異世界ファーストバレンタイン
旅行から帰ったある日、エグゼクティブ・プロデューサーの左京が、
「アルフさん、新大陸のカカオ豆を使った『チョコレート』という菓子。……これは、ただのスイーツではありません。『愛の告白』という付加価値を乗せれば、王都中の令嬢たちの可処分所得(お小遣い)を一掃できる、巨大なビジネスチャンス(バレンタイン)になります」
と、言い出した。アルフレッドは腕組みをして、渋い顔で、
「……左京、貴様……。俺たちの『思い出の食材』を、また商売にしやがって……! ……だが、まあ。……その『チョコ』ってやつ、こいつが作りたがってたからな」
と、ミノンを指して言った。
監修のミノンが、
「はい! アルフさんに、現代の……いえ、私が一番好きな『トリュフチョコ』を食べてほしくて!」
と、張り切っている。
その後、左京の目を盗み、深夜の公爵邸の厨房で、チョコ作りが始まります。
ミノンが、
「アルフさん、カカオマスと生クリームを混ぜる時、魔力で一定の温度を保ってください! じゃないと、ツヤが出ないんです」
と、お願いすると、アルフレッドが、魔道具に魔力を込めながら、
「……チッ、めんどくせえ工程だな。現場のADだって、もっと単純な作業だぞ。……でも、あんたがそんなに必死な顔して……。……美味いもん作ろうとしてる姿、悪くねえよ」
と、デレる。
あなたが一生懸命にチョコを丸め、ココアをまぶしていると、アルフレッドがふと、あなたの指先についたチョコを拭い取ります。
アルフレッドが、
「……おい。……あんた、自分の分は作らねえのか? ……俺が、あんたの分の『画』を作ってやるよ。……ほら、口開けろ」
と、囁きながら、指先のチョコを、あなたの口元へ……。
翌朝。バレンタイン当日。公爵邸の中庭で、あなたは完成したトリュフチョコを、アルフレッドに差し出しました。
「アルフさん、受け取ってください。……私の、精一杯の『気持ち』です」
アルフレッドは真っ赤になりながら、チョコを受け取り、一口頬張る。
「……っ!! ……甘ぇ。……けど、ほろ苦くて……。……最ッ高の『完パケ(出来栄え)』だ」
と、ミノンを褒める。彼はチョコを飲み込むと、意を決したように、あなたの両肩を掴み、カメラ(魔導具)も左京もいない、二人だけの世界であなたを見つめて、
「……おい。……今まで、ずっと『助手』だの『あんた』だの呼んで、悪かった。……俺は、前世でも今世でも、不器用で、現場のことしか考えられねえ、ダメなプロデューサーだけど……」
彼はあなたの名前を、生まれて初めて、愛おしそうに口にします。
「……ミノン。……俺の隣で、一生……俺の作った料理(画)を、一番に食ってくれ。……愛してる。……俺の、たった一人の……ミノン」
左京が茂みから集計魔導板を片手に現れ、
「……ふむ。エンゲージメント率(愛の深度)は、過去最高値を記録しましたね。……これで、バレンタイン・チョコの独占販売権は確定です。……おめでとうございます、お二人とも」
と、言った。アルフレッドは絶叫した。
「……左京!! 貴様、覗き見(盗撮)してやがったな!! 撤収だ!! 全員、撤収しろーー!!」




