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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
33/43

第32話 「惑星カティアス降臨までの日々③―魔道植物エーギグ―」

 武器加工部門の副部門長のハンスです。王国騎士団の所属になります。

 エルンスト団長は剣術にも秀でていて、クラウス団長とよく模擬戦をしていますからね。我々の所に、他の魔術師団員より、より頻繁に武器の管理に訪れます。ですから、クラウス騎士団長は勿論のこと、宮廷魔術師団のエルンスト団長も、よく知っています。


 今日、クラウス団長の方から、『鳥の森』に魔鳥の羽根を取りに行くと聞いた時、正直、どう反応すればいいのか、悩みました。

 しかも、エーギグの蔓を取りに行く、と。思わず、「何ですか、それ?」と素で聞いてしまった。

 クラウス団長だから気にせずに流して下さったが、前任の団長だったら、確実に睨まれただろうな。クラウス団長、ホント、懐が深い。器が大きい。

 それはともかく、クラウス団長は、エーギグ蔓と魔鳥の羽根を探しに行く理由を説明してくれたが、実際に見るまで、いまいちイメージが湧かず、半信半疑状態だったな。


 一番驚いたのが、リリーエムラ公爵閣下のご令弟ルウィージェス伯爵様の知識の多さと、子どもの頃によく聞いていた話が本当だった、という事だ。

 あれは、本当に驚いた。

 ルウィージェス様は、本当に博学でいらっしゃる。少し、恐ろしいくらいに。


 今日は何度驚いたことか。

 実際にエーギグ弦を張った弓で、魔鳥の羽根を使って飛ばした矢の速度と飛距離!普通の渡り鳥の羽根ですら、エーギグ弦の弓で飛ばしただけで、あれだ。

 武器職人として、ひどく落ち込んだ日でもあり、新しい弦に出会って武器職人魂に火が付いた日でもあり。


 何が言いたいのかって?

 今日は、すごく、疲れた、な。

 昼食を騎士団の棟で取った後、午後は、弓術を得意とする騎士団員と、弓矢を使う事が多い魔術師団からの複数人に加え、武器加工部門からも二人が参加することになった。

 ニックスは小さいのでお留守番。藍はエルンストの左肩に乗って参加する。


 弓術の習得が必須な魔術師団からは団長のエルンストと副団長のザビーネが参加するため、ザビーネは魔術師団から二人ほど、騎士団で魔力制御の訓練を続ける者たちへの指導員として呼んだ。

 クラウスも副団長のフィン・フォン・ホフマンも連れて行きたかったが、宮廷魔術師団だけでなく、騎士団も団長と副団長が留守になるのはさすがにまずいため、副団長フィンに留守を頼むことにした。

 騎士団員からの強い要望により、カリンは残って騎士団への指導を継続する事に。

「カリン様、副団長フィンと騎士たちへの指導をよろしくお願いいたします。」

「クラウス団長、承知いたしました。ルウィージェス様をよろしくお願いいたします。」

「あぁ、もちろんだ。」

クラウスは胸叩いてカリンに答えた。


 向かうは『鳥の森』。

 多くの王国民から『鳥の森』と呼ばれ親しまれているこの森は、その名の通り多種多様な鳥が生息する、巨大営巣地だ。

 王都からも近く、魔物や動物は多いが、凶暴な魔物がいない、新人冒険者でも比較的安心して来られる場所で、経験の浅い低ランクの冒険者にとっては、比較的安全に依頼を受けられる場所であり、自分たちの経験も積むことが出来る貴重な場所である。

 この森へはテューゲンリン王国王立アカデミーでも授業の一環で来ることもあれば、衣服の装飾品を扱う者たちが、護衛と共に素材探しに来ることもある。

 戦う力が低い者でも、少数の護衛がいれば、比較的安全に来られる森、それが『鳥の森』であり、多くの者が抱くイメージだ。


 『鳥の森』は王国直轄地であるため、何らかを採集する場合は、予め、この森の管理を担っている王国騎士団に申請する必要がある。冒険者ギルドなどの各ギルドが代理申請をしている為、冒険者などのギルドに所属している者の場合は、所属ギルドから申請できる。

 とは言え、申請には難しい手続きは必要とせず、環境を破壊するようなレベルの事をしない限りは、申請が却下される事はまずない。


 森の中心には大きな湖があり、地下からの湧き水が源泉となっている。

 この森の管理は、王国騎士団の辺境管理部門が魔物の調査を行うと同時に適宜(てきぎ)間伐(かんばつ)を行い、鬱蒼とした森にならないようにしている。近衛を含むクラウスたち王都及び近郊を守る騎士たちも時々巡回に参加し、魔物の動向に目を光らせている。ついでに、気になった場所を片付けたりもしている。

 異常を察知するには、湖の周りに集まる魔物や動物たちの動向を調べるのが一番確実だ。水は生命の源。生物である以上、水は不可欠。異常が発生する時は、真っ先に水飲み場で異常が確認される。


 間伐した木々は建築用などの木材に加工され、騎士団や魔術師団の棟の修繕に役立てられている。急な大きな修繕が必要になった時には、この森から自分たちで木材を調達する事もある。

 また、この森は薬草の宝庫でもある。宮廷魔術師団は薬草採取によくこの森を利用している。錬金術師や薬師もよく利用しており、ここ以外に接点がないのに面識を得る事もしばしばだ。


 この森の特徴は、魔物も多いが普通の動物も多い。しかし、いわゆる獰猛な魔物や動物はいない。

 一応、魔物グリーン・ウォルフの存在は認められているが、そもそも、グリーン・ウォルフはそれほど獰猛な狼種ではない。初心者冒険者が最初に対峙する強めの四つ足魔物がグリーン・ウォルフだ。

 少なくとも、騎士団や魔術師団の入団試験を受験するレベルの者たちが後れを取る事はない。

 ともあれ、騎士団にせよ魔術師団にせよ、この森に来る機会はそれなりにある。

 その為、この森に魔物トレントの仲間がいる事に騎士団と魔術師団は一様に心底驚く。


 森の入り口で馬車を降り、隊列を指示したクラウスとエルンストは、ルウィージェスに進行方向を聞いた。

「とりあえず、右と左、どっちに行きましょうか。」

エルンストが聞いた。

 その質問へは答えず、ルウィージェスは、まだ森に入らない所から見える入り口近くで、地上2メートルくらいの所に輪になっている蔓を指さした。

「あれが、エーギグの古い蔓だよ。」

 皆が上を見た。そこには、直径50センチほどの輪を成しながら木の枝から枝へかかる蔓があった。たくさんの苔が生えている。

「苔がたくさん生えているの、見えるかな?あれは、かなり前にエーギグが自分で切り落とした蔓。あそこまで古いと、蔓がかなり弱っているから使えない。狙うのは、苔がほとんど付着していない、綺麗な円形を保っている蔓ね。エーギグの蔓は、本体から離れると、丸くなる特徴があるんだ。」

「え?あれが、そうだったのですか?!」

クラウスは驚き、指を指しながら聞いた。

「うん。本当に普通の蔓にしか見えないでしょう?」

 普段から巡回・間伐によく参加している騎士たち騒めく。

「あれなら、私もよく見ます。というか、森に行けば、ほぼ見る蔓、ですよね。」

ザビーネも唖然とし呟いた。

「まさか、あれが魔物の蔓だったとは…」

エルンストも唖然としている。


 その時藍が「ぴぴ」と鳴くとエルンストの肩から飛び立ち、少し奥にある綺麗な円形を保ち苔の付着が見られないエーギグの蔓に止まった。

「ラン、良いの見つけたね!それは間違いなく、ここ数日の間に切り落とされたばかりの新鮮なやつだ。」

 藍はエルンストの左肩に戻ってきた。

 クラウスの指示で、騎士三人が採集に当たることにした。ゆっくりと引き上げ、伸びている蔓を手繰(たぐ)り寄せる。今回切り落とした蔓はかなり長く、端から端まで4メートル程の長さがあった。

 「一度にこれ程の長さの蔓を切り落とすのですか?」

エルンストが、騎士たちによって綺麗に輪にまとめられた蔓をまじまじと見ながら聞いた。

「この長さを一度に切り落とすのはちょっと珍しい。移動するのに邪魔だからまとめて切り落としたのかも。」

「移動するのですか?!」

エルンストが勢いよく振り向き聞いた。蔓に触れたりしていたクラウスたちも、同様に勢いよく振り向く。

「あれも一応魔物トレントの仲間だからね。移動はする。めったにしないけれど。この間の長雨で環境が変わって移動したのかも。」

「それでは、他にも新鮮な蔓が採集できるかもしれませんね。」

珍しくエルンストが興奮している。高まる期待感を抑えられないようだ。

「その可能性は高いと思う。」

ルウィージェスの言葉に頷くと、エルンストは魔術師団に、採集した蔓をよく見るよう言った。

「このくらい苔の付着がないものを狙おう。」

 クラウスも俄然(がぜん)やる気が出たようだ。


 エルンストは同時に、まだ綺麗な鳥の羽根も見つけたら拾うよう魔術師団員に伝え、クラウスは騎士たちに、周りの気配に注意しながら蔓を探すように言った。


 蔓は騎士や魔術師たちが見つける前に、ほぼ藍が見つけ、知らせてくれた。

 採集すると、どれも苔一つ付いておらず、長さも最低でも2メートル程はあり、移動の為に切り落としたのはほぼ間違いないだろう、と結論づけた。


 木々の間から反射する光が見える。どうやら湖までやってきたようだ。

 湖の周りの木々には色とりどりの鳥がおり、また、湖のほぼ中央にある浮島にも、鳥が集まっていた。


 ルウィージェスは鳥が驚いて飛び出さないように、騎士と魔術師たちの周りに微量な神術を流している。

 鳥類は押し並べて臆病だ。これだけ大人数で移動すれば興奮し、その興奮は鳥類特有のネットワークによって伝播してしまう。

 弱いといえ、グリーン・ウォルフが現れたらやっかいだ。森が騒がしくなれば、森の管理者であるグリーン・ウォルフたちが見回りにきてしまうだろう。

 興奮していない野生の動物や魔物相手なら、微量神術でも十分な鎮静効果がある。

 もっとも、神鳥である藍が一緒にいる。余程の事がない限りは、大騒ぎになる事はないだろうと思うが、念には念を入れておくことにする。


 「あ、いた。」

ルウィージェスはそう言うと、一人走って行った。

 ルウィージェスの隣に立ち、先頭を歩いていたクラウスが慌てて付いていく。

「これ、この木。これがエーギグの本体だよ。」

ルウィージェスは、直径30センチ程の捻じれながら伸びる木をぽんぽんと叩いた。

 その言葉にクラウスは一瞬慌てるが、エーギグが動き出す様子は全く見られなかった。

「しかも間違いなく、これが移動した木だ。この木の周りだけ、雑草が生えてないでしょう?」

 その言葉に皆が下を見る。確かに、この木の周りにだけ成長した雑草が生えていない。見えるのは倒れ土に埋もれた雑草と、新芽ばかりだ。

 しかし、移動した痕跡は見られない。

「エーギグは根っこをうまく使って、自分の移動痕跡を消すんだ。」

 よく見ると、湖の岸辺からこの木の根まで、まだ芽が出たばかりで、全く雑草が伸びていない道が出来ている。今はまだ移動して日が浅いから、雑草の生え具合で移動の形跡を見つけることが出来るが、日が経ち、雑草が伸びた後では、まず、気付けないだろう。そのくらい、器用に移動の痕跡が消されている。

 

 エルンストは上を見た。多くの蔓が伸びている。しかしよく見ると、確かに遠くまで伸びている蔓は見られない。ほぼ全ての蔓はせいぜい二、三本先の木までにしか伸びていない。

「この蔓は、一日でどのくらい伸びるものなのですか?」

「初めの一週間だけ伸びるのが速くて、数メートル、ん…5メートルくらいはすぐに伸びる。その後は、すごくのんびりで、しかも、エーギグの気分次第だから、大抵は長い蔓と短い蔓が混在しているね。」

 

 クラウスたち騎士団は、別な視点からエーギグを見ていた。

「この細さなら間伐の対象にはならないから、気にした事なかったな。」

 クラウスの言葉に複数の騎士たちが頷いた。騎士団の心にあるのは、冷や汗だ。知らなかったとはいえ、一つ間違えば、エーギグからの攻撃を受ける可能性もあったのだ。魔物と認識していない者からの攻撃ほど、恐ろしいものはない。完全なる不意打ちだ。

「でも、よく見れば、非常に特徴のある木ですから、この特徴さえ覚えていれば、間違って手を出す危険性は低いですね。」

ザビーネも周りの木を見ながら言った。

 魔術師団では間伐は行わないが、騎士たちの気持ちは理解できた。まさか、こんな身近な場所に未確認の魔物が存在しているとは微塵も思っていなかった。考えてもみなかった。

 魔術師団だって、不意打ちをくらう危険性があった。

 今日、その存在を知れたのは、全くの偶然。僥倖としか言いようがない。


 ルウィージェスはエーギグをしばらく撫でていた。すると、上の方でざわざわと音がして、葉が何枚か落ちてきた。

 皆が驚き上をみると、蔓がうねうね動いていた。そして、複数の方向に伸びると何かを掴み、ルウィージェスに向かって蔓が移動してきた。

 クラウスとエルンストが構えた瞬間、ルウィージェスは二人に手を向け「大丈夫だよ」と言った。


 八本ほどの蔓が何かを包んでルウィージェスの前で止まった。

 ルウィージェスは、そのうちの一つの包みを開いた。その時、何らかの魔法を使ったことは、魔術師たちと一部の騎士たちには分かった。

 エルンストは、それが【光魔法】だという事は分かったが、一瞬すぎて術の内容までは分からなかった。


 ルウィージェスの手には【光魔法:鎮静】で落ち着きを取り戻した、羽根は赤く腹部の白い鳥がいた。

「これは魔鳥オオルリ。普通のオオルリは青羽根に白い腹部なんだけど、魔鳥のオオルリは赤い鳥で腹部が白い。この鳥の特徴は何といってもその飛行速度。この大きさで高速飛行するから、羽根に魔力を貯める能力も、魔力効率も物凄く良い。しかも、羽根の生え変わりもとても速い。因みに普通のオオルリの羽根も絶品です。そして、」

先ほどより少し大きめのエーギグの包みをもう一つ解く。出てきたのは、黒い帽子をかぶったような模様をもつ全身白い鳥だ。

「これは魔鳥アジサシ。黒い帽子をかぶったような模様は共通で、普通の鳥の方は薄い灰色。魔鳥の方は真っ白。この鳥はこの40センチもない体で長距を渡る渡り鳥。長距離飛行するから、肉食です。魔鳥オオルリの同じく、魔力貯留力・伝導効率共に抜群。普通の方も長距離飛行するので、羽根も絶品。」

 オオルリもアジサシも逃げずにルウィージェスの肩に移動した。

「これはコチドリ。これも長距離飛行する渡り鳥。特徴は足が長い。そして寿命は普通の鳥で五年程度と短命。魔鳥でも、一、二位を争う短命の八年程度。普通の鳥は茶色の羽根だけど、魔鳥はオレンジ系の羽根。短命なのでヒナを多く生む。この鳥の羽根は長めなので【風魔法:飛行】と相性が良い。遠くまで攻撃魔法を飛ばしたいときにお勧め。」

 コチドリはルウィージェスの肩に乗りたかったらしいが、満席だったので、頭に止まった。

 ルウィージェスは他の包みも解き、鎮静の魔法をかけ、後ろのエーギグの蔓に移動させた。

「今、この湖の畔にいる鳥で、矢の羽根にお勧めなのはこの三種。今日はいないみたいだけど、サンコウチョウも、尾羽が凄く長く、渡り鳥でもあるから、超長距離攻撃魔法の為の羽根として、是非とも見つけておきたいね。ところで、ハンスさんだっけ?武器加工部から来ている。質問、ありそうだね。」

 ルウィージェスのその問いに、クラウスは武器加工部門から参加しているハンスを見た。

「ハンス、何か、質問あるのか?」

「よろしいのでしょうか?」

「実際に武器加工するのはそなた()だからな。質問あるなら、今、しっかりしとけ。」

「では、失礼いたします。」

そういうとハンスは一歩前に出てきた。

「大変失礼ながら、なぜ伯爵様はそれほどまでに詳しいのでしょうか?それに、エーギグは何故伯爵様の言う事を聞くのでしょうか?」

 その問いに対し、ルウィージェスは、ニッコリ笑顔で逆に質問する。

「ハンスさん、リリーエムラ家が何て言われているか、ご存じですよね?」

 思わぬ問いに、ハンスはしどろもどろになってしまった。

「え?はぁ。あ、あの、自分が知っているのは創造神様の子孫であると。子どもの頃に母から聞いた物語で、そういう話があったのを覚えています。」

「それね、事実だよ。ぼくは、この惑星エムラの創造神の血族。ぼくたちにはそれぞれ役割があってね。ぼくの役割は、魔道生物、…魔物たちの管理なの。だから、ぼくは比較的高い意思疎通能を持つ魔物とは会話が出来るの。」

――――確かに、嘘は一つもついていない。うまい言い方をする。実弟だから、確かに血族だし、ルウィージェス様の『ぼくたち』は神族という意味だろうけど、普通に聞いたら、『創造神の血族』と文脈的に解釈させる言い方だし…。

クラウスとエルンストは、半ば感心しながら聞いていた。

「え?…物語や伝説ではなく、本当に、リリーエムラ公爵家の皆さまは、創造神様の子孫であらせられると…。」

ハンスは激しく動揺し、そして、両膝を地面につけ(ぬか)づいてしまった。いわゆる土下座だ。

「大変失礼申しました。万謝(ばんしゃ)申し上げます。どうかどうかご容赦の程を。」

「え…えぇ…、」

あまりに凄い詫び方にルウィージェスは大きく戸惑い、思わずクラウスとエルンストを、助けを請うような目で見た。

 クラウスとエルンストはその様子に苦笑する。

「ハンス、ルウィージェス様が困っている。別にルウィージェス様はそなたを罰しようとか、そういう気持ちは一切ない。それに、本当の事を話した方が、摩訶不思議な現象も理解しやすくなるだろうと判断されての事だ。」

ハンスはクラウスを見、そしてルウィージェスを見た。

 ルウィージェスは、ハンスの前にしゃがんで言った。

「詫びて欲しくて言ったわけじゃないの。クラウス団長が言ってくれた通り、本当の事を言った方が理解してもらえるかと思って。」

「伯爵様…。」

「だから、立ってくれる、かな?」

ハンスはクラウスを見た。クラウスが頷くのを確認し、ハンスは立ち上がった。

「失礼いたしました。」

ハンスは立ちながら詫びた。

「大丈夫だよ。それより、理解してもらえたかな?」

「はい。創造神様の子孫様であらせられるのなら、我々の理解を遥かに超えた能力をお持ちでも不思議ではありません。」

――――子孫どころか、創造神様より上の、上級神様、だけどな。

クラウスとエルンストは心の中で呟いた。


 青ざめてしまっていたハンスの顔色も戻った。それを確認したルウィージェスは、エーギグの前に戻って話を続けた。

「ぼくが言いたかったのは、オオルリ、アジサシ、コチドリのように、自身の膂力だけでは到底成し得ない速度や長距離を飛ぶ魔鳥の羽根が、攻撃魔法を乗せる矢に向いているっていう事なの。もちろん、普通の渡り鳥の羽根も矢にも向いているよ。魔力を乗せない時は、普通の渡り鳥の羽根の方が速く遠くまで飛ぶしね。」

 エルンストは、エーギグの蔓に止まっている鳥たちに近付き、まじまじと見ながら言った。

「この三種類の鳥は、この森ではよく見ますね。他の、渡り鳥でない鳥の羽根は、この三種よりかは劣るかもしれませんが、接近戦用だったら、使えそうですか?」

「十分使えるよ。今まで使っていた矢の飛距離の範囲内だったら、このエーギグの蔓で作った弦で飛ばせば、魔鳥、普通の鳥、どちらでも十分な速度で飛ばすことが出来る。」

 「エルンスト団長、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」

ハンスが、何故か右手を上げ、一歩前に出て聞いた。先ほどの、おどおどした感じはもうない。完全に平常心を取り戻したようだ。

「エルンスト団長も、不思議な力をお持ちなのでしょうか?」

「へ?」

ハンスからの思いがけない問いに、エルンストは虚を突かれ、変な声が出た。

「いえ、普通鳥のような小動物は警戒心が強いですから、団長のように強い気配を持つ者が近づいたら逃げてしまうのですが、その鳥たちは全くそういう反応を示さないので。」

 今気付いたと言わんばかりに、エルンストは鳥たちの方を見た。

「そう言えば、そうだな、」

 最近は藍を肩に乗せている事が多く、小鳥が逃げない状況が普通になっていたエルンストは、藍以外の小鳥が逃げない事に対しても、違和感を全く抱かなかった。

 その会話を聞いていたルウィージェスが、クスっと笑いながら言った。

「神鳥の加護を持っている人を鳥は警戒しないよ。」

「そんな効果もあったのですか。」

 その言葉に、エルンストだけでなく、思わずクラウスたちも藍を見た。騎士団、魔術師団の団員共に、藍が『魔道神鳥』であることは知っている。


 普段行動を共にしない武器加工部門のハンスら二人は、藍が神鳥である事を知らない事に気づいたエルンストは藍を左手に乗せた。

「ハンス、この小鳥は魔道神鳥、つまり亜神様だ。私は魔道神鳥であるラン、…ラン様から『魔道神鳥のお気に入り』という加護を頂いている。だから、鳥は私を警戒しない、らしい。」

「魔道神鳥…?亜神…?」

ハンスは馴染みのない単語だが、『神』という言葉に狼狽えた。

「ランは神格化した鳥だから神鳥で、立場は亜神です。」

ルウィージェスが答えた。

「…それでは、エルンスト団長は、亜神様から加護を頂いている、と?」

「あぁ。ありがたいことに。」

「はぁ…。なんか、一生分の驚きを経験した気分です。」

ハンスは納得したようだ。同時に少し疲れたような様子でもあった。


 「エーギグ、この辺りで鳥の羽根がたくさん落ちているところってないかな?」

ルウィージェスが聞くと、また上から葉が落ちてきて、蔓が動いているのがわかった。

 数本の蔓が伸びていき、蔓を下に向けた。

 今度は流石に、構えたりする者はいなかった。

「あの辺りに羽根がまとまって落ちているらしいから行ってみよう。」

ルウィージェスの両隣をクラウスとエルンストが守るように進んでいくと、数羽の鳥が落ちていた。緑のグラデーションが見事な、色鮮やかな羽根を持っている。魔鳥と思われた。

「何らかの小動物に襲われたっぽいね。仲間を助けようとして相打ちになったかな?」

「そのようですね。鳥の体に爪で引っ掻いたような傷が多数見られます。」

エルンストはしゃがみ込み、一羽の鳥を手に取り検分する。

「こいつかもしれないな。」

周りを確認していたクラウスが何かを見つけたようだ。

森狐フォレスト・フォックスか。これは、普通の動物の森狐だな。こいつは目を突かれたのだな。しかも、」

クラウスは、森狐の死骸を少し押してみた。

「硬直が崩壊しない。経っても数時間、と言ったところか。午前中にやられたのだろう。」

 エルンストの隣で鳥の死骸を見ていたのはハンスだ。

「これは魔鳥の方のタゲリですな。この羽は光の角度によって色が変わって見えるため、ボタンやバッジなどの装飾品の加工品として好まれています。渡り鳥なので、アジサシ程ではありませんが、それなりの長距離を飛ぶ鳥です。」

 ハンスには分かったようだ。さすが武器加工職人。非常に詳しい。

「この森狐も持って帰ろう。相手が鳥だったのが幸いして、体部には傷が殆どない。防寒具などへの転用が出来るだろう。」

クラウスがそう言うと、騎士たちが死骸を袋に詰めた。


 エーギグが蔓で示してくれた場所をすべて回ると、それなりの量の羽根を採集することができた。

 帰り、ルウィージェスが鳥たちに声をかけると付いてきた。

 藍が鳥たちのまとめ役を買ってくれたようだ。騎士団の訓練場まで大人しくしていた。


 クラウス、エルンスト、ハンスとルウィージェスは、騎士団の解体所に向かった。

 集めた鳥の処理と、偶然見つけた複数の動物や魔物の処理を頼むためだ。

 解体師主任マッテオに、矢に使う羽根についてクラウスとエルンストで説明したのだが、いまいち要領を得ずにいた為、午前中に行った実験をマッテオに見せた。

 すると、午前中の実験に参加していなかったハンスも目を点にしていた。

「こんなに違いが!!」

実際に武器を作っているハンスが言葉を失った。

「あぁ、だから鳥の種類にも拘って採集しに行ったのだ。」

「クラウス団長、やっと真の理由を理解しました。」

 話の流れから、マッテオは、使う羽根によってここまで矢の威力に違いが出る事を知っていたのがルウィージェスである事に気づく。

「これも、伯爵様はご存じだったと?」

マッテオがクラウスとエルンストの間にいるルウィージェスに問う。

「ぼくは短剣を使う事の方が多いけれど、この通りまだまだ背が低いから、弓を使う機会もそれなりにあってね。魔鳥の羽根と普通の鳥の羽根の特徴に気づいた後、色々と試してみたの。今朝はその過程で気付いた事を話したんだ。」

 その言葉にハンスとマッテオが大きな溜息をついた。

「我々は、大いに反省すべきですな。」

ハンスがマッテオに呟いた。

「全くだ。…初等部1年生の研究成果が凄すぎたと思いたい。」

地獄耳のクラウスは二人の呟きを拾った。

「長年に渡って研究されてきた矢だぞ。もう研究し尽くされていると思っても不思議ではないだろう。」

クラウスの言葉にエルンストも頷きながら続けた。

「我々魔術師団も、普段は【風魔法:追尾】を付与して使うから、普通の鳥の羽根の特徴など、ルウィージェス様から説明されるまで、試そうとも知ろうとも思いませんでしたからね。」

 エルンストたちが【風魔法:追尾】を使っている事を知ったルウィージェスは、疑問に思った事を聞いた。

「ねぇ、エルンスト団長、【風魔法:追尾】と【風魔法:飛行】では、どっちの方が魔力消費量多いの?」

「我々が使う【風魔法:飛行】は、今は魔法陣に問題があると考えていますが、魔力消費量とその効果が合わない魔法なのです。そのため、【風魔法:追尾】の方が魔力消費量は多いのですが、効果という点で優れているので、【風魔法:飛行】は全くと言って良いほど使っていないのです。」

「ふ~ん、あとで魔法陣見せてもらえる?」

「勿論です。」

 エルンストは、魔法付与の練習用にも確保したいと伝え、騎士団と魔術師団の確保分量を決め、書類に署名した。


 次に行うのは、エーギグの蔓の加工方法だ。カリンは剣術の訓練指導している為、ルウィージェスが鞣し方を教えた。一見植物に見えるエーギグだが、実際は魔道生物である。木の皮の加工より動物の皮の加工に近い。


 しかし、下加工の後、数日乾燥させる必要がある。その為、作業途中の、段階的に加工した状態の物をアイテムボックスから取り出し、クラウス、エルンスト、ハンスとマッテオの四人に見せ、実際に手に触れ、状態を確認してもらった。

 そして、完成状態の蔓を取り出し、四人に実際に試してもらった。弓本体の材料は、現在使っている物で十分だ。

 色々と試した結果、弓に弦を張る瞬間に属性を持たない魔力を乗せる方が、使い勝手が上がることが分かった。

 ルウィージェスの魔力は純粋な為、その工程を必要としなかったが、藍から加護を受けたエルンスト以外の者たちは、弦を張る時に属性を持たない魔力を乗せた弓の方が、付与魔法も乗せやすい事も判明した。

 ただし、弦を張る時に属性を持たない魔力を乗せるのはなかなか難しく、魔力制御力が突出しているエルンストはともかくも、普段からその工程を行っている武器加工技師ハンスからの適切な助言(アドバイス)なしでは、クラウスとマッテオには難しかったが、それでも、練習次第でなんとかなりそうだった。

 なんとか属性を乗せずにエーギグ弦を張った弓を使って、実際に今まで使っていた矢、魔鳥の羽根を使った矢と、今回初めて試す普通の鳥の羽根を付けた矢で、エーギグ弦の張り状態を調節してみた。その結果、一括で調節してそのままで使うより、使用する個人で微調整した方が、より飛距離が出ることが分かった。魔力を通さずとも、使用者の魔力に反応する、魔物の蔓の特徴なのだろう。また、魔力で微調整を行うと、更に飛距離が伸び速度も上がることが分かった。

 

 次に行ったのが、通称『鳥の森』から連れてきた魔鳥たちの新しい営巣地もしくは立ち寄り場の確保だ。

 音が出る訓練場から離れている緑の多い場所を探すクラウス、エルンスト、ルウィージェスと魔鳥たち。藍はいつもの場所、エルンストの左肩にいる。

 色々歩いてみた結果、魔鳥たちが選んだのは、騎士団・魔術師団新入団員の合同宿舎近くにある林だった。ここは宿舎(プライベート)区域と職務区域との境にあり、空間を完全に隔離するために、設置された緑の空間だった。

 林の中央には小川が流れており、源泉は地下水で、年中水温が比較的安定しており、小川に棲む生物も豊富だ。位置的に『鳥の森』と水脈が同じと思われ、『鳥の森』とほぼ同じ環境が整っていると言っていい。良い餌場になりそうだ。

 ルウィージェスは、新しい住民となる鳥たちが好む、より静かな空間にするため、『空間魔法:癒しの空間魔石』魔法を創造し、林との境目に複数魔石を埋め込み、魔鳥が人工的な音からストレスを受けないようにした。

 数日後、エルンストが藍と共に確認しに行くと、高い木の所に営巣らしき枝の集まりを複数確認した。どうやら気に入ってくれたようだ。

 早速、新しい羽根を数枚程採集できた。

第32話は、エーギグ蔓と魔鳥の羽根採取の回です。

この回以降、エーギグ蔓と魔鳥の羽根が大活躍します。今回は、その準備の回、ですかね。

さて、次回から神獣ニックスが本格的に参加します。


第一章第33話は、来週3月7日(土)20:00公開です。

第33話 惑星カティアス降臨までの日々④―ニックスの加護―

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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