表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
42/43

第41話 「ゴブリンの襲撃⑥―洞窟内の大規模営巣地⑤―」

 ここには初めて登場する。リリーエムラ公爵家騎士団、ハインライテル州領騎士団の団長アダルベルト・フォン・ケーニッヒだ。宮廷魔術師団の副団長ザビーネ・フォン・ケーニッヒ、今はアインホルン伯爵家に嫁いでいるから、ザビーネ・フォン・アインホルンが正しいのだが、魔術師団では旧姓のままだな。その弟でケーニッヒ伯爵家の次男だ。

 大昔、ケーニッヒ伯爵家も古参家の一画だったらしいが、後継者に恵まれず一旦は廃絶寸前にまでなったらしい。そこで、過去にケーニッヒ伯爵家から嫁いだ者の血筋の、フォーゲル伯爵家の分家、フォーゲル子爵家の後継者をケーニッヒ伯爵家の当主として向かい入れることで、辛うじて廃絶は逃れたと聞いている。だから、ケーニッヒ家は古参家ではなくなったらしい。

 姉のザビーネがルウィージェス様より、ケーニッヒ伯爵家の紋章には『守備の要』という意味があると聞いた、と聞き、創造神様と雑談する機会があった時に『守備の要』の意味について伺ったことがある。

 元々、ケーニッヒ伯爵家は盾の家系だったらしい。創造神様より「ケーニッヒ伯爵家の男児は体格に恵まれた者が多いでしょう?」と言われました。確かに、私もそうだが、弟も、家系を遡れば、父も祖父も、確かに大柄だった。

 しかし、祖父も盾を使っていた、という話は聞いていない。

 どうやら、フォーゲル伯爵家が魔術師の家系だから、後継者が途絶えた時に、一緒に盾の技術も途絶えてしまったらしい。

 それでは、『守備の要』はもう、名称のみが残っているだけなのか、と創造神様に伺ったところ、紋章そのものが、創造神様が作った一種の神具になっていて、ケーニッヒ伯爵家の血筋の者たちが身に付けることで、その役割が果たされるようになっている、との説明だった。

 俺は次男で、王都騎士団長を務めている弟は三男だから、特に武器などに家紋を掘るということはしていなかった。あれは跡継ぎだけが身に付ける物、という認識だったかな。

 だが、創造神様から弟と二人して団長に選ばれ、眷属となった時に与えられた武器と防具にはケーニッヒ伯爵家の家紋が入っていた。あの時は特に何も思わなかったが、やっと意味が分かった。

 今回のゴブリン掃討戦には、勿論、剣と防具、予備も含めて、全てに家紋が入っている。

 俺も弟も、この家紋の意味が分かって以降、夜就寝前に、その日の無事の御礼を家紋にしている。別に打ち合わせしたわけではないのだが、二人して同じ行動を取っていた。

 今日は、討伐戦の前に二人で家紋に祈った。無事に終わらせることが出来ますように、と。

 ルウィージェスからゴブリンの生態を聞き、洞窟内のゴブリン数が如何に異常であるかが分かった。

 残るゴブリンの数は下位だけで2700匹以上。これを討伐するのはよいが、洞窟内に残すわけにはいかない。かなりの確率でダンジョン化してしまうだろう。

 ここから王都が水源としている『鳥の森』は非常に近い。ダンジョン化すると街が出来てしまう。人口の増加はその場所だけでなく、周辺にも環境に大きな影響を及ぼす。『鳥の森』に悪い影響が出ると王都民の生活に支障が出てしまう可能性が高い。

 ダンジョン化回避のためにも、洞窟内にゴブリンの死骸を残すわけにはいかない。とは言え、逃げる場所も避難する場所もない洞窟内で、大量のゴブリンを退治しながら、死骸を拾うのはほぼ不可能だ。

 ルウィージェスからの提案で、魔物用保管庫に『吸収魔石』を取り付け、更に、【風魔法:浮遊魔石】で『浮遊魔石』を作って付けることにした。そうすれば、保管庫の移動に手を取られずに済む。『浮遊魔石』を付けた保管庫は床から少し浮いた状態を維持する。特に力を入れる必要もなければ、魔力を消費することもない。

 これで、攻撃と防御に人材を集中させられる。


 カリンからの報告によると、生活空間の方には、壁に無秩序に掘られた穴が多数あるという。それは、死角が多いという意味だ。思わぬ不意打ちに対する対策を十分に取っておく必要がある。

 また、ルウィージェスたちが通った通路よりも、全体的に天井が低く、場所によっては更に低くなっている個所も複数、ルウィージェスとカリンが神術で確認している。

 天井の高さが一定ではないとなると、藍の結界だけで魔術師団員全員を守るのは難しい。どうしても、魔術師団内でも複数個所に結界魔法の使い手を配置する必要がある。すなわち、他に回す人数が少なくなる。

 現在、宮廷魔術師団には【空間魔法:結界】が使える魔術師は18名いる。今回は18名全員が参加している。

 今回は、ルウィージェスとカリンは洞窟内討伐には参加できない。結界魔法が使えるのは、『魔道神鳥』藍と宮廷魔術師団の18名、王国騎士団には5名、リリーエムラ公爵家騎士団には6名いる。計29名+1柱。

 藍は一日中結界魔法を使ったとしても、魔力切れになることはない。藍に関しては全く心配ない。

 ルウィージェスがエルンストに、現在使われている【空間魔法:結界】の魔法陣を魔力可視化で見せてもらったところ、太い魔法線が多く、消費魔力量が非常に多い物だった。

 結界魔法が使える魔術師を2名ほど呼び、ルウィージェスが改編した【空間魔法:結界】魔法陣を複数回試して貰い、一番使い勝手のよい魔法陣を選び、午後に練習することにした。

 魔術師団の団員は全員、訓練用の『聖石』装飾品を持参して来ている。洞窟内討伐の時も使用することになっている。これで、かなり魔力の消費を抑えられる。


 騎士団の団員も、魔法が使え、付与魔法が使える団員は『聖石』装飾品を持って来ている。騎士団にも結界魔法を使う者が5名程いるが、保持魔力量は少なく、使える時間も、魔術師と比べると短い。

 今回は討伐するゴブリン数が多い。全員が討伐に専念することとし、非常時に結界を張る要員とする方向で意見が一致した。

 この5名も、結界を張る事態に備えておく必要はある。午後は魔術師たちと同様に、改編【結界】魔法陣を使って練習することにした。


 リリーエムラ公爵家騎士団も、エムラカディアから『聖石』装飾品を持たされている。だが、エムラカディアが使えるのは神術のみで、魔術に関しては関与していない。

 ルウィージェスから以前に渡された初級の改編攻撃魔法は使えるが、ルウィージェスが普段王都にいて、放課後は魔術師団棟にいることが多いことから、付与魔法の訓練はしていない。

 剣への付与魔法は、かなり練度の高い魔力制御力が必要だが、魔鳥の羽根への付与は、そもそも魔鳥の羽根が魔力を乗せる性質を持つ。多少の練習は必要だが、剣への付与魔法程の練度は必要としない。

 午後、王都騎士団の団員から魔鳥の羽根への付与魔法の方法を教えてもらうことにした。

 リリーエムラ公爵家騎士団では【空間魔法:結界】魔法が使える者は6名いる。6名は改編【結界】魔法陣を使った練習に合流する。


 こうして、この日の午後は、戦術の確認、武器の手入れ、魔法の訓練、エーギグ弦弓矢の訓練などの時間に当てた。

 宮廷魔術師団の【空間魔法:結界】が使える魔術師18名は、クラウス班とエルンスト班に6名ずつ、アダルベルト班とウィルヘルム班に各3名ずつ配置する。アダルベルト班とウィルヘルム班は、リリーエムラ公爵家の結界魔法が使える6名を3名ずつ配置させれば、各班6名ずつ結界魔法が使える者がいることになる。

 3名ずつ2交代で結界を張れば、休憩場所が確保できなくても、魔力を回復させる時間を取ることができる。しかも、今回はルウィージェスが『魔力回復魔石』を各自4つずつ持てる数を用意している。魔力回復ポーションを使い切ってしまっても、何とかなる。

 魔力は回復しても、疲労感は如何ともしがたい。最悪、『結界魔石』で強引に休憩場所を確保することも出来なくはない。ただ、周りをゴブリンに囲まれた状態で休憩できるかどうか。ここは大きな不安材料であり大きな懸念事項だ。


 剣では1振りで1匹しか倒せない。クラウスなら数匹まとめて切れるが、普通の騎士はそうはいかない。そうなると、魔法攻撃である程度まとめて倒す必要がある。

 騎士団にも攻撃魔法、付与魔法を使える者も多いが、保持魔力量が少ない。そう多くは打てない。

 宮廷魔術師団から攻撃魔法の使い手を15名騎士団に送り、騎士団からも、魔力回復時間の確保のために15名を魔術師団に送った。

 宮廷魔術師団は、エルンストが団長に就任して以降、騎士団から剣術指南を受けており、それなりに剣も使えるが、本職には技術も体力も敵わない。剣士の補充は必須だ。

 その点、リリーエムラ公爵家騎士団は、元々騎士と魔術師を分けておらず、魔法の訓練以外は、全員同じ訓練を受けている。州領騎士団特有の事情の結果だが、騎士と魔術師のバランスが取れている。多少魔術師の数が少ないのが心許ないが、それでも、何とかなりそうだ。


 夕食時、エルンストはクラウスを呼び、テーブルを共にする。

「クラウス殿は、自身がアイテムボックスを使えるようになっていることに気づいていますか?」

「え?いや、え?本当に?」

 エルンストはルウィージェスから聞いた話しを伝えた。

「まだ気づいていないのなら、少し練習する必要がありそうですね。ニックスから加護を授かってまだ日が浅いから、容量は少ないかもしれませんが。」

「いや、予備の剣と団員用のポーション類を少しでも入れられれば御の字だ。」

 エルンストは、自分が初めてアイテムボックスを開いた時の感覚と広げ方を伝えた。

 初めは、アイテムボックスの口を出すことは出来たが、なかなか開くことは出来なかった。しかし、普段から魔力制御の訓練をし、付与魔法の練習をしているだけあり、コツを掴むは早かった。

 アイテムボックスを開くことが出来るようになったが、物を出し入れする感覚は、また別だったようだ。かなり苦心していたが、それでも、エルンストの言葉から自分に合う感覚を見つけたようだ。

 テーブルの上にある空になったコップを入れてみた。一度アイテムボックスを消して、再度開く。そして、手を突っ込んでコップを掴む。

「お~、出来た!これがアイテムボックスから取り出す感覚か。頭の中に、コップの位置が浮かんだ。」

「はい、アイテムボックスに手を突っ込むと、頭の中に、入っている物の位置が浮かぶのです。その浮かんだ場所に手を持って行くようにすると、手に取ることが出来るのです。自分のアイテムボックスの広さと奥行に慣れると、頭に浮かんだリストを確認する必要がなくなります。」

「ほぉ~、そういう感じになっていたのか。ずっと、どうやって取り出しているのだろう、と思っていたが。広さと奥行が分かってくることを、ルウィージェス様は『馴染む』と表現していた、と。」

「はい。私もその時に初めて知りましたが、確かに、その言葉がピッタリ当てはまります。」

 クラウスは、エルンストの話を聞きながら、今度はフォークとスプーンをアイテムボックスから出し入れしている。

「なるほど。確かに、今の俺は、一旦頭に浮かんだ場所を意識して手を入れないと、入れた物に触れることも出来ない。戦闘中に使うにはもう少し練習と慣れが必要だが、今回は、手荷物が減るだけで利点は大きい。ありがたい。」

 クラウスにとって、エルンストというアイテムボックス熟練者からアドバイスを貰えることは有難かった。何せ、アイテムボックスを使える者は、王国では創造神エムラカディアの使徒、国王アギディウス以外ではエルンストしかいない。兄のオルトールドですら使えない。

 親戚同士とは言え、流石に国王に教えを請うわけにはいかない。だからと言って、自分で全く情報がない状態から習得するには時間がかかる。これほど短時間で使えるようにはならなかっただろう。

 その夜、少しでも馴染ませたいと思い、クラウスは様々な物を出し入れして、練習した。

 寝る前、予備の剣と各種ポーションをアイテムボックスに入れ、手を突っ込んでみた。

 ちゃんと入っている場所が頭に浮かぶ。

 顔がにやけてしまうが、止められない。

 その夜、クラウスは興奮して、入眠までにいつもよりも時間がかかってしまった。


 翌朝、日は高いが、まだ朝の涼しさが残る時間、洞窟前に一糸乱れぬ隊列が組まれる。

 今日の洞窟内殲滅戦に参加するのは、騎士団から50名、魔術師団から80名、リリーエムラ公爵家騎士団からは50名、総勢180名。

 一番左側を行くのはクラウスの班、左から二番目を担当するのはエルンストの班。人数が少なく魔術師の数も少し少なめのアダルベルトとウィルヘルム班は、先日ルウィージェスとカリンが片付けた通路に入って来たゴブリンを片付ける。

 入る順番を決める。

 クラウスの班とエルンストの班が、2列ずつになり入り口に入り、大きな空間に着いたら左側に寄る。その後ろにリリーエムラ公爵家騎士団が並び、右側に寄る。

 洞窟の前にはルウィージェスとカリンが残り、洞窟近辺のゴブリンを片付け、騎士団の後ろを守る。

 今回の討伐に参加しない団員たちは、村の片付け、周辺をうろつくゴブリン討伐、もしくは、主にリリーエムラ公爵家騎士団になるが、エーギグ弦弓矢の練習をすることになっている。


 母狐ミル、ニックスとシュネーも参加する。母狐ミルはアダルベルトに比較的懐いている為、アダルベルトと行動する。

 ニックスは、クラウスが肩から掛けているカバンの中にスタンバイ。カバンから顔だけ出しているが、目がランランと輝いている。やる気満々だ。藍も言わずもがな。

 ルウィージェスたちの説明によると、ルウィージェスとカリンが初めに軍曹(サージェント)を倒した場所から通路が4つに分かれている。右側2つの通路には側路はなかったが、窪みは多かった。左側の通路には側路が多数確認されている。いずれの通路には、ゴブリンが身を隠し、騎士らをやり過ごす場所が多数ある。騎士らが通った後に、後ろに逃げてくるゴブリンがいるかもしれない。この点に関し、昨日の作戦会議では誰も思い至らなかった。

 急遽、ザビーネと、アダルベルト、ウィルヘルムの団から騎士6名、魔術師団から魔術師3名を配置することにした。ザビーネ班は、こちら側の攻撃を回避し、後ろに逃げてきたゴブリンがいたら片付けるだけで、移動はない。固定式の『結界魔石』が使える。シュネーはまだ加護を与えたいと思う者が決まっていない為、特に拘りはない。今回はザビーネと一緒に残り、4つの通路から戻って来るゴブリンを威嚇し動きを止める。『鳥の森』の時に同行したウィルヘルムからシュネーを入れていたサコッシュを借り、いざという時、小さなシュネーの安全を確保する。結界内を神獣がうろうろするだけで、ゴブリンへの威嚇になる。緊急時以外は、結界内を自由に動き回ってもらう。

 

 準備が整った。クラウスがルウィージェスを見て頷く。

 ルウィージェスが入り口を塞いでいた結界を解いた。すると、昨日は聞こえなかったゴブリンの声が聞こえてきた。どうやら、かなり入り口近くまで広がって行動しているようだ。

 上位ゴブリンの威圧感がなくなり、指示系統は消滅している。下位ゴブリンがかなり自由に洞窟内を移動していると思われた。

 入り口で奥から聞こえたゴブリンの声に強い違和感を抱いたのは、王都の外壁周辺の警邏責任者で、今回の遠征ではクラウスの副官として参加しているベルントと、非戦闘団員を多く持つ魔術師団団長のエルンストだ。

 ――――ゴブリンを含む弱い魔物は、基本的に営巣地を悟られないように、声が外に漏れないようにする習性がある。それにも関わらず、(ここ)から声が聞こえた?

 ゴブリンは群れる魔物だ。指揮系統の消失が、逆にゴブリンを不安にさせ、興奮状態を引き起こしている可能性が高い。興奮して攻撃的になっている危険性は除外できない。

 それに気付いたベルントがクラウスに伝え、エルンストと確認し合う。三人の意見が揃った。クラウスとエルンストは、各班の後ろに続く部下たちに、それを伝え、ベルントが後ろに控えているリリーエムラ公爵家騎士団のアダルベルトとウィルヘルムに伝えに行った。


 予定通り、騎士たちと魔術師たちが洞窟へ入っていく。エルンストの左肩に乗った藍は、全員に対し結界を張り、やる気満々だ。

 ルウィージェスたちからの報告では、入り口から200m程細めの通路が続き、入ってから3m程度の所から両壁に側路が現れる。200m程進んだその先から4つの通路がある場所までは、天井が高く、広い空間が広がっている。この広い空間にも壁側に側路はあるが、結界を阻害する壁はない。藍の結界で全員を守れる。

 ルウィージェスとカリンから聞いていた通り、かなりの数の側路が認められる。

「この洞窟、最初からゴブリンが棲んでいたとは思えないな。」

洞窟の様子を確認していたクラウスが、隣にいるエルンストには聞こえる程度の小声で呟いた。

「同感ですね。ゴブリンにこれだけの巣窟を作る知能も力もあるとは思えません。」

天井や比較的高い所を確認しながらエルンストが答える。

「それに、ゴブリンが掘ったにしては、天井が高すぎます。これだけの高さを掘れるのは、オークやオーガ、最低でも2メートルは必要です。」

「その辺りだろうな。オークやオーガも、多少は魔力を持つが、魔法は使えない。カリン様が推測した理由で、この洞窟を手放したか。」

「それが、一番辻褄(つじつま)が合いそうですね。」

 エルンストは、アイテムボックスから鞘入りナイフを取り出し、()で壁を軽く叩いてみた。予想以上に高めの打音が返って来た。

「これだけの硬さです。オーガ…ですかね。」

「恐らくな。しかし、本当に数、多いな。」

 クラウスとエルンストはのんびりと会話しているが、後ろの騎士と魔術師たちはひっきりなしに側路から現れるゴブリンを懸命に倒している。


 これだけ大人数で営巣地に侵入したにも関わらず、全てのゴブリンが側路から出てくるわけではなかった。役割分担でもあるのだろうか。ある一定数は、側路に残り様子を見ている。

 それを見つけた時は、直接、側路に遠距離攻撃魔法をぶつけて、側路内に残るゴブリンを外におびき出し、近距離の爆破系攻撃魔法と剣で倒していく。結界の外に出て戦えないので、ゴブリンを威嚇して怒らせ、あえて襲わせているのだ。

 エルンストは、【風魔法:風刃(エアーカッター)】で切り裂いている。戦い方はルウィージェスと同じ、魔力量で圧倒する戦い方だ。

 魔力制御力が惑星一のエルンストは、【風魔法:風刃】を直接側路に突っ込んで切り裂いている。威嚇もなしに直接攻撃。

 その様子をチラっと横目で見るクラウスは、その凄まじいコントロールに少し呆れている。


 エルンストは、側路に残るゴブリンがいないか確認しながら進んでいる。

 側路は多いが、目視できた範囲内ではあるが、ルウィージェスたちの報告通り、全てが行き止まりになっている。

「これは、食糧庫だった可能性が高いですね。もしくは武器庫。これだけ大きな洞窟です。かなり大きな群れだった筈。大きな群れを成すオーガには、獲物を干して保存する技術と知恵があることが確認されています。」

「俺もそう思う。これだけ入り口に近い所の横穴だ。間違いなく、得た獲物を乾燥する場所として使っていただろう。ゴブリンにとっては、大きさ的にも兵隊待機所として使い勝手が良かったか。」


 ルウィージェスとカリンからは、広い空間までのゴブリンは全滅させた、と聞いている。しかし、入り口に近い広い空間と側路にはかなりの数のゴブリンがいる。相当数が戻って来ている。それでも、現れるのは普通の下位ゴブリンだけで、保管庫に入っていた、進化し少しだけ大きくなったゴブリンには、まだ遭遇していない。

 クラウスは前方を見まわし、ボソっと呟いた。

「本当に、死骸、残ってないな。」

小さな呟きだったが、隣にいるエルンストには十分に聞こえた。

「見事に。」

エルンストも、これには他に言葉が出なかった。


 洞窟内に入っていく騎士団、魔術師団を見送ったルウィージェスは、神術で中の様子を確認していた。特に意味があったわけではないのだが、何となく。なのだが、

 ――――あれ?数、増えてる??

 一昨日、最後に確認した時よりも、洞窟内のゴブリン数が明らかに増えていた。

「カリン、ゴブリンの数が、明らかに増えている。これ以上増えると、流石に不味いかも。」

 その言葉を聞いたカリンも、神術で探査をかけた。

「確かに、増えていますね。しかも、2倍…までではなさそうですが、それにかなり近い数にまで増えている気がします。」

「うん。これは、流石に多過ぎる。」

 洞窟に繋がるこの入り口は結界を張っていた。しかも、設営地周辺では、大きな群れはルウィージェスとカリンの常設探査に引っかからなかった。

 つまり、かなり離れた所に別の入り口だか、ゴブリンが通れる穴があるということだ。

 ルウィージェスは≪神術:探査≫の範囲を一気に広げた。そこから分かったのは、この岩山は奥の方にずっと広がっており、隣の州領地まで繋がっていた。その距離およそ200km。

 地球の日本で例えるなら、直線距離で東京から静岡県方面に伸ばせば、御前崎を少し超える辺りにまで達する。東北へ伸ばせば、福島県の磐梯山に届く距離だ。

 そして、≪神術:探査≫から伝わって来たのは、一面のゴブリン。

 流石のルウィージェスとカリンも続ける言葉を失う。

「…このゴブリンをどうするかは後で考えるとして、先ずは、この洞窟内にこれ以上ゴブリンが入ってこないようにしないといけない。」

 カリンも無言で頷いた。

 ≪神術:探査≫で、洞窟内に繋がる通路と穴を数か所見つけた。

「ちょっと埋めてくる。」

 カリンに入り口を任せ、ルウィージェスは洞窟内への侵入口を潰しに行った。


 ゴブリンの数は多いが、上位ゴブリンがいないというだけで、精神的な負担が違う。しかも、側路が多いと情報を持っていた。事前情報の有無は大きい。

 ルウィージェスとカリンによると、一番初めに見える広い空間の奥から、通路が4つに分かれている、と言っていた。

「ここですね。」

 エルンストは『結界魔石』を発動させ、藍を休ませ、魔術師たちに魔力補給をさせる。ここからが本番だ。しっかりと魔力を回復させておく必要がある。

 剣を使って退治していた者たちは、剣の手入れを始める。皮脂油は剣の切れ味を落とす最大の敵だ。

 水分補給もしっかりとする。

 エルンストは、ルウィージェスから預かった『トイレ魔石』を発動させ、トイレを30個室用意した。エルンストは空間魔法を持っていない。魔石を使っているとはいえ、これだけの個数を用意すると、結構な量の魔力を消費する。エルンストも、魔力回復ポーションを飲み、魔力を回復させる。

 アダルベルトたちも全員が結界内に入った。


 今回の遠征に参加している人数は騎士団125人、魔術師団180人、リリーエムラ公爵家騎士団150人、総勢455人。

 ゴブリンはこの洞窟以外に、ライラン領の方へ大群が移動していることが分かっている。全戦力を投入するわけにはいかないし、そもそも洞窟内だ。大きい洞窟とはいえ、入れる人数は限られる。

 この洞窟内には2700匹以上がまだ残っている。一日で片付けるのは難しいと考えた方が良い。安全を期して複数の班に分けてある。

 今回の洞窟討伐戦2日目には、騎士団50名、魔術師団80名、リリーエムラ公爵家騎士団からは50名が参加している。総勢180名。

 この人数が並んでもまだ余裕がある空間。如何に大きな空間か分かる。


 今回、手付かずの通路を担当するクラウス班とエルンスト班の魔術師は、魔力回復ポーションを4本と『魔力回復魔石』を2つ持っている。結界魔法を使う魔術師だけは、『魔力回復魔石』を4つ持っている。各団長が、結界魔法を使わない魔術師用に用意された予備の『魔力回復魔石』をアイテムボックスに保管している。

 というのも、魔術師団の制服の胸元にポケットはあるが、今回は初めから多くのゴブリンを相手にすることが分かっていた為、普段より胸部を広く守る防具を使っている。その広めの防具によって、胸元のポケットが防具の下に隠れてしまったのだ。

 左右に脇ポケットもあるが、脇ポケットの底の位置と腰に巻くポーションホルダーの位置が悪く、動き方によっては、硬い魔石が瓶に当たってしまい、ポーション瓶が割れてしまう可能性が指摘された。その為、片方の脇ポケットしか使えず、しかも、片方だけに魔石を4つ入れると、魔石の重さでマントが引っ張られ、微妙に動きづらくなった。

 ルウィージェスは魔術師に『魔力回復魔石』を各自4つずつ用意してくれた。貴重な『魔力回復魔石』だ。慎重に扱わなければならない。そこで、アイテムボックスが使えると分かったクラウスとアイテムボックスを持つエルンストが予備分を預かることにした。

 しかし、結界を張る魔術師は『魔力回復魔石』を4つ初めから持っていた方が安全だ。苦肉の策だが、腰に巻くポーションホルダーに布で巻いた『魔力回復魔石』を括り付けている。

 魔力切れは色々な意味で命取りになる。ルウィージェスとカリンからは、別な出入り口の存在の報告はなかった。避難先も休憩場所もあるのは思えず、逃げ道のない洞窟内で魔力切れを起こすわけにはいかない。


 アダルベルトたちが全員結界内に入ってから30分経った。クラウスは、アダルベルトとウィルヘルムに視線を送ると、二人は頷いた。準備は整ったようだ。

 エルンストが前に進み説明を始める。

「昨日説明した通り、この奥の4つの通路を攻めます。左側2つが生活空間と思われており、右側2つは、先日ルウィージェス様とカリン様が攻略した通路です。お二人が通った時は、上級ゴブリンの気配に圧され、下位のゴブリンの姿は殆ど見なかったそうですが、現在は上位ゴブリンの威圧感はなくなっています。相当数の下位ゴブリンが戻って来ていると思われます。」

 一旦言葉を切り、皆の様子を確認する。不安そうな顔をしている者はいない。大丈夫そうだ。

「右側の2通路の特徴として、細かい側路はなかったが、それなりに窪みがあり、長身のカリン様が身を隠すのに十分な場所があったとのことでした。身軽なゴブリンなら壁を登って身を潜めるだけの足場が十分にある、と考えるべきでしょう。左側2通路は、直視で確認したわけではないが、手あたり次第に掘ったかの様な、無秩序に掘られた穴を多数、探査で確認している、と聞いています。死角だらけと言っても過言ではないかと推測できます。不意打ちに十分気を付けて下さい。」

 そう言うと、エルンストはクラウスに譲った。

「リリーエムラ公爵家騎士団の方が、最奥、(キング)がいた居館(きょかん)に早く着くだろう。ルウィージェス様たちからの報告では、居館とその周辺で多数の遺骨などを発見したと聞いている。安全を確保できたら、もう一度確認してやって欲しい。遺骨一つでも多く村に戻してやりたい。」

 その言葉にアダルベルトとウィルヘルムは強く頷いた。

「ミル、ニックス、シュネ、」

アダルベルトたちの反応を確認したクラウスは神獣親子に話しかけた。

「シュネがザビーネ副団長と残り、ミルがアダルベルト団長に伴うとしたが、予想以上にこっちの広間にゴブリンが移動してきている。可能であれば、ミルがザビーネ副団長と残り、シュネがアダルベルト団長の手伝いをしてもらえないだろうか?」

 ニックスが母ミルと弟シュネを見た。「くぅーん、くぅーん」と小さく鳴く。説得しているように見える。

 母狐ミルとシュネは頷いた。

「ありがとう、ミル、シュネ。」

 ザビーネはシュネーを入れるサコッシュをアダルベルトに渡した。


 クラウス班とエルンスト班が担当するのは、手付かずの左側2通路。そこには2700以上のゴブリンが残っていることが確認されている。多少は右側に流れたとしても、相当数は残っていると考えるべきだろう。

 数が多いと分かっている左側2つの通路に入る前に、攻撃魔法を得意とする魔術師団員が同時に長距離と短距離魔法を連続的に放ち、入り口付近の安全を確保する。

 外からの攻撃魔法の飛行軌道は直線的。入り口に足を入れる直前、クラウスは火魔法を付与魔法で剣に纏わせ、死角となる上と左右に炎を流し、攻撃を封じた。エルンストも、火魔法と風魔法を同時に唱え、クラウス同様に、上と左右に潜むゴブリンを焼きはらった。


 クラウス班は全員が結界魔法で、エルンスト班は、藍と結界魔法で守られながら、それぞれの通路を進む。

 2つの通路の壁側には、報告通り、方向も奥行きも、大きさも幅も、全く統一感のない穴が多数あり、中には生後間もないと思われる小さなゴブリンが相当数認められた。ルウィージェスの言葉を借りれば「うじゃうじゃいる」だ。カリンの予想通り、育児部屋と思われる。

 今まで見てきた通路の壁と異なり、「手当たり次第に」掘った感が凄い。今までの側路は、明らかに目的があって作られたと思えるだけの規則性が認められたが、ここの側路は、自分たちの力で掘れる分だけ掘った、としか思えない程、無秩序。

 最初にエルンストが気付いた通り、この洞窟は非常に硬い。ゴブリンの力で掘れる洞窟ではない。掘れる所を探して、とにかく子育てする場所を確保した、という感じが手に取るように分かる。

 しかも、天井が低い場所が数多くあった。印象としては、こちら側に拡張しようとして、その途中だったという感じだ。前の主、恐らくオーガだと思われるが、拡張工事途中で放棄したのではないか、そういう印象を受ける。

 ゴブリンがこちら側を生活空間とした理由が良く分かる。上位種に進化し、巨大化したゴブリンには、ここを通る事は不可能だ。


 奥に進むにつれ、天井の高さもバラバラになり、壁の凹凸(おうとつ)も大きくなり、攻撃魔法を得意とする魔術師たちにとっては戦いにくい場所となってきた。風魔法で探査を行っていた魔術師たちも、側路というよりかは、脇穴という表現が当てはまる窪みの多さから、より多くの風を必要とし、消費魔力量が予想以上に増えていた。

 本来なら広範囲に広がる攻撃魔法も、天井や窪み、壁の凹凸に阻まれ、威力が打ち消され、削られてしまう。魔法の発動回数もバカにならない程に増えている。

 クラウスもエルンストも、違う通路にいるにも関わらず、ほぼ同じタイミングに、魔術師たちに魔力補給をするよう指示した。二人とも、戦いの「感」も良いのだろう。

 更に奥に進むと、脇穴でみたゴブリンよりかは大きいが、まだ子どもと思われる小さめのゴブリンが増えてきた。まだ外にいく大きさになっていないのだろう、と団長二人は考えながら進む。

 天井の低い場所が増えてきてからは、エルンストも攻撃魔法は諦め、長剣を使ってゴブリンを倒している。適宜剣に風魔法を付与し、一気に切り刻んではいるが、直ぐに飛び出した壁や低い天井にぶつかり、飛距離が稼げない。しかも、本当に死角が多い。探査系風魔法を広く展開させ、死角に隠れているゴブリンの発見を優先させざるを得ない。

 クラウスは、普段より短めの剣に代えて対応していた。普段の剣ではスペース的に難しくなってきたためだ。エルンストと同様の理由で、剣への魔法付与での攻撃は出来ていない。


 天井が低い場所が続いている。気づくと子どもゴブリンの姿が消えていた。その代わりに、一般的なゴブリンより少し大きめのゴブリンが増えてきた。

――――これが、ルウィージェス様が言っていた、古い魔素蓄積に対応した新種なのかもしれない。

 クラウスは全く差を感じなかったが、実戦での剣の経験値がクラウスよりかは少ないエルンストには、少し膂力を付けたゴブリンのように感じた。

 第41話から、騎士団、魔術師団とリリーエムラ公爵家騎士団合同での合同討伐戦が始まりました。

 洞窟内に入ると、既にルウィージェスとカリンが片付けた場所に大量のゴブリンが入り込んでいました。

 当初から2700匹以上が残っていると聞いていました。だから、誰も特に違和感を抱いてはいませんでした。

 しかし、騎士団員らが洞窟内に入った後、何となく神術で探査をしたルウィージェスは、二人が残した数以上のゴブリンが洞窟内にいることに気づきました。

 ルウィージェスとカリンが確認した数だけでも、当初の2倍を超える数になっていました。

 問題発生です。


さて、第一章第42話も引き続き、大規模洞窟内営巣地殲滅戦が続きます。

来週5月16日(土)20:00公開予定です。

第42話 「ゴブリンの襲撃⑦―洞窟内の大規模営巣地⑥―」

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ