第33話 「惑星カティアス降臨までの日々④―ニックスの加護―」
久し振りだな、ここで語るのは。王国騎士団団長のクラウス・フォン・シューバート子爵だ。
いや~、属性を乗せずに魔力を付与するって、あんなに難しかったのな。弦にしたエーギグ蔓を弓に張る、あの瞬間。どうしても、火属性が付いてしまう。
しかも、一度属性を付けてしまうと、魔力は抜くことは出来たが、属性は抜くことが出来なかった。
ルウィージェス様は簡単に消していたけれど。
エルンスト殿は直ぐに出来るようになっていたが、初めて張ったエーギグ弦には光属性を乗せてしまって、それをどうにか除去できないか、色々と試していたが、結構苦戦していたな。
それでも、俺がようやく属性を乗せずに魔力の乗せることが出来て喜んでいた隣で、属性除去に成功して喜んでいたからな。流石だよな。
帰りがけに聞いたのだが、ステータス上に、無属性魔法が追加されていたそうだ。そんな事あるのか、と驚いてルウィージェス様に聞いたところ、可能性が全くないわけではないらしいけれど、かなり珍しいらしい。
ただ、ルウィージェス様的には、思い当たる節があるみたいだったな。なんとなく、だけど。そんな気がした。
で、…で、だ。ふふふ、何と俺、クラウス・フォン・シューバートは『魔道神獣』ニックスから加護を頂きました!
『魔道神鳥』ランがエルンスト殿に与えた加護と同じ『守護の加護』だそうだ。以前、ルウィージェス様から聞いた話しでは、『守護の加護』は最上位の加護、との事だった。
それで、何かが変わるか、と言ったら、特にそういう訳ではないのだが、加護を頂戴するという奇跡が俺にも起こるだなんて、想像した事もなければ、想像する事すらおこがましい事。それが、俺の身に起こった!
長兄は創造神様の眷属だが、ルウィージェス様の話によれば、加護を貰う方がすごい事なのだそうだ。
ニックスから貰った加護は、『魔道神獣の絆』という『守護の加護』。以前ルウィージェス様がエルンスト殿に説明した話によると、ニックスから『魔道神獣の絆』という加護を受けるのは、この惑星では一人のみ、との事。つまり、俺だけ、という事だ。この国で、じゃないぞ。この惑星で、だぞ。それくらい『守護の加護』を受けるというのは、凄い事なのだそうだ。逆に、『守護の加護』を与えるという事も、それだけ大変な事だから、そう簡単には与えない加護でもある、との事だった。
このことを妻エミリアに話したら、涙を流して喜んでくれた。
明日、祝ってくれるそうだ。
兄貴に言ったらどういう顔するだろうな。今から楽しみだ。
エーギグの蔓を使った弓の作成方法の伝授と試し作成がひと段落した一行が次に向かったのは、武器加工場の近くにある、武器・防具等保管倉庫が並んでいる区域だ。
ここには、騎士団・魔術師団の普段使わない武器・防具や予備などが保管してある。
ルウィージェスの助言によりエーギグの蔓は、他から魔素・魔力が移らないように、独立した倉庫に単独で保管することにした。エーギグの蔓を使った弦で矢の試し打ちをした際、実際に魔力を流さなかったにも関わらず、それぞれの魔力に反応を示した事から、エーギグの蔓が他からの魔素・魔力に影響を受けやすい事は明らかだった。
しかし中を確認したところ、現時点で空の倉庫も、保管量が少ない倉庫もなかった。そこで、一旦冬用の装備を出し、そこを利用することにした。
これから王国は夏に向かう。冬の装備なら新しい倉庫を立てるまで、他の場所に借り保管していても、特に問題はない。
クラウスが若い騎士たちを呼ぼうとしたが、それをルウィージェスは止め、魔術で荷物を一気に移動させた。そして、神術で倉庫内に残る魔素・魔力の残滓を消去し、【時空間魔法:混合魔法:保管庫魔石】で魔石を作成し、倉庫内の時間経過を止めた。
ルウィージェスの経験上、加工前のエーギグの蔓は、採取した状態のままで置いておくと、かなりの速度で劣化する。しかし少量でも苔を生やすと、劣化の速度が遅くなるのだが、蔓の線維が脆弱になるため、弓の弦としては使う事ができない。
理想を言えば、エーギグの蔓は、採取した当日に下加工を始めた方が良い。一旦下加工を行った蔓は、劣化しにくくなる。
しかし、王国騎士団、宮廷魔術師団に所属する団員の数は、州領騎士団の数倍に及ぶ。州領都や近郊の大きな街になら、それなりの武器加工職人が配置されているが、僻地ではそうはいかない。僻地へ赴任している騎士や魔術師たちの武器・防具は、通常の補修や修繕程度なら、近郊の武器加工職人が行うが、本格的な保守点検は、定期的に王都の武器加工部門に送られ、補修修繕が行われている。
必ずしも採取した当日にエーギグ蔓の下加工が出来るとは限らないのだ。
ルウィージェスが【時空間魔法:混合魔法:保管庫魔石】の魔石で時間経過を止める事を推奨した理由は劣化問題のためだけではない。
エーギグは魔道植物、魔物の木。しかもエーギグは、自分に『昆虫を自身に集めて捕食する』という性質を持っている。そういう特性を持つ下加工前のエーギグの蔓を、王都のほぼ中心にある王城の近くに位置する場所に、屋根と壁がある空間内とは言え、置いておく危険性を考えた上だ。
下加工後は、数日間天日干しをする必要があるのだが、その時に、虫が大量に集まってくる事も、近くにいる他のエーギグを呼ぶといった現象は、ハインライテル州領にある州領主館では認めなかった。一旦加工してしまえば、エーギグが持つ魔道植物の特性は消える事は確認済みだ。
大所帯の荷物を保管する倉庫は、どんなに小型であっても、それなりの大きさがある。
エーギグの蔓だけでは、それほどスペースは取らないし埋まらない。
そこで倉庫内の空間を、加工前の『エーギグの蔓用』、『魔鳥の羽根用』と、加工後の『エーギグの蔓弦用』、『魔鳥の羽根使用の矢』、『普通の鳥の羽根使用の矢』をそれぞれで保管できるよう、新魔法【時空間魔法:倉庫部屋】を創造し、倉庫内をリフォームした。その際、【時空間魔法:混合魔法:保管庫魔石】で作成した大量の魔石を保管するためのスペースを【時空間魔法:保管庫】で作った。
【時空間魔法:混合魔法:保管庫魔石】で作成した魔石は、1個で100年はその効果を維持するが、その度にルウィージェスが戻ってきて作成するわけにはいかない為、5000年分を用意した。
魔石は消耗品。魔石内の魔力は、いつかは枯渇する。ルウィージェスはあえて、この魔石だけは使い捨てにした。魔石内の魔力を消費しきると魔石は崩れて消える。
ただし、この魔石が他に渡り悪用されることを防ぐため、『使用者:テューゲンリン王国の騎士団長及び宮廷魔術師団長、目的:テューゲンリン王国の王国騎士団及び宮廷魔術師団用の倉庫』と縛りを加えておいた。この縛りは神術で行われたため、魔術での解除は不可能だ。
もし5000年内にテューゲンリン王国が滅びるような事があれば、縛りの定義によって、残りの魔石は全て消える。
エーギグ蔓の特性上、一度でも魔法を付与して使用したエーギグ弦の弓と魔鳥羽根の矢はこの倉庫には戻さず、騎士団、魔術師団各訓練場にあるロッカーに保管する事とした。
普段、共有の武器である弓は一元管理しているが、普通の弓と異なり、エーギグ弦の弓は各自の魔力に合わせている為、各自で保管する必要がある。
騎士団は、それぞれの身長や手の大きさ、筋力に合わせた武器を付帯している。防具及び予備の保管も考慮し、比較的大きめなロッカーが与えられている。他人の武器が混ざる事のないロッカー内になら、そのままエーギグ弦の弓を保管することができる。
しかし宮廷魔術師団の場合は、魔法杖は常に持ち歩きロッカーに入れる事はないし、共有武器扱いの弓は一元管理。各自の防具と、ローブとマントを保管するロッカーはあるが、ローブとマントは防火魔法処理が施されている。魔法陣による魔法処理であろうと、属性を帯びる魔力の近くでは、エーギグ弦の弓を一緒に保管する事は出来ない。エーギグ弦の弓専用のロッカーを用意する必要がある。
ロッカー購入申請書が通過し、新しいロッカーが納入されるまで、ロッカー室の隣にある、普段はちょっと雑談する時などにしか使っていない小部屋というか、ちょっとしたスペースに、ルウィージェスの神術で『保管用ロッカー』を作成し、保管する事にした。神術はエーギグ弦に影響を与えないのは確認済みだ。
魔鳥の羽根であれ普通の鳥の羽根であれ、天然の羽根は貴重だ。換羽期はそう長くない。特に成長の早い魔鳥の換羽期は、普通の鳥と比較すると短い傾向にある。常に大量の羽根を集めるのは難しい。
通常、矢本体の作成修繕維持管理は武器加工部門が一任している。
今まで、矢を遠くまで飛ばすために、風魔法に乗せて飛ばす事はあったが、羽根に直接魔法を付与する方法はしたことがなかった。と言うか、付与魔法そのものが上級魔法とされており、一般的ではなかった。その為、回収した矢から取り外した羽根は、洗浄し形を整えるだけで、そのまま使いまわして問題はなかった。
しかし、今後は羽根に魔法を付与して使うことになる。一度魔法付与して使用した魔鳥の羽根は、付与した魔法と残留魔力を除去した上で、出来る限り再利用する必要がある。
そこで、ルウィージェスが光魔法で新しく『魔素除去魔石』魔法を作成し、クラウスが、武器加工部門の副部門長ハンスを魔石管理責任者に任命した。
現在、一度使用した羽根は洗浄され、ガラス付の棚の中でしっかりと乾燥させている。
エルンストは団長に就任後、真っ先に宮廷魔術師団の戦力の底上げに尽力した。
エルンストが宮廷魔術師団に入団した時の団長は、エルンストの父だ。だから、推定魔力量も使える上級魔法の回数も知っていた。
当然、宮廷魔術師団の団長になるには、強力な魔法が使えることが最低条件だ。しかし、強力な魔法は一度の施行で大量の魔力を消費する。団長として認められるには、その強力な魔法を複数回施行出来ることが必須であり、その回数の魔法を放てるだけの魔力量も持ち合わせていなければならない。
エルンストの父、前宮廷魔術師団団長は強力な魔法使いだったが、それでも、当時のエルンストに遥かに及ばなかった。直接魔力量を聞いたことはないが、明らかに、自分の半分もない、下手すると、三分の一程度くらいしかないかもしてない、と思っていた。
宮廷魔術師団の団長がその程度であれば、一般の団員の魔力量は、想像に難くない。
しかし、当時の魔術師団の訓練と言えば、魔法の訓練が主で、武器を使った訓練は、あくまでも魔力温存を目的としたものだった。
伯爵家を継ぐ者として、同時に、王家出身の母を持つ者として、幼い頃から武術の訓練を受けていたとはいえ、模擬戦で入団したての新人に勝てる者はいなかったのだ。
かなり強い危機感を覚えたが、新人の自分が団の方針に意見を言えば、それは身内ひいきと取られかねない。
だから、エルンストはじっと待っていた。
そして、自分が宮廷魔術師団の団長に就任した直後から、宮廷魔術師団の訓練メニューを大きく変更した。
まず、当時の王国騎士団団長に直談判し、魔術師への武器の訓練指導を依頼した。
魔法の訓練に重点を置いていた魔術師たちに、基礎体力の必要性を、時間をかけて説き、持久力をつけさせた。
そして、遠くまで飛ばせる武器である弓矢の有用性を説明し、団員全員に弓術を習得させた。いくら、どんなに強い指導者から訓練を受けても、それを習得するまでには、それなりの時間がかかる。後方支援的な攻撃方法の習得が急がれた。
練習用の矢の羽根は、色々な種類の鳥の羽根が使われており、非常に品質も低かった。
この品質で練習しても上達は望めない。
しかし、同種の鳥の羽根が使われ、きれいに揃っている戦争用の安定した品質の矢は、武器商人に試算を出させてみたが、まとめて購入してもそれなりの価格になった。
そこで、武器加工部門の技術者たちに矢の修繕維持加工の技術を身に付けさせて欲しい旨を、当時軍務省トップも兼任していたシューバート侯爵家当主の宰相に直談判し、武器加工部門の技術者たちが、矢の作成から修繕維持加工までを行えるようにした。
その時に導入したのが、このガラス戸付の戸棚だ。
ルウィージェスが確認したところ、かなりしっかりとした作りになっており、羽根の乾燥を目的として購入しただけあり、隙間も非常に少ない。
ガラス戸付の棚の中に、『魔素除去魔石』を取り付けるだけで十分な効果が得られると判断したルウィージェスによって、内部を少しだけ加工し、武器加工部門の技術者たちが魔石の取り付けを行うことになった。
残るは、エーギグ蔓保管場所を作るために移動させた冬用の装備類だ。
現在、移動させた冬用装備類を全て入れられるだけの空きが残っている倉庫はない。
新しい倉庫が出来るまでの仮保管庫として、【時空間魔法:保管庫】で邪魔にならないところに小さめな倉庫を作り、冬用装備を入れておくことにした。
発注した商会によると、新しい倉庫は1カ月以内には準備出来るとの事で、【保管庫】の期限を、余裕を見て2カ月としておいた。2カ月後、【保管庫】の魔法期限が切れると、中身のみがそのまま残されるため、注意が必要だが。
ようやく、『鳥の森』関連の用事がひと段落付いた三人は騎士団の訓練場に戻ってきた。
そこでクラウスが見たのは、カリンの指導を受けた騎士たち全員の死屍累々たるさまだった。
カリンは、『魔道神獣』スノウ・フォックスのニックスと戯れていた。
「カリン、お疲れ様~。」
「ルウィージェス様、おかえりなさいませ。クラウス団長とエルンスト団長も、おかえりなさいませ。」
ニックスもクラウスの姿を認めたようだ。かわいいよちよち全速力でクラウスの足元までやってきた。
「おーニックス、ただいま。カリン様、騎士たちを訓練して頂きありがとうございます。」
クラウスが近寄って騎士たちを見ると、クラウスに対して礼を取る体力も気力も残っていないようだ。
完全に精も根も尽き果てていた。
「これだけみっちり鍛えて下さるとは!カリン様、ありがとうございます。」
クラウスは嬉しそうだ。
「おい皆、これだけの強者にみっちりと鍛えてもらう機会なんて、そうそうないぞ。お前たち、カリン様に感謝しろよ!」
騎士たちは声も出せないようだ。頭が少し動いていた。頷いているようだ。
その様子を見ていたエルンストは苦笑していた。
魔術師たちにとって魔力切れは命に関わる為、あの状態になるまで魔術の訓練はしない。そこが、騎士と魔術師たちの訓練の大きな違いだ。
もっとも、騎士団の指南役から剣術等の指導を受けた時は、かなり近い状態にはなるが。
ルウィージェスは、小さな【冷水球】を倒れている騎士全員分を作り、ホーミングで口元まで移動させ、強引に口の中に【冷水球】を入れた。口の中に冷たい水が入ってきて、口腔内が冷やされたからだろう。数人だが、ようやく起き上がることが出来た。水を飲む者、口腔内を洗う者、様々だ。
それを確認したルウィージェスは、スタンピードの時に用意しておいて、まだアイテムボックスに入れっぱなしにしていた水樽を取り出し、樽の外から水を冷やし、同時に、カリンに休憩室からコップを持って来てもらい、全員に配った。
消化器管から吸収された冷たい水が血液を冷やし、疲労した筋肉から炎症物質を流していく。全身から癒されるような感覚だ。
騎士たちに魔力制御の指導を行っていた面々がザビーネと共に訓練場までやってきた。
「ザビーネ副団長、魔力制御訓練の方はどうでしたか?」
エルンストが聞いた。
エルンストから冷たい水が入ったコップを受け取りながらザビーネが答えた。
「そうですね、今日指導した団員中、半数くらいは『魔物再現魔石』のスライムなら制御できるまでにはなったかと思います。他の方も、もう少し練習したら感覚が掴めるかと思います。あと一歩という方がほとんどです。」
「おー、期待以上だ。」
その会話をクラウスが拾った。
「そっちも順調か。エーギグの弦が完成したら、改めて魔法付与弓術の練習も追加だな。ゴブリンみたいに体液が多く臭いがきつい魔物の殲滅には、剣よりも弓矢の方が向いているからな。」
エルンストは「ゴブリン」に強く反応した。
「私もゴブリンなどの下位魔物の動向が気になっていました。この冬は魔素過多中毒で大型魔物が変則的に跋扈したせいで、ゴブリン等の下位の魔物の姿が消えましたが、逆に言えば、全く数を減らせていませんからね。」
「例年だと今頃の季節には、ゴブリンの集落の報告が聞こえてくるのだが、未だに、騎士団の方にも一つも上がってきていない。生息分布に変動があったのは確実だが、この時期になっても、全く討伐出来ていない事が気がかりだし、正直不気味だ。」
「やつらの繁殖力は、魔物随一ですからね。」
団長二人は溜息をついた。エムラカディアから魔素過多問題については聞いていたが、リントヴルム問題以降、連鎖的に起こる魔物の異常行動に、魔素過多問題の本質にようやく気付いた二人だった。
団長二人の会話を聞いていたルウィージェスが、他の団員に聞かれないようにこっそりと神術で結界を張り、団長二人に聞いた。
「これはエルンスト団長にしか出来ないことだけど、鳥の斥候団、作ってみる?」
「「鳥の斥候団?」」
団長二人が同時に異口同音に問う。エルンストの横にいたザビーネも理解できず、ルウィージェスを見た。
「『鳥の森』でも説明した通り、エルンスト団長はランとヴェズルフェルニルの二神鳥から加護を受けているから、魔鳥であろうと普通の鳥であろうと、エルンスト団長の言う事、聞くよ?」
「そうなのですか?」
「あ、そうだ。エルンスト団長、今ヴェズルフェルニルの羽根、持っている?」
「はい、ここに。」
エルンストはそう言うと、魔術師団制服、ローブの内ポケットから、大切に紙に包んだヴェズルフェルニルの羽根を取り出した。
「ちょっと借りていい?」
「はい、勿論です。」
ルウィージェスは、アイテムボックス内で『大地と地下鉱物の権限』を発動させ、金、ミスリルと透明なダイヤを創造し、取り出した。
そして、金とミスリルを細鎖に加工し、神術【神力封加工】でダイヤの中に小さくしたヴェズルフェルニルの羽根と微量のルウィージェスの神術を閉じ込め、『錬金の権限』を発動させペンダントトップを作った。
「この細鎖はミスリルを混ぜて作ってあるから切れる心配はない。そして、このダイヤのペンダントトップの中に、ヴェズルフェルニルの羽根とほんの少しだけどぼくの神力を込めてある。ヴェズルフェルニルの羽根の効果を高める効果と、ぼくの神力を一緒に入れてあることで、加護を持つエルンスト団長と『神』の称号を持つ者以外には、一切触れる事が出来なくなる。例えば、エルンスト団長が寝ている時に魔物の襲撃の知らせがあって、慌ててこのネックレスを部屋に忘れてしまっても、ランかニックスに頼めば持って来てもらえるから。」
そう言うと、ネックレスをエルンストの手の上に置き、クラウスに触ってみるよう言った。
クラウスはそのペンダントに触れようとするが、すり抜けてしまい、全く触れる事が出来なかった。しかし、ルウィージェスがそのペンダントを持ち、藍にエルンストまで運ぶように言うと、普通に足で掴んでエルンストの手の平まで運ぶことが出来た。
「凄い…。」
ザビーネが溜息交じりに呟いた。エルンストはルウィージェスに深く礼をした。
「あ、そうだ。ついでに紙で渡した魔法陣も、これに書き込めるようにしておこう。いちいち紙を出して発動させるの、平常時だったら別に困る事はないかもしれないけれど、魔物討伐の時とかの場合、片手がふさがるのはよろしくないからね。」
そう言いながら、ルウィージェスは魔力消費量を減らすため、本来の魔法陣を簡素化させ、光魔法と火魔法の混合魔法『魔法陣転写』の魔法陣を創った。ペンダントトップの裏にエルンストも見たことがない魔法陣が一瞬浮き上がり、すーっと消えた。
「今、『魔法陣転写』という光魔法と火魔法の混合魔法を創って、その魔法陣をここに埋め込んだんだけど、今、紙で渡した魔法陣、ある?」
「はい、頂いた『魔法陣読解』、『召喚魔法:魔物再現』と『結界魔法』の魔法陣を持っています。」
そう言いながら、エルンストは自分のアイテムボックスから魔法陣を取り出した。
「この『魔法陣転写』の魔力消費量は、『魔法陣複写』とほぼ同じ。」
そう説明しながらエルンストにペンダントトップを渡した。
「このペンダントトップに『魔法陣複写』と同じくらいの魔力を流して見て。」
エルンストは、ルウィージェスの指示通りに魔力を流した。
すると魔法陣が浮かびあがり、懐中電灯のような光が放たれた。
「この光を、ここに保存しておきたい魔法陣に当てるの。」
そう言いながら、ルウィージェスはアイテムボックス内からテーブルを取り出した。
エルンストはテーブルの上に『魔法陣読解』の魔法陣を置き、光を当てた。
すると、『魔法陣読解』の魔法陣が光り出し、光った魔法陣がそのまま浮き上がった。そして、浮き上がった魔法陣がペンダントトップに吸い込まれるように消えた。
「これで、魔力を流すと同時に『魔法陣読解』発動と声に出すか、頭の中に『魔法陣読解』の魔法陣を描けば、『魔法陣読解』が発動する。試しに、これ、やってみようか。」
そう言うと、アイテムボックスから紙を取り出し、ペンダントトップに埋め込んだ『魔法陣転写』の魔法陣を複写した。
テーブルの上に置かれた『魔法陣転写』の魔法陣を食い入るようにみる魔術師二人。
「ペンダントトップをこの魔法陣の上にかざす必要はないんだ。さっき言ったように、ペンダントトップに発動させる魔法に必要な分だけの魔力を込めながら、発動させたい魔法名を唱えるか、魔法陣をはっきりと思い描くか、やってみて。」
エルンストは、『魔法陣読解』の魔法陣を頭の中に描いた。この魔法陣は、それこそ何度も何度も見ている。今では一瞬で寸分たがわず思い描くことが出来る。
すると、『魔法陣転写』を埋め込んだ側のペンダントトップに『魔法陣読解』の魔法陣が浮かび上がり、空中に『魔法陣転写』の魔法陣が浮かび上がった。
「「おおーーーー」」
「うゎーーーー」
三人から声が漏れた。
「このペンダントの便利なところは他にもあってね。エルンスト団長は、左右の手に異なる魔法を発動させることが出来るでしょう?このペンダントトップに攻撃魔法の魔法陣を転写しておくと、左右の手とペンダントから異なる魔法が発動できるようになるよ。」
「え?それでは、三種類の魔法を同時に放つことができるようになる、という事ですか?」
「うん。ザビーネ副団長の分も作ろうか?その方が、攻撃力、上がるしね。ザビーネ副団長の魔力量も多い方だから、いざという時の強力な武器になると思うし。」
「はい、是非お願いいたします!」
勿論、ザビーネに躊躇はない。
「ケーニッヒ伯爵家の紋章、今、書けるかな?ケーニッヒ伯爵家の紋章には『守備の要』という意味があったはずなんだ。」
「「「え?」」」
三人分の異口同音。
「あぁ、もう伝わっていないみたいだね。王家、シューバート侯爵家、フォーゲル伯爵とケーニッヒ伯爵家の紋章は、姉さまが作った物なんだって。紋章の中には神術の術式が織り込まれていて、紋章自体が、一種の魔道具の神術版、神道具になっているんだって。必要な時に紋章に魔力を流すと、紋章内に封じ込まれた術式によって、魔力が神力に変換され、紋章に込められた力が発揮するようになっているらしいよ。」
「「「え?!」」」
「フォーゲル伯爵家の紋章の意味は『魔術の要』だから、転写しておくと、いざという時に攻撃力の高い魔法が打てるようになるはずだよ。魔力残量が少なくなった時、その場から退避する機会を作るために、一時的に魔法の威力を強めて、敵に隙をつくることを目的としているんだって。」
ルウィージェスは、アイテムボックスから紙とペンとインクを取り出した。
「ここに、ケーニッヒ伯爵家の紋章、描いてもらえる?」
「はい。」
ルウィージェスは、ザビーネが紋章を書いている間に、アイテムボックス内で『大地と地下鉱物の権限』を発動させ、先ほどと同じように、金、ミスリルとダイヤモンドを作成し、ネックレスとペンダントを作った。形は、力を放棄した盾の魂の象徴、盾だ。
「このペンダントトップには、少しだけ、ぼくの神力も閉じ込めておいた。魔力を使い過ぎて、動けなくなった時に、素早く『守備の要』が発動して、魔力を回復してくれる。ただ、魔力の回復量は、安全な場所まで避難することが出来る程度に制限をかけておいた。そうでないと、封じたぼくの神力が『守備の要』の発動であっという間に消費されてしまうからね。」
ザビーネは、ルウィージェスから金とミスリルで編まれたネックレスと、ケーニッヒ伯爵家の紋章と『魔法陣転写』の魔法陣が埋め込まれた盾の形をしたペンダントトップを受け取った。
「このペンダントトップは、ケーニッヒ伯爵家の者なら誰でも触れる。ケーニッヒ伯爵家の血を持たない者には、エルンスト団長のペンダントトップと同じように、触れる事は出来ないけれど、『神』の称号を持つ者や、エルンスト団長みたいに、加護を持つ者は普通に触れることが出来る。あ、アダルベルト団長とウィルヘルム団長はケーニッヒ伯爵家の者だから触れるけれど、姉さまの眷属だから、そういう意味でも触れるよ。」
ハインライテル州領騎士団長のアダルベルト・フォン・ケーニッヒとリリーエムラ公爵家王都騎士団長のウィルヘルム・フォン・ケーニッヒは、ザビーネの弟たちだ。
ザビーネは深くお辞儀をした。感情が溢れ、言葉を発することが出来なかったのだ。
ルウィージェスがクラウスに言葉をかけようとした時だった。
クラウスの足元で大人しく様子を見ていたニックスが、ルウィージェスに何かを訴えるように鳴きだした。
「わかったわかった!」
ルウィージェスはニックスを抱き上げ、頭を撫でながら言った。
「ニックスが、クラウス団長に加護を与えたいらしい。だけど、まだ幼過ぎて出来ないから、ぼくに手伝えだって。いっちょうまえにランに嫉妬している。」
クラウスは驚きニックスを見た。ニックスは「クンクン」と鳴いた。
「ニックスは幼過ぎるから、増幅装置が必要なんだけど…、」
そう言いながら、ルウィージェスはアイテムボックス内で『大地と地下鉱物の権限』を発動させ、金、銀とミスリルを創り出し、取り出した。
そして、『錬金の権限』にて金、銀とミスリルをそれぞれ細い鎖にして編み込んで、一本のネックレスにし、最後に微量の神力を込めた。
クラウスにテーブルの上に手の平を上にしておいてもらい、ニックスも置いた。
金、銀とミスリルで作ったネックレスを、クラウスの手の平とニックスの首にかかるように置いた。
「クラウス団長、ちょっとの間、手の平をそのままにしててね。」
そう言うと、ニックスの右前足をクラウスの手の平においた。
「ニックス、この右前足、動かしちゃだめだよ。」
ニックスは「クンクン」と鳴いて返事した。
「それじゃニックス、クラウス団長に与えたい加護を発動させて。そうしたら、ぼくの神術でそれを増強させるから。」
ルウィージェスがそう言うと、ニックスが「フォーン」と鳴いた。すると、ニックスの体がほんのり光り、その光はニックスの右前足からネックレスとクラウスの手に流れて行った。そして、消えた。
「あ、ちゃんと加護、付いたね。クラウス団長、ステータス確認してみて。」
クラウスは急いで自分のステータスを確認する。
「あ…、『魔道神獣の絆』が付いています!」
「『魔道神獣の絆』は、ランがエルンスト団長に与えた加護と同じ『守護の加護』だよ。まだニックスは幼過ぎて、自分の力だけではその加護を発動させられないから、このネックレスをしばらく付けていてくれる?ニックスがもう少し大きくなったら必要なくなるけれど、普通にネックレスとしても使えるから、そのまま使っても問題ないよ。」
クラウスはネックレスを付けた。
「あ、そうか。そのネックレスを付けた状態なら、エルンスト団長のペンダントトップも、ザビーネ副団長のペンダントトップも触れるね。」
ルウィージェスのその言葉に、エルンストは既にネックレスを首にかけていたが、再度外して自分の手の平に置いた。
クラウスはエルンストの手の平に置いてあるペンダントトップに触れた。
さっきは全く触れることが出来なかったのに、今度は普通に触れるだけでなく、掴むことも出来た。
「「おぉーーー。」」
「本当に触れてる…。」
これにはクラウスだけでなく、エルンストとザビーネが驚きの声を上げた。
試しに、ザビーネのペンダントトップも試してみたところ、普通に触れることができた。
ニックスはまだ満足していないのか、ルウィージェスに訴えるように鳴いた。
「ニックス、ランにライバル心でも抱いたのかな?」
苦笑しながら言った。
「さっき、エルンスト団長にヴェズルフェルニルの羽根入りのペンダントトップを作ったでしょう?ニックスも作りたいらしい。今のニックスの毛を入れても弱すぎて役に立たないから、ニックスの母親の毛を貰ってくる。ちょっと待ってて。」
ニックスをクラウスにお願いすると、ルウィージェスは転移した。しかし、直ぐに戻ってきた。手にはニックスの母親の毛を持って。
「ニックスの母親は、妊娠中にぼくの神力を大量に浴びて神獣になったから、この毛には強い『守る力』があるんだ。腹の中の仔を守っている時の『力』だからね。生半可な力ではない。でね、獣の守る力っていうのは、攻撃力の増強でもあってね。妊娠中や子育て中の獣は攻撃的でしょう?だから、これを入れたペンダントトップを身に付けると、クラウス団長の『攻撃力』が増強されます。」
「おぉーーーーー!」
これにはクラウスが興奮する。
ルウィージェスは、エルンストとザビーネのペンダントトップを作った時と同じ工程でクラウスのペンダントトップを作った。但し、先が尖っている剣の形は、鎧を着て激しく戦うクラウスには向いていない。安全をとってスノウ・フォックスの尾の形にした。
同時に、エルンストとザビーネのペンダントトップと同じく、『魔法陣転写』の魔法陣を埋め込んだ。
「『魔法陣転写』の魔法陣も埋め込んであるから、攻撃魔法の魔法陣だけでなく、結界魔法の魔法陣も転写しておけば、防ぎきれない攻撃を受けた時、瞬時に結界を張る事が出来るようになるね。ただ、魔力消費量には注意してね。」
クラウスの前に紙とペンを置いた。
「クラウス団長、この紙にシューバート侯爵家の紋章を書いて欲しい。シューバート侯爵家の紋章の意味は『武術の要』らしいよ。ザビーネ副団長の紋章と同じく、疲労困憊、もしくは、負傷で動けなくなった時に、『武術の要』が発動して、一時的に動けるようになる。絶対に失う訳にはいかない『要』を担う人を守る紋章なんだってさ。ネックレスにはぼくの神術も織り込んであるから、ニックスが成長した後も、身に付けておくといいね。『武術の要』の発動の助けになるから。」
クラウスは一度付けたネックレスを外し、ペンダントトップを通しかけなおした。
それを見ていたニックスは満足そうだ。
「ルウィージェス様、ありがとうございます。」
そしてニックスを両手で抱き上げた。
「ニックス、ありがとうな!本当にありがとう!!!」
両手で天高く上げ、喜びを爆発させた。そして、何度も何度もニックスの体を撫でた。
実はクラウスはちょっと、いや、だいぶエルンストが羨ましかった。
結界があるため、全く会話は聞こえてなかったが、クラウス団長が物凄く嬉しそうにしているのは、周りの騎士たちにも分かった。
そして、なんとなく、エルンストが藍から加護を貰うという前例があるからか、自分たちの団長が『魔道神獣』のニックスから加護を貰ったような気がしていた。
ルウィージェスがクラウスに言った。
「本当は、ニックスにもランのようなスキルを与えたいんだけど、ニックス、幼過ぎてまだスキルを付与することが出来ないの。だから、もう少し大きくなったら、スキルを付与するね。ニックスも多分、ねだってくると思うし。」
そう言いながらニックスを見ると、「当然でしょう」と言わんばかりの声で鳴いた。
クラウスは本当に嬉しそうにルウィージェスとニックスに礼を何度も言った。
「それで、だいぶ話がそれてしまったんだけど、」
苦笑しながらルウィージェスはエルンストに言った。
「時間のある時にでも、敷地内の営巣地と『鳥の森』に行って、ランに数匹、斥候にスカウトして貰ってきて。後は、ランを通じて命令するか、そのペンダントトップに魔力を通しながら命令すれば、鳥たち、言う事聞くから。」
「え、それだけで良いのですか?」
「うん、神鳥の加護を貰っているから。ただ、鳥は言葉を話せないから、『はい』と『いいえ』を鳴き声の回数とかで決めておく必要はあるけどね。これはランを介する必要がある。」
それを聞いたクラウスが聞いた。
「それはニックスにも出来るのですか?」
「もう少し成長すれば。そうだね、もう半年もすれば、ニックスにも狐種限定だけど出来るようになるよ。」
「凄いな、ニックス。」
ニックスは嬉しそうに「クンクン」と鳴いた。
第33話は、エーギグ蔓の話とクラウスがニックスから加護を受ける話でした。
これで、エムラカディアも一安心でしょう。剣の魂を持ちながら守護神を失って不安定な状態だったクラウス。ニックスから加護を受け、ようやく、クラウスも安定しました。加護を受けた者は、魔素障害を受けませんからね。それどころか、古い魔素を消すことができます。
大変申し訳ないのですが、来週は、確定申告の準備があるため、お休みさせて頂きます。もし、間に合ったら上げる可能性の無きにしも非ずですが、今日も前書きと後書きが間に合いませんでしたからね。
ちょっと難しそうです。申し訳ないです。
第一章第34話は、来週3月21日(土)20:00公開予定です。
第34話 「惑星カティアス降臨までの日々⑤―禁忌の魔法陣―」
再来週もよろしくお願いいたします。
また、お会いできるのを楽しみにしております。
月 千颯 拝




