第49話 「ゴブリンの襲撃⑭―洞窟の閉鎖③精霊の活躍―」
お久しぶりです、ルウィージェスです。すっかりご無沙汰しております。
いつ振りだろう?自分でも覚えてないや。へへ。
姉さまは、この惑星エムラでは精霊の影響を最低限にしていると言っていたのに、剣の魂に精霊剣を渡しているから、何故?って聞いたんだ。
そうしたら、一番上のソフィアテリビス兄さまが創造神をしている惑星でも、精霊の影響を最低限に抑えているらしいんだけど、一切妖精・精霊と話せる者を置いていなかった上に、精霊を眷属に持つ妖精の力が強くなり過ぎて、ただでさえ困っていたところに、特に気候に強い影響力を持つ妖精同士が争いになって、自分たちの力を見せつけあった結果、砂漠化した大地が広がり、氷に閉ざされた大地も広がり、雨が降り続ける地域が出来て、風が吹き荒れる地域が出来てと、とにかく、妖精の権力争に巻き込まれた大地が荒れ果ててしまい、生命が安心して住める地域が貴重になってしまい、その貴重な地域を求めてヒト族が争いを始め、と、収拾がつかない状態になってしまったことがあったんだって。
結局、兄さまは一度、惑星にある火山を全て噴火させて、9割の文明を滅ぼして、やり直しさせたんだって。その時、妖精の数も精霊の数も、かなり減らしたらしい。
それを見ていたから、精霊と妖精を管理する者の設置は不可欠だと思ったんだって。
妖精の方は、妖精族であるエルフやドワーフ、音楽の妖精アイレンなど、ヒト族と交わることに嫌悪感や拒絶感の低い種族を主において、感情的に暴走しにくい環境を作ったんだって。
だけど、精霊はヒト族には見えない存在だから、特別な能力を持つ者を置く必要がある。けれど、精霊は強いけれど、負の感情に弱い生命体、負の感情に影響を受けやすい生命体、と言った方が適切かな?そういう、ある意味不安定な存在だから、精霊とやりとりできる者は、強い精神を持つ者である必要もある。
だから、創造神と直接やりとりが出来る『始祖の魂』を持つ者に、精霊との高い親和性を与え、その直系に、『始祖の魂』の能力に加え、精霊との親和性も受け継がれるよう、『始祖の魂』の血が薄くなり過ぎないよう、ずっと管理し続けていたんだって。
それでも、どうしても血は薄くなってしまうから、「創造神の使徒」となった者の血が、『始祖の魂』の血族の中に定期的に入るようにしていたらしいよ。
「創造神の使徒」となった者は、魂の神格が少し高くなるから、『始祖の魂』の血を濃くする力があるんだって。ぼくは創造神としての力はないから、姉さまから聞いて初めて知ったんだけど、自分が思っていた以上に創造神が関与している部分があって、うん、びっくりした。
クラウス団長とエルンスト団長は『始祖の魂』を持つ者だけど、その上に、妖精王・精霊王でもあるぼくの眷属ニックスとランの加護を受けているから、二人とも、精霊との相性はかなりのものになっている筈。
二人とも、ランとニックスから加護を受けた時点で姉さまの管轄から外れて、ぼくの管轄になっているから、ぼくがこの惑星のバランスを整える方法を考える必要があるし、責任があるからね。頑張らなくっちゃ!
ルウィージェスによると、クラウスは精霊剣の正統継承者であるという。しかも、今、シューバート侯爵家にある、「普通ではない剣」と伝わっている剣が精霊剣であり、フォーゲル伯爵家に代々伝わる魔法杖同様に、寿命が尽きかけている、という。
今、クラウスが手にしているのは、この場で精霊王が新しく作った精霊剣だ。この精霊剣は精霊と契約して初めて最大の力を発揮する。
基本的に、精霊王が作った精霊剣であれ、創造神が創った精霊剣であれ、精霊と契約出来なかった場合でも精霊剣は使えることは使える。しかし、その場合は、材料として使われている精霊鉱石、もしくは、神術が掛けられた鉄の中に宿る精霊がその辺にいる精霊に声を掛け、その声に答えた精霊が気まぐれで力を貸してくれるだけなので、魔法の威力が、必ずしも増強されるわけではない。
古い方の精霊剣の、神術が掛けられた鉄の中には複数の精霊が棲んでおり、契約精霊がいない状態であっても、剣に刻まれているシューバート侯爵家の紋章『武術の要』の神道具によって、持ち主が危機に陥った時には、適宜、剣に宿る精霊の力を増幅し、手助けできるようになっていた。『武術の要』の神道具によって増強されるのは、その状況に応じて協力することを是とした精霊の力。
その増強された力を発揮するのに必要だったのが、剣の持ち主の魔力。その為、初級レベルの魔法しか発動されず、あくまでも、危機的状況から逃れることを目的とした魔法に限られていた。
クラウスの視線は、新しく作られた精霊剣から離れない。いや、離せない。
精霊の存在は知っていたが、人の目には見えない者たち、と聞いている。クラウスも、実際に見たこともなければ、見たことがあるという人も知らないし、聞いたこともない。
それが、見えるようになると言うのだ。ワクワクしない訳がない。
「【精霊魔術:精霊の窓】」
ルウィージェスが真っすぐ前に伸ばした右手の前に魔法陣みたいな物が現れたと思ったら、物凄い勢いで回転し始め、中央に光が集まり始めた。
光が直径2cmくらいになっただろうか。光の周りで回転していた物が消え、中心の光が膨張し始めた。
目の前に直径30㎝程の円形の光が浮いている。
「クラウス団長、剣をこの光の前に持って来て、微量でいいから魔力を流してくれる?」
「承知した。」
クラウスは光の前に立った。両手でしっかりとグリップを握り、少量の魔力を流した。
「この剣と剣の持ち主が気になったら出てきて~」
緊張感のない、ちょっと間延びしたルウィージェスの声が響いた。そう、響いた。普通に声を出している訳ではないようだ。クラウスは、ルウィージェスの声も気になったが、それ以上に光の方が気になり、目の前に展開されている光から目を離さずにいた。
光の中から沢山の光玉が出てきた。
ルウィージェスの説明によると、クラウスは既に精霊剣の正式な主となっているために、光玉としてだが、精霊の姿が見えるとのこと。
「クラウス団長はまだ契約していないから光玉にしか見えないと思うけれど、色々な属性を持つ精霊が興味を持ってくれたみたいだよ。」
クラウスの目には、沢山の小さな光玉が剣の周りをふよふよ漂っているように見えている。
大半の光玉が少し距離を置いて漂っているのに対し、10個程の光玉が剣に物凄く近づき、くるくると回っている。
時々、グリップを握るクラウスの手の方まで光玉が飛んでくることがある。
「今、クラウス団長の手の周りを飛んでいる精霊は、クラウス団長の魔力と自分の魔力の相性を確認している。」
「おぉ~、」
思わず声が出た。
ルウィージェスに聞きたいことはあるが、声を出したら怖がられてしまうような気がして、質問するのを躊躇する。
現在、剣に触れそうな距離を漂っている光玉は3つだ。
「今、剣の傍にいるのは、火属性が二人と氷属性が一人。」
「ルウィージェス様、」
クラウスは小さな声でルウィージェスに声を掛けた。
「やはり自分が持っている属性の精霊が興味を持ってくれるのでしょうか?」
「その場合が多いけど、そうとも限らないよ。時たまに、全く違う属性を持つ精霊が気に入ってくれることもある。その場合は、精霊剣を通じてのみ、自分にない属性の魔法が使えるようになる。魔法の強さは、契約した精霊の強さによるけどね。」
「おぉ…、」
剣の近くにいる光玉は2つになった。そして、
「あ、」
ルウィージェスが声を上げた瞬間に、2つの光が消えた。クラウスには2つの光が剣の中に吸い込まれたように見えた。
「珍しい!クラウス団長、火の精霊サラマンダーと氷の精霊フラウが契約するって!」
「え?二人も、…ですか?」
「うん。火と氷の両方!」
クラウスは驚きの余り実感が持てず、固まっている。
「精霊は気分屋さんだからね。さっさと契約しちゃおう。クラウス団長、合図したら、さっきより少し多めの魔力を流して。その後、ぼくが『火属性』と言ったら、剣に【火魔法:火球】を纏わして、『氷属性』と言ったら【氷魔法:雪の舞い】を纏わしてね。」
「承知しました。」
返事したクラウスの声は、傍から聞いても分かるくらい、緊張しまくっていた。
【氷魔法:雪の舞い】は戦い向けの魔法ではない。本当に雪を少しだけ降らせる魔法で、『子育て魔法』と一般的に言われ、子どもの機嫌を直したりする時に使われる初歩魔法。
クラウスも、子どもが小さい時に使ったきりで、すっかり記憶の彼方に飛んでいた魔法だ。
クラウスは立ち位置を再度確認し、息を吐き深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。そして、改めてグリップを握りしめた。
ルウィージェスの言葉を逃さないよう、意識を向ける。
「【精霊魔術:精霊の契約】開始。」
ルウィージェスが唱えると、剣の中から光が2つ現れた。
「クラウス団長、魔力流して!」
クラウスは、逸る自分に『落ち着け』と命令し、ゆっくりと魔力を込める。込める魔力量は旧【火魔法:火球】程度にした。
ルウィージェスは剣に魔力が満ちるのを確認し、
「火の精霊サラマンダー、氷の精霊フラウ、精霊王ルウィージェスの言葉を聞け。シューバート印の正統所有者、クラウス・フォン・シューバートの良き協力者となれ。」
一瞬、『シューバート印の正統所有者』という言葉に違和感を覚えたクラウスだが、姿を現した精霊に心も釘付けになった。
「クラウス団長、火属性を!」
今では古い【火球】を思い出す方が難しくなる程に使い慣れた新しい方の【火魔法:火球】を剣に纏わせる。
「火の精霊サラマンダー、シューバートの協力者となるか?」
先程まで光玉としか見えなかった精霊の姿がしっかりと見えている。
火の精霊サラマンダーは「火蜥蜴」と聞いていたが、クラウスの目には、小型の土竜に見える。
火の精霊サラマンダーはじっとクラウスを見ている。クラウスも、目をそらさず、じっと見ている。
見つめ合ったのは、ほんの10秒くらいか。突如、火の精霊サラマンダーが小さいが人型になった。赤毛の男の子。緋色のポンチョに大きめのケープ袖が付いたガナーチの様な服を着て、腰を紐で結んでいる。イメージとしては、やんちゃ坊主。赤い髪は炎のように上になびいている。よく見ると、尻尾はそのままだ。
「シューバート、またよろしくな!」
――――また?あ、え?今の声、火の精霊サラマンダーの?
突如人型になったのに驚き、声が聞こえてきたのに驚き、クラウスは「また」の意味を聞きそびれた。
「クラウス団長、今度は氷属性を!」
「あ、了解!」
クラウスは呼吸を整え、【雪の舞い】を剣に纏わせた。
「氷の精霊フラウ、クラウス・フォン・シューバートの協力者となるか?」
氷の精霊フラウは、クラウスには女性の形をした小さな精霊に見える。髪は銀色で腰までの長さがあり、肩甲骨辺りで、一つに結わいている。エルフの様に少し耳が長い。ケープを羽織っているからよくわからないが、ケープの下から見えるのは、白くゆったりとしたスカートを履き、長めの白いエプロンみたいな物がスカートの上にある。長いエプロンみたいな物は、よく見ると、銀色の糸で細かい刺繍がされているのが光の陰影で分かった。ダルメシアンの民族衣装みたいな感じ、と言えば分かりやすいか。
凛とした美人。これがクラウスの第一印象だ。
氷の精霊フラウは、ふわふわとクラウスの周りを飛んでいる。クラウスは、視線を送ってもいいのか、迷う。
先ほどのサラマンダーはじっと見てきたから、クラウスもじっと見つめ返した。特に気を悪くした感じはなかった。
恐る恐る、クラウスはフラウの姿を追う。
「クラウス、よろしくね。」
フラウは剣を握るクラウスの右手の上に座った。
クラウスは感動していた。親指の付け根にフラウが座っている感覚があるのだ。つまり、精霊に触れられる、ということだ。
「火の精霊サラマンダー、氷の精霊フラウ、俺の名はクラウス。よろしく頼む。」
サラマンダーとフラウは満足したようだ。剣の中に入っていった。
――――姉さまは、剣の魂の時も、1回目の転生の時も、契約出来たのはサラマンダーだけだったと言ってた。フラウは、『魔道神獣』雪狐の加護の影響なんだろうな、きっと。
「クラウス団長、おめでとう!これで、正式に精霊剣が使えるようになったね。」
クラウスは、契約精霊の二人が入っていった剣に見入っている。
「その剣の中、厳密にいえば、精霊鉄と精霊鋼の中が二人の棲み処。時々、剣の外に呼びだしてあげて。契約したことで実体を持ったから、食べる事も飲む事も出来るようになったから、時々、一緒にお茶会に誘ってあげると喜ぶよ。ランとニックスが近くにいたら、一緒に遊ぶと思う。エミリア婦人に見せたい場合は、少し多めの魔力を剣に流してから呼べば、見えるようになるから。オルトールドさんは姉さまの眷属だから、実態を持った状態の精霊なら、何もしなくても見えるよ。」
「そうなのですか!…さっさとゴブリン、片付けたいですね。エミリアの驚く顔が見てみたいです。」
クラウスの顔は緩んでいる。ルウィージェスの同級生が使う言葉を借りれば、ニヘラとしている、が見事に当てはまる表情だ。
ルウィージェスは、『全精霊術・全精霊術の権能』を発動させ世界樹の枝を呼び呼び寄せ、『大地と地下鉱物の権限』を発動させミスリルと金を作り出した。
「これで、精霊剣専用の鞘を作ろう。」
ミスリルと金で装飾された鞘が、気付くとルウィージェスの手の中にあった。
細かい装飾が鞘全体的に施されているが、豪華なのに煌びやかな感じも派手さ感じさせず、重厚な感じを纏っている。
クラウスはルウィージェスから鞘を受け取ると剣を収めた。腰に付けてある剣と鞘を外し、アイテムボックスに入れ、世界樹で作られた鞘の中に収められた精霊剣を腰に下げた。
「うん。いい感じに出来たね。その精霊剣はクラウス団長専用だから、今生が終わる時、アイテムボックス内に入れておくといいよ。そうしたら、来世でもその剣が使えるから。」
「来世…。やっぱり転生ってあるのですか?」
「うん。この惑星の生命の数は決まっているからね。余程のことをしない限りは転生出来るよ。今、シューバート侯爵家にある精霊剣は寿命が来ているから、このゴブリンが全て片付いたら、フォーゲル伯爵家の魔法杖と一緒に、新しいのを作り直そう。」
「あ、ありがとうございます。来世、ですか。それはそれで楽しみです。あ、その場合、契約した精霊はどうなるのでしょう?もう一度、契約し直す必要あるのですか?」
「いや、一度契約したら、クラウス団長から、もしくは、精霊側から解除を求めない限りは、ずっと続くよ。基本的に、精霊側から解除を求める事は、殆どないかな。稀にあるかもしれないけれど、本当に稀な例外。新しい精霊が契約を求めにやってくることはあるけどね。」
クラウスは、腰に下がる剣のグリップを撫でている。ニマニマが止まらない。
「あ~、一つだけ契約が自動的に切れる時があった。」
「それは、どういう時なのですか?」
そう聞きながらも、クラウスの手は世界樹の鞘を撫でている。
「精霊剣に寿命が来て、精霊が棲めなくなった時。今、シューバート侯爵家にある精霊剣がそういう状態になっている筈。」
流石にクラウスの手が止まった。
「それでは、本家に大事に保管されている精霊剣には、もう精霊は棲んでいない?」
「うん。」
「それはそれで…、」
本家で如何に大切に扱われているか知っているだけに、微妙な気分になった。
その時、ルウィージェスは強大な魔力同士が近づくのを察知し、クラウスを守るように結界を張った。洞窟内に入る時に、クラウスの顔と頭を守るように結界を張ったが、体を守る結界はまだ張っていなかった。
その直後、地面が揺れる程の爆発音が響いてきて、天井からパラパラと小石や破片が落ちてきた。
「エルンスト団長、派手にやってるね~。」
「え、今の、エルンスト殿の魔法だったのですか?」
「うん。早速新しい魔法杖を使って、上級魔法を使っているみたいだ。クラウス団長も、精霊剣で派手にやろう。今回、必要の際は、魔力の調節はぼくがするから安心して。使い方は付与魔法と一緒だけど、精霊と息を合わせると、もっと巨大な魔法を放てるようになるから。とりあえず、やってみよう!」
クラウスは頷き、精霊剣を鞘から取り出した。
すると、サラマンダーとフラウが顔を出した。
「お、やるか?」
サラマンダーはやる気満々だ。
サラマンダーは、クラウスの目の高さを維持しながら、近くをふよふよと浮いている。フラウは、空の鞘に座っている。
「これから、この洞窟内を焼いて行くのだが、俺が担当するのは、この通路と隣の通路だ。よろしく頼む。」
「それなら、オレの出番だな。」
「サラマンダー、今生では初めてになるから、最初は小さめな規模でね。体を慣らさないといけないから。」
「そのようだな。」
クラウスは、ルウィージェスが言った『今生』という言葉が気になったのだが、サラマンダーのやる気が凄く、聞くタイミングを逸した。
「シューバート、いや、今はクラウスだったか。クラウス、【混合魔法:火嵐】は使えるか?」
【混合魔法:火嵐】は、複数の【火魔法:火球】を【風魔法:暴風】に乗せて、剣を炎で包む、付与魔法に適した火炎弾だ。一度に複数の【火球】を広域に放つことが出来る。初級ながら広域魔法という、保持魔力量が魔術師と比べると少ない剣士にとっては、使い勝手のよい攻撃魔法。
「あぁ、使える。」
「それで、この近くにいるゴブリンを片付けようぜ。」
「とりあえず、クラウス団長は初めて精霊剣を使うからね~。そうだね、距離としては、300mにしようか。ここから300mで結界を張るから。」
「よっしゃー!オレはいつでも行けるぞ。」
ルウィージェスが結界を張ると、クラウスは足元を固め、精霊剣をしっかりと握りしめ、剣を構えた。
「【混合魔法:火嵐】」
クラウスが唱えると、複数の【火球】が現れ、【暴風】が剣の周りを渦巻き、【火球】が【暴風】に乗って、同じようにぐるぐると回り始めた。
それと同時に、剣の色が変わった。柄から剣身の中間地点までは白銀で、そこから先端に近付くほど青みが強くなる。そして、剣身の切先と刃先は紅色になっている。
簡単に言うと、豊富な酸素下で見られる高温の炎のようだ。
見事なグラデーションに見入っていたクラウスだったが、【火球】が光っているように見える事に気付いた。
思わず、少しだけ剣を自分に近付け、剣の周りを高速回転する火球に視点を合わせようと、目を凝らす。
「あ~、【火球】が光ってみえるんだろう?その光は全てオレの分身だ。」
「え?」
サラマンダーの説明は簡略過ぎてクラウスが理解出来ないので、ルウィージェスが追加説明を行った。
「それでは、火の精霊サラマンダーの力の一つが、火球一つ一つに自分の分身を乗せる事が出来て、その分身が火球の威力を底上げしてくれる、と?」
「そうそう。オレの分身が火球の威力を上げるし、火球の飛行速度を上げることも方向を変更させることも出来るって訳さ。」
「…凄いな。」
クラウスは心の底から驚嘆していた。
「これが精霊剣の力であって、精霊剣を使うシューバート侯爵家の本当の力だよ。」
驚くクラウスに、ルウィージェスがニッコリと笑って説明した。
――――まさか、シューバート侯爵家に代々伝わる、聖剣でも魔剣でもないが、普通の剣でもないあれが、精霊剣だったとはな。しかも、その継承者が俺だったとは。
思わずクラウスから笑みが零れる。
「おい、クラウス!お前の気持ちも分かるが、待ちくたびれたぞ。早く放て!」
もう少し感激に浸っていたかったが、サラマンダーがそれを許さなかった。
「すまん、今、放つ。」
クラウスは、もう一度立ち位置を調整し、【混合魔法:火嵐】を纏う精霊剣を強く握り、構え直す。
そして、
「【混合魔法:火嵐】発動」
掛け声とともに、精霊剣を大きく振り、【混合魔法:火嵐】を前方へ放る。
「オレの子分どもよ、暴れまくれ!」
サラマンダーがそう言うと、「キャッホー」と、楽しそうな声が多重音となって聞こえてきた。
そして、思わずクラウスの目が点になる。なんと、【火球】が四方八方に散らばり始めたのだ。
「これが、サラマンダーが言っていた、分身の力?」
「おうよ、凄いだろう。オレの得意技さ。」
「あぁ、本当に凄い…。」
物理を無視した【火球】の軌道に感動していたクラウスだが、思わず目を瞬かせ、じっと一点を凝視する。
ゴブリンなり壁なりに衝突した【火球】は爆ぜて消えると思っていたのだが、よく見ると、消える【火球】も確かにあったが、爆ぜて細かくなった【火球】が方向を変えて、そのまま飛んでいくのが見えた。しかも、爆ぜて小さくなった【火球】に光がくっついている。
「もしかして、風の勢いがあるうちは、何度でも飛んでいく?」
「勿論さ。オレが扱えるのはあくまでも火魔法だからな。風の勢いがなくなったら、それ以上は動けない。だが、風の勢いがあるうちだったら、何度でも炎の勢いを戻すことは造作もない。」
えっへん、という文字が見えそうなくらい、両手を腰にあて、胸を張り、「すげーだろう」と言わんばかりのサラマンダー。数年前まで小さな息子に振り回されていたクラウスは、息子も同じようにしていた事を思い出し、思わず「かわいい」と心の中で呟いた。
数分後、どうやらぶつかり続けた風の勢いも消えたようだ。落ちた【火球】はそのまま消えた。
「クラウス団長、普段と比べてどう?」
「普段より消費魔力が増えたとか、そういう感じは全くなかったです。それに、これだけの広範囲に火魔法を広げようとしたら、同じ魔法を複数回放つか、風魔法を追加しなければならないのですが、【混合魔法:火嵐】を1回放っただけで、これだけの威力。正直、今、凄く感動しています。」
先ほどまでクラウスの目の位置の付近をふよふよしていたサラマンダーは、今はクラウスの左肩にいる。左肩に、何かが乗っている感覚がある。藍が何度かクラウスの肩に乗ったことがあるが、それよりもずっと軽い。
関係ないが、サラマンダーの重さとの違いを感じたクラウスは、「最近、ラン、ちょっと丸くなったよな。」と思った。
右手に持つ剣は、少し青みを帯びた元の色に戻っていた。
「剣の色は使っているうちに、精霊たちの居心地の良い色に変わっていくから、楽しみにしていて。」
「ほぉ~、それは楽しみですね。」
クラウスの表情は緩みっぱなしだ。
――――初めて使ったのに、全く反動来ないとか。流石、剣の魂。記憶は封じられていても、魂は覚えているんだね。それに、
ルウィージェスはクラウスの左肩で、クラウスに話しかけているサラマンダーを見た。
――――まさか、剣の魂の時に契約したサラマンダーが、また契約するとは思わなかった。余程相性が良かったのかな。今度の剣は、精霊王の精霊鉱石を使っているから、精霊の力も存分に発揮できる筈。
ルウィージェスは結界内に生命反応が完全に消えたのを確認した。
「サラマンダーの分身が、隠れていたゴブリン、全てを倒してくれたみたいだね。この結界内には死骸も含めて残っていない。そろそろ先に進もうかと思うんだけど、」
そうルウィージェスが言った時、ずっと空の鞘に座って大人しくしていた氷の精霊フラウがルウィージェスの前にふわふわと飛んできた。
「今度は私が結界内を冷やしますわ。」
「そうだね。フラウに頼もう。」
ルウィージェスがそう答えると、フラウがクラウスの前に移動した。
「今度は私の番ね。クラウスは、【混合魔法:吹雪】って使えますの?」
クラウスは、【風魔法:風吹】と【氷魔法:雪の舞い】の混合魔法である【混合魔法:吹雪】は使ったことがなかった。思わずルウィージェスに助けを求めた。
「あぁ~、使ったこと、ないんだね。これが【混合魔法:吹雪】の魔法陣だよ。」
そう言うと、ルウィージェスは【時空間混合魔法:魔法陣読解】と【混合魔法:吹雪】を同時に唱え、空中に【混合魔法:吹雪】の魔法陣を出した。
「これから、魔力の流れを示すから、見ててね。」
クラウスは、気迫を込めて頷いた。一度で覚えて見せる、と言わんばかりの気迫が漲っている。
「【時空間混合魔法:魔法陣読解】開始!」
クラウスは宙に浮かぶ魔法陣の中を移動する光を凝視している。
エルンストが見たら、風魔法により魔力が流れる作りになっていることに気付いただろう。
【氷魔法:雪の舞い】は、氷の精霊フラウも使える魔法だから、ルウィージェスは敢えて、フラウが使えない風魔法の方を強化した魔法陣をクラウスに見せたのだ。
ルウィージェスは、クラウスが魔法陣に釘付けになっている間に、アイテムボックス内から紙を取り出し、【混合魔法:吹雪】の魔法陣と、【風魔法:風吹】の魔法陣も用意した。
「クラウス団長、これが【混合魔法:吹雪】の魔法陣で、こっちが【風魔法:風吹】の魔法陣。【風魔法:風吹】も便利魔法だから、時間のある時にでも試してみて。」
「ありがとうございます。」
頑張って1回で覚えるつもりだったが、一度で覚えるには、混合魔法の魔法陣は少し複雑すぎた。
クラウスは、受け取った【風魔法:風吹】の魔法陣はアイテムボックスに入れ、【混合魔法:吹雪】をもう一度見る。
魔力の流れは、もう覚えた。
「今回は、この魔法陣から発動させることにします。」
「うん、その方が安全だね。フラウとの共闘も初めてだしね。」
クラウスは、『魔道神獣』ニックスの母ミルの毛を封じたネックレスを鎧の中から引っ張り出し、【混合魔法:吹雪】の魔法陣を記録し、魔法陣が描かれた紙はアイテムボックス内に入れた。
「よし、フラウ、待たせた。準備が整った。」
「クラウス、頑張って!」
「おう!」
クラウスは、足場を整え、精霊剣を構えた。
「【混合魔法:吹雪】」
クラウスが唱えると、【吹雪】が精霊剣の周りを勢いよく回り出した。
今回も、やはり細かい光が沢山見える。目を凝らして、ようやく、光が雪の上に乗っているのが分かった。
「この小さな光が、フラウの分身なのか?」
「えぇ、そうよ。とても小さな光だけど、数が多いでしょう?」
「あぁ、驚くほど、沢山の光が見える。」
「これが、私の得意技ですの。さぁ、クラウス、結界内いっぱいに広がるイメージで魔法を放って。」
「承知した。」
クラウスは、一度大きく息を吐き、深呼吸をした。そして、
「【混合魔法:吹雪】発動!」
そう唱えると同時に、大きく精霊剣を振りかざし、【吹雪】が結界内いっぱいに広がる様子をイメージしながら、精霊剣を振り下ろした。
「さぁ、私の妹たちよ、残熱を全て吸い尽くすのです!」
「頑張るのですぅーーーー」
やはり今回も、楽しそうな声が多重音となって聞こえてきた。
そして、今回も物理の軌道を無視した雪の舞いが展開されている。
「これは、綺麗だな…。」
先ほどのサラマンダーの時は、驚きの連続で楽しむ余裕はなかったが、今回は、何が起こるか予想が付いていただけに、余裕をもって見ることが出来ている。
「サラマンダーは火の上位精霊不死鳥の眷属で、フラウは氷の上位精霊氷雪の魔狼の眷属なんだ。クラウス団長は、『魔道神鳥』ランから『神鳥からの祝福』を、『魔道神獣』ニックスから『魔道神獣の絆』の加護を受けているから、サラマンダーもフラウも、何の制限も受けずに力を発揮出来て、凄く楽しいんだと思う。」
この時クラウスは、精霊剣、精霊の存在など、驚きの連続で興奮状態であったため、初めて聞く、ルウィージェスが言った「『魔道神鳥』ランから『神鳥からの祝福』を受けている」という言葉を流してしまった。
普段、余程のことがない限り、自分のステータスを見ることのないクラウスが、『魔道神鳥』藍から受けた『神鳥からの祝福』に気付くのは、ずっと後になってからだった。
そんな興奮状態のクラウスだが、神鳥・神獣と精霊の単語の違いにはちゃんと気付いた。
神鳥不死鳥と神獣氷雪の魔狼なら知っていたが、精霊不死鳥と精霊氷雪の魔狼は初めて聞く。
「因みに皆さん、ハインライテルの森に棲んでいます。不死鳥たち、普段は南ハインライテル州領にある火山周辺に棲んでいるけれど、夏になると遊びに来るんだ。この間、不死鳥たちが遊びに来て、姉さまが『またしばらく煩くなる』って溜息付いていたよ。」
この時のクラウスは、かなり驚き疲れていて、反応が鈍くなっていた。だから、気になった所も、少しずれていた。
「煩くなる?不死鳥たちって、おしゃべりなのですか?」
「おしゃべりでもあるけれど、それ以上に、自由なんだよね。気ままというか、我が道を行く、というか。中級神である姉さまにも全く遠慮がないし。ぼくには姉さまが三人いるけれど、一番静かなのかエムラカディア姉さまなんだ。だから、おしゃべりで自由きままな不死鳥を煩く感じるみたい。」
「へぇ~、」
クラウスはルウィージェスの話を聞きながら、子どもの頃によく読み、子どもたちにも買って何度も読み聞かせた某絵本を思い出していた。題名は「不死鳥たちの狂騒曲」。内容は、自分の意見ばかりを述べて、全くまとまりがない様子を描いた物語。
――――もしかして、あの物語って、創造神様の、愚痴だった?
クラウスの近くに戻って来た氷の精霊フラウが、クラウスに声を掛けた。
「うん、もう歩けるわよ。」
「そうか、ありがとう。」
クラウスはフラウに礼を言うと、ルウィージェスに頷いた。
クラウスが先に結界内に入って行った。
「おぉ~、涼しい!」
情報過多で頭が疲れていたクラウスにとって、この涼しさは頭も冷えて気持ち良く感じる。
「流石フラウ。サラマンダーの熱を短時間でここまで取り去った。」
「精霊王様に私共の力をお見せ出来て満悦でございますわ。」
まだ、フラウの分身がそれなりに残っているようだ。時々白い光る物がふわふわと飛び、所々から「ふふふ」とか「きゃきゃ」とか、楽しそうな声が聞こえる。
第37話から続いた洞窟討伐戦も漸く終わり、残すは、洞窟内に残る全てを焼き尽くし、ダンジョン化リスクを、徹底して無くす事のみです。
ルウィージェスから、シューバート侯爵家の本当の力を知ったクラウスは、早速、新しい精霊剣に宿す精霊と契約をします。
そして、精霊と契約することによって解き放たれた精霊剣の本当の力を目にしました。
その力は、シューバート侯爵家に残る記録以上の力でした。
創造神が創った精霊剣と、精霊王が作った精霊剣の違いを、目の当たりにします。
洞窟の討伐戦そのものは終わりましたが、事後処理はまだまだ続きます。
次は、来週7月11日(土)20:00公開予定です。
第50話 「ゴブリンの襲撃⑮―洞窟の閉鎖④始祖の魂―」
来週もよろしくお願いいたします。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月 千颯 拝




