第58話 「ゴブリンの襲撃㉓―ライラン領④―」
ここを担当するのは久しぶりだな。王国騎士団団長のクラウス・フォンシューバート子爵だ。
薬師ギルドの前は、一言でいえば、阿鼻叫喚だった。
負傷し治療を求めて多くの領民が出血状態で集まったからだろう。血の匂いに興奮したゴブリンが大挙していた。
見た瞬間に、あの新型ゴブリンと分かったよ。何せ、木の枝一振りで、成人男性の腕をバキっと折ったからな。
薬師ギルドは、俺の腰くらいまで大きめな石が積み上げられ、補強されていた。ライランの街の裏側は崖になっているが、比較的良質の岩が採掘できるそうで、採掘作業に従事している者が負傷した時は、先ず、全身を水で洗い流すため、水はけをよくした造りになっているらしい。上の方は木造だが、これは、治療後の匂いが籠らないようにする為に敢えて木造にしてある、との事だった。
腰までの高さとはいえ、石で補強されていたのは幸運だった。流石の新型ゴブリンでも、石までは破砕出来ないからな。
薬師ギルドの前は、負傷者とゴブリンが入り混じってしまっていたから、攻撃魔法が一切使えなかった。
それでも、先ずは安全地帯を確保しなくてはならない。
騎士団の中でも魔力が多い者で『結界魔石』を設置し、入り口から扇状に、そうだな、10m位は確保できたかな?
結界を張った後は、一匹ずつ、領民を襲っているゴブリンを引き離して一旦結界の外に放り出し、結界内でうろつくやつは火魔法で威嚇して結界の外に追い出し、重傷を負って動けない者には『回復魔石』を握らせて、少量でいいから魔力を流すよう促した。
『回復魔石』を使えば瞬時に完治するのだが、多くの者が出血多量の状態で、傷は癒えても動けない状態だったから、一人ずつ建物の中に避難させた。
結界魔法や土魔法で土壁が作れる者は、結界の外で襲われている領民からゴブリンを引き離して、回復薬を飲ませて、薬師ギルド前に張った結界内に避難するよう伝えていた。
薬師ギルドにいるのは、外科治療のプロたちだ。一旦流れが決まると、あとは早かった。
だが、教会と違って、薬師ギルドは治療をする場。換気の為に窓が多かった。
何か所か、既に窓ガラスが割られており、扉を閉めて対応していた。
だが、屋外に設置する扉と違い、室内の扉は薄く、そこまで頑丈には作られていない。
多くの薬師が、ゴブリンの侵入を阻止する方に取られていた為、騎士団員を、領民を救助する組とギルド内に入り込んだゴブリンを討伐する組と分けて、薬師を本来の業務に戻れるようにした。
一番数が多かった、薬で対応できる軽傷者は薬師に任せ、宮廷魔術師団員の回復魔法で治せる者、『回復魔石』が必要な者を騎士団で対応した。
俺は、薬師ギルドの者に、補修用の板や、患者を運ぶ板などを全て持って来てもらい、窓を板で補強した。窓は押されるとあっという間に割れてしまうが、後ろに補強があれば、少しは耐えることが出来る。
割り振れる人数が限られている以上、少しでも侵入を阻止する時間を延ばす方法を取るしかない。
エルンスト殿くらい魔力があったら、建物ごと『結界魔石』で包み込むという方法が取れただろうが、残念ながら、騎士団で一番保有魔力が多いのは俺。
俺は司令官だからな。倒れる訳にはいかないから、ちょっと試してみるか、は出来ない。
騎士団の訓練と言うと、剣術や武術、馬術を主にするだろうと思われているが、意外と、他国の魔術師からの攻撃に対する防御訓練というものにも、かなりの時間を割いている。
その一つが、魔術による窓や扉破壊への対処法。窓も扉も、攻撃の進行方向側が何もない空間だと、あっという間に窓や扉は魔術の威力に押され破壊されるが、後ろに何か、少しでも硬いものを置くだけで、魔術の威力を殺すことが出来る。
まぁ、エルンスト殿とか、ルウィージェス様のような、桁違いの威力には成す術もないがな。
そんな訳で、騎士団員は皆、建物を守る手段というのを学んでいる。俺がいちいち指示しなくても、「こうすれば良いか」というのが分かる。
ある程度目途が立ったら、今度は既に入り込んでいるゴブリン退治。
薬師ギルドの病室は兎も角も、職員専用の部屋には色々な物が置いてあり、意外にも、それらがゴブリンの興味を引き、直ぐに扉が破壊されるという事態は免れていた。これは不幸中の幸いだった。
しかも、薬草乾燥室に入り込んだゴブリンは、様々な薬効のある草を食べたせいで、体が痺れて動けないもの、泥酔したものなど、足元が覚束ない状態になっていたものが多く、ちょっと驚いたな。こいつらは簡単に退治出来た。
落ち着いた後に薬師にその件を話したら、薬草は乾燥させると含有成分が濃縮される為に、摘んだばかりの薬草を食べ慣れた魔物でも、勝手が違うのだろう、と話していた。
確かに、妻エミリアのポプリも、乾燥させる事で香りが強くなるから、乾燥すると薬効が濃縮されるという説明は、非常に理解しやすかった。
1階には多くの領民が運び込まれ、薬の匂いが充満していた。
外で、ゴブリンを討伐していた時、不意に、薬草の匂いが漂って来た。
どうやら、窓の隙間から匂いが漏れ出ていたようだ。その時になって、やっと、その匂いにゴブリンが引き寄せられている事に気付いた。
道理で、窓の近くに多くのゴブリンが押し寄せていた訳だ。
俺たちには分からないが、恐らく、微量に含まれる血の匂いも嗅ぎ取っていたに違いない。
急ぎ、1階の治療室の各窓に団員を配置させて、窓を守った。
そして、薬師に、少量の匂い漏れにゴブリンが引き寄せられている旨を伝え、治療するのは、騎士団で窓を守っている部屋だけで行うよう伝えた。
結界の外のゴブリンの殆どは、サラマンダーとフラウが倒していた。騎士団が行っていたのは、凍って上半身が割れたゴブリンの残りや、上半身が焼けて消失した下半身が凍ったままのゴブリンを保管庫に入れていく、という地道な作業。
先に、精霊たちを紹介しておいて良かったわ。そうでなかったら、ちょっとした騒動になっていたよ、あれ。
お陰で、魔力切れで倒れる騎士団員はいなかったよ。
ちょっと笑えた。
精霊二人は、とても満足そうだったよ。まぁ、俺も、建物内の件を団員たちに任せた後、ルウィージェス様から教えて貰った魔法をバンバン使っていたけどな。サラマンダーの分身には、屋根の上など、上の方にいるゴブリンを殲滅してもらい、フラウの分身には、逃げ惑う領民を襲っているゴブリンを片っ端から凍らせて、領民が逃げられるようにして貰っていた。
領民は驚いただろうけどな。
まぁ、もともと、ゴブリンに襲われパニックになっていたからな。いきなり自分を襲うゴブリンが凍っても、逃げる事で精一杯だったろう。落ち着いてから、あれは何だったのだろう、と思うかもしれないが、その時には俺たちはここにはいないしな。うん、いいだろう。
数年後、領内伝説にでもなっていたら、ちょっと面白いかもな。
集合住宅街から領民の遺体は全て回収した。ゴブリンの死骸も、【地図】で確認した範囲内は片付けた。
まだ領壁内にはゴブリンが残っているから、近いうちにまた討伐する必要はあるだろうが、とりあえず、現時点では完了した、と判断していいだろう。
人の声がする方向へ歩いて行く事にする。
集合住宅街からほど近い所に、大きな建物があった。その周りに多くの人々が集まり、ざわついている。建物の入り口に、「冒険者ギルド ライラン領ライラン支部」と書いてあった。
集合住宅街で回収した遺体の多くは、冒険者と思われる者たちだった。ギルドマスターに報告しておいた方が良いだろう。
カリンと二人で冒険者ギルドに入ると、外だけでなく、中も騒然としていた。
不思議な事に、包帯を巻いた者が多い。
ルウィージェスは、冒険者には【ヒール】を使う者が多いと聞いている。クラウスもそれを前提に、担当を振り分けていた。怪我人の治療に長けている者が多いから、大丈夫だろうとも言っていた。
カリンも、同じ事を思ったようだ。
「もしかして、怪我人が多過ぎて、魔力が足りなくなったのでしょうか?」
「残量魔力の問題で、重傷者を優先したから、軽症者は後回しにされたのかな?」
領民を教会に避難誘導していた魔術師団の団員を思い出す。軽症者の治療を後回しにしていた団員が多かった。だが、あれは移動手段の確保を優先させたからであって、本来は、治療する事で確実に命を助けられる者を優先する。
「でも、王都の総括レナーテさんから聞いた話しでは、領都のギルドでは一定以上の治療薬の保管が義務付けられているって、」
「えぇ、私も、その話は覚えています。」
冒険者登録にはまだ早い子どもと、見るからに騎士っぽい女性の二人組は、冒険者ギルドではちょっと目立ちすぎたようだ。気付くと、かなりの注目を集めていた。
慌てて、受付に自分の名前と貴族証を見せ、ギルドマスターへの面会を要請する。
貴族当主は、ドッグタグ式と二つ折りパスケース状の貴族証を持っている。ルウィージェスはアイテムボックスを持っているので、普段から二つ折りパスケース状の貴族証を持ち歩いている。
クラウスやエルンストは、普段は二つ折りパスケース状の貴族証を持ち歩いているが、遠征の時はドッグタグ式の貴族証を身に付けている。
王都から来た伯爵当主という事で、声を掛けられた受付の男性は驚き、何度も頭を下げ、「少々お待ちください」と言うと、奥に見える階段を走って行った。
程なくして、先ほどの男性が戻ってきて、2階のギルドマスターの部屋に案内する。
異常な程に腰の低い男性だ。何度も頭を下げながら「こちらです」と言う。
男性が戸を叩くと、中からギルドマスター自身が戸を開け、自分で中に案内し、上座をルウィージェスたちに譲る。
「初めてお目にかかります。私は、このライラン領の代表を務めます、ギルドマスターのユルゲンと申します。」
伯爵当主と聞いていたのだが、現れたのは8歳程度の子ども。ユルゲンは混乱し、どう反応したら良いのか、分からなくなっていた。
「突然の訪問失礼いたします。ぼくはリリーエムラ公爵当主の弟で、ルウィージェス・フォン・リリーエムラ伯爵です。」
公爵家の者と聞いて、ユルゲンの背からどっと大量の汗が吹き出す。
今、ギルド内は混乱の極致にあると言っても良い状態にある。領主邸からの正式な通達も連絡もないままに情報が錯綜し、いら立っている者も多い。
年齢的に、まさか貴族当主とは思わないだろう。それは分かる。服も、簡素に見える。だが、よく見れば、生地は絹特有の光沢を放っているし、襟元や手首には、細かい刺繍が施されている。明らかに貴族子弟の平服だ。でも、遠くからだったら、分からないかもしれない。
ゴブリン襲撃の連絡が入ったのは早朝だった。あの時間から来ている冒険者は真面目な者が多い。だが、今は違う。市場の方から移動して来るゴブリンが一気に減って、少し離れた薬師ギルドでは騎士団がゴブリン討伐を開始した、と目撃した者から連絡は入った。それ以降、明らかにゴブリンの数が減り、移動できる状態になり、少数ながらも冒険者たちが集まり始めた。
朝から大量のゴブリンを葬り、多くの死傷者が出る中で生き残り、興奮状態にある者も多いだろう。
――――誰か、公爵家の者に楯突いたり無礼を働いたりした者がいたのだろうか?
ユルゲンは、自分の首が飛ぶのを覚悟した。
「実は、先ほど集合住宅の方を見てきたのですが、そこで多くの冒険者と思われる方々の遺体を発見しました。今、ここで出すわけにはいかないので、後で、教会の方へ身元確認の為、ご足労願いたく、報告に来ました。」
一瞬の間をおいて、ユルゲンは、一気に脱力した。
貴族当主は不敬罪を施行する権利を持っている。公爵家に楯突くことは王国に楯突くことと同意語だ。目の前の少年はこの二つの権利を有している。
ある意味、今朝からの、文字通り命がけとなったゴブリン討伐より恐ろしい。
その恐怖から解放されただけで、命拾いをした気分になった。
ユルゲンは大きく息を吐き、呼吸を整えた。
「わざわざご連絡ありがとうございます。我々も、襲撃から時間が経っても冒険者の集まりが悪かったので、ある程度の覚悟はしていました。あの集合住宅の半分は、ギルドが管理しており、依頼の為に来た冒険者たちに貸していました。あの建物の入り口には扉がありませんから、階段を占拠されると、外に出る事が出来なくなります。昔は扉を付けていたのですが、冒険者は粗暴な者が多く、また、大きな武器を持ち歩く者も多い為、入り口のドアを取っ払ってしまったのです。それが、今回仇となりました。恐らく、あっという間に階段にまでゴブリンが来てしまったのでしょう。」
ルウィージェスは集合住宅を思い出していた。確かに、入り口に扉がなかった。破壊された扉が落ちているところも除けて歩いた記憶もない。
「なるほど。それで多くが防具を装備していなかったのですね。」
カリンも納得したようだ。
カリンにとって、武器も大切だが、ある意味、護衛としては防具の方が大切だ。護衛が怪我をしては守る者も守れない。だから、先ず防具を手に取る。防具を装着する前に武器を手に取る事はない。
だが、気付いたら戸の外にゴブリンが押し寄せていたら、確かに真っ先に武器を手に取るだろう。
ルウィージェスは、包帯を巻いたままの怪我人が多い事が気になっていた。
だが、ユルゲンが何気なく言った「冒険者の集まりが悪かった」という状況から、回復魔法を使える魔法使いの数が圧倒的に少なかった可能性も出てきた。
「ところで、怪我人はいませんか?ぼく、回復魔法が使えます。」
その言葉に、ユルゲンが大きく顔を歪ませた。
「伯爵様は回復魔法が使えるのですか?恐縮ですが、どうか、どうか、よろしくお願いいたします。」
ユルゲンは立ち上がり、深く何度も何度も頭を下げた。
ユルゲンの案内で隣接する救護所に行くと、驚くほどの数の負傷した冒険者が床に横たわっていた。よく見ると、冒険者だけでなく、普通の領民もいる。市場は道なりに長細かった。領壁側の店にいたなら、教会に避難するよりもこっちの方が近い。
「普段は、比較的早い時間に、教会の医療院からヒーラーが数名来てくれます。しかし、襲撃があった時間帯は、ヒーラーが来る前だったのです。ですから、たまたま居合わせた【ヒール】が使える冒険者たちが対応してくれていましたが、冒険者で【ハイヒール】が使える者はまずおりません。その為、止血だけは出来ましたが、それ以上治療が出来ず。それに、冒険者の方も魔力切れで、その殆どが倒れてしまいました。治療薬の大量に保管していたのですが、あっという間に底をつきました。しかし、怪我人は次々と運ばれてきます。我々に出来たのは、傷口を縛って止血する事だけでした。」
ユルゲンのその声は震えていた。握りしめる拳も、震えている。
それは、悔しさに対してのものなのか。
ルウィージェスは、総括レナーテから「ギルドマスターはAランクもしくはBランクにまで上り詰めた剣士が多い」と聞いている。この古い魔素問題の下では、AランクやBランクにまで上り詰める魔法使いは少ないと思われる。
恐らくユルゲンも、魔法があまり使えないAもしくはBランクにまで上り詰めた元剣士なのだろう。
「分かりました。」
ルウィージェスは、その場で右手を高く上げ【回復魔法:エリアハイヒール】を唱えた。ついでに、光魔法の【消臭】と【清浄】も重ねる。
籠っていた血の匂いが一瞬に消え、血に染まった衣類が元の色を取り戻した。
痛みで呻いた者は急に消えた痛みと傷に驚き、手や足を欠損した者は、いきなり復活した自分の手や足に戸惑っていた。
「これで、間に合わなかった者たち以外は、皆、回復したと思う。」
ユルゲンは、目の前の出来事が理解できずにいた。
負傷して床に横たわり、動く事も出来ずにいた者たちは、もっと混乱していた。
「ギルドマスターユルゲンさん、それじゃ、ぼくたちは一旦騎士団たちと合流するので、これで失礼しますね。」
ユルゲンは、状況を理解できない状態のままルウィージェスたちに礼を言い、見送った。
救護所から直接外に出たのは良いが、どっちに向かえば良いのか分からない。
ルウィージェスとカリンは、一旦冒険者ギルドに戻る事にした。
ギルド前には相変わらず人がたむろっているが、二人にちょっかいを出す者はいなかった。
受付に先程の男性がいたので、薬師ギルドもしくは、領壁の門の方向を聞くと、両方共同じ方向だった。
領壁の門を通り越して、少し領主邸側に向かう途中に薬師ギルドがあると言う。
王国騎士団たちと合流すべく、とりあえず領壁の門の方へ向かった。
薬師ギルドを担当していた王国騎士団は、既に領壁の門の前に集まっていた。
領壁の門は、既にクラウスたちによって結界が張られ、新たなゴブリンの侵入は防がれており、後は、残ったゴブリンを片付けるだけになっていた。
クラウスの姿を探そうかと思ったら、氷の精霊フラウがルウィージェスたちに気付き、迎えに来てくれた。
「クラウス団長~!」
火の精霊サラマンダーがルウィージェスたちに手を振っている。クラウスも二人に気付き、手を振った。
「ルウィージェス様の方も、片付け終わりましたか。」
ルウィージェスは、エルンストと別れてからの出来事と、冒険者が多く宿泊していた集合住宅と冒険者ギルドの件を伝えた。
「冒険者も集まる事が出来なかったのか。それは悪いことをした。ルウィージェス様、ありがとうございました。」
「ううん。ただ、死傷者の数が…ね。この保管庫に保存してあるんだけど、街のつくりといい、建物の構造といい、ちょっと問題が多過ぎた気が否めないというか。」
「そうですね。街のつくりはそう簡単に解決できませんが、少なくとも、建物の建て方は何とかすべき問題かと。少なくとも、集合住宅街における袋小路は、早急に対処すべき問題ですし、そもそも、建物の扉を取り外すというのは、問題です。王国の法律に触れていますからね。ギルドでの判断で取り外したとなると、これは、王都の冒険者ギルド総括にも関わってもらう必要があります。」
ルウィージェスは黙って頷いた。後は、大人たちに任せるしかない。
クラウスが『結界魔石』で封じた門の外には、まだまだ大量のゴブリンが残っている。その後ろに張られている、ルウィージェスの結界の外には、それこそ、大量のゴブリンの姿が確認出来る。というか、結界の外はゴブリンに囲まれている。しかも、見る限り、大半が少し大きめの新型ゴブリン。
「これ、営巣地を潰さない限り、解決しそうもないね。」
「頭、痛いですよ。あの洞窟を経験していますからね。正直、どれだけ準備をすれば良いのか、測りかねている、と言うのが本音です。」
珍しくクラウスが愚痴った。
しばらくするとエルンストたちの姿も見え、その後にリリーエムラ公爵家騎士団の面々の姿も見えてきた。
とりあえずは、街の中からゴブリンを一掃出来たようだ。まだ隠れ息を潜めているのもいるかもしれないが、それは見つけた時に対処すればいい。
門に張った結界の外にいるゴブリンは片付けないと、壁を乗り越えて領壁内に入ってきてしまう。消毒も兼ねて、ルウィージェスの【火魔法:火焔旋風】、【逆走火魔法:冷却】と【光魔法:清浄】で、防壁の周りに集まっているゴブリンを一掃した。
【空間魔法:地図】によると、このマイラン領都の正門側は岩山に面しているが、裏側から程近い所から崖になっている。領主カールに見せて貰った地図によれば、この丘陵を超えた先にプファルーツ州領の領都がある。
裏側の領壁の一部は崖を利用している。領壁近くは比較的緩やかなのでゴブリンなら登れそうだが、こういう崖には鹿系や狼系の魔物が棲んでいる事が多い。
新型と言えども、陸の魔物の中では弱者のゴブリン。自分たちより遥かに強い魔物が棲む場所には近づかないだろう。
クラウスの近くでは、ニックスが周りに睨みを利かせている。時より、崖側に視線を送っている。恐らく、狐か狼か、種族的に近い者がいると思われる。
裏側は、自然のヒエラルキーに任せればよい。
ルウィージェスは、最初に張った結界から更に5m程離れた場所に【空間魔法:強化結界】を張り直し、最初に張った結界と新しく張り直した結界の間に残るゴブリンを、先程と同じ魔法で片付けた。
門から8mだけゴブリンが遠ざかっただけでも圧迫感が違う。近くにいたライラン領の騎士たちが息を吐き、肩から力を抜く姿が見られた。
ライラン領騎士から連絡が行ったのだろう。領主カール・フォン・グラス・ライラン子爵が数名の騎士と共に門までやってきた。
「皆さま、本当にありがとうございました。領主邸からここまで、1匹のゴブリンとも遭遇せずに来ることが出来ました。」
領主カールは門から遠く離れた場所に見えるゴブリンに視線を移す。
「これだけゴブリンの姿が離れているだけ…。全く問題は解決していませんし、大変なのはこれからだというのは分かっているのですが、ゴブリンの姿がこれだけ離れているというだけで、安心感があるといいますか。」
カールは苦笑いしながら言うが、その気持ちはクラウスたちも理解出来る。
これから長期戦になる。ルウィージェスの魔法で結界を維持する訳にはいかない。
「カール領主、これから、」
クラウスは、エルンストから大きな袋を受け取り、中から魔石を取り出し見せた。
「これは『電撃付き結界魔石』というが、これをルウィージェス伯爵が張っている結界の手前に埋め込んで、改めて結界を張り直す必要があります。領壁の周りにこの魔石を等間隔で埋め込むので、領騎士の手も借りたい。」
クラウスはカールに『電撃付き結界魔石』を一つ、手渡した。
カールは、魔石を光にかざしたりして、まじまじと見ている。
「これが、その、結界を張る魔石、なのですか?」
「あぁ、電撃付きのな。この魔石で張った結界に触れると感電死するから、」
クラウスは、結界の外に集まり、結界を破ろうと奮闘するゴブリンを指さしながら続けた。
「あのように、結界に触れるゴブリンは全て自滅する。」
クラウスの指さしにつられて、カールも結界を叩くゴブリンを見る。
「はぁ~、流石宮廷魔術師団ですね。凄い物を…、」
袋を持っていたのがエルンストだったから、そう理解したのだろ。しかし、二人してカールの勘違いは訂正せず、団員らに魔石を埋める手順などの説明を始める。
領主カールの指示で集められた領騎士団員も、手渡された魔石を物珍しそうに眺めている。
だが、魔石は高価な物。大きくなればなるほど、高価になる。手渡された魔石は、優に拳半分はある大きさ。売れば、一生遊んで暮らせる金額になる。ましてや、これは結界魔石。数代先まで資産として残るだけの金額になるのは確実だ。
王国騎士団と宮廷魔術師団の団員は、その魔石は神族であるルウィージェスが作った物なのを知っている。
だが、領騎士団員は違う。数名程、指示された場所に埋めるふりをしてポケットに忍ばせた者がいた。
等間隔に埋められた魔石に魔力を通す時、一定のリズムで流れて行く筈の魔力が、途中で異なる速度になるから分かる。
魔石に魔力を流したのはルウィージェス。
すぐ横で様子を見ていたエルンストとクラウスに小声で伝えると、二人して苦虫を嚙み潰したような表情になった。
当然だ。ルウィージェスが神族と知らなくても、公爵家の者で伯爵家当主からの提供物を「横領」したのだ。
しかも、今回の提供物は、ライラン領を守る為に提供された物であり、国が定めた特例救済。体面的には、国からの支給品となっている。
その「横領」の罪は、重い。普通の「横領罪」だけに収まらない。
この魔石はライランの街を守る為の物。本人たちは「1個くらい」という軽い気持ちだったかもしれないが、それで結界が緩めば、領民に危害が及ぶ。領民の命を危険に晒しかねない行為。
クラウスは領主カールを呼びに行った。そして、呼ばれたカールもルウィージェスと共に、魔力が飛んだ場所に印を付ける。
そこは、ライラン領騎士が担当した場所。しかも8か所に上った。
領主カールは顔を真っ赤にしてクラウスとエルンストに詫び、ライラン領騎士団、騎士団長のアロイス・フォン・ペーターゼンを呼んだ。
騎士団長アロイスが来るまでの間に、アロイス・フォン・ペーターゼンは昔からライラン領の領主グラス家を支える男爵家の三男とカールが説明した。
カールから事の経緯を聞いたアロイスは、憤怒した。
「クラウス団長、エルンスト団長、本当に、本当に我が部下が申し訳ない事を致しました。」
ひれ伏して何度も何度も謝る。
カールが、団員に担当した場所に立たせるよう、アロイスに指示を出した。
呼ばれた領騎士団員たちは、何事かとざわついているが、心当たりがある者たちは顔色が悪くなり、額には大量の汗が浮かび上がる。
8名以外の団員は素直に自分が受け持った場所に素直に立った。しかし、8名の足取りは重い。
領騎士団長のアロイスが、動きの鈍い者たちが担当した両側に立つ騎士に聞く。
「ここを担当したのは誰だ?」と。
その質問で、多くの者たちは何が起こったか察した。そして、その罪の重さも。
だから、直ぐに答えた。
領主カールと領騎士団長アロイスが8名の身体検査を行うと、腰ポケットに収まる魔石が出てきた。
「カール領主、この者たちの罪は領で行うには重すぎる。国王陛下立ち合いの下に王都の裁判所の判断に委ねた方が良いだろう。」
カールも、クラウスの言葉の意味を理解している。明らかに、領主の裁断権を大きく超えている。
「ルウィージェス様、すみませんが、王城に【ゲート】を繋げて頂けますか?」
8名から目を離さずに聞いたクラウスにルウィージェスは頷いて、その場で【ゲート】を開いた。
既に盗みを働いた8名は、アロイスの命令で捕獲され、ロープに繋がれている。
周りには王国騎士団、宮廷魔術師団、リリーエムラ公爵騎士団もいる。
ライランの街は結界に囲まれている。逃げる場所などない。
8名は大人しくしている。
それを確認したクラウスは、王城へ向かった。
クラウスが王城から戻って来ると、後ろから王都に残っていた王国騎士団員4名と、宰相オルトールドが現れた。
「カール領主、紹介します。オルトールド・フォン・シューバート宰相閣下です。」
カールは慌ててオルトールドの前に移動し、片膝を折り、頭を下げた。そのすぐ後ろには、ライラン領、領騎士団長アロイスと、騒ぎを聞きつけた領騎士副団長カスパルも慌てて同じ姿勢を取った。
「宰相のオルトールドだ。詳細は王国騎士団長のクラウス子爵から聞いた。」
オルトールドは、捕獲され、項垂れて座る8名に視線を送った。
「何とも愚かな事をしたものだ。あの者たちの中に貴族家の者はおるか?」
その問いに答えたのは、頭を下げたままの領主カール。
「いえ、全員平民でございます。」
オルトールドから小さな溜息が漏れた。
「それであれば、当人だけで済むな。全員、これから王都に連れて行く。ライラン領主グラス子爵、あの者たちの家族に、家族にまで罪状は及ばない、と伝えてくれ。クラウス団長かエルンスト団長、どちらか、調書を取るのに付き合って貰いたいのだが、可能か?」
「私が行きましょう。魔法の事ですからね。」
そう答えるエルンストの横を、王都から来た騎士団員が、8名を連行し【ゲート】を通って行った。
「エルンスト団長、ランも連れて行って。ランとなら連絡が取れるから。」
「承知しました。」
藍は当然のようにエルンストの左肩にいるし、エルンストの魔力から生まれた土の精霊アリカントも、エルンストの右肩に座っている。二人とも、置いて行かれるとは、これっぽっちも考えていない。
「グラス子爵、今は無理だろうが、少し落ち着いたら、時間を取って貰いたい。」
オルトールドは、門から見えるライランの街に視線を移す。
火の手は上がっていないが、多くの建物が被害に遭っているのが見える。領主として、1秒たりとも離れるわけにはいかないのは一目瞭然だ。無理強いは出来ない。
「勿論でございます、宰相閣下。我が領の騎士が、この大変な時に、本当に申し訳ないことを致しました。深くお詫び申し上げます。」
カールは頭を深く下げ、詫びる。
オルトールドとエルンストが【ゲート】を通ったのを確認し、【ゲート】を閉じた。
クラウスは、【ゲート】が閉じた後も、頭を下げ続けるカールに声を掛けた。
「カール領主、この魔石を埋める必要がある。手伝って欲しい。」
「クラウス団長、私と領騎士団長アロイスと領騎士副団長カスパルの三人が責任を持って埋めます。」
「分かった、よろしく頼む。」
クラウスは素直に魔石をカールに渡した。
抜けている場所はもう分かっている。後は、そこに埋め直すだけだ。
作業は直ぐに終わった。
「それじゃ~、魔力、流すね~。」
改めて魔石に魔力を流した。今度は、一定のリズムで魔力が流れて行く。
不正をしたのは連行された8名だけだったようだ。
魔石を不正に取得すれば、王都に連行される程の罪になる、というのは分かった筈だ。もう、魔石を掠め取ろうとする不届き者は現れないだろう。
だが、ここにいたのは国や領に従事する者だけだ。一般の領民は知らない。
今後、この結界内までなら領民も出てくる事もあるだろう。何も知らない領民が「綺麗な石」と認識して、知らずに取ってしまう危険性も考えておくべきだ。
クラウスと相談後、念の為に【土魔法】で地固めをし、簡単には掘り起こせないようにしておくことにする。
無事に『電撃付き結界魔石』が発動し、結界が張られた。
結界の高さは10mにもなる。足場もない結界を登るのは不可能。それに、街のあちらこちらから煙が昇っている。ゴブリンの死骸などを焼却しているのだろう。これから廃材なども燃やしていく必要がある。しばらく煙が立ち上り続けるだろう。天上はない方がいい。
ルウィージェスは、張っていた結界を解いた。『電撃付き結界魔石』結界の外に張られた結界が消えた直後から感電死するゴブリンが大量発生しているが、それは、仲間同士で片付けて貰う。
日が傾き始めている。王国騎士団、宮廷魔術師団とリリーエムラ公爵騎士団は、これで今日の作業を終わりとした。
カールらと共に一旦領主邸に戻り、これからの事を話し合わなければならない。
結界が張られ、安全が確保された門の外側に、領騎士団員がかなり大きめな穴を掘っている。しかも、覗くと結構深い。
聞くと、ゴブリンの死骸や廃材を燃やす為の穴だという。
「今は、伝染病発生予防の為にゴブリンの死骸を片付ける事を優先していますが、今後は、復興を優先させる事になりますから、街中で燃やす事は難しくなります。皆さまのご尽力によって、領壁の外に穴を掘る余裕が出来ましたから、処分する物の搬送を開始するよう、命じました。」
領主カールは笑顔で言った。
もう、彼の気持ちは切り替わっている。
街から荷台に乗せたゴブリンの死骸や廃材が、領騎士、兵士や領民の手で次々と運ばれてくる。
領民がいる前では、火魔法を使うのを避けていた。次々に台車に乗せて運ばれてくる物を見て、ルウィージェスは、自分も保管庫にゴブリンの死骸が入れっぱなしになっている事を思い出す。エルンストに預けておいた保管庫もある。
クラウスに保管庫の件を話すと、騎士団員や魔術師団員に頼み、少しずつ入れてもらう事になった。
保管庫は空間魔法で作られている。まだ、他領の騎士たちに預けるべきではないとクラウスが判断した為だ。
団長のエルンストは今、王都にいる。副団長のザビーネを探し保管庫の件を伝えると、ザビーネもクラウスの判断に同意した。
ゴブリンは、集められている時点で臭気が酷い。
廃材を燃やすと煙が凄いが、ゴブリンを燃やすと、煙も酷くなるが、一時的に匂いももっと凄くなる。
既に、近くにいるだけで、喉と目が痛くなる程の煙と匂いが立ち込めている。
これから数日は、この光景が続く事になる。
ルウィージェスは、【光魔法:空気清浄】の『魔石』を作り、焼却穴の周りに埋め込んだ。
今後の事は、クラウスたちに任せればいい。
ルウィージェスは、クラウスとザビーネに、集合住宅街で見つけた遺体を教会へ届ける事を伝え、カリンと二人で移動した。
教会前の『中央公園』に張った結界の中に多くの領民が集まっていた。
まだ領主邸から、領壁内からのゴブリン完全討伐宣言は出されていない。
大きな被害を逃れた『中央公園』には明かりが灯っているが、空は大分暗くなってきているのに、街中に明かりは見えない。暗闇からの襲撃を警戒しているのだろう。
教会は少し坂を上った所にある。結界の中からでも、木々の間から、坂の下に広がる街並みが見える。
誰もが不安そうに、自分たちの街を見下ろしている。
ここからでも分かるほど、至る所が破壊され、多くの建物が倒壊している。
教会で名乗ると、ルウィージェスの事は宮廷魔術師団から伝わっていたようだ。この教会のトップの司教が出てきた。名をボーデと言った。
司教ボーデの一通りの挨拶が終わるのを待ち、ルウィージェスは、街中や集合住宅で多くの遺体を発見した旨を伝えた。
「ありがとうございます、伯爵様。こちらへ。」
司教ボーデの案内で、教会裏に臨時に設置された遺体安置所に移動した。
そこには、まだ身元が確認されていない多くの領民の遺体が並んでいた。
遺体には布がかけられているが、幼子や小児は、その膨らみの小ささから直ぐに分かる。
日中≪神術:探査≫で確認した時同様に、まだ多くの小さな遺体が並んでいた。街中が歩けるようになって、それなりの時間が経った。親も負傷し動けない状態なのか、犠牲になってしまい、迎えに来られないのか。
胸が痛む光景だ。
司教ボーデは、保管庫が魔法で作られているのに直ぐに気付いた。
驚きはしたが、今はその時ではない、と判断したようだ。教会関係者を呼び、保管庫から遺体を運び出す手伝いをさせた。
司教ボーデが預かると言ったが、ルウィージェスは、この保管庫は王国騎士団と宮廷魔術師団所有の物だと説明し、自分で持っていくと伝え、司教へやんわりと断りを入れた。
改めて数えると、その数優に200体を大きく超える遺体が保管庫に入っていた。感覚的には、街中が4割、集合住宅が6割と行ったところか。
司教ボーデに、冒険者ギルドのギルドマスターには、身元確認に来るよう既に伝えてある旨を伝え、二人は教会を後にした。
気付くと、外はすっかり帳が落ち、活動時間の終わりを告げていた。
「今気付いたけど、軽食はつまんだけれど、ちゃんとした昼ご飯、食べてなかったね。流石に、おなかがすいた。」
「夢中でしたからね。私も、今になって空腹を自覚しました。」
二人で苦笑し、領主邸への道を進んだ。
領主邸までの道のりは真っ暗だった。
カリンが倒れた棒の先にある、破壊された魔道具を見つけ、改めて道の両端を見ると、本来は、崖側に魔道具の灯が等間隔で並んでいたようだ。
まだゴブリンが残っている可能性が高い。常時結界を張っている自分たちは兎も角も、これだけ暗いと、手元にしか灯りがない状態で移動するのは危険だ。
ルウィージェスは、【光魔法:光】と【土魔法:砂】の混合魔法【創造魔法:輝光真砂】で光る細かい砂を大量に作り、【風魔法:浮遊】の魔石『浮遊魔石』を複数作った。
『浮遊魔石』を道の脇の目立たない所に埋め、土魔法でしっかりと固定、そして、【創造魔法:輝光真砂】で大量に作った光る砂を、宙に浮かべた。魔石の期限は1年とし、1年後は崩れて消える。光る砂の光度は太陽光よりも劣る為、日中は目立たず、日が暮れ始めてようやくその明かりが見える、その程度光で、『浮遊魔石』が崩れれば、光る砂もその役割を終え、ただの砂になるよう設定した。
ルウィージェスとカリンは、光る砂を宙に投げながら移動し、領主邸の門が見えた所で後ろを振り返った。
「うん、これだけ明るければ、ゴブリンの姿、見えるね。」
「はい、十分に明るいかと思います。」
二人は知らなかったが、下から領主邸の方を見た領民が、明るい何かが領主邸の方に、少しずつだが伸びているのに気付き、ちょっとした騒ぎになっていたのだが、王国騎士団と宮廷魔術師団の団員は、直ぐにルウィージェスによるものと分かり、「大丈夫ですよ」とか「魔法で明かりを灯しているだけです」と領民に説明して、騒ぎを鎮火させていた。
領主邸に戻ると、先に領主邸に戻って来ていた団員たちは、既に夕食を食べ始めていた。
「ルウィージェス様、カリン様!」
呼ばれた方を向くと、アダルベルトとウィルヘルムがいた。足元には母狐ミルとニックスとシュネーがいたが、子狐たちは母狐ミルに埋もれて熟睡していた。がんばってスキルを発動させ続けたのだろう。
リリーエムラ公爵家騎士団がルウィージェスとカリンの席を確保しており、二人が座ると、騎士たちが料理と飲み物を持って来てくれた。
「ありがとう。」
皆に礼を言い、やっと、朝食以来の、しっかりとした食事を二人は楽しんだ。
しばらくすると、遠くから念話が飛んできた。藍からの連絡だ。
ルウィージェスは【ゲート】を開くと、エルンスト、藍とアリカントが戻って来た。
エルンストも空腹だったようだが、先にクラウスに伝えなければならない。
リリーエムラ公爵家の騎士団員から飲み物だけ受け取ると、一気に飲み干し、クラウスを探しに移動した。
食事が終わり、ルウィージェスが食後のハーブティーを飲みながらまったりしていると、クラウス、エルンストとザビーネが戻って来た。
三人はこれから夕食。空いている席を探し始めた三人だったが、団員たちが案内し、他の団員たちが取りに行った。
飲み物は好みがあるからか、団員たちは飲み物が用意されている場所を伝え、三人はその時の気分で飲み物を選び、席に戻ると、多くの食べ物が既に用意されていた。
三人は皆に礼を言い、ようやく落ち着いて朝食以来のまともな食事を楽しんだ。
第55話から続く、ライランの街の話です。
突然ゴブリンの襲撃を受け、大打撃を受けたライラン領都でしたが、何とか、街中からゴブリンを駆逐する事に成功しました。まだ、隠れ潜むのがいるかもしれませんが、数的にはそう多くはないだろう、そう断言できる状態となりました。
今、ライラン領都を囲む結界はルウィージェスの魔術で張られています。これを、『結界魔石』で張り直す事になったのですが、ここで問題が発生しました。
次は、来週9月12日(土)20:00公開予定です。
第59話 「ゴブリンの襲撃㉔―ライラン領⑤―」
来週もよろしくお願いいたします。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月 千颯 拝




