クエスト02【ドラゴン討伐2】
ここは魔王の侵略に怯える、オイヘンブージ王国。
その王城に、頭を抱え苦悩している国王、ブージ三世が居た。
「国王様、どうなされましたか!」
玉座の間に、勇ましい足取りで全身甲冑の騎士が姿を現す。
「騎士団長よ、あの噂は聞き及んでいるか?」
王の言葉に、騎士団長は首肯する。
「折角痛手を与えて追い払ったあのドラゴン、舞い戻ってきたようですね」
先日三人の勇者の力を得て見事撃退したエメラルドドラゴン、しかし臆することなく王国隣の森に舞い戻ってきたと報告があったのだ。
「情けを掛けて追撃しなかった事が仇となりました」
騎士団長が悔しそうに手を握る。
「いや、その事は責めはすまい、それでまた例の勇者三人を呼んで来てはくれまいか」
再びドラゴン退治の編成を組もうとした矢先、騎士団長が待ったをかける。
「申し訳ありません王よ、彼らは既にこの国を旅立っています、なんでも自国に流行病が生じたとかでそれを治療しに戻るとか」
「むぅ、それならば呼び戻すわけにもいかんの」
これで同じ方法で竜を倒す事は叶わなくなった。
「ご安心ください王よ! 今回はそのことではせ参じたのです!」
その言葉に、王の顔に光が宿る。
「おお、その言葉誠であろうな騎士団長よ!」
「お任せください、国王様! 実は教会より選抜された勇者はまだ居るのでございます!」
「おお!」
「しかも今日連れてきた勇者は先日の者達よりもさらに凄いスキルを持っているのです!」
「おおお!!」
「それでは、しばしお待ちを」
そして王の前に、ゆったりとした服装の若者が一人連れてこられた。若者は穏やかな表情を浮かべ、静かに佇んでいる。
「では、その脅威のスキルを王に語って聞かせよ!」
「はい、私のスキルは何でも願いを叶えるという力でございます」
「なんと、え、何でも?」
あまりの凄さに、王も驚きを隠せない。
「はい、1人につき1つ願いを叶える事が可能となっております」
「どうですか王よ! あまりの力の凄さにもはや言葉も出ませんか!!」
「何でお前が威張り散らかすのかは理解できんが……しかしううむ、にわかには信じがたいな」
「王よ! 勇者のスキルを信じないというのですか!?」
「ううむ、そうだ! 勇者よ試しに騎士団長の願いを叶えてみてはどうか?」
王の提案に、勇者はゆっくりと首を振った。
「申し訳ありません、それは出来ません」
「王よ、実はもう願いを叶えてしまっているのです」
「はやっ!? 何故先に願いを……いや、確認の為に叶えたのなら致し方あるまい、ちなみにどのような願いを?」
「はい、先のドラゴンとの戦いで治癒の勇者にも治せないといわれた手傷を、もう剣は握れないと思っていた右腕がこの者の力により元通りに!」
「思ってたより深刻な願いだった! おぬしそんな怪我を……」
「ともあれ王よ! かの者の力は本物です、さぁ願いを!」
「そ、そうだな……さて、しかし何でもと言われると困るのう」
「何を悩む事があるというのですか、それこそドラゴン退治をお願いすればよいではありませんか!」
「なるほど直接脅威を排除しようというわけか、いや待て、それならばいっその事、魔王を倒すという願いでもよいのではないか!?」
「なるほど諸悪の根源を断つというわけですね!」
どんな願い事を叶えようかと盛り上がる二人を後目に、勇者はゆっくりと手を挙げた。
「申し訳ありませんが、願いの力を上回る相手をどうにかするという願いは叶えられません」
その言葉に王と騎士は顔を見合わせた。
「むぅ聞いていた話とちょっと違うぞ騎士団長よ」
「そのようですね王よ、腕が完治したので本当に何でも叶うと思いましたが……」
騎士団長が勇者へと向き直る。
「願いを叶える条件というものは何かあるのか?」
「はい、まず叶えられるのは1人につき1つです、叶えられる願いはその人の願いの力、どれほど叶って欲しいかという思いによって変動します」
「なるほど、だから私の腕は、あっさりと治ったのですね」
「他にも願いが叶う資質もあります、後遺症なく完治したのであれば貴方の腕は私の力がなくともいずれは完治したのでしょう」
「なるほど、当人の手の届く願いである必要があるわけですね」
「他にも、願いを増やす等の願いの力の籠らない願いや、他人の願いなども叶える事は出来ません」
「なるほどのう、ちなみに世界平和といった皆が助かる願いは?」
「広範囲に影響を与える願いも、願いの力が拡散してしまう為に難しいでしょう、あくまで資質の問題ですが」
勇者の言葉に、目を輝かせて騎士団長が王へと告げる。
「今こそ我らが王が救世の力を示すチャンでございますよ!」
「確信して言えるがわしにそこまでの力はない!」
王は勢いよく首を振った。
「しかし困ったのう、こうなるといよいよドラゴンを退治する願いも叶うかどうか怪しくなってきた」
「まさか王ともあろう者が……民の平和が本意ではないと!?」
「いや資質の方! 民の平穏は悲願であるわ!」
王の言葉に騎士団長も深く頷く。
「確かにそうですね、願いの資質が王の権力や財力を考慮せず、王自身の力で判断するのであれば、願いでドラゴン退治は厳しいでしょうね、仕方ありません、今回は何か王様の個人的な願いでも叶えて貰えば良いのでは?」
「そうは言ってもワシ王だからのう……どちらかというと願いを叶える側じゃし」
適当な騎士団長の提案に、しかし王は深く思い悩む。
「そうじゃ!」
何かを思いついた様子で、王は勇者へと向き直った。
「勇者よ、そなたのスキル実に見事であった。そしてワシへの願いだが、お主の願いを何か叶えさせてはくれぬか?」
「え……?」
その言葉に勇者は驚き戸惑う。
「何が最善かを考えるのであれば、そなたが一人でも多くの者の願いを叶える事が、この国の為になるというもの、その旅路の手向けとして何か希望をかなえさせてはくれないだろうか」
王の言葉に、騎士団長は体を震わせた。
「そんな……馬鹿な……我が王が、そんな出来た言葉を述べるだなんて……」
「薄々思っておったが、さては騎士団長、王への敬意が足りないのではあるまいか?」
「まさかそんな、自らが忠誠を誓う王を侮辱など恐れ多い、正当な評価をしたまででございます」
「勇者よ気が変わった、この騎士団長に王への絶対的な忠誠心を与えてやってくれ!」
「おおっとそうは行きませんよ我が王よ! 王の願いの資質とやらが、果たして私の意識を上回ることが出来ると思いですかな!」
掴み掛らんと睨み合う二人をよそに、驚きから立ち直った勇者はおずおずといった様子で手を挙げた。
「あの、先ほどの願いは……」
「おお、何か希望があるのならば気兼ねなく申すがよい、騎士団長の腕の治療と思えば安いものじゃ」
「ほ、本当によろしいので……?」
まさしく恐れ多いといった様子で勇者は身を潜める。
「我が王、ここは威勢よく行く場面でございます」
「おほん……よくぞ参られた勇者よ、褒美に何でも願いを叶えてやろうぞ、さぁ望みを言うが良い」
まさに立場逆転といった感じであった。堂々と立ち上がってポーズを決めた王は、妙に感極まった様子で言葉を漏らす。
「……一度は言ってみたかったんじゃ」
その言葉に、勇者は妙に憑き物の落ちた様子で答えた。
「では、お言葉に甘えて……」
後日。
「なんと、もう勇者は旅だったか……」
「はいそのようで」
王に願いを述べた勇者は、直ちにより多くの願いを叶えるために国を出て行った。
「願わくば、あの勇者の願いでドラゴンを倒せる者が生まれればの……」
「そういえばドラゴン、忘れてましたねぇ……」
騎士団長も険しそうな声を漏らす。
「しかし勇者は何故あのような願いをしたのでしょうか?」
わからないといった様子で騎士団長は首を傾げた。
「[今後も王と王国が、健在であられますように]って、皆が願うお願いは叶わないという話でしたが」
「やはり何事も他力本願ではいかんという事かの」
王の苦悩はまだ晴れない。




