クエスト10【姫誘拐事件2】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、使者が来たとは本当ですか!」
そこに勇ましい足取りで、全身甲冑の騎士が姿を現す。
「おお騎士団長よ、そうじゃジャーデン領からの使いから伝令があった、クリス姫は東のブナイア大洞窟に囚われているそうじゃ」
「ブナイア……噂で聞いた限りではだいぶ難易度の高いダンジョンとか」
「使いより正式に姫の救出の協力要請があった、公表はジャーデンの発表を待って欲しいそうだがの」
「了解しました、では向こうの要請に合わせてこちらも出兵出来るよう、救出部隊を組んでおきます」
「頼んだぞ!」
「了解です……それで、ですね王様」
珍しく神妙な面持ちで騎士団長は言い淀む。
「なんじゃ珍しく歯切れが悪いの」
「実は王様、今回に関しては私も本気で姫を救出したいと思っております」
「いやいつも本気であれよ、それでなんじゃ?」
「ですので、今まではあえて避けていた禁忌にも踏み込んでいこうと思います」
「な、なんと!?」
騎士団長は意を決したように言う。
「実はセーフ神教会が認定する勇者以外にもスキルを持つ者がいるのですよ、王様は暗殺者組合をご存じですか?」
「……暗殺者組合!? 噂では聞いた事があるのう、盗みや殺し等の公に出来ない仕事を主に請け負うとか」
「そうです、そこに所属する者達には暗殺、人を殺す事に特化したスキルを持つ者も所属していると聞きます。そこに声をかけてきました」
「それは、大丈夫なのか?」
「危険は百も承知、今回紹介された者は毒殺のスペシャリストとの事ですが。どうでしょう王よ、お会いになられますか?」
「……よし、ワシも腹をくくろう、連れてまいれ」
「は、しばしお待ちを」
こうして王の前に、一人の若い女性が連れて来られた。女性は服装こそ何処にでもいる若い女性といった格好で、王を前にしても臆することなく穏やかそうな笑みを浮かべていた。
「王様、暗殺者を連れてまいりました」
暗殺者という肩書を警戒して、護衛の兵士たちの顔にも緊張が走る。
「いやですよー、こんな何処にでもいる普通の女の子を暗殺者だなんてー」
当人は極めてのほほんとした様子で首を振った。
「なるほど、この普通の女性という仮面を被って、ターゲットに警戒されることなく近づくという訳ですね……実に恐ろしい!」
騎士団長ですらも、彼女から殺気を感じ取れず困惑する。
「えーっと、組合の人から王様が呼んでるって言われてきたんですけどー」
平然した様子で王へと近づこうとする女性を塞ぐように、騎士団長が前に立つ。
「それ以上は近づかないようお願いします」
流石の騎士団長も緊張した様子で声をかける。
「えー、まだちゃんとごあいさつが出来てないんですけどー?」
「それよりも、貴女の腕前を御見せ頂けますか」
「そうですかー、まぁ組合にも腕を振るってやってくれって言われましたしー、それじゃー準備しますねー」
そう言うと彼女は持ってきた道具を広げ始める。
いくつかの道具は事前に彼女から用意して欲しいと言われていた簡易の竈と鍋である。
「それじゃ今日は新鮮なお野菜が手に入ったのでー、シチューを作りましょうー」
そう言うと彼女は、市場で手に入りそうな野菜を籠から取り出して見せた。
「ふむぅ、今の所普通に料理をしているようにしか見えんが?」
「王よ、油断してはいけません。彼女は暗殺者、その行動全てが演技なのですよ」
王と騎士団長が見守る中、彼女はてきぱきと料理を進める。
「今日はお庭でとれた新鮮なお野菜を使おうと思います、ほら可愛いでしょ? このちっちゃなじゃがいもとかー。あまりにも小さすぎると皮むき大変なのでーこのまま入れちゃいますー」
「あ、ちょっと! 小さいじゃがいもの皮には毒がっ!?」
思わず騎士団長の口から声が漏れる。
「あとー道中で拾った可愛いきのこさんも、新鮮なままがいいので最後に沿えちゃいましょう」
「あ、きのこ類には有毒なのが多いので必ず火を! ってか何のきのこ!?」
「どうしよー、持ってきたお肉間違えちゃった、ちょっと古くて匂いが良くないかもーでもまぁ火―通すからいいかー」
「いや、食中毒菌は火じゃ殺菌されない……!」
騎士団長があまりの恐怖に口元を覆う。
「あとは隠し味にー梅も種ごといれちゃいまーす」
「あ……ああ……」
今にも騎士団長は倒れてしまいそうだった。
やがて彼女の手によって、見た目は野菜たっぷりの美味しそうなシチューが生み出される。
彼女はシチューをお玉にすくうと。
「王様―、お味見いかがですかー?」
「絶対に遠慮する!」
危険なシチューは後でスタッフが責任をもって廃棄いたしました。
後日。
「王様! 彼女はある意味適任なのでは? 彼女を食事番として送り込めば……」
「いや真っ先に姫が毒殺されるわ!」
王様の悩みはまだ晴れそうにない。
※本当に危険ですので、絶対にマネしないでください。




