クエスト11【姫誘拐事件3】
ここは魔王の侵略に怯えるオイヘンブージ王国。
その王城にて、国王ブージ三世は頭を抱え苦悩していた。
「国王様、ブナイア大洞窟手前に拠点を構築してきました。ここから様子を探りつつ、姫救出の機会を伺う方針です」
そこに全身甲冑の騎士が姿を現す。
「ふむ、報告ご苦労。姫はどうか?」
「洞窟の最深部に囚われているらしく、ご様子までは。冒険者の何人かを斥候として潜り込ませましたが、かなりの大部隊が構えているらしく、少数での姫救出は厳しいと」
「敵も本腰を入れておるわけか、お主の見立てはどうじゃ?」
「はい、単身突破は無理を通せば可能でしょうが、姫を盾にされる恐れがあります。今強行突破するには情報が足りません」
「魔物相手ではこちらの兵を潜ませることも買収する事も難しいか、機を待つしかないのう」
「いいえ王様、まだ手は残されております」
「お主、もしや?」
「はい、前回は危険過ぎる相手でしたが、その実力は確かなものでした。そこで今回も暗殺者組合に協力を要請いたしました」
再び王の顔に緊張が走る。
「大丈夫なのか? また姫に危険の及ぶスキルではあるまいか?」
「ご安心を、今回も事前にどのようなスキルかは聞いてきております。今回のスキルは[かくれんぼ/ハイドアンドシーク]という能力でございます」
「ふむ、一見すると遊びの様な能力だが?」
「この能力は隠れることに特化していると聞いています、この能力で姿を隠し洞窟に侵入してもらう算段なのです!」
「なるほど、しかし相手は魔物じゃろう、人間のスキルでどこまで通用するのか。とりあえず一見してみなくてはな、姿を消す能力ならばそこまで危害はなさそうじゃな、よし連れてまいれ」
「それがですね……実はもうすでに此処に居るとの事です」
「何じゃと!?」
慌てて王様は周囲を見渡すが、謁見の間には王と騎士団長しか居ない。
「居らんではないか?」
「王様、この者のスキルを舐めてはいけません。隠れる能力ですので、恐らく何処かに潜んでいるのでしょう」
「ほう、我々に見つけて見せよという訳か、騎士団長よ探し出すぞ!」
こうして王と騎士団長二人係で部屋中をくまなく探す。椅子の裏、暗幕やカーテンの裏、調度品の影等を見て回る。
「そもそもこの部屋に人が隠れるようなスペースも無いぞ」
「いえいえ、隠れると言っても姿を見えなくする能力という事もあり得ますよ」
「ならば音じゃ、足音や呼吸の音で見つけるのじゃ」
二人して耳を澄ませてみるが。
「何も聞こえぬ」
「まさか……気配処か存在感すらも消すことが出来るのでしょうか!?」
一度探した所に隠れている可能性も含めて、再び部屋の隅々まで探してみる。
「やはり見つからんのう」
「素晴らしい! この私でさえも見つけられないならば、魔物の目を欺くことなど容易なはずですよ!」
流石に探し飽きたのか、疲れた様子で王は椅子に戻った。
「……もしや、お主本当に騎士団長か? 変装して隠れるという手もありえなくは」
「はいはい、ほらこの通りいつもの私ですよ!」
疑う王に兜を取って素顔を見せる騎士団長。
「わかりました! 私たちの負けです、貴方の隠れ潜むスキルは素晴らしい、さぁ姿を見せてください」
騎士団長も降参といった様子で声をかける。しかし。
「現れんのう」
「良いでしょう! どうしても見つけて欲しいのならば、本気でお相手いたしましょう!」
そう云い放つと、騎士団長は剣を抜き放った。
「な、正気か騎士団長よ!?」
「おっと国王様、動かないでください! 今よりこの謁見の間内は全て私の剣の射程となります、僅かでも動いたならば……首が落ちますよ」
静かな表情で剣を構え、動かなくなる騎士団長。その集中力の高まりは、髪の房が震え経つほどの気迫を見せる。
「ま、待てそれでは殺してしまうぞ!」
「降参し姿を現すならばそれで良し、しかし私も魔物も戦いの場では甘くないぞ! 隠れ潜むスキルに絶対の自信があるのならば、私の剣を搔い潜って生きてこの部屋を出て見せよ!」
剣の切っ先は僅かにも動かない。構えたまま騎士団長は、限界まで引き絞られた弦のごとく、獲物の喉元めがけて力を解き放つ瞬間を待ち構える。
次の瞬間、謁見の間の扉がわずかに開き、そこをめがけて距離を無視したかのような跳躍と共に音をお置き去りにした剣閃が走る。
扉は袈裟懸けに断ち切られ、その向こう側で驚いた様子の兵士が立つ。
「あ、えっと……伝令です、暗殺者組合より紹介の者ですが道中にトラブルがあったそうで到着が遅れるとの事です」
報告を終え、断ち切られた扉を一瞥しながら兵士は奥へと戻っていく。
気まずい沈黙が謁見の前に流れた。
「……やっぱ居らんではないか」
その後。
「で、どうしますか王様、[かくれんぼ/ハイドアンドシーク]には会われますか?」
自ら破壊した扉の残骸を片付けながら、騎士団長が問いかける。
「いや、なんかもうどうなっても、がっかりしそう」
王の悩みはまだ晴れそうにない。




