クエスト32【墓場の幽霊騒動4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、どうなされましたか!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお、騎士団長か……それで、例の墓場の幽霊の件は解決しそうなのかのう?」
先日から報告に上がっていた、共同墓地に出る幽霊に関して、まだ何の進展もない状態であった。
「その件でしたら、実はシスターが城を訪ねてきまして、既に控えているのです」
「何と、あんな事があったというのに大丈夫なのか?」
「国王様、彼女を侮ってはいけませんよ。ああ見えてもセーフ教会の支部長代理、聖職者としての腕は確かなモノなのですから!」
「お主はお主で意外に彼女の評価は高いんじゃな、まぁよいせっかく来てくれたのに無下にする道理もあるまい、連れてまいれ」
「は、しばしお待ちを」
こうして騎士団長は、修道服姿の少女を部屋に連れてきた。
「国王様本日ハオ招キイタダイテアリガトウゴザイマス」
「ほんとに大丈夫かコレ、言葉から人間性が失われとるが!?」
虚ろな目をした修道女は、十字架を手に祈りをささげる。
「偉大ナルセーフ神ノオ導キニヨリ、私ハ聖ナル獣ヲ授カリマシタ、コノ様ナ運命ヲ授ケテ頂イタ事ニ感謝ヲ」
そこまで機械的な発音で喋っていたが、唐突に小刻みに震え始めた。
「カ、感謝……神ニ、感謝ヲ……サ、サササ捧ゲ、神にぃ感謝をぉ、こんな運命を授けた神にぃ感謝なんざ捧げる訳ねぇだろクチョがぁ!」
「あ、戻ってきました」
「何か人格に深刻な問題を負ってないコレ?」
「でもこれさいぼーぐ聖少女って言われてて子供に人気らしいですよ」
「ならええか」
「良い訳がぁ無いんですぅ!」
地団太を踏みながら、修道女はいつもの調子を取り戻した。
「ハァ……いつも連れて来られるのでぇ、もう今日は自ら出頭してきましたぁ」
「いやまぁ、嫌なら拒否しても構わんのじゃが」
「で、でもぉ神父様がぁ王国とは根深い関係にあるのでぇ、要請にはなるべく応えるようにとぉ、特にブージ王三世は教会に懐疑的でぇ、無礼があれば即座に裁判に掛けられて火刑に処されるってぇ……」
「うち火刑はやってませんよ?」
「っぱあのクソ神父噓つきやがってぇ! ごーとぅへるですよぅ!」
「うちでは主に絞首、車輪、溺死からの選択式となっています」
「国王様ぁ私はぁ国家の犬でございますぅ! クソ神父の罪状をここで告発させてくださいぃ! 教会なんざ幾らでも売り払いますのでぇ私の命だけはぁ何とかぁ!」
「まぁその辺の話は後に大臣にでもしてくれい、それで今日は用があって来たという話じゃが?」
「あ、はいぃ実はぁ何故か先日ぅ墓場に追い立てられたんですけどぉ、これって訴えたら私ヴィクトリー案件じゃないですかぁ? と思ったんですけどぉ騎士団長様相手にぃ木端シスター如きの要請なんてプチって握り潰される案件ですよねぇ?」
「そんな事はありませんよ! 私と貴女の仲じゃないですか、いったい誰がそんな酷い事をしたんですか、教えてください私が力になりますよ!」
「言ってる当人がぁ容疑者じゃなかったらぁ頼もしいんですけどぉ、って話がそれましたけどぉ墓場を色々と調べた所ぉ、幽霊の仕業と思しき痕跡がぁいくつか見つかったんですよぅ」
「そりゃ幽霊騒動が起きとるからのう」
「やっぱり墓場に幽霊は居るんですね!」
「いえぇ、逆に本当の幽霊なら痕跡が残るのはおかしいんですよぅ、墓場にはぁ燃えたカスだったりぃ誰かの足跡が結構あったんですよねぇ」
「それはゾンビ的な肉体のある魔物という事ではないんですか?」
「さらに決定的なのはぁ、墓を掘り返された跡がある事ですねぇ」
「ほう」
「墓から死体が起き上がったという事ではないんですか?」
「むしろそんなぁバリバリ魔物的な案件だったらぁ冒険者組合にぃ話が行くと思うんですよぅ、これは教会関係者的にぃ墓荒らしの仕業と見ていますぅ」
「墓荒らしですか、墓なんか荒らして何かいい事でもあるんですか?」
「そうですねぇ、基本的に埋葬はぁ身に着けた物をぉ、そのまま土葬する事になっていますぅ、特に共同墓地は行き倒れた者なんかもぉよく埋葬されていますのでぇ、死体から服を剥ぎ取ってぇ奇麗にして古着として売ったりするらしいですぅ」
「むぅ死者を冒涜する行為じゃな、しっかり違法行為じゃし」
「あとぉ、死者の持ち物はぁ冥府の川の渡し賃と呼ばれてぇ貴金属は一緒に埋葬される事が多いんですねぇ、場合によっては硬貨などをわざわざ棺に入れる風習もありますぅ」
「なるほど、死体を掘り起こすと貴金属や硬貨が手に入るわけですか!」
「勿論死者への冒涜ですしぃ、墓所を管理する教会としてもぉ掘り起こされるとすっごく困るんですけどぉ」
「勿論王国法規にも禁止事項として明記しておるしな」
「でも墓を荒らすなら貴族とか王族の墓の方が良くないですか? 何で共同墓地なんでしょう?」
「王族の墓はぁ、教会地下にぃ隠し納骨堂があってぇ厳重に警備されてますぅ。貴族はぁ領地内に墓所があってぇ私兵で守っていますねぇ、流石に共同墓地まで墓守を置く余裕はぁ教会には無いんですぅ!」
「なるほどのう……そこで幽霊を演出して人を寄せ付けなくしたわけじゃな」
「はいぃ、現に数日程私達がぁ墓場に出入りしてぇ幽霊的な騒動は見つからなかったのにぃ、町では幽霊の噂が広がっているんですよぅ、これはぁ誰かが意図的に噂を流している証拠ですぅ!」
「まぁ噂の幽霊も、今では奇声を上げながら夜な夜な墓場に聖水を振りまくシスターの怪異に上書きされつつありますが」
「誰かがぁ意図的にぃ噂を流している証拠ですぅ!」
「お、おう……それで、幽霊が実は墓荒らしじゃったらどうなんじゃ?」
「はいぃその場合は、相手がただの人間という事なのでぇ、まったく怖がる必要も無いですしぃ、共同墓地は教会の管轄なのでぇ犯人の捕縛と処遇はぁ審問官である私と私直轄のぉ[月下の白十字]にお任せくださいぃ!」
彼女が指を鳴らすと、いつの間にか背後に音もなく、白装束に身を包んだ不気味な人影が数名並ぶ。白装束は、修道女に十字架を模した細剣を手渡した。
「さあぁ教会の管理下にある墓を荒らすやつぁ異端者だぁ! 魔女狩りの時間ですよぅ!」
そう言って彼女は白装束を引き連れて、部屋を出て行った。
「えっと、墓荒らしの量刑は何じゃったかな?」
「うちは罰金と原状復帰までの無料奉仕、王侯貴族の墓なら絞首ですけど積極的に取り締まる事は無いですからね。教会は確か火刑だったかと」
「奴らはすぐに焼こうとするのう」
後日。
「国王様! 墓荒らしの犯人が捕まったそうです!」
「ようやく幽霊騒動もひと段落じゃな、それで犯人達は火炙りかのう?」
「いや、それが犯人も教会関係者らしく……」
「あぁ……」
「どうします? いっそ教会ごと焼きますか?」
「まぁほっといても何れは炎上しそうな……」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




