クエスト29【墓場の幽霊騒動】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、どうなされましたか!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお、騎士団長か……実はな」
御前にて直立不動に立つ騎士団長に、王は己の抱えた苦悩を漏らす。
「王都の端にある共同墓地にな、なんと幽霊が出ると皆が騒いでおる」
「幽霊、ですか?」
「うむ、昼間兵士に見回りに行かせても何の異常も無いそうじゃ、しかし夜になると異変が起きるというのじゃが、流石に夜は怖がって誰も行きたがらん」
「まぁ幽霊には兵士の剣も通用しなさそうですからね」
「噂では、魔王は死霊すらも配下に加えていると聞くからのう、もし魔王の手下であればば厄介じゃ」
「悪霊となれば僧侶ですね、さっそく教会にお祓いを依頼してみましょう!」
「そうじゃな、そういう事は専門家に頼むのが一番じゃ、さっそく依頼してくるのじゃ!」
「は、しばしお待ちを」
こうして騎士団長は部屋を出て行った。
しばらくして、1人の教会関係者らしい少女を連れて謁見の間へと戻ってきた。
「ふむ、何じゃそのまま墓場の除霊に向かってもよかったというに」
「国王様、それがですね……いえ、まずはこちらセーフ教会の支部長代理[レリフ]嬢でございます」
紹介された聖外套に身を包んだ少女は、恐縮した面持ちで首を垂れる。
「ど、どどどどうも、ご、ごっごごご紹介に預かりましたレリフでございます!」
「うむ、首を上げよ」
「は、はい!?」
緊張した面持ちで、跳ね上がるように顔を上げると直立不動で棒立ちになった。
「本日はお城にお招き頂き誠に恐縮でしゅ……」
「それで、教会の者を連れてきて何用なのじゃ?」
「聞いてくださいよ王様! 教会は今回の墓場の幽霊騒動に関与しないって言うんですよ!」
「どういう事じゃ? 幽霊とくれば僧侶の出番ではないのか?」
尋ねられて、少女は言いにくそうに説明をしだす。
「ええっとですね、教会は神に祈りを捧げる所でありましてぇ、確かに葬儀や死後の世界を説いたりしていますが……その、除霊とかは応対していなくてぇ」
「ほう、しかし幽霊を神の力で追い払うと僧侶が良く言っておるがのう」
「あれは所謂デモンストレーションと言うかぁ、依頼者のお気持ちを慰めるてきなぁ」
「では、実際に神の力で追い払っているわけじゃないんですか!?」
「ええっとぉ、その事はさておいて。そもそもですねぇ……毎日どれだけの人が死んでいると思って居るんですかぁ? 幽霊なんてぇ言ってみればそこら中に居るんですよ、さらに墓場なんて言ったら幽霊の拠点なわけですよぅ、そこに幽霊が出たからと言って驚かれても困りますぅ」
「まぁ一理あるのう」
「でも教会は魂は成仏して天の国へ行くと」
「確かにうちの教会の信者はぁもれなく天国行ですがぁ、つまり幽霊となって現世に迷い出ている人達はぁうちの信者じゃないって事ですぅ、信者じゃない人達にわざわざ何かする義理はうちには無いって言うかぁ」
「結構世知辛いのう」
「もしかしたら信者の幽霊だっているかもしれないじゃないですか!」
「だぁかぁらぁ! 信者はもれなく成仏するっていう設定って言うかぁ! もう幽霊とか魔物の類じゃないですか! 教会じゃなくて冒険者組合に頼んで欲しい……」
「もう貴女でいいので、夜の墓場に一緒に行きましょう! そこで神の力でパーッと除霊して貰えばそれで!」
「ええー!? 嫌ぁですよぅ! 何で夜の墓場なんて汚くて怖い所にぃ、あ、私まだまだ修行中でぇ、浄化とかそういった力を授かってないんですよぅ」
「気合で行けますって! 修行中なら丁度良いじゃないですか、実践に勝る経験もありません。直接幽霊と戦えば、神の力とやらも覚醒するはず!」
「うーわぁやっべぇこいつ脳筋だぁ、こ、国王様ぁー、教会の正式な依頼なしにぃこういった宗教的行為を行う事はぁ規約違反でぇ、後々に抗議をぉ!」
「あー、まぁ騎士団長の気が済むようにしたらいい」
「こ、これはぁ重大な協定違反と言うかぁ! 私ちょっとこの後用事があってぇ! うわ離せこの脳筋騎士ぃ!?」
「何を言っているのですか、国民が墓場の幽霊に怯えているのですよ! 呪い殺される危機に瀕しているのですよ! 今こそ我らが教会の名の下に正義の御光で霊を浄化する機会ですよ!」
「嫌ぁー助けてセーフ神さまぁ! 夜の墓場とか行きたくないぃ! 幽霊とか居ないんですからぁ、酔っ払いとかが風でなびくボロ布とかぁ、柳の枝を見間違えただけですぅ! でも怖いいぃぃぃ!?」
そのままレリフ嬢を引きづって、騎士団長は部屋を出て行った。
「……今度教会から壺とか勧められても買わんでおこう」
後日。
「国王様! 戻りました!」
「おう、どうであったか?」
「それが、夜の墓場に着いた瞬間に逸れてしまって、気づいて戻った時にはレリフ嬢は気を失ってしまっていて、しょうがなく連れ帰る羽目に」
「やはりのう、否定する割には怖がっておったからな」
「彼女が起き次第リベンジします!」
「絶対トラウマになってるじゃろ……」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




