クエスト15【嵐の襲来3】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、また風が強くなってきました!」
そこに全身甲冑の騎士が、慌てた様子で姿を現す。
「うむ、城の補修が間に合って良かったのう」
現在王国は、未曽有の大嵐に飲まれており、各所の補強は終わったものの予断を許せぬ状況であった。
「民家の住民も、教会の大聖堂や、各地の施設に避難しております、しかしこのまま嵐が去らない場合は、どうなるかまでは……」
「耐えるしかないのかのう……」
100年以上の歴史を誇るオイヘンブージ王国ではあるが、ここまでの災害は想定されていなかった。
これ以上被害が広まるようであれば、危険を承知で国民を国外へ避難させる必要が出るかもしれない。城の外は魔物がうろつく危険地帯である。
嵐がどこまで広がっているかも不明な以上、最後の手段であった。
「王様、気を落としてはいけません! 国民も、兵士も誰もまだ生き残る事を諦めてはおりません!」
「そうであったな、ワシが先に諦めては国民に示しがつかんのう、よし騎士団長よ、今出来る事を考えるのじゃ! 侯爵領や周辺国家への伝令の準備をしておけ、嵐が弱まり次第救援の要請をするのじゃ!」
「しかしそれでは王国の弱体化を周囲に晒す結果に」
「そうは言うてこの有様じゃしな」
一階はほぼ浸水し、上層は雨漏りが激しく外壁にヒビも入っていた。
「まだ崩れ落ちんだけ奇跡じゃの」
「悲観してはいけません、今こそ冒険者組合紹介の勇者に希望を託しましょう!」
「また呼ぶのか、流石に嵐をどうにか出来る能力はおらんと思うが」
嵐は天然自然の大災害である。
かつては神の怒りと思われ、その圧倒的エネルギーは世界中の爆弾をかき集めたとしても拮抗出来ない威力である。
それこそ操る事が出来るのであれば、神の力に通じるといっても過言ではあるまい。
「そこまでの期待はしないがの、せめて水をワインに、石をパンにでもしてくれるなら。では呼んでまいれ」
「は、しばしお待ちを」
こうして王の前に、1人の若者が連れて来られた。
「ではその脅威のスキルを王に語って聞かせよ!」
「はい、私のスキルは風を操る力でございます」
「ほう、風を……もしや、これはあるかもしれんぞ騎士団長よ!」
「そうですね、詳しく聞く必要はありますが、ワンチャンこの未曽有の災害を唯一どうにか出来る勇者を我々は引き当てたかもしれません!」
興奮する王と騎士団長。そこに勇者が能力説明を始める。
「私の風を操るという能力ですが、正確にはこの世界に風という物は存在しません」
「と言うと?」
「この世界には、火、風、水、土、そして星という元素が存在しているとされますが、しかしこれは物質を指すものではありません。炎は目に見えますがそれ自体を持ち運ぶことはできません。風は感じられますが触れる事は叶わず、水は器に乗せて運べはしますが、手でつかむことは叶いません。土は唯一見て触れるものですが石や砂など様々な形態に姿を変え、真実を見失わせます。この様に、世を構成する物とは触れられない、目で捕らえきれない不可解なモノ、すなわちエネルギーに他なりません」
「うむ、うぬ?」
王にも流石に、若者の言葉は理解しかねるのか頭を傾げる。
「最近の魔術理論において、五代元素は星を除いて、それぞれが影響を与え合って作用しているという事までは分かっております。火は熱を持ち風を生じ、水をまといて力を転じ土を境に動きを止める、そして土は力を貯めて火を生み出す。この大いなる災害も、周囲から貯めた地が巨大な火を生み、それが水と交わって大きな風となって襲ってきているのです、注目すべきはいま襲い掛かっている風ではなく、生み出した火と、交わる水、そしてそれを受け止める地なのです!」
「よー分からん」
「……ぐー」
頭を真横に曲げる勢いで王は考えるが、それでも勇者の理論の理解には至らない。
あと全身甲冑に包まれているので様子はわからないが、兜の奥から寝息が聞こえている。
「すなわち、私が操る風の力とは、火から熱を分解し、水を混ぜる事で水蒸気と化してその方向性を操る力と言えます、そしてその力は地、すなわち壁に当たるまで止まりません」
「んんん、つまりどうなってどうするっていうんじゃ?」
「この嵐を止める為に私の力を使う場合、同量の熱を必要とします。その為には三日三晩を程、周囲からエネルギーを集め、それを圧縮し同量の熱と化した後に、そこから風を生みぶつけるという事になります、周囲から熱量を集める関係上、陸上の植物は枯れ果て、台地は凍てつき、向こう十年は植物は育たず、また発熱の余波で家屋は吹き飛び、熱量にほとんどの物が焼け落ちる可能性がちょっとだけ存在しますので、王は今のうちに避難を」
「いやそんな事聞いてやらせんよ!?」
後日。
「はっ、すみません王よ、いつのまにか寝ていました、で何が起こりましたか!」
「結果的には、破壊神の誕生を阻止したのじゃ」
「えええ、我が王よ、それは世界救ってるじゃないですか!?」
「魔王の所でソレをやらせるかは一瞬迷ったがの、ワシはまだ人のままで居たい」
「……私の寝ている間にいったい何が?」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




