前、同じ前衛って立ち位置で一括りにしてませんか? 鎧と盾と剣を含めて40キロオーバーのこの格好で戦闘こなせますか? ドラゴンの炎、巨人の振り下ろす棍棒を前に、怯まず後衛を守れますか? 舐めていると全身縄でふんじばって急流に投げ入れますよ?」
「まぁ落ち着くのじゃ騎士団長よ。まだ旅立っても居ない勇者に、色々と期待するのもあれじゃろ? だからその手に持った縄を置くのじゃ」
「はぁっはぁっはぁっ!」
「えっとですね、出来れば可愛い子がいいんですけどね。後衛で魔法使いとか僧侶とか、そんで上級職の高レベルだとなお嬉しいって言うか」
「ふーむ、条件が合えば一応紹介くらいはしてやろうと思うが、生憎この城使えに上級職は居らんぞ、ってか上級職ってなんぞ?」
「ええっとですね王様。冒険者組合が定めた、一定の職種の技能検定において認可を受けた者は上級職を名乗れるって制度です。要は実力を認められたプロの冒険者が名乗れる称号みたいなものですね」
「じゃなおさらこの城には居らんな」
「えーじゃこの際可愛い子でいいですから―、メイドさんとか紹介してください」
「メイド冒険に連れてってどうするんじゃ……」
その時、謁見の間の扉が開き一人の女性が姿を現した。
「おっと失礼しました。来客中でしたか……」
大きな扉を懸命に開け、入ってきたのは低身長種族の女性。この国の大臣であった。
「おお、大臣か。すまぬがちょっと先客がおってな、急ぎの用かの?」
「いえ、また改めて伺います」
そう言ってぺこりと頭を下げる。客人の前では普段の様子を微塵も見せず、大臣は優雅な仕草で踵を返した。その様子にたまらない感じで勇者が声を上げる。
「ちょっとなんですかあの美少女は!? あんな可愛い子がこのお城に居たんですか? あの子がいい! ぜひ紹介してください!」
「いやお主正気か? いくら見た目が可愛いからってアレは」
「あーでも確かにヘイワーズ大臣は魔導士組合の出自なので、魔法使いと言えなくもないですね!」
騎士団長が余計な事を言う。
「魔法使い! 後衛! あんな可愛い子を背中に隠しながら冒険がしたかったんだ!」
「いや、大臣はああ見えて元軍属じゃから、お主よりも戦闘経験値は高いぞ」
「軍属って事は元プロ!? か弱そうに見えて頼りになるなんて、まさに運命の出会いだ! 王様彼女を僕に紹介してください!」
「なんかその言い方嫌じゃな。まぁ聞くだけ聞いてみるか。大臣よ、悪いがちょっと話を聞いてくれんか?」
大きい扉に四苦八苦していた大臣が、呼ばれてこちらに戻ってくる。
「はい、何用でしょうか?」
「うむ、こちらの勇者が仲間になって欲しいというじゃがどうだろうか?」
「別に構いませんが?」
「やったぁ!」
「え、いいの?」
「午後の業務が少し残っているので、それを片付けてからなら。大体日当で10~20万G、ダンジョン等に潜る場合は手当で+10万G。業務は10時開始の18時上がりで、それ以外の時間の労働は一時間毎に+1万Gという所でしょうか。交通費、装備代、消耗品などの経費は雇い主である勇者持ちという事で」
「おい勇者よ悪い事は言わんからアレは止めた方が良いぞ、ワシは止めたからの!」
「……………!?」
勇者は提示された給金に目を丸くさせ狼狽える。
「もし以上の条件を飲んで頂けるのであれば、精一杯御支え致しますわ勇者様♡」
ダメ押しとばかりに、大臣は営業スマイルを浮かべ、誓約書を取り出した。
「お、お願いします!」
「では契約という事で」
勇者は勢いよくサインをした。こうして大臣は勇者のパーティの一員となった。
「む、むぅこうなった以上はもう何も言うまい。無事に帰ってくるのじゃぞ」
「お土産お待ちしてますねー!」
王と騎士の見送りを背に受けて、勇者と大臣は部屋を出て行った。
扉が閉まり、謁見の間に静寂が訪れる。
「この城も少し寂しくなるのう」
「王様、勇者が何日もつか賭けませんか?」
「いや二時間ももたんじゃろ」
後日。
「王様、ただいま戻りました」
「おお、大臣。いや思いの他長かったが、何じゃもう帰って来たのか!?」
「生憎と業務がありますので、そう長く城を空ける事は出来ません」
「所で勇者はどうなったのじゃ?」
「さぁ、とりあえず旅立って適当なダンジョンで放置して帰ってきましたが」
「もうちょっと優しくしてあげて!」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




