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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
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第59話 「ゴブリンの襲撃㉔―ライラン領⑤―」

 初めまして。祖母がフォーゲル男爵家から嫁いだので、フォーゲル伯爵の親戚にあたるミラ・フォン・ハルトマンです。王国内でも少ないエクストラヒールが使え、魔石作成班の班長を任されています。


 魔石が作れると分かった時の衝撃は、本当に凄かった。

 だけど、あれ以降、ルウィージェス様の、様々な巨大魔法を見ていくうちに、あれは、ルウィージェス様にとっては、とても小さな魔法だった事を知りました。

 リリーエムラ公爵家の方とは言え、初めは、何故これ程までに凄い魔法が使えるのか不思議でしたが、いつだったか、団長が、ルウィージェス様が神族であることをポロっと話したので、漸く納得出来ました。というか、団長、私たちにルウィージェス様が神族だという事を話していない事を覚えていなかったようだし、ポロっと正体をばらした事すらも気付いていないようでした。

 意外と抜けているところあったのね、と仲間内で話していたのは内緒。


 でも、今回のは、今までの中で、一番衝撃的だったと思います。魔石の時以上の衝撃でした。

 精霊さんですよ!精霊さん。

 しかも、団長の魔力からうっかり生まれてしまった精霊さん。

 流石、神様と一緒にいると、起こる事件の規模が違います。

 

 精霊のアリカントは鳥さんでした。頭には後ろに流れる冠があって、目から頭にかけては細く黒い筋が通っていて、目がクリクリとしている、黄色い鳥さん。

 ラン様はぴぴと、鳥らしく鳴くのに対して、アリカントのはチリリと、とても可愛らしい鳴き声。姿を見ずに、鳴き声だけ聞いたら、鳥さんとは思わないかも。


 鳥の精霊さんなのに土属性というのは、ちょっと意外でした。

 何となく、鳥というと、風属性というイメージがあったから。空を飛ぶ魔鳥の多くが風属性を持っているから、そのイメージが強かったのかな?

 クラウス団長の精霊さんが、火属性と氷属性だったのは、なんか、凄く納得してしまった。クラウス団長は、珍しい氷属性持ちだしね。

 

 今回は、もう一つ、驚いた事がありました。

 世界樹です。

 私、初めて生きている世界樹を見ました。高級な魔法杖の杖部分には、ほぼ世界樹の枝が使われていて、王国内で使われている、全ての世界樹の枝はリリーエムラ公爵家から提供されているから、リリーエムラ公爵家が特別な理由の一つが、この世界樹なのだろうな、とは思っていました。

 リリーエムラ公爵家の方々が神族だと知ってからは、納得しかなかったけど。

 しかも、ルウィージェス様の話によれば、世界樹の根は世界中に張り巡らされていて、擬態して、様々な森に姿を現しているらしいのです。

 自然が豊かで精霊が多く、多くの妖精族が住む森には、必ず世界樹が生えているそうです。

 妖精族が多く住む場所の世界樹は擬態していないそうです。というか、妖精族が近くに住むと、擬態を止めるそうです。

 因みに、王都にも世界樹はあるか、と聞くと「ある」と言っていました。

 擬態しているらしいので、見つけるのは簡単ではないらしいのですが、世界樹の周りには常に野生動物や小さな魔獣、魔鳥が集まっているから、ルウィージェス様的には、よくバレないな、と思っていたそうです。

 王都に帰ったら、ちょっと探してみようと思っています。

 クラウスら三人が、遅くなった夕食を食べ始めてから間もなくして、ゴブリン焼却を手伝っていた団員たちも次々と戻って来て、領主邸から提供された食事を嬉しそうに食べ始めた。

 ルウィージェスがハーブティーのお代わりを取りに行こうと席を立った時、声を掛けられた。声の主は宮廷魔術師団の土魔法の使い手アガートだった。

「領主邸に繋がる坂の光、あれ、ルウィージェス様の魔法ですよね?」

 その言葉にエルンストが顔を上げた。口の中にはまだ入っているようで、口元を手で隠しているが、もぐもぐしている。

 エルンストは【ゲート】で直接領主邸に戻って来たから、明るくなった坂道を知らなかったが、自分の部下がルウィージェスに質問している時点で、魔法に関する事と分かったようだ。

「あれって、どうやっているのですか?」

 近くにいた宮廷魔術師団の団員たちも気になっていたようだ。食べたり飲んだりしながら、しっかりと聞き耳を立てている。

 ルウィージェスは【光魔法:光】と【土魔法:砂】の混合魔法【創造魔法:輝光真砂(こうきまさご)】で光る細かい砂を大量に作り、【風魔法:浮遊(フロート)】の魔石『浮遊魔石』で浮かべていると説明すると、エルンストが強い興味を示した。

 エルンストは土魔法以外が使え、土の精霊アリカントがいるので、もしかしたら、と思ったようだ。エルンストも会話に参加する。

「アリカントと同時発動させれば、使えると思うよ。」

 そう言うと、魔法陣を【魔法陣読解】で宙に出した。

「見て分かる通り、土魔法は【砂】しか使っていないんだ。」

「砂そのものが光っている訳ではなく、光で被膜された砂、という感じ、ですか?」

「うん、そう。光魔法で砂を包んでいるだけなんだ。だから、光魔法の効果が消えたら、ただの砂になる。今回のは期限を1年と設定したよ。」

 アリカントも興味津々だ。

「アリカント、エルンスト団長とちょっとやってみる?」

 その言葉に、周りが驚きと戸惑いに包まれた。戸惑った者たちは、アリカントって誰?と近くの者たちと聞き合っている。

「そうだ、団長!精霊さん!!」

 会話に参加していた【エクストラヒール】の使い手ミラ・フォン・ハルトマンが精霊の話を思い出す。

「じゃ、エルンスト団長を中心に半径2m以内にいる人だけに、アリカントの姿が見えるようにしようか。」

 そう言うと、ルウィージェスは無詠唱で【精霊魔術:精霊空間】を展開した。

「見えた!!」

 アリカントは恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに、羽根をパタパタさせた。

「鳥さんなんだ!」

 エルンストがアリカントとの出会いを話す。

「え?それじゃ、団長の魔力で生まれた精霊さん?」

「あぁ、そうらしい。な?」

 エルンストはアリカントの頬を人差し指で撫でた。アリカントも嬉しそうに、指に頬を擦りつける。

「うわぁ~、懐いている!」

 全然関係ないのに、藍は誇らしげだ。藍にとって、アリカントは初めての精霊の眷属。

 精霊が見えるヒト族はいない。普段、藍しか見えない者たちが、アリカントを見て「かわいい」とか言っている。その存在を認められてアリカントも嬉しそうだが、藍も、自分の眷属が褒められて嬉しいようだ。


 2皿目を取りに行っている間に、急に盛り上がったエルンスト達を不思議そうに見ながらクラウスが戻って来て、エルンストの隣に座った。

 サラマンダーとフラウも不思議そうに見ている。

「あぁ~!別な精霊さん!」

 この言葉に、クラウスたちが驚く。

「今、私を中心に半径2m以内にいる者だけに精霊の姿が見えるようにして下さっているのですよ。」

「それじゃ、オレの声も聞こえるのか?」

 クラウスの肩からフワっと浮いて、エルンストの近くにやって来たサラマンダー。

「聞こえてるよ。」

 それを聞いたフラウもエルンストの近くにやって来た。

「よ、オレ、サラマンダー!クラウスの精霊剣の精霊な。」

「私はフラウよ。氷の精霊で、サラマンダーと同じく、クラウスの精霊剣の精霊よ。」

 あまりの事に言葉が出ない宮廷魔術師団の団員たち。だが、目はキラキラしている。

「あ、初めまして!私は宮廷魔術師団の団員で、光魔法を使います!ミラです。」

 一番初めに我に返ったのは、ミラ・フォン・ハルトマン。

 ジッとミラを見ていたフラウがエルンストに聞いた。

「ねぇ、ミラって、エルの親戚?」

 その言葉に、エルンストは思わず苦笑する。

「やっぱり分かるか?その通り、ミラは私の親戚だよ。」

「凄い!」

 ミラが感動している。


 皆にせがまれ、クラウスは精霊剣を、エルンストも新しい魔法杖を出し、精霊が棲む精霊鉱石を見せると、その場が一気に盛り上がった。

 普段は誰からもその存在を知られない精霊たちも、普通に会話が出来る事が嬉しいようだ。精霊鉱石の中を出入りしてみせ、すっかり気を許し、様々な質問にも気前よく答えている。

 騎士団員だけでなく、リリーエムラ公爵家の騎士団員も、精霊剣と魔法杖を見に来ている。

「これはまた、凄い剣ですね!」

 アダルベルトとウィルヘルムも驚いている。

 クラウスは、シューバート侯爵家に代々伝わる剣について、アダルベルトたちにも聞こえるように話した。

「しかし、何故剣が残るシューバート侯爵家にすら、精霊剣の話、残らなかったのですかね~。」

「ホント、不思議だよな。」

 アダルベルトの問いに、クラウスも肩をすくめながら答えた。


 その様子を見ながら、クラウスとエルンストが団に所属している間は、団員にだけでも契約精霊が見えるようにした方が良いかな、と考えていた。

 精霊魔石を作って制服に取り付ければ、団員にだけ見えるようになる。精霊魔石なら、精霊たちに専用の魔法陣を覚えて貰えば、精霊魔法で作る事が出来る。

 隣に座るカリンに後で相談しよう、そう思いながら、ハーブティーのお代わりを取りに行った。


 精霊と精霊剣で話しが盛り上がり、誰も気付かなかったが、少し離れた場所にいたリリーエムラ公爵家の騎士の一人が、執事っぽい服を着た者が声を掛けるのに躊躇しているに気付き、声を掛けると、クラウスとエルンストに用がある、と言う。

「すまない、こちらの話で盛り上がってしまっていた。」

 クラウスが詫びると、領主邸の執事の息子で、執事見習いのルドガーと名乗った、がクラウスとエルンストに、今晩は、部屋数の関係上、役職持ち分の部屋は用意出来たが、他の者たちは、宿も被災してしまっている為に、野営になると伝えた。

 この人数を収容できる設営となると、【ゲート】を開いた園庭と、騎士団の演習場の二か所に分かれてしまうが、提供できる、と説明した。

 まだ領壁内ゴブリン討伐が完遂出来ていない状態で、設営地が敷地内とは言え、離れた場所になるのは、緊急時の招集が難しい。

 どうするか、と団長、副団長及び副官らが意見を出し合う中、ルウィージェスが執事の息子に問うた。

「ルドガーさん、園庭と演習場、どっちの方が広いかな?」

 ルドガーは、まさかこの場に8歳くらいにしか見えない子どもがいるとは思わなかったが、その子は王国騎士団の団長と宮廷魔術師団の団長と並び、宮廷魔術師団の団長の隣に座っている。

 子どもだが、それなりの立場にあると瞬時に判断した。

「はい、演習場の方が、園庭の2倍まではございませんが、それに近い広さがございます。」

 ルウィージェスは園庭の広さを思い出す。その2倍弱なら…。

「クラウス団長、エルンスト団長、演習場に風呂と、団員用に宿舎を建てるよ。」

「「え??」」

 流石のクラウスとエルンストも、風呂は分かったが、宿舎の意味が分からず、異口同音で反応する。

「空間魔法と土魔法の混合魔法【創造魔法:宿舎】という魔法を作ろうかと思って。」

 ニッコリといい笑顔で答えるルウィージェス。

 「宿舎」がどういう物か分からないが、風呂は魅力的だ。

「ルドガー殿、演習場に案内して貰えないだろうか?」

「はい、こちらでございます。」


 ルドガーに案内して貰った場所は、領主邸の敷地内ではあるが、園庭とは反対側に位置し、第一から第三演習場に分かれていた。

 演習場は一部斜面を削って造られていた。。

 第一と第二演習場は、間に溝を挟んで造られていた。溝は、水の通り道なのだろう。長年に渡って、自然に削られていったようだ。第一と第二は雑木で分かれている。

 第一と第二からは、更に下に続く階段があり、そこは第一と第二演習場を足してもまだ足りない広さがあり、第三演習場と書いてある。

 第一、第二と第三の間にも雑木があり、自然の防御壁となっている。間違っても、第一や第二で放った矢が第三演習場まで届く事はないだろう。そのくらいの雑木で区切られていた。


 第三演習場の下には少し頑丈そうな建物が並んでおり、更にその下には住宅街が広がっている。

 ルドガーによると、頑丈そうな建物は騎士らの宿舎で、主に入団後3年以内の者が入居していると言う。

 もう暗くて判別できないが、実は1棟だけ色が異なっており、そこは領主邸で働く者たちが多く入居している建物だと言う。

 騎士らが入居する建物という事で、領民の家よりも頑丈に作られ、窓にも柵が付けられている所が多かった為、全くの無傷とはいかなかったが、被害は少なかったと言う。


 ルドガーの説明を聞きながら、ルウィージェスは嬉しそうに頷いている。

「ルドガーさん、第一から第三演習場、全部お借り出来ますか?」

「勿論でございます。」

「それじゃ、」

 ルウィージェスはクラウスら団長、副団長と副官を近くに寄るよう呼び言った。

「第一と第二に、女性用と男性用の風呂を作って、第三に宿舎を建てよう。」

 皆、風呂は分かった。何度も経験している。だが、宿舎とは?

 先ず、第一演習場に男性用の風呂を、第二演習場に女性用の風呂を作った。

 慣れたもので、ちゃちゃちゃと作る。

 そして次に、宿舎を作る。

 魔力を練りながら、構造を考える。


 今回参加している人数は騎士団125人、魔術師団180人、リリーエムラ公爵家騎士団150人、総勢455人。それにルウィージェス自身とカリンで、計457名。

 うち、役職持ちは、騎士団は団長のクラウスと副官ベルント、魔術師団はエルンストと副団長ザビーネ、リリーエムラ公爵家の方は、州領都騎士団は団長アダルベルトと副団長ニコデム、王都騎士団は団長ウィルヘルムと副団長ボルコの計8名。

 領主カールは、役職持ち8名を領主邸に、と言ってくれたが、クラウスとエルンストの反応を見ていると、演習場と領主邸はそれなりに離れているから、悩んでいるように見える。

 初めから、彼らの分も入れておいた方が良さそうだ。

 

 この8名の部屋は少し大きめに取る。特に、エルンストは伯爵、クラウスは子爵、ザビーネは男爵だ。アダルベルトとウィルヘルムは騎士爵で、領騎士団に所属している間のみで且(か)つ一代のみの爵位。3名と同じにするわけにはいかないだろう。

 騎士団と魔術師団は直ぐに移動するが、リリーエムラ公爵家の騎士団は、しばらくこの街に残り、復興の手伝いをする。かなり長期間いると考えた方が良い。

 一般騎士らの部屋は、リリーエムラ公爵家の騎士団員が過ごしやすい部屋で統一する。

 長期戦に備え、一般の団員も各自部屋を持った方が良いだろう。

 そうなると、役職持ち用の部屋8個と、一般用の部屋447部屋。そしてルウィージェスとカリンは同じ部屋で448部屋。但し、寝室は分けるから、事実上449部屋。計算しやすいように偶数にして450部屋。

 それに、馬車の中に入れてある装備類や回復薬(ポーション)類を入れておく部屋も付けて、作戦会議等をする部屋を付ける。団員たちが少人数で気軽に飲食出来る小部屋も用意しておこう。一度間取りを決めたら、何度でも魔法陣で同じ「宿舎」が作れる。

 まだ他の領にも行く予定になっている。ある程度の余裕を持たせ、長期戦に備える。


 クラウスとエルンストは団長であり、古参貴族家の者で貴族当主。

 ザビーネも貴族当主だが、宮廷魔術師団の副団長。クラウスとエルンストより少し小さめが良い。

 アダルベルトとウィルヘルムは州領の騎士団長だが、一代限りの騎士爵。ザビーネより少し小さめの部屋がいい。

 ベルント、ニコデム、ボルコは爵位を持たないが、役職持ち。アダルベルトとウィルヘルムより少し小さめにした方が、面倒がない。


一般団員の部屋を1として、他を決める。

 クラウス、エルンスト    各3部屋分  計6部屋分

 ザビーネ                  2.5部屋分

 アダルベルトとウィルヘルム 各2部屋分  計4部屋分

 ベルント、ニコデム、ボルコ 各1.5部屋分 計4.5部屋分

 役職持ちメンバーで、17部屋分

 

 ルウィージェスとカリンは、同じ部屋がいい。カリンはルウィージェスの専属護衛だが、神界の実家では、ルウィージェス専属の筆頭侍従、世話役でもある。二人ともどうせ結界を張っているのだから気にしないが、一応、各自の部屋を持った方が良いだろう。そうなると、一緒にいる部屋が必要になる。

 であれば、ルウィージェスとカリン 3部屋分とする。

 これなら、クラウスとエルンストと同じ規模になるから、ルウィージェスが上級神と知っている二人も気にせずに済むだろう。

 上役メンバー分で17部屋、ルウィージェスたちで3部屋分、合計20部屋分。


 あと必要なのは、備品保管室、小さめな会議室、広めの空間。

 小さめな会議室は、普段は団員たちの小さな団欒の間となる大きさにする。

 広めの空間は、領主らを含めた会議が行える、そういう間にする。もしかしたら、国王も【ゲート】で呼んで、会議する必要性も発生するかもしれない。

 それから、紅茶などの嗜好品を常備しておく部屋も必要だろう。各部屋に水を沸かす魔道具は魔法陣で設置できるが、食品はそうはいかない。


 備品保管室    5部屋分 にしておく。1部屋を、嗜好品を用意しておく部屋とする。

 小さめな会議室 10部屋分 もあれば十分だろう。

 大きめな会議室 20部屋分 各5部屋分を4部屋。広さは空間魔法で適宜調節する

 広めの空間   15部屋分 を1部屋 普段は役職持ちだけが入れるようにしておく

 ここで50部屋分


そうなると、

 一般用の部屋  447部屋

 役職メンバー分 20部屋分 ルウィージェスらの分3部屋分を含む

 他の部屋    50部屋分

 合計 517部屋。作りやすいように520部屋にする。


 作る部屋数と規模が決まれば早い。

 第三演習場の7割の面積を使って「宿舎」を建てる。建物自体は4階建てにする。

 4階部分は、役職持ちの部屋。余った空間は、雪狐親子の運動場とする。小さな椅子とテーブルを用意して、紅茶を飲みながら寛げるようにしておいてもいい。

 階段は4階まで直通階段と一般騎士用の階段と分ける。

 4階までの直通階段は少し広めに作って、上りと下りと分ける。上りは自動昇降、要はエレベーターにする。下りは、急ぎの場合は駆け足で降りた方が早いから、普通の階段のままにする。

 3階は一般団員用。

 2階は、広い空間と、大小会議室と嗜好品備蓄部屋。そして、一般団員用の部屋。

 1階に、備蓄など、その他の部屋。馬車保管室、馬房もここに作る。豊かな草の生えた馬場も用意。

 空間魔法を使っているから、外見からは想像もつかないくらい、中は広い。


 ルウィージェスは【空間魔法:召喚】で世界樹の苗を呼び出し植えた。

 【時空間魔法:成長】で一気に成長させ、枝の一部を広い空間の部屋と雪狐親子の運動場に這わせ、第三演習場の、残した3割の土地を高い位置から覆うようにした。

 世界樹の枝葉が茂る部分を【空間魔法:世界樹の空間】とした。この空間内も空間魔法がかけられており、外から見える以上の広さがある。そして、世界樹の下に【世界樹の空間】を設けたことで、世界樹から新鮮で豊かな魔力を補給する事ができ、この下で寛ぐだけで、苦労回復が得られる。多くの領民の死を見て、破壊された街並みを見て、その片付けと復興を手伝う団員たちの心身疲労を癒す目的で作った特別な空間だ。


 広い空間に世界樹の枝葉を通したのは、今は亜神だけでなく精霊もいるからだ。世界樹が放つ新鮮な魔力は、亜神と精霊を癒してくれる。


 ルウィージェスが神族と知っている団員らは、その巨大な魔法に飽きれながらも、目の前に建てられた「宿舎」を現実のものとしてあっさり受け入れたが、初めて見るライラン領の騎士らはそうはいかない。

 全員が腰を抜かし、口をパクパクさせるだけで、声も出ない。


 そんな様子に気付かない自由気質な精霊の王でもあるルウィージェス。

「あ、そうだ。あと備品を作らなきゃ。」

 そうルウィージェスが言うと、また、手の中で魔法をこねだし、各部屋に光魔法と火魔法の混合魔法【創造魔法:宿舎用トイレ魔石】をトイレに設置し、洗面台には【水魔法:水】の魔石も設置する。ベッドサイドには『ライト魔石』も設置する。

 空間魔法と土魔法で【創造魔法:ベッド枠】を作った。【水魔法:圧縮温水】でベッドのマットレスの中心を作り、【風魔法:圧縮空気】で【圧縮温水】を包み、マットレスに程よい硬さを作る。それを洞窟内で救助した村人に羽織り物(ブランケット)を作った時と同じく、ルウィージェスはアイテムボックス内で『大気と緑の権限』を発動させ、太い糸を作り出し、『全魔法の権能』の発動と風魔法の混合魔法【創造魔法:織物】で、ベッドのマットレスカバーを作りマットレスを包む。ベッド枠作成以降の全ての工程を一回で出来る混合魔法【創造魔法:ベッドマットレス】を作って、一挙に大量に作り、各部屋に設置する。

 【創造魔法:織物】でベッドシーツを作り、【創造魔法:織物】と【妖精魔術:綿】の混合魔法【創造魔法:掛け布団】の魔法を作り、一挙に掛け布団を作って行く。

 綿の量だけを変えただけの、同じく【創造魔法:織物】と【妖精魔術:綿】の混合魔法で【創造魔法:枕】を作り、以下同文。その他、思いつく備品を作って行く。

 

 毎回、別々に作るのは手間だし、時間もかかる。それに、これだけ複属性の魔法を施行出来るはルウィージェスのみ。それでは意味がない。

 そこで、今まで使った魔法陣全てを一度に発動させる事が出来る混合魔法【創造魔法:宿舎改魔石】を作る事にした。但し、この規模の宿舎を建てようとすると、かなり魔力を消費してしまう。流石のエルンストでも、建てたあと、残魔力量不足で極度の睡魔に襲われ、動けなくなってしまうだろう。

 今回の部屋数は、一般団員用の部屋を1部屋とすると、520部屋分ある。普段、ここまでの部屋数はいらない。会議室などの部屋と一般団員の部屋の数を少し減らして、380部屋相当分が建てられるようにした。

 世界樹は魔法陣で作れる物ではないので【宿舎魔石改】には含まれない。だが、世界樹から受ける恩恵は、戦場に赴く団員には必要不可欠。特に、魔力を大量消費する魔術師の疲労回復には、回復薬(ポーション)より効く。当然、負傷者の回復も早くなる。

 クラウスとエルンストは神の称号を持つ者からの加護を受けている。この二人なら、世界樹の苗と、世界樹の成長を促す魔法陣を刻んだ魔石を渡せば、二人が持つ加護に反応する筈だ。

 世界樹の成長を促すのは魔力ではないから、保持魔力量を心配する必要はない。

 いざとなれば、藍と雪狐親子が魔力を流せばいい。彼ら亜神も神の称号を持つ者。世界樹はその声に応答する。

 

 足りない物があれば適宜増やして、その分の魔法陣を【宿舎魔石改】の魔石に追加していけばいい。


 そして、宿舎から風呂までの通路に、外灯代わりに光魔石を地面に設置。魔石には小さな結界を張り触れられないようにし、演習場全体に結界を張り、ゴブリンの侵入を防ぐ。

 最後に、結界内に【妖精魔術:草原】で緑豊かな草原を作り出し、馬が自由に動き回り、草を食(は)む場所を確保した。


 ルウィージェスは満足そうに頷いた。

「ちょっと中、見てみる?」

 ライラン領の者以外の、その場にいた者たちが頷いた。


 予め、ルウィージェスから空間魔法で作られている、と聞いていたが、想像以上の広さに、全員が驚きを隠せない。

 先ずは一般団員の部屋を見る。

 一人で寝るには十分な大きさのベッドがあった。寝台もあり、枕元にちょっとした物も置ける。ベッドサイドには『ライト魔石』が置いてあり、枕元だけ明るくすることが出来るようになっている。注ぐ魔力で明かりを調節できる。

 各部屋に洗面台があり【水魔法:水】の魔石も設置してあるため、魔石に魔力を流せば、洗顔やうがいをするのにちょうど良い量の水が出てくる。

 トイレもある。洞窟内で使用したトイレと同じく『トイレ洗浄魔石』が設置してあり、魔石に魔力を流せば、瞬時に臭いも排泄物も消えてなくなる。

 瞬時にお湯が沸く魔道具もあり、その近くには、小さなテーブルと椅子が2脚。魔石で明かりが調節できる小さなテーブルライトも置いてあり、茶を飲みながら一息つける空間となっている。

 もちろん、小さなクローゼットもあり、防具や武器を仕舞える場所もある。


 団長らの部屋も案内する。

 基本的な作りとしては、一般団員たちと同じような構造になっている。

 但し、一つ一つがゆったりとした作りになっていた。

 広々としたベッドに、立派なクローゼット。少し広めの防具などを置く場所もある。

 ベッドから少し離れた場所には、4人用のテーブルとクッション付き椅子も4脚あり、ちょっとした作業も出来る。置いてあるテーブルライトは、ちょっとお洒落。これも魔石を使用している為、明かり調節が可能だ。

 テーブルの横の壁側に、足台が置いてある。クッションの置き方を工夫すれば、椅子は簡易的なソファみたいな感じに出来、その先に置く足台だと思われた。触るとふかふかしていて気持ちよさそうだ。

 ここにも、瞬時にお湯が沸く魔道具が設置してある。

 クラウスが、恐る恐るベッドに腰掛けてみる。実家で使っていたベッドよりも、座り心地が良い。

 クラウスに呼ばれ、エルンストも腰掛ける。余りの座り心地の良さにエルンストも驚く。

「俺、こっちの方がいいな。」

 クラウスがボソっと言った。

「私も、です。」

 エルンストも苦笑しながら答えた。

 どう見ても、領主が提供してくれた部屋より快適そうだし、何よりも広い。

 

 アダルベルトらも同じ意見だった為、クラウスとエルンストがもっともらしい理由をこじつけて領主邸に泊まることを断ろうとしたのだが、実際に「宿舎」を見ていない領主カールには、なかなか通じない。

 埒が明かないので、一緒に第三演習場まで来てもらう。


 カールは、第一と第二演習場の建造物に驚き、その大きさに唖然とする。

 クラウスとエルンストに、これは何か?と聞いて、クラウスが風呂だ、と答えたが、理解出来ない。

 そこで、男性用の風呂を一緒に案内する。そして、無言になった。

 次に、第三演習場に建てた宿舎を見せる。しばらくその建物をポカンとした表情で見ていたカールが、ストンと地面に座り込んだ。どうやら腰が抜けたようだ。

 地面は草でふさふさだ。尻を強打することはないだろう。

 その様子を見ていたクラウスとエルンストは、「超特大常識破壊魔法に当てられ気の毒に」と、ケーニッヒ伯爵家の姉弟3人は、「神様の無邪気を大量に浴びて御愁傷様です」と、領主カールの心情を慮(おもんばか)った。

 同時に、説明を求められず、安堵もしていた。

 

 領主カールも、団長、副団長も同じ建物内にいた方が、確かに良いですね、と宿舎から目を逸らしながら、なんとか答えた。顔は真っ青だったし、足元もおぼつかなかったが。


 喜んだのは団員たちだ。何せ、全ての部屋が個室で、トイレと洗面台付き。

 早速、役職持ちが集まり、部下の部屋の位置を決める。

 リリーエムラ公爵家の騎士団は、長期で使用する事になる。利便性を考えると、階段の近くをリリーエムラ公爵家の騎士団が使う方が良いだろう、となった。

 団員たちは割り振られた部屋に入って行く。

 ルウィージェスは、団長らの意見を聞きながら中を改造し、女性団員たちからの要望に応え、住み心地の良い部屋を作っていった。

 そして、その変更点を全て【宿舎魔石改】の魔法陣に反映させていく。


 相変わらず風呂は大好評だ。

 風呂上り、「世界樹の空間」で温かいハーブティーを飲み、ルウィージェスが持ってきた果物を皆で雑談しながらつまみ、久し振りにゴブリンの姿が視界に入らない夜を楽しんだ。

 その夜、皆、ベッドがほんのり温かいのに驚き、その気持ちよさに、今までの疲労の蓄積も手伝い、数分後には熟睡していた。


 翌朝、エルンストは気分良く目を覚ました。一瞬、土の精霊アリカントの姿が見えないのに焦ったが、2階の広間の世界樹で眠っているのを思い出す。藍も世界樹で寝ている。

 ベッドに入って、温かい、と思ったのは覚えている。だが、その後、直ぐに熟睡してしまったようだ。自分でも驚くほど、何も覚えていない。

 ライランの街に来るまでの7日間は設営地のテントで過ごし寝袋を使っていた。1週間振りに、ベッドで睡眠をとった。

 上体を起こし、思いっきり伸びをする。すっかり今までの疲労感が抜け去っている。


 昨夜、ルウィージェスの魔法で建てた「風呂」と「宿舎」を見た時の領主と領騎士たちの顔を思い出す。

 ――――俺も、ルウィージェス様の魔法の規模に、随分と慣れたものだ。

 魔法で建てられた「宿舎」を見ても、全く驚かなった自分を思い出しながら苦笑した。


 洗面台で顔を洗って口の中を濯ぐ。昨夜、ルウィージェスに小さなシャワー室を付けて貰った。軽くシャワーを浴び、さっと髪を濡らして、寝癖を直す。あまり寝癖は付かない方だが、宮廷魔術師団は女性団員が多い。一応団長として、その辺りは気を使っている。

 また髪が伸びている事に気付く。アリカントと魔力を共有するようになって、総魔力量が増えた。それに伴って髪が伸びたようだ。余裕がある時にでも、誰かに切って貰わないと邪魔になる。

 風魔法で乾かし、いつも通りに束ねてみたが、長くなった分、バサつく。少し編み込んでから束ねてみた。女性団員に遊ばれるだろうが、邪魔になるよりかはマシだ。


 トイレに設置してある『トイレ洗浄魔石』は、ルウィージェスから、光魔法と火魔法の混合魔法だ、と聞いている。既に、臭いだけを消す魔法陣は出来た。直ぐに王都の屋敷に設置した。だが、まだ排泄物を完全に消す火魔法との混合魔法【創造魔法:トイレ洗浄】は成功していない。

 『トイレ洗浄魔石』をじっと見る。じっと見ても魔法陣が見えるわけではないのだが。

 ――――もう少し研究してダメだったら、ルウィージェス様に魔法陣を頂こう。

 魔法陣研究家として、是非とも自分の力で成功させたい魔法の一つだ。

 

 制服を着て、準備を整える。ベッド脇の窓の前に立ち、部屋を出る前に、もう一度部屋全体を見た。

 何度見ても、簡易的に作ったとは思えない程の快適な部屋だ。ソファはないが、椅子とテーブルとクッションがあり、ふかふかで温かいベッドがある。

 この遠征でもほぼ毎日のように風呂に入り、遠征とは思えない程、快適な日々を過ごしている。

 ――――ルウィージェス様が他の惑星に行かれた後が怖いな。

 人は贅沢には簡単に慣れるものだ。


 流石結界で作られているだけある。普通の宿舎なら聞こえてくる雑音すら聞こえてこない。

 ――――ん…。外の音が全く聞こえないのも不味いか。ルウィージェス様と相談だな。

 熟練の職業軍人らしい点に気付いたエルンストは、部屋を後にした。


 当初、直通階段は1階から4階への1本だったが、2階までの直通階段も追加してもらった。一旦2階まで降りてから、藍とアリカントを迎えに行かなければならない。安全のために、広間のドアは閉まっている筈だ。

 初めから、階段を上がる場合は、魔石に魔力を流せば自動に動く階段になっていたが、魔石で切り替えが出来るのなら、と下りも、魔石と連携した動く階段に変更してもらった。

 上りは昨夜経験した。だが、下りは初めてだ。

 ちょっとドキドキしながら、魔石に魔力を流す。スーと音もなく、動く階段となった。楽でいい。


 アリカントと藍を肩に乗せ、サラマンダーとフラウも伴い歩いて階段を下りて行くと、開いたドアの前にクラウスがいた。クラウスもスッキリとした顔をしている。熟睡出来たようだ。

 「鳥斥候団」の1羽だろう。何かが飛んでいくのが見えた。早速報告書を書いたようだ。

「おはようございます。」

 まだエルンストに気付いていないクラウスに声をかけた。

「エルンスト殿、おはようございます。サラマンダーとフラウもおはよう。」

 サラマンダーとフラウも挨拶し、クラウスの肩に座る。


 昨夜、朝食は昨日夕食を食べた所に用意すると、領主の執事が言っていた。二人は話しながら移動する。しかし、内容は『トイレ洗浄魔石』。クラウスの、「やっぱあれ、いいよな。」から始まった。

 クラウスの屋敷にも、エルンストが発見した【光魔法:消臭(デオドライズ)】を魔石にして、取り付けてある。

 今では、普通の、臭いが籠るトイレが辛く、『消臭魔石』を持ち歩いている。

 せめて騎士団と魔術師団の棟だけでも、『創造魔法:トイレ洗浄魔石』付トイレを普及させたいと、切実に思っている。


 他の騎士や魔術師たちも、しっかりと睡眠がとれたようだ。顔色も良い。

 ニックスとシュネーは既に来ていた。皆と戯れ、楽しそうに遊んでいる。仔狐らしく、朝から元気だ。

 どうやら、あの広間に初めに迎えに行ったのは、アダルベルトとウィルヘルムだったようだ。

 アダルベルトとウィルヘルムはエムラカティアの眷属だから精霊の姿が見える筈。

 まだ、サラマンダーもフラウも、アリカントも、クラウスとエルンスト以外には、あまりそこまで慣れていないのかもしれない。

 藍はルウィージェスの神鳥だから、エムラカティアの眷属に対しては遠慮があるのだろう。

 だから、彼らはあの広間に、エルンストが迎えに行くまで残っていたようだ。

 雪狐の親子は、アダルベルトとウィルヘルムに育てて貰っていたから、藍ほどの遠慮は感じていないと思われる。


 ルウィージェスとカリンは、ずらっと並べられた料理から選んでいた。

「ルウィージェス様、カリン様、おはようございます。」

 エルンストが声をかけた。

「あ、エルンスト団長、クラウス団長、おはようございます。皆もおはよう!」

 ルウィージェスも元気に挨拶した。

 第55話から続く、ライランの街の話です。

 ライラン領都を襲撃したゴブリンの討伐に目途が立ち、ライラン領で一泊する事になりましたが、領内の宿は全て被災し、とても使える状態にはなく、野営をする以外にはありませんでした。しかし、この人数を野営地として収容できるだけの広さを持った場所はなく、複数個所に分かれる必要がありました。

 しかも、役職持ちは領主邸と、これまた、提供された場所からは少し離れた場所。

 そこで、ルウィージェスは空間魔法と土魔法を使って「宿舎」を建てる事に。男女別の風呂は勿論のこと、今回参加している人数、騎士団125人、魔術師団180人、リリーエムラ公爵家騎士団150人、総勢455人が泊まれる宿舎を、魔法で建ててしまい、ライラン領都の人々を驚かせてしまいます。

 しかし、本人は自由気ままな性質を強く持つ精霊王でもある魔導王ルウィージェス。全く周りの戸惑いに気付きません。

 

次は、来週9月19日(土)20:00公開予定です。

第60話 「ゴブリンの襲撃㉕―ライラン領⑥―」

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


月(つき) 千颯(ちはや) 拝

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