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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
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第30話 「惑星カティアス降臨までの日々①―新しい魔道神獣―」

 王国騎士団団長のクラウスだ。

 ルウィージェス様が獲って来たフォレスト・グルトニーアナコンダには、正直驚いた。驚いた、なんてモンじゃない。度肝を抜かれた、と言っていい。あんな巨大なフォレスト・グルトニーアナコンダが棲息する北の森って、一体何なんだ?!と思ったね。兄貴が州領主を務める領地のお隣さんだけど。

 王国の北端は、氷狼神フェンリルが眷属の魔獣を従えて、国境を守っているというのは、一般には知られていない。王家、うちとフォーゲル伯爵家と、派閥の貴族家くらいにしか、その話は知られていないと思う。というか、おとぎ話になっているな。

 北の森には世界樹があるというのは知っている。実際に、実家の領地からも、場所によっては見えるしな。俺が王国騎士団の団長に就任した時に、侯爵当主の兄貴から貰った別荘からは、はっきりと世界樹が見える。あの別荘、兄貴には言わないが、結構気に入っている。世界樹が見える景色は、壮大。その一言に尽きる。

 で、その世界樹。何人なりとも、そこに辿り着ける者はいない、と言われている。そりゃ~、魔獣が治める地域だ。小さくて弱い人族なんて入れんわ。

 人族が弱い種族だというのは知っている。

 王国騎士団と宮廷魔術師団は、その役儀から、身元のしっかりした者しか入団試験を受けることが出来ない。平民の場合、身元保証人というか、身元保証書を発行できる人となると、大概は出身校の学校関係者になる。そして、身元保証書を発行できる学校に入学できる時点で、身元がしっかりしているわけだ。だから、元貴族家出身の者や大商人の子弟などに限られてしまう。

 他国出身者である事が多い獣人族の人たちは、王国騎士団と宮廷魔術師団の入団試験を受ける資格を持っていない事が多い。冒険者に獣人族が多いのは、その為でもある。

 獣人族は、魔術に対する親和性が低い種族が多いと聞く。その代わりに身体能力が非常に高い者が多いと聞く。その他の獣人族以外の、いわゆる亜人と呼ばれる種族の者たちには、高い魔術親和性を持つ者たちもいると聞く。

 もったいないよな、と思うよ。本当に。

 人族は弱い。俺も人族だから分かる。上級冒険者ともなると、それこそ、ワイバーンとかと数人で対峙出来るとも聞く。そして、そのパーティーには、ほぼ必ずと言っていいほど、人族以外の種族がいるという。

 現在の冒険者ギルドの総括のレナーテ・ノルトライン=プロセン氏は、リリーエムラ公爵家が持つ離れ領地、テューゲンリン王国の最南端にある南ハインライテル州領内にある森の一画、テューゲンリン王国によって自治区として認められている地域出身のエルフだ。北のハインライテル州領内にも、南ほど大きくはないが、エルフの里がある。そこも、自治区として認められている。近くには、同じく自治区として認められているドワーフの里もある。

 共通しているのは、リリーエムラ公爵家が守っているのは妖精族。リリーエムラ公爵家が治める州領に住む妖精族は、リリーエムラ公爵家が身元保証人となる為、王立の学校にも結構な人数が通っている。

 だが、王国騎士団や宮廷魔術師団に入団する者は、全くと言っていいほどいない。国の組織に妖精族が入る事は、極めて少ない。

 レナーテ総括が所属しているのは、どこの国にも属さない、独立組織の冒険者ギルドだ。同じく独立組織の商人ギルドや錬金ギルドなどには、それなりの妖精族が属しているのは知っている。

 昔、なんかあったのかね~。正直、人族で国防を固めるには限界がある。


 あ、そうそう。魔道神獣スノウ・フォックスの仔、ニックス。かわいいよな。

 神獣だから亜神様なのだが、ほぼ毎日、魔道神鳥のランを見ているからかな。なんか、緊張しない。上級神のルウィージェス様もいるからかな?

 俺、なんか神様に慣れちゃっているような気がする。というか、結構神様って、身近にいるんだな。俺の兄貴も創造神様の眷属だしな。

 あ、でも創造神様は緊張する。神生じんせいの差、かな?

 ルウィージェスは、エムラカディアから惑星カティアスの準備が整いつつあることを聞いた。そして同時に、この惑星での日々も、もうすぐ終わることを知った。


 宮廷魔術師団の方はかなり進めることができた。あとは魔術制御の訓練など時間がかかるものばかりだ。ギリギリまで一緒に過ごそう。

 今、考えるべきは騎士団の方だ。

 魔術師団の団員は、魔術師団の入団試験に合格するレベルの強い攻撃魔法や支援魔法が使え、非戦闘者であっても保持魔力量が非常に多く、魔力を制御する感覚を得やすい。

 しかし、王国騎士団の入団試験において、魔法に関しては、そもそも魔法が使えたら尚良い、というレベルであり、あくまでも武術が基本だ。生活魔法以外の魔法は全く使えない団員も多い。

 だが、古い魔素障害で凶暴化した魔物や、今回のスタンピードの原因となった、魔素過多による魔物の氾濫などに対処するには、付与魔法で攻撃力を上げ、戦力の増強を図る必要がある。これに関しては必須と言って良い。

 今までルウィージェスが見てきた限り、と言っても、近衛(このえ)を含む王都在留組のみであるが、王国騎士団の中で魔力による身体付与を短期間で習得できそうなのは、クラウス以外ではほんの数名しかいない。武器への魔法付与の方が、攻撃魔法が使える者であれば、まだ、習得できる可能性が高い。

 藍のスキル【応援歌】は、守護系魔法への影響は大きいが、攻撃魔法系への影響はそれ程ではない。王国騎士団には攻撃魔法を強化する新しい補助役が必要だ。とはいえ、亜神に協力を求めるのは難しい。亜神は気に入った者にしかその手を差し伸べない。いくらルウィージェスが上級神であっても。

 そうなると、剣の魂を持つクラウスを気に入ってくれる神獣に進化できる魔獣を探し出すしかない。魔道生物では無理だ。魂の格が低すぎる。あくまでも神獣に進化出来る魔獣、その一択だ。

 剣の魂は創造神が創った特別な魂。潜在的な神格は高い。神獣に進化出来るレベルの魔獣であれば、その特別な魂に気づき、気に入れば共鳴する筈だ。

 そう考えたルウィージェスは、リリーエムラ公爵家の州領、ハインライテルの奥にある森に頻繁に出かけ、騎士団の補助役になりそうな神獣に進化出来るレベルの魔獣を探していた。


 ハインライテル州領には王国一の規模を誇る巨大な森があり、その面積は、王国一の面積を持つ州領の7割を占める。

 森の北側を牛耳る氷狼神フェンリル、森の東側を牛耳る魔鳥グリフォン、森の西側を牛耳る魔鳥ルフによって、接する隣国やシューバート侯爵領とフォーゲル伯爵領との境は制御されており、魔道生物の氾濫は起こらない。3巨頭は小さな縄張り争いは見逃しているが、秩序を乱す行いは、一切認めていない。

 現在の魔鳥グリフォンと魔鳥ルフの長は、神鳥に進化できる程の長い時を過ごし、力を持っている。神鳥に進化するのも時間の問題だろう、とエムラカディアは見ている。

 森の北側は、そこを牛耳る氷狼神フェンリルが従える魔獣狼種によって、隣接する他国からの侵入を強固に防いでいる。氷狼神フェンリルの眷属である魔獣狼種は、その全ての種が強力な魔法を操る。魔物ではなく、魔獣が守護する国境。王国建国以降、一度も他国からの武装による侵入を許したことがない。

 森の南側は、リリーエムラ公爵家の州領屋敷がある方向であるため、一強による制御は創造神が認めていない。また森の中央も、縄張り争いは認めているものの、神鳥・神獣や魔鳥・魔獣による支配は、一切創造神が認めていない。


 週末のこの日、ルウィージェスは連日続いた雨による魔素流れが気になっていた。濃度はそれ程ではないが、魔素溜まりが複数確認出来る。

 現在、屋敷側の森には、古い魔素問題の解決の糸口になる事を期待して、ルウィージェスが新しく創造した魔道生物が多く棲んでいる。しかし、その新しい魔道生物の多くは小さな生き物が多く、その力もそれ程強くない。しかも、まだ個体数そのものが非常に少ない。

 ハインライテル州領には古い魔素はないが、古い魔素から逃げてきた魔道生物が多く移り住んできており、縄張り争いが明らかに増えてきている。しかも、魔素が古かろうが新しかろうが、多過ぎる魔素の摂取は、魔道生物を攻撃的にする。

 新しく創った魔道生物の多くは、体内に、その体の大きさからは想像できない程の魔力を保持している。魔法を操る大型魔道生物からすれば、それらは捕獲すべき餌(ごちそう)に他ならない。

 ある程度数が増えるまでは、ルウィージェスが守ってやる必要がある。


 まだ小雨が続いているが、森の中を【風魔法:浮遊移動】で魔素過多による魔道生物の異常行動の徴候がないか、藍と一緒に見回る事にした。手に持つのは、ペトラの店フェルンヴェーで見つけた、藍も気に入っている鳥の絵柄の傘だ。

 かなり奥まで進んだ時だった。何か、声のような音が聞こえた。藍もルウィージェスの肩に止まり、静かにする。

 「キュ…」

 やはり声がする。傘に当たる雨粒の音で声が消されそうだ。傘をアイテムボックスへ入れ、神術で結界を張った。

 この森には多種多様の上位の魔獣が棲んでいる。神術の結界で魔力を隠すことで、彼らに余計な刺激を与えないようにする目的もある。同時に、強すぎる上級神の気配を隠す意味もある。


 この辺りには多種多様な普通の生物と魔道生物が生息している。気配探知で探すのは骨が折れる。血の匂いも、雨で流されているのだろう。血の匂いを辿るのも難しそうだ。

 二人が辛うじて聞いた音の方向が同じだったのが唯一の救いだ。

 その方向へ数分ほど進んだ時、強い血の匂いを嗅覚が拾った。

 「こっちみたいだね。」

左前方から血の匂いが漂っている感じだった。


 更に血の匂いを辿ると、木々の間から光が漏れる場所が目の前に現れたが、ルウィージェスは躊躇せずに先に進んだ。そこは、大量の大木が根こそぎ折れ、視界が広がっていた。少し先には巨大な蛇、見た感じアナコンダの魔道生物のようだ、が二匹いて、一匹の喉元が大きく膨らんでいた。

 ルウィージェスは、間に合わなかったか?と思ったが、かすかにだが、唸り声が聞こえた。どうやら、まだ生き残りがいるようだ。

 近付いてよく見ると、巨大なアナコンダはフォレスト・グルトニーアナコンダで、縦方向に伸ばしている部分、上部の胴体から頭までの長さだけで、どう見積もっても5m以上は確実にある。更に地に這っている胴体の部分がある。サイズ的には特大サイズになるだろうと思われた。

 フォレスト・グルトニーアナコンダの皮は防具に最適だが、その巨大さと凶暴さから討伐は不可能とされており、市場に出回るのは、たまたま死骸を見つけた時のみ、と冒険者ギルドに行った時にもらった「冒険者の手引き」に書いてあった。

 「うん、これ、持って帰ろう。防具に重宝されているらしいし。」

そう言うと、ルウィージェスは【風魔法:リング】を二つだし、フォレスト・グルトニーアナコンダの首に巻き付け、絞め殺した。死骸はもちろんアイテムボックスへ放り込む。

 ルウィージェスは、他に蛇の仲間がいないことを確認すると、高度を下げ、声の主を探した。

 するとそこには、おなかを大きく膨らませたスノウ・フォックスがいた。ただ、全身傷だらけで、息をしているのが奇跡な状態だった。

 目の前の巨大蛇を倒し、空中を歩くルウィージェスに、満身創痍のスノウ・フォックスは最大級の警戒心を剝き出しにし、唸り声をあげている。

 「ん~、さすがに妊婦は助けたいな。」

とはいえ、これだけ警戒心剥き出し状態を(なだ)めるのは難しい。

「しょうがない。」

そう言うと、ルウィージェスは治癒神術をスノウ・フォックスにかけた。魔術と違い、神術には安らぎを与える力がある。

 スノウ・フォックスは、治癒神術によって全身の傷だけでなく、精神的な安心感も得たのだろう。徐々に警戒心を解き、しばらく様子を見ていたが、大きなおなかを守るように、ゆっくりと座った。


 大人しくなったスノウ・フォックスに声を掛けようとした時、スノウ・フォックスが産気づいてしまった。

 慌てたのはルウィージェスだ。こんな場面は初めてだ。産科の知識も何もない。

 出産直前に受けた強烈なストレスから難産になってしまったのか、スノウ・フォックスは苦しそうに小さく声を上げ、ぐるぐる回り、痛みを散らそうとしているのが分かった。

「ど、どうしよ…。」

とっさに神術で痛みを和らげ、気持ちの鎮静も促し、神術を込めた手でおなかをさすった。

「がんばれ…」

苦しむスノウ・フォックスを宥め励ますしか出来ない。血の臭いと呻き声を聞きつけたのか、他の魔道生物や動物が近づいてくるのを感じ、神術で結果を張った。

「がんばれ…」

他に言葉が出ない。末っ子のルウィージェスは出産場面(シーン)など見たこともない。その苦しみから思い浮かぶ言葉は「壮絶」であり、ひたすら神術で痛みと心の緊張を和らげることしかできなかった。


 時間としてはそう長くはなかった筈だが、突然の出来事だったため、ひどく長い時間にルウィージェスは感じた。

 仔は2匹だった。

 無事生まれてホッとし、(りき)んでいた肩から力を抜いた。大きく息を吐いて深呼吸をし、自身も落ち着かせていた時、左肩で大人しくしていた藍が『お仲間?』と聞いてきた。

 慌てて3匹を見ると、3匹とも『魔道神獣』になっていた。

「あ、やっちゃった…。」

慌てていたとはいえ、神術を掛け過ぎてしまったようだ。

「どうしよ…。」

ぐったりとする魔道神獣となった母狐と子狐を置いておくわけにはいかない。【風魔法:浮遊】で母狐の負担を減らし、仔を母狐の上に乗せ、驚かせないように意識してゆっくりと移動し、領主邸(マナー・ハウス)へ連れて帰ることにした。


 母狐と仔2匹をタオルの上に置き、転移で王都の屋敷に戻り、珍しく屋敷にいたエムラカディアに、素直に事の顛末を話した。話を聞いたエムラカディアは思いっきり吹き出し、目に涙を浮かべて大笑いしながら、ルウィージェスを労わった。

 「その年で出産場面(シーン)は、衝撃でしたでしょうね!」

 魔道生物を魔道神獣に進化させてしまった事は不問にすると、ルウィージェスにはっきりと伝えた。

 神族としてはまだまだ幼いルウィージェスが、出産の現場に立ち会ってしまったのだ。気が動転しても仕方がない。

 それに、とエムラカディアは思った。守護神を失っている剣の魂の持ち主クラウスに神獣が懐いてくれたら僥倖(ぎょうこう)、と。

 エムラカディアは、そういう思惑はおくびにも出さず、ルウィージェスには、親は元気になったら森へ帰るだろうから、仔は、番犬、もとい番狐として屋敷に置いておいても良い、伝え、親離れが出来るまで屋敷に置いておくことにした。

 親狐と子狐たちの面倒を率先して引き受けたのは、ハインライテル州領騎士団たちだった。特に、州領騎士団団長のアダルベルト・フォン・ケーニッヒと副団長のニコデム・フォン・イーゲルは、団長、副団長という特権を活かし、マメに面倒を見ていた。子狐の兄ニックスの弟シュネーは、あっという間に州領騎士団のマスコット的存在となった。


 ちょうどルウィージェスがおなかに手を当てていた所に居た仔なのか、仔の1匹、兄の方のニックスは特に強い魔力を持つ魔道神獣となっており、とてもルウィージェスに懐いた。ルウィージェスの神力が、仔にとって安全なものとして認識されるようだ。

 そして仔の2匹は流石神獣だ。とても成長が早い。

 体内に宿す魔力が速い成長を促すため、魔道生物の成長は、普通の生物と比べると遥かに速い。神獣となると、持つ魔力量が膨大になる為、更に成長が速くなる。直ぐに目が見えるようになり、自由に動き回るようになり、藍とも仲良くなった。

 ルウィージェスの神術を大量に浴び神獣となり知能も上がった母狐も、ルウィージェスの言う事を理解するようになった。ルウィージェスは母狐に、特に強い魔力を持つ1匹は王都の屋敷に連れていく旨を説明すると承諾した。


 より強い魔道神獣となったスノウ・フォックスの仔、兄のニックスは、二日後にはしっかりと歩けるまでに成長した。弟のシュネーより身体的な成長が早い。これは保有魔力量の違いと、受けた神術の量の影響が大きいと思われた。体長はまだ15センチ程だが、もう皿に入れた搾乳ミルクも自分で飲めるまでになった。とは言え、まだ母乳しか飲めないが。


 次の週末、藍にクラウスが出勤しているかどうか見に行ってもらったところ、騎士団の屋外訓練場にいるのが確認できたため、ニックスも連れて騎士団の訓練場に向かった。門の所で衛兵にニックスを見て驚かれたが、『魔道神獣』である旨を説明し許可を貰った。藍が『魔道神鳥』である事は、衛兵も団長たちから聞いていたようだ。あっさりと通してもらえた。

 もっとも、衛兵たちはルウィージェスがリリーエムラ公爵当主の実弟であり、ルウィージェス自身も伯爵であることは知っている。否とは言えなかっただけなのだが。


 慣れた通路を進み訓練場に行くと、クラウスとエルンストが何かを話している所だった。

「こんにちは~。」

ルウィージェスが声をかけた。

「ルウィージェス様、カリン様、…と、」

二人の視線がニックスに釘付けになった。

 ルウィージェスが二人に経緯を話すと、二人して大爆笑した。エルンストがここまで声を出して大笑いするのは珍しい。周りの騎士たちの視線も一緒に集まった。

「それは、大変な経験をされましたね!」

と、笑いながらもルウィージェスを(おもんぱか)ったエルンスト。

「その年齢では、慌てますな!」

クラウスは笑い過ぎて涙目になっていた。笑い上戸は健在だ。

 藍は大好きなエルンストと会えて嬉しそうだ。ちゃっかりと左肩に止まっている。


 ルウィージェスは改めて、『魔道神獣』スノウ・フォックスのニックスを紹介した。

 明らかに強者(つわもの)の雰囲気を出す二人に、ニックスはかわいい威嚇をする。

「スノウ・フォックスの仔って、こんなにかわいいのか。子犬とさほど変わらないな。」

クラウスはしゃがんでまじまじとニックスを見る。そしてひょいと両手で抱き上げた。

「お~、怒ってる怒ってる。」

一生懸命両手両足で攻撃しようとするニックス。短い手足をがんばって上下に動かしている。いや、引っ掻こうとしている。

 クラウスはニックスを地面に置き、剣をエルンストに持ってもらい、鞘を外した。そして、

「おー、やるかーー」

そう言いながらしゃがんであやし始めた。

 ニックスは一生懸命クラウスの鞘を攻撃するが、ちょっとクラウスが鞘の上に乗った手を軽く払うと、あっけなくコロンと転がる。それでも、何度も何度も鞘に向かって攻撃を続ける。

 しかし神獣とはいえ生後数日の体力。あっという間に体力は底をつき、へばってしまった。

 クラウスは地面にへばりつくニックスを両手で持ちあげた。

「お前、なかなかがんばるな。見どころあるぞ。」

 ニックスはじっとクラウスを見る。どうやら戦士同士の絆が生まれたようだ。

 同時に、ニックスはクラウスを強者と認定したようで、唸り声をあげることはなくなった。

「非常に荒いやり方ですが、どうやら、懐かれたようですね。」

エルンストはクラウスに剣を戻しながら言った。

「こんなかわいく売られた喧嘩は、ちゃんと買ってやんなきゃなー。」

クラウスはニックスの頭を撫でながら言った。


 ルウィージェスは、剣への魔術付与の手伝いと、カリンによる剣術指導を、もし時間があるならやろうかと思って来た事を伝えた。

「あ、それと、ニックスたちを助けた時、フォレスト・グルトニーアナコンダを2匹倒したから、1匹、防具の素材にしてはどうか、と思って持ってきた。」

そう言うと、ルウィージェスは、アイテムボックスから倒したフォレスト・グルトニーアナコンダを1匹出した。


 遠巻きに見ていた周りの騎士たちから驚きの声が上がり、一斉に集まった。

「え?…こんな巨大なフォレスト・グルトニーアナコンダが、北の森…に?」

クラウスはそのサイズにちょっと引きながら聞いた。

「うん、ちょうど2匹いてね。1匹をうちの騎士団に渡したら、これは特大サイズだから1匹で十分素材が取れる、と言ったから、残った1匹はこっちで使ってもらおうと思って。」

「これ、どうやって倒しのですか?」

エルンストが聞いた。クラウスと同様に、そのサイズに圧倒されたエルンストだったが、気持ちを落ち着かせ、フォレスト・グルトニーアナコンダを見ていたのだが、傷らしい傷を見つけられなかったのだ。

「【風魔法:リング】で首絞めて倒した。」

「…あれ、攻撃魔法に転用できたのか…。」

エルンストが思わず呟く。

 それは本当に小さな呟きだったが、地獄耳のクラウスにはしっかりと聞こえた。

「そんな初級魔法で巨大蛇倒すという発想自体、そうそう浮かばないだろう。」

「いや、これは見事な発想の転換ですよ。荷崩れしないようにしっかりと()()()()()魔法ですからね。しかも、どの攻撃魔法よりも魔力消費量が少ない。」

「それじゃ、【リング】練習用の『魔道生物召喚魔石』作ろうか?」

「よろしいのですか?」

「うん。今まで【リング】を攻撃魔法として使った事がないなら、動く対象へ発動した事がないってことでしょう?ぶっつけ本番で出来るのって、エルンスト団長とザビーネ副団長の二人くらいだろうしね。」

 ルウィージェスはエルンストに、初級・中級・上級と段階別に練習が出来るよう、魔力制御練習用の『魔道生物召喚魔石』用も含めて、再現させる魔物の選別を依頼した。


 クラウスは、カリンの剣術指南を受ける組と、剣への魔力付与のため、魔力制御の訓練を受ける組に団員を分けた。魔力制御の訓練には、宮廷魔術師団から副団長ザビーネも助手として参加することになった。

 巨大蛇フォレスト・グルトニーアナコンダを素材にするため、一旦ルウィージェスのアイテムボックスに仕舞いなおし、クラウスとエルンストも一緒に騎士団の解体所に行くことにした。エルンストも、魔術師団用の普段用の防具を新調したいと考えていた。

 スタンピード時に大量に得た魔物の素材は、『魔法素材』であり、普段用には使えない。巨大蛇の素材は高級品で、普通は戦闘時の防具として使われ、普段の訓練時の防具には使わない。しかし、魔力制御力を上げた魔術師たちが施行する攻撃魔法の威力は、過去とは比較にならない程レベルが上がり、その威力も相当なものになっていた。

 訓練用であっても、それなりの防具が必要になっていた。


 解体所は騎士団・魔術師団共通の武器防具保管庫の近くにある。

 クラウスは解体師主任を呼んだ。

「おー団長、と、エルンスト団長も、珍しいですね!それと…、」

 マッテオはルウィージェスの姿を確認し、慌ててカウンターから出てきた。

「大変お久しぶりでございます。リリーエムラ公爵閣下のご令弟、ルウィージェス伯爵様。」

騎士団解体部所属、解体師主任のマッテオは、深々と頭を下げ挨拶をした。

 前回マッテオがルウィージェスに会ったのは、スタンピード時の魔物の解体の時だ。あの時は、アダマンタインで作ったナイフの形状や切れ味を一緒に試した。

「こんにちは。お久しぶりです。ルウィージェスです。普通に名前で呼んでください。それと、楽にして下さい。」

そう苦笑しがら言い、

「エルンスト団長の左肩にいる鳥は魔道神鳥のランで、クラウス団長の足元にいる仔は魔道神獣のニックスです。」

と、ルウィージェスは神鳥と神獣も、普通に紹介した。

 マッテオはクラウスを見たが、クラウスが頷いたため、立ち上がった。

「あ、あの、すみません、魔道…?聞きなれない言葉ですみません、」

マッテオが言葉に詰まり困っているのを見て、クラウスが助け舟を出した。

「魔道神鳥と魔道神獣。神鳥様と神獣様だ。つまり、亜神様だな。」

「あ…亜神様?!」

「おぉ、自分たちもニックスに会うのは今日が初めてだが、ランには、スタンピードの時、騎士団・魔術師団の全員が助けられた。な?」

クラウスはエルンストの左肩に止まる藍の頬を撫でた。

 「今日は、ルウィージェス様がフォレスト・グルトニーアナコンダを2匹倒して、その内の1匹を丸ごと寄付してくれた。それで騎士団と魔術師団の防具を作ってもらいたくてな。」

そういうと、クラウスはルウィージェスを見た。ルウィージェスは頷いて、フォレスト・グルトニーアナコンダをアイテムボックスから取り出した。

「…は?…こんな大きさのフォレスト・グルトニーアナコンダ、見たことがない!」

マッテオは腰を抜かしそうになるほど驚き、目を見張った。


 「これなら騎士団と魔術師団の分の素材、取れるだろう?」

 クラウスの言葉に頷き、マッテオは驚きながらもフォレスト・グルトニーアナコンダをじっくりと見る。

「これを、伯爵様が倒された…と?」

「うん、ちょうどニックスの母親を襲っている所に遭遇したから。」

「先ほど、2匹倒したとクラウス団長が言っていましたが、」

「うん。2匹いたから両方倒した。」

「…失礼なのは重々承知しているのですが、その、どうやって?」

「【風魔法:リング】で絞め殺した。」

「…」

マッテオの理解を超えたようだ。明らかにクラウスとエルンストに助けを求めていた。


 クラウスとエルンストは、自分たちがいかにルウィージェスの行動に耐性を獲得していたかを深く認識した。

 「ま、そういう反応になるよな~。」

 クラウスがルウィージェス強さを説明し、エルンストがルウィージェスの魔術は宮廷魔術師団が教えを請うレベルだ、と説明した。

 「マッテオ、お前の気持ちはよく分かる。今は、ルウィージェス様がフォレスト・グルトニーアナコンダを倒して、我々に1匹丸ごと寄付してくれた、とだけ理解しておけ。」

クラウスはマッテオの肩を叩きながら言った。


 マッテオは理解してはいなかったが、クラウスの言う事は理解したため、事を進めることにした。本能的にマッテオは自衛した。


 マッテオは、改めてフォレスト・グルトニーアナコンダをじっくりと見た。どこから見ても、剣や攻撃魔法による傷が認められない。

「これだけ傷のない状態で確保できる事なんて、何度見ても信じられない。でも、お陰で無駄なく使えそうです。騎士団・魔術師団全員分の防具を作っても、かなり残ると思いますね。そもそも、これだけの大きさのフォレスト・グルトニーアナコンダ、過去に持ち込まれた事なんて、ないと思います。」

「だろうな。こんなのがその辺の森に出現したら、それこそ、騎士団・魔術師団総出で対峙して、それでも、かなりの被害を受けるだろう。こいつが吐き出す毒は強烈だしな。」

 クラウスの説明にルウィージェスが驚く。

「え、これの毒って、そんなに凄かったの?!」

 ルウィージェスのその言葉に、逆にクラウスが驚く。

「あれ?対峙した時、強烈な臭いの毒を吐きませんでした?こいつはそれなりに強いと判断した敵を見つけると、まず強烈な臭いを放つ毒を大量に吐き、その臭いと毒の効果で相手の機動力を奪い、長い尾で相手を叩き付けて強い衝撃を与え、衝撃で動けなくなったところを自分の体を巻き付けて絞め殺すのです。そして、相手が完全に動かなくなったのを確認して捕食するのです。」

「へぇ~、そうだったんだ。ぼく、後ろから【風魔法:リング】を投げただけだから、知らなかった。」

「…対峙すらしなかったのですか?」

聞いたのはエルンスト。

「うん。多分これ、ぼくたちの存在にすら気付いていなかったと思う。」

 その説明に、クラウスは自分が持つ蛇種に関する情報を思い出していた。

「こいつ、というか、蛇種は基本的に非常に発達した聴覚を持っているのですが、どうやって足音に気付かれずに近づけたのです?」

クラウスは不思議そうに聞いた。

「あ~、あの時ぼく、【結界】と【風魔法:浮遊移動】使っていたし、ランもぼくの肩に止まっていたから、大きな音は出してなかったかも。」

団長二人は顔を見合わせ、空笑いした。


 マッテオは、毒を吐かせる機会さえ与えなかった、という状況説明に、思い出したように聞いてきた。

「毒を吐かなかった、という事は、毒袋は満タンなはず。こいつの毒は、解毒剤や中和剤の材料になるので毒袋を錬金ギルドに売れば、相当な金額になりますし、傷が全くないので、肉もそのまま高級品として売れますが、どうしますか?」

 クラウスとエルンストはルウィージェスを見た。

「ん?そのまま売って、騎士団・魔術師団の臨時収入にすればいいんじゃない?肉は団員たちに分けるとか?」

「よろしいのですか?」

恐る恐るエルンストが聞いた。エルンストは宮廷魔術師団の団長、錬金部門を抱えるトップだ。当然本人も、高い錬金技術を持っている。だから、毒袋の相場を知っている。

「うん。うちにも1匹丸ごとあるし。きっと同じことをして臨時収入にしているよ。」

「それでは、ありがたく受け取らせて頂きます。」

エルンストとクラウスは深く頭を下げ、礼をした。

「団員たちへの臨時給金にしても良いかもしれませんね。」

「だな。士気をあげるのにちょうどいい。」

クラウスとエルンストは、マッテオに依頼する防具の種類を伝え、詳細は各副団長と連絡を取るよう手続きをした。


 後日、マッテオからクラウスに、喉の所に大きなスノウ・フォックスの雄の死骸が挟まっていた、と連絡があった。

 それをクラウスから聞いたルウィージェスは、状況的にニックスたちの父親だろうと判断したが、父親は普通の魔道生物のため、クラウスに普通に処理を頼んだ。


 団長二人とルウィージェスが戻って行った後、マッテオは自分の椅子に座り、腕を組み、悩んでいた。

 机の上に置いてあるのは、真っ先に取り出し、クッション付きの上等な箱に入れたフォレスト・グルトニーアナコンダの毒袋だ。

 フォレスト・グルトニーアナコンダの毒袋を、満タンな状態で手に入れる事はまずない。

 フォレスト・グルトニーアナコンダに限らず、毒を持つ生物は、自分と同等か強い敵を認識すると、先ず初めに大量の毒を吐き出し、敵を威嚇する。騎士団や魔術師団が対峙する時は、その人数を脅威と判断し、まず毒を吐き出す。だから、長年解体師として従事しているが、満タンな毒袋なんて見たことがない。

 そして、この毒袋を錬金ギルドに持って行けば、相当な金額になる事をも知っている。

 だが、解毒剤は宮廷魔術師団でも作っている。フォレスト・グルトニーアナコンダの毒袋から作られる解毒剤なら、間違いなく、下位の蛇毒にも効く。

 エルンストは、この件に関しては何も言わなかった。それも分かる。何故なら、ルウィージェスは、騎士団と魔術師団で分ける事を前提で、話していたからだ。

 この毒袋を売れば、双方の臨時収入となる。しかし錬金に回せば、双方の役には立つかもしれないが、臨時収入にはならない。

 だが、とマッテオは思う。勿体ない、と。しかし、誰に相談したら良いのかが分からない。

 団長たちに直接聞くのが早い事は分かっている。団長たちは気軽に自分に声をかけてくれる。だが、自分から気軽に声を掛けられる相手ではない。

 しばらく考えたマッテオは、宮廷魔術師団の研究棟へ向かった。

 宮廷魔術師団錬金部門の受付で、ポーション作成班の責任者への面会を求めた。


 対応したのは、ポーション作成班の班長ビアンカ・フォン・シュルツだ。

 マッテオは、先ほどの件を班長ビアンカに話し、宮廷魔術師団に渡すか、錬金ギルドに持って行くか、相談しにきた事を伝えた。

 ビアンカも、満タンな状態のフォレスト・グルトニーアナコンダの毒袋を入手した件には大きく驚き、流石ルウィージェス様だ、と呟いた。

 「正直、私も錬金ギルドに下すのは勿体ないと思います。満タンの毒袋なんて、もう二度と手に入らないでしょうし、それだけあれば、相当数の強力な解毒剤と中和剤が作れます。もしまだ時間があれば、今、私が直接エルンスト団長とクラウス団長に相談に行きますが、どうでしょう?」

「時間はあります。お待ちしていますので、是非、お願いいたします。」

「承知しました。すみませんが、ちょっと席を外します。少々お待ち下さい。」

 班長ビアンカは部下に指示を出すと、研究室を出て行った。


 ビアンカが宮廷魔術師団の訓練場に行くと、エルンスト団長を始めとした攻撃班は、騎士団の訓練場の方にいるとの話だった。

 急いで騎士団の方の訓練場に行くと、皆が円になって何かを見ていた。

 ビアンカもその円に入り、前の方に進んだ。

 するとそこでは、ルウィージェスとカリンが模擬戦をしていた。いや、模擬戦というレベルのものではない。非戦闘員のビアンカには、全く二人の動きを捉えることは出来なかった。

 しかも、全員が食い入るようにその様子を見ていた。一つでも、何かを得ようとするかのように。

 とても、声をかけられる状態ではなかった為ビアンカはそのまま戻り、マッテオには、模擬戦が終わった頃を見計らって聞きに行く旨を伝え、その件は保留とした。


 翌日、騎士団と魔術師団の双方の団長同士が話し合った結果、毒袋は錬金ギルドに売らず、宮廷魔術師団の方で強力な解毒剤と中和剤を作り、『保管庫魔石』を設置した保管庫で厳重に管理する事になった。

 因みに、肉は騎士団と魔術師団の団員と、それぞれの団で働く従業員、全員に配られた。

 毒袋は売らなかったので、臨時給金の件は、団員に伝えられることなく消えた。

第30話で、ようやく、新しい神獣スノウ・フォックスのニックスが誕生、登場しました。クラウスとも仲良くなれたし、エムラカディアもホッと一安心です。

第31話では、クラウスの要望により、ルウィージェスとカリンが模擬戦を行います。惑星エムラに来て以来、カリンと模擬戦を行うのは初めてです。


第一章第31話は、来週2月21日(土)20:00公開です。

第31話 惑星カティアス降臨までの日々②―神の模擬戦―

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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