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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
30/43

第29話 「宮廷魔術師団団長の奮闘⑨―ヴェズルフェルニルの加護―」

 初めまして。エルンストの前世のアデル・フォン・フォーゲル、元フォーゲル伯爵家当主です。

 まさか、自分の過去の名前が姓となって残っているとは思わなかった。

 しかも、自分が自分の子孫として転生する事になることも。

 まぁ、自分でも面白い人生を送っていると思うよ。

 エルンストとしての人生は、アデルからみると楽しそうでちょっと羨ましい。アデルとして転生した時は、宮廷魔術師団だけでなく、王国騎士団も荒れに荒れていた。創造神様が私たちに転生を願ったのも、よくわかる。

 私としても、あれだけ苦労して、やっとの思いで建てた国なのに、あそこまで国を荒し私欲に溺れ、王国民をないがしろにする奴らには、業腹ごうはら憤怒ふんぬ、腸が煮えくり返る思いしかない。

 と言っても、アデルとして転生した時は、過去の記憶を封じて貰っていたから、死後に思っただけだが。

 創造神様から、2度目の転生の話が出て、その理由を聞いた時は、正直、難しいと思った。だから今回も、完全に記憶を封じた状態で、自分の子孫として転生する事にした。

 その判断が吉と出るか凶と出るか。それはエルンストとしての生を終えた時に分かるのだろうな。

 クラウスが無意識に行っていた、魔力を逆流させて発動させる魔法の存在を知った翌日の朝、いつもの通り、エルンストは少し離れたところで馬車を降り、王国騎士団・宮廷魔術師団用の門に向かって歩いていた。すると、「ぴぴぴ」と聞きなれた鳴き声が聞こえてきた。

「ラン、おはよう。」

丁度藍も「出勤」してきた。


 ルウィージェスは、騎士団・魔術師団の敷地前にある門を通る時には必ず衛兵に声を掛け、ルウィージェスも他の訪問者と同様に、訪問者用の用紙にサインをしていた。騎士団・魔術師団双方の団長より、衛兵たちにはルウィージェスにはサインを求めなくても良い、と伝えられているが、ルウィージェスは、「楽しいからやりたい」と伝え、必ずサインしていた。ある日、それを見ていた藍も、自分もサインしたいとルウィージェスに伝え、衛兵にお願いして、それ以降は藍の分の名前を書かせて貰っていたのだが、それを繰り返したある日、衛兵の一人が藍専用の訪問確認用の印鑑を作った。藍の足跡マークの印鑑だ。

 その日以来、藍だけで来た時も、騎士団・魔術師団の敷地前にある門を通る時には、必ず衛兵に声を掛け、ルウィージェスがいない時は衛兵に名前を記載してもらい、藍専用の印鑑を押してもらっていた。

 因みに、訪問者用の門通行確認書に記載された藍の名前は「ラン・リリーエムラ」だ。

 ただし、帰りは門を通らずに飛んで帰ってしまうため、『出門』は確認できていない。まぁ、藍は鳥なので、その辺はご愛嬌だ。


 エルンストの姿を認め敬礼する衛兵に軽く頭を下げ挨拶し、中に入ろうとすると、藍が衛兵の窓口まで飛んで行った。

 気になったので、エルンストも藍について行った。

 「ラン・リリーエムラ様、おはようございます。」

と衛兵が言うと、

「ぴぃぴぃ」

と藍が返事をした。そして、衛兵が印らしきものを押しているのに気付き、エルンストは衛兵に聞いた。

「それは、何をしているのだ?」

 宮廷魔術師団の団長に声を掛けられ、驚いた衛兵は敬礼しながら、藍が来た時には必ずこの窓口に寄って挨拶をしてくれる為、藍の名前の横に特製の印を押している旨を伝えた。

「ほぉー、ランの足跡の印か。これはまた可愛らしい物を作ったな。」

「ぴぴ、ぴぴ」

藍は嬉しそうに鳴いた。

「そうか、ランも気に入っているのか。それでは、私もきちんと印を押すか。」

 普段は顔パスで通っているエルンストも出勤印を付けようとして、それが、訪問者用である事に気づいた。

「あ、そうだ。昨日からランは()()してきているから、訪問者用ではなく、魔術師団の団員用の用紙に名前を入れよう。」

「あ、そうなのですか。それでは、」

そう言うと、衛兵は宮廷魔術師団団員用の門通行確認書に藍の名前「ラン・リリーエムラ」と書き、印を押し直した。

 「こっちは、今、私が訂正をしておこう。」

「ありがとうございます。フォーゲル団長。」

 久し振りにするな、と思いながらエルンストは魔法で印を押した。

 

 執務室で副団長のザビーネと今日の日程を確認し、魔術師団棟の訓練場に向かった。

 冒険者ギルドへ改編【火球】と【水球】の魔法陣を持って行く日が近づいているため、今日中にある程度まで目途をたてる必要がある。

 またルウィージェスに、昨日使った『魔物再現魔石』を魔術制御訓練用に依頼したいと思っていた。どの魔物の組み合わせにするのか、何段階に分けて『魔物再現魔石』を依頼したらよいのか等も考えないとならない。その対価もいかほどになるのか考えなければならないが、これに関しては、国王と宰相に相談する必要がある。


 色々考えながら歩き、訓練場に着く。

 普段、『回復魔石』作成班と『魔法陣』作成班は研究棟で作業を行っているのだが、現在は戦闘団員と共に、訓練場で魔術制御の訓練を行っており、今日もいつも通り、下に降りてきているのだが、いつもは攻撃魔法の訓練している班は、円形を組んで何かをしていた。

 「何をしているのだ?」

エルンストが聞いた。

「あ、団長!おはようございます。」

その声に、多くがエルンストの出勤を確認し、立ち上がり敬礼した。それに返事をし、改めて聞いた。

 宮廷魔術師団の中でも、特に攻撃魔法を得意とするアデリンデ・フォン・シュースターの手には『魔物再現魔石』があった。

 昨日ルウィージェスが作った『魔物再現魔石』は、エルンストが全て持っている。

「これは?」

「はい。昨日、団長が馬車を呼びに行っている間にルウィージェス様が、今後の魔力制御特訓に使ってと、この紙と一緒に置いていって下さったのです。」

そう言って見せた紙は魔力補充紙だった。他の『魔物再現魔石』と見分けるための配慮だろう、紙自体に少し緑っぽい色が混ざっていた。よく見ると、魔石の色も少し異なっていた。

「ルウィージェス様より、「スライム」、「草イタチ(グラス・ウィーズル)」と「角兎(ホーン・ラビット)」が再現できる『魔物再現魔石』だと伺いました。「草イタチ(グラス・ウィーズル)」は臆病で逃げ足が速いから、落ち着いて集中力を付ける訓練になると思う、と。あと、『回復魔石』と『魔法陣』が描ける人なら「ネイル・ラビットまでなら確実にいける筈、との助言を頂きまして。それで、『回復魔石』と『魔法陣』がまだ出来ない者たちの訓練に、まずはスライムからやってみようと話していました。」

「それで円陣を組んでいるのか。」

「はい。」

「なるほど。」

 魔力制御の特訓も喫緊の課題と考えていたエルンストは、アデリンデにそれぞれの弱い所をまとめるよう伝えた。


 その後、『魔法陣』班の状況を確認したエルンストは、冒険者ギルドに行く日までには何とかなりそうだと判断し、そのまま続けるよう指示した。


 昨日の『魔物再現魔石』など、今までルウィージェスが作ってくれた魔石の数々や、魔術に関する講師料について、国王と宰相に相談する必要がある。エルンストは一旦執務室に戻り、クラウス団長に一筆(したた)めた。


 クラウスの方でもそれは気になっていたようだ。直ぐに連絡が来て、国王と宰相に面会を求める手続きを連名で行った。

 連名で行ったのが功を奏したのか、1時間後には時間を頂戴することが出来た。


 国王と宰相との面会の時間が来たため、二人は指定された会議室へと向かった。

 そして、スタンピード後にルウィージェスが作成した魔石の数々や、魔術特訓などを説明した。

 「それ程のご援助を!」

国王アギディウスは驚きに目を大きく開き、宰相オルトールドは絶句した。

「『魔法陣読解』魔法陣、『保管庫魔石』、『魔物再現魔石』は魔導王ルウィージェス様が我々のために自作して下さったものです。正直、これに対する対価をどうしたら良いのか、全く見当もつきません。」

「エルンスト、これに関しては、もう、直接創造神様に相談するしかないのではないだろうか、どうだろう、オルトールド?」

 普段なら肩書を付けて呼ぶが、今は、非公式()つ血縁親族同士の話合い。年上の二人はざっくばらんに話すが、年下の二人は、流石にそこまでにはなれない。

「同感です。魔導王様の自作魔法ですからね。エルンストの話では初級と中級魔法との事だが、我々の基準で言ったら、全て、帝級魔法相当になるのではないか?」

オルトールドはエルンストを見る。

「はい。我々の基準ですと、『我々には不可能だが、実在が認められている魔法』となるので、帝級魔法になります。」

「大至急、創造神様へ手紙を(したた)めよう。」

「承知しました。」

そうオルトールドは答え、改めて連絡する旨を団長二人に伝えた。


 エルンストが2種類の『魔物再現魔石』を使って魔力制御の指導を行っていると、王城から使者が来た。急いで王城へ向かうために馬車を用意する。クラウスも合流し、二人で登城した。

 リリーエムラ公爵家からの返事によると、今は神界に戻っている為に使いの者を出した。もう少ししたら戻ってくる、との事だった。そして、出来たら公爵家の方へ来て欲しい、との事だったため、四人で公爵家へ行く事になった。


 リリーエムラ公爵家に着くと、藍が温室(コンサバトリー)まで四人を案内した。

 そこは緑豊かな空間で、清浄な空気に包まれていた。

 藍は部屋に入ると上に飛んで行った。エルンストがその姿を追うと、そこには大きな(たか)(が止まっていた。エルンストにはその鳥に見覚えがあった。昔読んだ神々について書かれた本に描かれた絵とよく似ている。

「…ヴェズルフェルニル…?」

小さな呟きだったが、クラウスの地獄耳はやはりその小さな呟きをしっかり拾った。

「なんだ?そのヴェズ…なんとかというのは?」

「ヴェズルフェルニル。伝説の風の神鳥。実在していたのだな。」

 ヴェズルフェルニルがエルンストの視線に気付いたようだ。じーっとエルンストを見ていたが、大きな羽根を広げ、近くの木の枝に舞い降りた。

 藍がヴェズルフェルニルに話しかけているようだ。ヴェズルフェルニルは片方の羽を大きく広げ、嘴で近づけた。

 その嘴には羽根が1本咥えられていた。その羽根を藍が受け取ると、エルンストに向かって飛んできて、羽根を高速回転して空に止まった。

「私に?」

エルンストが羽根を受け取ると、ヴェズルフェルニルは元の位置に戻っていった。


 そこにエムラカディアが戻ってきた。

「大変お待たせしてしまいましたね。ここまでお呼びたてし、申し訳ありません。」

エムラカディアの姿を認めると、四人は立ち上がり片膝をつき礼をした。


 国王アギディウスが、これまでルウィージェスより騎士団と宮廷魔術師団に対し、魔術指導などの多大な協力を受けていること、また、自作魔石を含む、貴重な魔石を多数作ってくれたことなどを話した。そして、それら対し、どのように礼をしたら良いのか、相談をしに来た旨を話した。


 「あの子、色々と楽しんでいるようですね。」

エムラカディアはクスっと笑った。

「以前話した通り、魔素問題を解決するまでに時間がかかります。古い魔素の蓄積により、魔素の魔力転換率が大幅に低下している現状では、魔導王による魔法陣の改編は必須です。よって、これは、我々神族が必要としている事なので、魔導王に対する礼を考える必要はありません。」

 エムラカディアは、テーブルの上にある紅茶を一口飲んだ。

「それに、あの子、すごく楽しんでいるでしょう?」

エムラカディアはエルンストに聞いた。

「楽しんでくださっているかは分かりませんが、色々と率先して気付いた事を改善・改良して下さっています。大変助かっております。」

エムラカディアは手を伸ばし、藍を呼んだ。

「ランも、積極的に手伝っていると聞いています。」

「ぴぴっぴぴっぴーぴゅいー」

藍は胸を張って答えた。

「ふふ。エルンスト団長、そなた、ランに大変気に入られているのですね。ランは守護神鳥ですが、本来なら人に懐かない種の鳥です。とても珍しい現象です。それに、」

エムラカディアはエルンストが手に持つ羽根を見た。

「ヴェズルフェルニルもそなたを気に入ったようですね。ヴェズルフェルニルのその羽根には風を打ち消す力があります。それはネックレスなどにして身に付けると良いでしょう。敵の風魔法による攻撃魔法を打ち消します。結界なしでも、そなたに風魔法攻撃が届くことはないでしょう。そして、そなたの風魔法の威力を増強させます。ヴェズルフェルニルは世界樹に棲む神鳥で、上級神の眷属のランよりは下ですが、この惑星では上位の神鳥です。その力は、強大です。ふふふ、私もこの惑星の創造神となって、それなりに長いのですが、そなたが初めてですよ。今、そなたは2柱の神鳥から加護を受けています。」

 エルンストは手に持つ羽根をじっと見た。

「神鳥は神鳥から加護を抱く者を大切にします。今後も、あらゆる神鳥があなたを守るでしょう。」

エルンストは立ち上がり、ヴェズルフェルニルに向かい深くお辞儀をした。そして、藍の頬をゆっくりと撫で「ラン、ありがとう、ありがとう。」と心からの礼を言った。


 「それから、」

エムラカディアは四人に言った。

「近いうちに、ルウィージェスは一旦この惑星を離れ、新しい惑星カティアスに向かいます。今、私たちがその準備をしています。惑星カティアスでの仕事が一段落したら、また、ここに戻ってきます。しかし、それが何年後、何百年後になるかは分かりません。クラウス団長、ルウィージェスに剣への魔力付与の訓練を受ける予定ですよね?」

「はい。ルウィージェス様のお時間のある時に。」

「あの子には急ぐように言っておきます。エルンスト団長も、遠慮せずにあの子から助言を受けるのです。魔導王がすべての魔術師に教える事は出来ません。あの子も神族ですから、不特定多数と会うわけにはいきませんのでね。あの子が直接魔術指導を行うのは、この惑星最強の魔術師であるあなただけです。」

 エムラカディは、残り少なくなった紅茶を飲み干した。

「それから加護についてですが、神鳥にせよ、神獣にせよ、亜神1柱が加護を与えるのは、必ず惑星で1名のみ。但し、ルウィージェスは創造神ではないので、ルウィージェスの眷属は、ルウィージェスがいる場所で1名のみに加護を与えます。ですので、この惑星でランから加護を受けるのは、エルンスト団長、そなただけです。ルウィージェスが惑星カティアスに行っても、ランは、この星とルウィージェスがいるところを行き来しながら、あなたを守護し続けます。」

 エルンストは自分の左肩に止まる藍を見た。目頭が熱くなる。涙が出るのを必死に抑えた。エムラカディの話を聞きながら、もう、藍と一緒にいる時間も、そう残っていないと思っていたのだ。

 エムラカディは一旦言葉を切り、少し考えている様子だった。

「やはり、伝えておいた方が良いかもしれませんね。エルンスト団長、既にルウィージェスから加護と眷属の両方を受けると亜神になる事は聞いていると思いますが、実は、多過ぎる加護を受けても、亜神になってしまうのです。ランは、上級神の眷属の守護神鳥、我々の世界創造神が治める世界においては、最上位の神鳥です。しかも、そのランから受けたのは『守護の加護』、数ある加護の中における最上級の加護です。その上で、この惑星の上位の神鳥ヴェズルフェルニルからも同じく『守護の加護』を受けています。恐らく、他の中等位以上の神鳥から加護を受けると、亜神になってしまうと思います。とはいえ、神鳥に出会う事自体、そうそうないので、心配はしていないのですが、一応、ね。」

 エムラカディは、改めて四人を見た。

「話が逸れてしまいましたね。話を戻しましょう。ルウィージェスがこの惑星にいる期間も迫っています。礼などは考える必要はありません。これは神族としての義務を果たしているだけですから。そして、ルウィージェスも、ぎりぎりまであなたたちを支えたいと考えているでしょう。そして、出来る限りの事をしたいと考えているはずです。遠慮はいりません。」

 一旦言葉を切ると、クラウス団長に向かって言った。

「剣への魔力付与だけでなく、カリンからも武術指導を受けると良いでしょう。カリンは近い将来、武神の一員となる予定の従属神です。その力量は本物です。」

クラウス団長は立ち上がり、深く頭を下げ、礼を言った。


 四人はリリーエムラ公爵家を出て、王城へ戻ってきた。

「創造神様は礼など良い、と言われたが、だからと言って、何もせぬのも、なぁー?」

国王アギディウスは宰相オルトールドに聞くが、

「そうですよね。既に、ありえない程の援助を受けておりますし。」

オルトールドも困っていた。

「それにしても、ルウィージェス様は留学中で、いつかは神界に戻られると覚悟はしていたが、実際にその時期が迫っていると聞くと、寂しいですね。」

「あー、本格的にルウィージェス様と話すようになったのはスタンピードの時からだが、印象が強かったからなぁ~。」

エルンストの言葉にクラウスが続けた。

「強烈な印象と破壊的な影響力でしたね~。」

エルンストは、今までの出来事を回想しながら言った。

「魔術に関する基礎概念が吹っ飛びましたよ。」

乾いた笑いをしながらエルンストが言った。

「相手は魔導王様だからな。宮廷魔術師団が一番影響を受けたな。」

クラウスはちょっと労いの気持ちを込めて言った。


 国王と宰相が、ルウィージェスに対する礼を考えておくとし、団長二人は昼食を共にした後、各々の訓練場へ戻っていった。


 数日後、この日は冒険者ギルドに改編魔法陣を紹介する日だ。

 冒険者ギルドに行くのは、エルンスト、ザビーネ、ルウィージェスとカリンだ。

 冒険者ギルドの総括レナーテ・ノルトライン=プロセンに、エルンストが改編魔法陣に関わる経緯を説明した。


 「我々エルフも、魔術発動時に違和感を抱いてはいました。しかし、それが古い魔素の蓄積によるものとは、想像もしませんでした。」

 話を聞いたレナーテは、驚いてはいたが、同時に、何かが腑に落ちたような感じだった。

 「既に出来上がっている世界に新しいものを入れるのって、実は、すごく大変なの。一朝一夕(いっちょういっせき)にはいかないというか。魔素中和能力を持つ、神獣になれる新しい大型の魔獣を入れたいのだけど、大型魔獣は影響力が大きいから、新しく追加する事で、どこにどう影響が出るか分からないし。既に、冬に問題になったリントヴルムは、他の魔獣と比較すると弱い方だけど、それでも、魔素過多中毒によってあれだけの影響を出しちゃったしね。一応、既に神獣になっている亜神たちには、新しい能力【魔素過多中和】を付与しておいたから、彼らが今後、魔素蓄積によって問題を起こすことはないと思うけど。」

「妖精王様、神獣に進化する能力を持っていても、神獣と魔獣では、かなり違うものですか?」

レナーテが聞いた。

「神獣は知能がヒト族並みだからね。新しい魔術を付与しても、それを使いこなせる。けれど、魔獣の段階では、まだそこまで知能は発達していないから、使いこなせない。魂の段階で付与すれば、また違うんだけどね。」

 ルウィージェスは一旦言葉を切った。

「正直、魔獣は会話が成り立つから、それでも時間をかければ、それなりになんとかなる。けれど、問題は魔物と呼ばれる下位の魔道生物たちだね。彼らは本能で動くから。しかも、能力も魂のレベルも低すぎるから、新しく魔法もスキルも付与できない。」

ルウィージェスはレナーテに言った。

「ぼくには、魔道生命創造という能力があって、これは、新しい魔道生物、魔物を創り出す能力なんだけどね、」

そう言うと、アイテムボックスから『生命の種』の本を取り出した。

「みんなにはこれがどう見えているか分からないんだけど、」

そう言いながら「スライム」の種を取り出し、【神術:生命誕生】を唱えた。

 そして、種が明るく光ると、続けて【魔術付与】【スキル付与】を立て続けて唱えた。

 光が落ち着くと、そこには一匹のスライムがいた。

 普通のスライムは薄い水色したほぼ透明で、小さな同色の核をもっているのに対し、このスライムは薄い緑色をしたほぼ透明で、一般的なスライムより大きめな核を持ち、その核の色は鮮やかな緑だった。そして特徴的なのが、つぶらな2つの目を持っていた。

 ルウィージェスはスライムを手に取って言った。

「このスライムは、今、ぼくの魔道生命創造の力を使って生み出した新種のスライム。能力は古い魔素を食べる事が出来る。スキルは【スライム酸】と【水魔法】を持っている。このスライムの【水魔法】によって放出された水には、古い魔素を破壊する力がある。そして、破壊した魔素を餌にすることができる。」

レナーテに問う。

「このスライムは特殊なスライムだから、討伐の対象としないでください、と言って、冒険者たちは、直ぐに言う事、聞いてくれる?」

「無理です、と即答できます。それどころか、特殊のスライムとして闇売買の標的になり率先して捕まえようとする輩が出てくるだけでしょう。」

「でしょう。だから、新しく魔道生物を創造して、古い魔素問題の解決に必要だ、と言っても、それが定着するまでにすごく時間がかかっちゃうの。」

「そうですね。確かに、時間がかかりますね。」

「もちろん、姉さまもぼくも、長い年月をかけて価値観を変えていくようにはするよ。けれど、既に魔素蓄積による被害は起こっているし、そう悠長な事は言っていられなくて。それもあって、改編魔法陣を作ったの。これで魔法を行使すると、消費魔力量がだいぶ減るの。つまり、使用人数が増えれば、それだけ放出される古い魔力が減るから、古い魔素に戻る魔力量を減らすことが出来る。すなわち、古い魔素の蓄積速度も少しは遅くすることが出来る、というわけ。あと、今回のスタンピードの時のように、魔素過多中毒によって膂力をつけた魔物に対する冒険者たちの力も上げる必要もあるし。」

 レナーテはエルンストとザビーネに聞いた。

「お二人は、この改編魔法陣で魔法を発動したことはあるのですか?」

 二人は、宮廷魔術師団による実験結果を伝えた。

「そこまで変わりましたか!」

レナーテにも使ってもらうため、冒険者ギルドに併設されている試験場へ移動した。ここでは、上級冒険者昇級時の試験を行い、また、冒険者登録をしたばかりの初心者に対し、有料で剣の技術や初級魔法の指導などを行っている。


 「エルフは【火魔法】とは相性が悪いので、【水魔法】を試します。」

レナーテは【水球】の魔法陣を頭に刻み込むかのようにじっと見ている。そして、「魔力の流れは、こうか…」と呟いた。その言葉にエルンストが驚く。

「エルフの方々は、必ず魔力の流れを確認するのですか?」

「そうですね。我々は長寿種ですからね。過去に研究好きな者がいたのかもしれません。我々は魔法陣を学ぶ時、必ず魔力の流れる方向も一緒に考えるようにと教わります。」

「なるほど。エルフが使う魔法は威力が高い、という噂は本当だったのですね。」

ザビーネが納得しながら言った。


 レナーテは改編【水球】を唱えた。すると、直径30センチはある大きな水球が現れ、物凄い速度で的に激突した。的は完全に破壊され、後ろの壁が大きく凹み、そこを中心に複数のヒビが入った。

「え?…はぁ~???」

レナーテが素っ頓狂な声を上げた。

 エルンストとザビーネは、「分かる、その気持ち」と言わんばかりに頷いていた。


 「レナーテ統括、今の【水球】は、どの程度の魔力を込めたのですか?」

予想もしなかった魔法の威力に驚き、自分の手を見つめるレナーテに聞いたのはザビーネだ。

「普段、魔物を倒せるレベルの【水球】を放つには、最低でも魔力量10は込める必要があります。でも、今は的当てに十分な魔力量5だけ込めたのですが、」

レナーテはかなり戸惑っていた。

「宮廷魔術師団が初めてこの改編魔法陣を使った時、普段と同等の威力の球魔法を発動させるのに、概ね、通常魔力量の半分、中には、通常時の3分の1程度で済んだ者もおりました。」

エルンストが言うと、ザビーネは、

「私は通常時の3分の1弱まで魔力消費量が抑えられました。」

と伝えた。

「そこまで、…ですか…。」

レナーテは改編魔法陣を見ながら言った。

「今度は、魔力量2にして試してみます。」

そう言うと、破壊を免れた的に向けて改編【水球】を放った。

 今度は、的を破壊せずに済んだ。

「魔力量2だけで、的まで【水球】が届くなんて…。」

「これが改編魔法陣です。どうでしょう、冒険者たちに勧めて頂けますか?」

「これは、魔素問題のため以上に、冒険者たちの攻撃力強化と生存率を上げるものだと思います。」

 

 レナーテたちが話しているとき、ルウィージェスは腕の中で、物珍しそうにきょろきょろしているスライムに言った。

「魔素掃除してきてくれない?」

スライムはぴょーんと元気よくルウィージェスの腕の中から飛び出すと、まん丸ボディーをぷよぷよさせながら動き出した。時々動きを止めて大きく体をぷよぷよさせる。特に魔素が溜まった場所だと思われた。


 「妖精王様、そのスライムはどうされるのですか?」

「ん~、姉さまの屋敷で飼うか、まだ決めてない。」

「それでは、私に頂けないでしょうか?」

「いいの?」

「はい、この試験場の魔素溜まりが減ったら、初心者に魔法の実技を教えやすくなるかと思いまして。」

「そうしてもらえると助かる。」

 ルウィージェスはスライムを呼んだ。

「スライム、このお姉さんの従魔にならない?」

スライムはつぶらな瞳でじーとレナーテを見る。

「従魔契約には2種類あるの、レナーテ統括は知っている?」

「え?テイム、…我々は従魔契約をテイムと呼んでいるのですが、2種類ある事は初めて知りました。」

「冒険者が普段使っているのは、強制従魔契約で、魔力を使っての契約だと思う。」

「はい、そうです。」

「もう一つは、魔物から率先して従魔契約を結ぶ方法でね。これは魔物が自分の主人と認めて初めて契約が出来る方法なの。この方法だと、心で結ぶ契約だから、魔物との意思疎通がとれるようになるんだよ。念話を通じての会話が出来るの。」

「「「魔物と意思疎通が(はか)れる?!」」」

三人が驚き、同時にスライムを見た。

「心での契約だからね。」

 スライムはルウィージェスの腕の中でぷよぷよしている。レナーテを主人と決めたようだ。ぴょーんとレナーテに向かって飛び出した。

 慌ててレナーテはスライムを受け止めた。

「よかった。スライム、レナーテ統括を主人と決めたみたいだ。名前、付けてあげてくれる?」

「名前…ですか?」

レナーテはしばらく考え、

「ベルデ、ベルデはどうでしょう?」

レナーテはスライムを見ながら言った。

 スライムは、ぷよぷよしながらレナーテを見ていた。それもほんの数十秒だった。突如、スライムが一瞬光った。

「うん、無事に命名が済んだね。ベルデは今日生まれたばかりだから、まだ言葉を話すことは出来ないけれど、理解はしている。多分、一週間もすれば少しずつ話し始めるよ。」

レナーテはスライムに向かって名前で呼んだ。

「ベルデ、私はレナーテ。よろしくね。」

「普通のスライムと同じく雑食だから、特別な餌は必要ないから。」


 その後、ザビーネは改編魔法陣の仕入れ値など、細かい打ち合わせするため残り、エルンスト、ルウィージェスとカリンは宮廷魔術師団の棟へ向かった。


 これでエルンストが抱えていた、スタンピード後の全ての早急案件が全て片付いた。


 その夜、久し振りに何も考えずにのんびりと長湯を楽しんだエルンスト。後は寝るだけだったのだが、メイドが綺麗にした制服の内ポケットからヴェズルフェルニルの羽根を包んだ紙を取り出し、そっと開いた。

 その羽根は、家族も見る事は出来たが、一切触れる事は出来なかった。この羽は藍を経由して受けっている。恐らく加護を持つ者だけが触れる、神術か何かがかかっているのだろう。

 藍の羽根もそうだが、とても柔らかい。そして、受け取った時の状態のままを維持している。普通の羽根のように、折れる事も汚れる事も抜ける事もない。

 藍が飛ぶと、時々綿毛が抜けて舞う事がある。しかし不思議な事に、一度なりとも、その綿毛が床に落ちたことがない。途中で消えるのだ。

 エヴァリンはお守りとして持っておきたいと思ったようだ。一度、綿毛が舞った時に空中で受け止めようと、がんばって移動したのだが、直前に消えてしまったことがある。

 その時、エヴァリンがとても悲しそうにしていたからだろうか。藍が自分で小さな羽根を嘴で抜いて、エヴァリンに渡してくれた事がある。

 エヴァリンはその羽根に触る事が出来たが、エリザベートとエルクは触れることが出来なかった。エルンストは触れた。

 今その羽根は、創造神教会裏の工場のマリーに事情を話し、特別に作って貰った透明度の高い鉱石と鉱石の間に羽根を入れたロケットに入れてある。マリーにも藍の羽根を触る事は出来なかった。ルウィージェスは、マリーに与えたのは『役割の加護』と言っていた。エルンストが藍から貰ったのは『守護の加護』。その違いが大きく影響したと思われた。

 そして、羽根を挟んだロケットは、エヴァリンとエルンストにしか触れることが出来ない物になった。

 だからと言って、エヴァリンの魔力に何らかの影響があったかというと、エヴァリン的には、特に変化を受けている感じはない、と言っていた。

 まだ、ルウィージェスに確認していないから不確実だが、なんとなく、あの藍の羽根入りロケットには、異常状態無効化の効果があるようにエルンストは感じている。エヴァリンには、まだそれは伝えていないが。


 ベッドに腰掛け、ヴェズルフェルニルの羽根にそっと微量だが魔力を流してみた。

 そして、ゆっくりと目を瞑る。

 そうすると見えるのだ。視えると言った方が正しいか。

 これを知ったのは偶然だった。単に、神鳥の羽根に魔力は通るのか、ちょっとした好奇心で試してみただけだった。


 目の前にいるのは剣を持った赤毛の少年。その横には、同じく赤毛の男性。少年はその者を父上と呼んでいる。そして、大きな盾を持った男性。その男性の髪の色は黒っぽく見える茶色系。光の加減では、オレンジ色にも見える。その男は、自分をフォーゲルと呼ぶ。そして、自分はその男をケーニッヒと呼んでいる。

 赤毛の少年の名はシューバート。シューバートの父親の名はヴェルト。

 そして、ヴェルトが光を纏う女性に言う。

「漸く、全てが終わった。これで、目的を果たすことが出来る。この世界樹の守護地として、ここに創造神様の国を建国する。」

ヴェルトは、右手で大きな木を触りながら言った。恐らく、それは木。大き過ぎて、その木の幅が分からない。

 その言葉を受け、光を纏う女性が言った。

「では、ヴェルトの名に神術を掛けましょう。その名を入れる事が出来るのは、私の使徒のみ。私が使徒と認めた者にのみ、その名を継がせましょう。それ以外の者がその名をかたる時は、その者に神罰を下そう。」


 場面が変わった。ここはどこだろう。全体的に白い世界だ。色とりどりの花があるが、何故か、全体的に白く感じる。

 おしゃれなガーデン用のテーブルと椅子がある。後ろには大きな噴水が見える。

 「おーフォーゲル、いや、アデル、お帰り。お疲れさん。」

「只今戻りました。まさか、そなたが先にこっちに戻って来るとは思いませんでしたよ。」

「俺も、まさか病死するとは思ってなかった。」

「かなり苦しそうでしたね。」

「あの(やまい)は最悪だ。もう二度と経験したくないな。」

「あの後、ヴェルト…じゃない、エンゲルハルトが寂しがっていましたよ。」

「あれは不可抗力だ。」

 噴水の向こう側から男性と、複数のケーキと紅茶のセットを乗せたカートを押すメイドの二人が現れた。

 「アデルお帰り。ベルンハルトが抜けた後、色々と世話になった。」

「転生者でも、あの死の(やまい)罹患(りかん)するのですね。驚きました。」

「正直、俺も驚いた。せっかく転生するなら古い記憶に振り回されない、全く新しい人生を送りたいと思って、古い記憶は封印してもらったのだが、あの死の(やまい)の記憶すらないとなると、ちょっと今後は考えてしまうな。」

「80年前後とはいえ、ヒトとして過ごす時間としては、十分に長いですからね。古い記憶があった方がいいのか、ない方がいいのか。まぁ、答えは出ないでしょうね。」

「あれはきつかったが、全体としては、結構楽しめたと思うぞ。魔術師団の腐敗は大変だったみたいだがな。」

「あそこまで腐敗しているとは、正直、驚きましたね。創造神様から立て直しの話が来た時は、そこまで深刻な状態とは思っていませんでした。」

「ベルンハルトは知らないと思うが、俺が入った時は騎士団の方だって、魔術師団といい勝負だったぞ。」

 二人の会話に入って来たのは、シューバートの父、この時はエンゲルハルトという名で過ごしていたヴェルト。ケーキと紅茶を配り終え、座りながら口を挟んできた。

「そうだったのか?」

「あぁ。まぁ、アデルの方が大変だったがな。実際、何回、毒殺されかけた?」

「さぁ。毎日【エキストラヒール】と【エキストラキュア】を自分に掛けていましたからね。口にする物にも必ず【解毒】と【浄化】を掛けていたので、本当に殺されかけたのは、『毒殺』という言葉を知らなかった幼い時まで、だと思います。」

「え、そうだったのか?」

 思わず口に運ぼうとしていた紅茶のカップを止めて聞いたのはベルンハルト、過去の名はシューバート。

「私、いえ、アデルには兄弟がいませんでしたからね。フォーゲル伯爵家を守り切る義務というのを、幼いころから自覚していました。」

「母上様の教育の賜物だな。」

「まぁ、母上も元王女。そういう話が身近だったのだろう。」


 また景色が変わった。今度も、場所は同じなのだが、シューバートがテーブルに突っ伏して暇だとごねている。

「創造神様に相談して、武神様に稽古をつけてもらっているだろう。」

「目的もなく、稽古だけ受けても楽しくない。」

「なんだ、稽古に目的が欲しいのか?」

「激しい稽古をする理由が欲しんだ。」

「でしたら、」

 急に女性の声が入って来た。どうやら私の後ろから現れたようだ。

「術の魂にお願いがあります。剣の魂も一緒に行きますか?」

 そう言うと私の前に座った。気づかなかったが、椅子があったようだ。

「これは、本当に異例な事です。本来なら、私には権限がありません。ですが、非常事態なので、世界創造神様から許可を頂きました。術の魂フォーゲル、また、惑星エムラカディアに転生して頂けませんか?」


 メイドの声で目を覚ました。

 いつの間にか、ベッドの中で寝ていたようだ。羽根は枕元にある。

――――やはり、今回も何も覚えていない。何かを視ていた筈なのだが。


 思い出すのを諦めたエルンストはメイドに挨拶すると、いつも通り、身支度を始めた。

第29話では、エルンストが新たな加護を受けました。風の神鳥ヴェズルフェルニルからです。

そして、次回の第30話からは、ルウィージェスが惑星エムラカディアでやり残す事がないよう、準備を本格化させます。


次の第30話からは、惑星カティアス降臨までの日々が始まります。


第一章第30話は、来年2月14日(土)20:00公開です。

第30話 惑星カティアス降臨までの日々①―新しい魔道神獣―

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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