クエスト16【嵐の襲来4】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、ご無事でしょうか!」
そこに全身甲冑姿の騎士が姿を現す。
「うむ、騎士団長よ、いよいよ終わりかもしれんのう」
今王都は、未曽有の大嵐に襲われていた。
「そんな、王様! お気を確かに!」
「ワシは大丈夫だが、城がもたんのう……」
「さっきより嵐の勢いは弱まっています、住民の避難も完了したとの事です」
「おお、何とか国民の安全は守られたの」
その報告に、王は安堵の吐息を漏らす。
「しかし城の方は見事に損傷していますね、普通城が一番頑強な建物の筈なのに」
「うーむ、当時の城の流行が目立つシンボルじゃったからのう。砦と違ってそこまで強頑強さは無いかもしれん」
城と一概に言っても、用途や目的によってさまざまな種類がある。戦う為の城塞都市や前線砦などは実用性重視の頑強な要塞としての城が主流だ。
しかしこのオイヘンブージ王城は、比較的平和な頃に建造された城で、装飾こそ少ないが当時は純白の外壁に、日の光を浴びて[白亜の斜塔]とも呼ばれ、名を馳せていたという。
「当時教会が無かった頃は、近隣ではこの城で結婚式を挙げるのが人生の夢だという女性が多数……」
「王様思い出に浸っている場合ではありませんよ、城はまた建て直せばいいじゃないですか!」
「そうは言うがの、この嵐の街の復興支援に住民の災害支援、その他色々とお金が掛かるであろう、その上城の修繕費ともなると」
「そういう事を考えるのは大臣の役目です、我々は別の事を考えましょう!」
「ほう、別の考えというと?」
「こういう時こそ、気が晴れるようなスキルを持った勇者をですね」
「またそれか……いくら神に選ばれし権能とはいえ、相手が神の怒りたる嵐では並み大抵のスキルでは太刀打ちできんぞい」
「王様、スキルに優劣はありません、どのようなスキルも状況と使い方が大事なのです」
「なんか最終回っぽいこと言うのう」
「という事で、今この状況で輝くスキルを持つ勇者、連れてきますね!」
「まぁ今更止めろとも言うまい、好きにせよ」
「は、しばしお待ちを」
こうして王の前に、1人の女性が連れて来られた。女性は魔術師風のローブに身を包み、静かに佇んでいる。
「では、その脅威のスキルを王に語って聞かせよ!」
「フフフ……」
女性は不敵な笑みを浮かべて、静かに佇んでいた。
「えっと、あのレディ? 貴女のスキルを教えていただけませんか?」
「……フフフフフフ」
女性は怪しい笑みを浮かべ、ただ佇んでいた。
「……えっと、どうですか王様! 凄いスキルでしょう!?」
「いや、何も聞けてないんじゃが、これお主。笑って居ないで騎士団長の質問に答えよ」
流石に王の言葉に、女性は笑うのを止めて答えた。
「だって、これはもう笑うしかないじゃありませんか?」
「と言うと?」
女性の問いかけに騎士団長が問い返す。
「たとえどのようなスキルを持っていようとも、今この状況をどうにかしろと言う無理難題を投げかけられるのでしたら、もう笑って誤魔化すしかありませんわ」
だいぶぶっちゃけてきた。
「確かにそうですね、ちょっと無茶な要求過ぎましたか」
期待を寄せていた騎士団長も流石に謝る。
「まったくですわ、一体どうすればよろしいというの? 嵐を抑え込む? 町を一瞬で元通りに直して見せる? それとも湧き出すように金貨を出せと? 無理ですわ、私の凍結スキルではとてもとても」
「何と! 貴女のスキルは凍結なのですか?」
「ええ、そうですわ。とは言っても、普段は氷像を作ったり水を凍らせて氷を作ったりする程度ですわ」
そう言って彼女が両手をかざすと、床が霜付くように白くなる。
「どうでしょうか、貴女の力で嵐を凍らせるというのは!」
「無茶ですわ、あくまで私が凍らせるのは手で触れた物が限定ですの、こんな嵐の中で力を全力で使ったとしても、嵐が猛吹雪に代わるだけですわ」
「との事ですよ王様!」
「いや、何が!? 嵐を猛吹雪に代えても特に被害が収まるわけではあるまい、むしろ悪化する危険性すらありうる」
「その通りですわ、まぁ逆に周囲を凍てつかせれば触れた雨の凍り付きますので、被害は収まるかもしれませんが」
「それです!」
唐突に騎士団長が声を上げる。
「王様! 城を丸ごと凍らせるのですよ! そうすれば氷でしっかりと固定されますし、雨風も凍てつきますのでこれ以上崩れる心配はありません! そして外側が凍っていれば、雨漏りもしなくなるはず!」
「ふむ、何を馬鹿な事をと思ったが、意外にも有効な手はずかもしれんのう、どうじゃ城を丸ごと凍らせることは可能か?」
「ええ、本気で言っているんですか? まあ手で触れれるので凍らせる事は不可能ではありませんが」
「とりあえずやってみましょう王様、これ以上悪くなる事はありませんよ!」
「では頼めるか?」
「……わかりました、どうなっても知りませんよ!」
そう言って、彼女は勢いよく床に手を着いた。その瞬間床全体に霜が降り、壁際から氷柱が生まれ、瞬く間に城全体が氷に包まれていく。
そして厚い氷に覆われた事で、雨漏りは止み、嵐ではびくともしない程の静けさに包まれたのであった。
「おお、凄い、王様! 本当に城が氷に包まれましたよ! これなら嵐もやり過ごせそうですよ!」
はしゃぐ騎士団長を後目に、やっちゃったかなーと苦い表情の王様。
「つい勢いで許可してしまったが、もしやこの氷溶けないって事は……?」
「一応時間経過で自然と溶けていきますわ、ただしご注意を。壁の中の水分も巻き込んで凍てつかせましたので、恐らく氷が解けると共に外壁は崩壊すると思いますわ」
「……長い間、お勤めご苦労様でした」
騎士団長は城に向かって、深くお辞儀をした。
「いや、ワシはまだ城を諦めんぞ!」
後日。
「王様! 嵐が去ったようですよ! 空が晴れ渡っていますよ!」
「それはそうと、城から出られんとはのう、入り口が凍り付いて、開かん!」
「氷が解けるまで待つしかないですねー」
「その時は城が崩れる時なんじゃ!」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




