クエスト36【姫誘拐再び4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様! 大変でございます!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお、騎士団長か……慌てた様子じゃがどうかしたかの」
今回は珍しく慌てた様子で、騎士団長は王の前に立った。
「はい、姫がまた自ら脱出してきました!」
「ええ、マジか!?」
「はい、連合軍を手配し、こちらもジャーデン領の残った精鋭と特務救出部隊とで同時に侵攻し混乱に乗じて救出する作戦を決行する直前でした。敵の砦が激しい爆発に襲われて、我々が唖然としている所に悠然と姫が帰還を果たしたのです」
「連合軍でも突入に躊躇する最難関ダンジョンからたった一人で……」
「姫様が、謁見を申し出ておりますが」
「う、うむ会おう……別にびびっては居らんぞ! よく無事で帰ってこれたなと迎え入れるんじゃ!」
「は、しばしお待ちを」
こうして王の前に、やや薄汚れてはいるものの、辛うじて姫らしいフリルの付いた服装で、小柄の姫が通された。
「陛下、この度はお騒がせして申し訳ありませんでした」
「い、いや……魔王軍に囚われた事をそんなちょっと道に迷って程度に流すものでもあるまい」
「いえ、この度の件は遺跡の力に溺れた未熟な私自身が招いた事なのです」
「敵も遺跡の力を使えるようになったのじゃから、そこは仕方あるまい」
「いいえ、もう私はあのような悲劇が起こるのを見過ごすわけにはいきません!」
「クリス姫……思いつめたような顔をしていますが、いったい何があったのですか?」
尋ねる騎士団長に、姫は俯きながら答えた。
「遺跡の力は、互いに惹かれあうのです。そして遺跡の力はより深き力には抗う事が出来ません。あの時、私の遺跡の力の制御は完全に敵に奪われ、私は囚われの身となったのです」
「なるほどのう、敵はそうとう遺跡の力を研究したと見えるの」
「敵の幹部は私を捕虜とは扱いませんでした。人間などは遺跡の力の実験材料に過ぎず、そこでは多くの人が研究材料とされ、儚く散っていきました」
「何とむごい……」
「私も同様、他の人間と同じように遺跡の力の実験体となり、この体を改造されたのです、服の下のこの肉体はもはや全身各所が切り刻まれ、無傷の個所などありません」
「もうよい、ゆっくりと休むのじゃ」
話を止めようとした王だったが、姫はまだ話をつづけた。
「しかし、多少なりとも遺跡の力の知識が私にはありました。敵がどのような事をしているのか、どのような目的の研究なのか。そして日々作り替えられていく自身の体の状態から、いよいよ次は頭を切り開かれ、脳を改造され、悪の手先へと洗脳される直前に、この強化された肉体を使って実験室から逃げ出したのです」
「んん、またどこかで聞いたような話が?」
「敵は私を失敗作だと断じました。確かに遺跡の力を直接埋め込まれ、手に入れた力は肉体強化程度ですので仕方ありません。しかし敵が遺跡の力を使うのと同様に、私も遺跡の力を敵の研究を盗み見てより詳しく知ることが出来たのです、とうぅ!」
そう言うや姫は勢い良く飛び上がった。
次の瞬間には、姫の格好は丈夫そうなジャケットスーツに変わっており、首には桃色のマフラーが。
そして手には騎士団長のとはまた趣の違うフルフェイスの兜が抱えられていた。
さらに傍らには車輪が前後に二つあってまたがる感じに乗り込む謎の乗り物が。
「敵によって、遺跡の力を無理やり体に埋め込まれた私はもう人間ではない、もう私は姫ではありません、[罷免ライダー]そう呼んでください」
そう言って姫、改め罷免ライダーは二輪車に跨った。
「クリス姫、どちらに向かわれるのですか!?」
騎士団長の言葉に、姫はフルフェイスメットを被りながら言った。
「今度は各地の遺跡を破壊してきます、自分自身と戦う為に」
そして颯爽と、二輪車に跨り出て行った。
あとに残された王と騎士団長は、唖然とした表情でしばし呆然と佇んでいた。
「王様、あの乗り物私も欲しいです!」
「……ドラゴンで我慢しなさい」
後日。
「でも国王様! 結果として魔王の幹部を一人倒した事になるんですから、これは喜ばしい事ですよ!」
「確かにのう……しかしいい加減姫をジャーデン領に連れ戻さんとな」
「しかし今のクリス姫はかなりの戦闘力を持っていますよ、そのまま単身で暴れていた方が敵の拠点を襲いやすいのでは」
「流石にそろそろジャーデン侯も寂しがっておるしな、放っておくとその勢いのまま敵の本拠地まで行きかねん」
「侯爵には申し訳ないですが、それが一番敵にとって厄介な攻め方ではあります」
「いかん! この流れだと次は、敵の幹部として相対するパターンの奴じゃ!」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




