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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
29/43

第28話 「宮廷魔術師団団長の奮闘⑧―魔力制御―」

 お久しぶりです。ルウィージェスです。エルンスト団長が術の始祖の魂の持ち主である事も、クラウス団長が剣の始祖の魂の持ち主である事も、間違いないはず。あとは、何故守護神が付いていないのか?これだけがどうしても解せない。


 魔法は魔法陣で発動するから、正直、魔法名は自分が覚えやすい名前でも、唱えやすい名前でも、全く問題ないんだよね。とはいえ、全くバラバラだと色々と問題が出てくるから、魔法の名称は統一している方が良いけど、唱える時は、唱えやすい名前で全然かまわないと思っているよ。

 これを初期の頃に、何気なく魔術師団の団員たちに話したら、すごく驚かれたけれど。まぁ、確かに、学校で教える場合には、魔法陣と魔法名が一致していた方が教える側としては楽だから、その利点は否定しないよ。

 けれど、それが絶対に必要だと、多くの魔術師たちが信じていたのには驚いた。

 エルンスト団長は知っていたようで、昔から、新しく魔法を考えた時とか、改編魔法の作業中は、仮①とか仮②とか、見分けが付けばいい、という感じで名前つけていたらしい。それで全く問題なく魔法は発動されるから、魔法陣と魔法名が一致していなければならない、と多くの魔術師が信じていた事に、逆に驚いていたよ。

 記憶はなくても、魂に刻まれている記憶は消えないから、知っているんだろうね。何故、前世の記憶を持たずに転生したのかは知らないけれど、クラウス団長も前世の記憶は全く持っていないみたいだから、姉さまと何か、約束事でもしたのかもしれないね。ただ、それが、守護神が付いていない事とは、全く関係しているとは思えないから、やっぱり不思議だ。


 「魔法辞典」には、大魔法を使う時は詠唱があった方が、発動時の負担が少ない、と書いてあるらしい。多分、詠唱によって、よりイメージが鮮明になるから、魔法陣に魔力を流すのが楽になる、という意味だとは思うけれど、言葉から受けるイメージって人それぞれだから、アデル伯爵の個人的な意見だと思うな、とエルンスト団長に言ったら、時代によって言葉が持つ意味が異なる事も多いから、エルンスト団長も、詠唱にはそれほど必要性を感じていないし、次代に残すものではないと思う、と言っていた。

 

 以前に、始祖の魂の持ち主は、この惑星の輪廻から外れている、と聞いたことがある。であるなら、天界の方に、始祖の魂が過ごす場所があるはず。二人の魂が天界に戻ってきた時、なぜ記憶を持たずに転生したのか、聞いてみよう。

 ルウィージェスは、『魔物再現魔石』で出した爪兎(ネイル・ラビット)を見事に制御し、肩で大きく息をするミラを労った。

 ルウィージェスは横に立つエルンストを見上げた。

「本当はこれくらい、魔力を制御するって大変な事なんだ。エルンスト団長は、魔素過多中毒のマウンテン・ネイルベアを複数同時に手懐けられる程の魔力制御力の持ち主ってこと。そうそういないと思うよ?」

ルウィージェスはニコっと笑って言った。


 「あ、ありがとうございます。」

エルンストは直球で褒められ、ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに礼を言った。

 「ミラの結果を見て、とてもよく分かりました。慌てたり、取り乱したりして集中力が少しでも乱れると、あそこまで魔力制御に影響が及ぶのですね。」

「うん。ぼくが作った魔石は、あくまでも魔物の再現、具現化だけで、魔物の本体を形成しているのは、魔石に魔力を流した人の魔力だから、その人の魔力制御力がそのまま、本物の魔物の性格を模写した魔物の制御に反映されるんだ。」

 それを聞いた、エルンストとは反対側の隣に立つクラウスが遠い目をしながら言った。

「エルンスト団長は、他国の魔術師団団長と比較しても、使える魔法の数も威力も、抜きんでているからな。」

 ルウィージェスは不思議そうな顔をしながらクラウスを見上げた。

「この惑星で、エルンスト団長ほどの魔力制御力を持つ人、いないよ?」

「え?」

その言葉に訓練場にいる全員が反応した。

「エルンスト団長は、この惑星最強の魔力制御力を持つ魔術師だよ?」

「えーーーーーーーーー!!」

そう言われたエルンスト本人を含めた全員が叫んだ。


 「えーーって、いやいや、そうでなかったら、あんな魔石、使い方も指導せずに渡さないって!と言うか、渡せないよ!いくらぼくだって!」

 全員が驚きのあまり、左右隣の人たちと話し始めた。

 訓練場は、ちょっとカオスになった。


 ザビーネは午前中の訓練を思い出し、ルウィージェスに恐る恐る聞いた。

「そ、それでは、もし私がマウンテン・ネイルベアを出していたら、訓練じゃなく、本番になっていたってこと…に?!」

「ザビーネ副団長もあの魔石使ったんだ。」

「えぇ、エルンスト団長が訓練側に入っている時は、私が代わりに魔石を使いました。」

「ザビーネ副団長も魔力制御力がかなりある方だから、魔素過多中毒のマウンテン・ネイルベア以外だったら、普通に制御できるよ。大丈夫。」

「え、そ…そうなのですか?」

「うん。ぼくが保証する。」

「あ、ありがとうございます。」

ザビーネは魔導王に褒められ、率直に嬉しく思った。

 ザビーネの実家、ケーニッヒ伯爵家はハインライテル州領内にあり、同州領内にある大きめな領を任され治めている、リリーエムラ公爵家を支える一貴族家だ。ザビーネはケーニッヒ伯爵家の長女で、現在は、同じくリリーエムラ公爵家を支えるアインホルン伯爵家に嫁いでいる。

 エムラカディアは当代のケーニッヒ伯爵家を気に入っており、ザビーネの弟で、ケーニッヒ伯爵家次男のアダルベルト・フォン・ケーニッヒはハインライテル州領の州領騎士団長を務め、ケーニッヒ伯爵家三男のウィルヘルム・フォン・ケーニッヒは、リリーエムラ公爵家の王都騎士団長を務めている。共に、エムラカディアの眷属となっている。

 ザビーネ自身はエムラカディアの眷属ではないが、弟二人が眷属となっている為にエムラカディアとは面識があり、ルウィージェスがこの惑星の創造神のエムラカディアの弟で、魔導王である事も、弟から聞いて初めから知っていた数少ない一人だ。


 ルウィージェスはカリンに全員分の飲み物を買ってくるよう依頼し、訓練場にいる皆の興奮が落ち着くのを待った。


 皆が落ち着いてきた頃を見計らい、カリンと二人で飲み物を配った。


 「落ち着いた?」

クラウスとエルンストは、二人に礼を言った。

「すみません、取り乱しました。」

クラウスは一気に飲み干し、大きく息を吐いた。

「皆が、というか、本人までも、こんなに驚くとは思わなかった。」

「いえ、普通に驚きます。」

ザビーネが言った。エルンスト本人も、大きく頷いている。

「え~、でも、今まで、『過去に見たことがない』魔法陣を複数渡したけど、エルンスト団長、全て一回で魔法を起動させているでしょう?しかも、ほぼ全てぼくの手紙に書いた情報だけで。」

「そう…言えば、そう…です…ね…。」

ザビーネは、今までの事を思い出しながら言った。

「エルンスト団長、今、【混合魔法:創造魔法:紙作成】、やってみない?」

「今?」

「うん。」

と言いながら、ルウィージェスはアイテムボックスから薪を取り出した。

「あれから試してみた?」

「いいえ、機会なく。」

ルウィージェスは、何かを含むような笑顔を見せた。


 エルンストはルウィージェスから薪を受け取り、魔法陣を頭に描きながら【混合魔法:創造魔法:紙作成】を発動させた。

 あの魔法陣は、あれから何度も見て、【混合魔法:魔法陣読解】でも、その流れを複数回確認している。もう完全に覚えている。

 10枚作るのに10秒を切った。


 「前回1枚作るのに20秒くらいだったっけ?かかっていたよね?」

 エルンストは、初めて【混合魔法:魔法陣読解】を発動させた時の事を思い出していた。あの時は、額に汗が出てくる程の集中力を要した。しかし、今回は驚くほど簡単にでき、特に意識して集中したという感覚もない。

 「これが、エルンスト団長の魔力制御力。」

ルウィージェスは余った薪をアイテムボックスに戻した。

 「今までエルンスト団長は、覚えた魔法陣を無意識下に描いてその魔力制御力だけで魔法を発動させていたけど、【混合魔法:魔法陣読解】を知ってからは、魔法陣をしっかりと頭に描いて、魔力の流れも再現しながら、魔法を発動するようになったでしょう?」

「確かに、その通りです。今までは、意識して魔法陣をしっかりと思い描くということはしていませんでした。」

「その状態の時ですら、他国の魔術師団の団長より強かったのでしょう?エルンスト団長は魔力制御力がずば抜けているから気付いていなかったみたいだけど、他の魔術師たちって、必ず魔法陣をしっかりと頭に描いてから魔法を発動させているんだよ?」

「そうだったのですか?」

「そうだよ。頭に描いた魔法陣通りに魔術を展開していかないと、魔力の流れを制御出来ないの。でも、今の団長は、魔法陣をしっかりと描いた上に魔力の流れも意識して、そのずば抜けた魔力制御力で魔力を制御するから、もう、だ~れもその展開速度に追いつけない。」

「おぉーーーーーー」

ルウィージェスの説明を聞いた皆が一同に唸った。


 「ザビーネ副団長も、よく使う中級くらいまでの魔法なら、エルンスト団長と同じく、特に意識して魔法陣を強く頭に描いてから魔法を発動させる、なんて事、していないでしょう?」

「はい。通勤路をボーとしながらでも歩ける感じに似た感覚で発動させています。」

「だから『魔物再現魔石』を使った時も、特に問題なく出した魔物を制御出来たんだよ。ところで、ミラ班長は『回復魔石』を作っている時、どうやって【ハイヒール】を発動させてる?」

「わ、私は、【ハイヒール】の魔法陣をまず頭にしっかりと描いて、そのうえで、【回復魔石】の魔法陣を重ねて、包帯を巻くような感じをイメージしながら結晶化させています。」

「でしょう?だから、爪兎(ネイル・ラビット)が動き出した時、慌ててしまいしっかりとしたイメージが描けなくなった途端に、爪兎(ネイル・ラビット)を制御できなくなったんだよ。」

「な、なるほど…。」

 この説明には、納得しかなかった。

「だから、ミラ班長も『通勤路をボーとしながらでも歩ける感じ』で【ハイヒール】と【回復魔石】を展開できるまで魔力を制御出来るようになったら、爪兎(ネイル・ラビット)も簡単に制御できるようになるよ。」

 ルウィージェスの説明に、皆が騒めいた。


 「だから皆、『回復魔石』を作った後は、あんなにぐったりしていたのか。」

エルンストのそれは、自分に言い聞かせるような小さな呟きだったが、クラウスの地獄耳はしっかりと拾った。

「魔術師団団員に同情するよ。出来過ぎる上司を持つと、部下は大変だな。」

 ルウィージェスは呆れたようにクラウスに言った。

「クラウス団長だって、少し前まで『魔力制御は苦手』って言っていたけれど、スタンピードの時、剣に魔法付与して魔物、倒していたじゃん。」

「え?」

キョトンとするクラウス。

「ね?」

ルウィージェスはカリンを見ながら言った。

「はい、見事な魔法付与でした。」

カリンが答えた。

「は?」

 クラウスには、全く心当たりがなかった。


 その反応を見たルウィージェスは大きくため息をついた。

「喫緊の課題は、この団長たちが、如何に人並外れているかをきちんと自覚させること、かな?」

今度は魔術師団の方を見ながら言った。

 すると、皆が大きく頷きながら盛大な拍手をした。

「「えぇ…」」

団長二人は顔を見合わせた。


 「さて、クラウス団長。」

「はい。」

「団長のステータスに魔法スキルとして【氷魔法】と【熱魔法】があるのを、勿論知っているよね?」

「えぇ、まぁ。飲み物を冷やす時とか、物を温める時に便利で重宝しています。」

 思わず、言葉遣いが丁寧になるクラウス。

「では、【氷魔法】は【水魔法】と【風魔法】、【熱魔法】は【火魔法】と【風魔法】で成り立っているというのは、知ってる?」

 初めて聞く話に、目を(しばた)かせるクラウス。

「…初めて知りました。」

「クラウス団長は、【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】と、三大基礎魔法が使え、更に、その上位の【氷魔法】と【熱魔法】が使えるんだよ。」

「…【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】を単体で使えた事、ありませんが…。」

 ルウィージェスは、アイテムボックスから改編した【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】の魔法陣を取り出した。そして、魔術師団の方を見ながら言った。

「これから、この魔法陣がどのように起動するのか、皆に見せるね。」

 そしてクラウスに言った。

「クラウス団長、これから見せる魔法陣の中で、魔力がどのように流れるか、しっかりと見ててね。」

 今度は、魔術師団に向かって言った。

「これから見せるのは、改編【火魔法】です。」

そう言って、【混合魔法:魔法陣読解】を唱えた。

 すると、皆が見えるくらいの高さに、直径1メートルくらいの魔法陣が空中に浮かび上がった。

「おぉぉぉぉぉーーーーーー」

皆が驚きの声を上げた。

「な、なんだ、これは?!」

クラウスが叫んだ。

「これは、ルウィージェス様自作魔法で、【魔法陣読解】と言うものだ。」

エルンストが苦笑しながらクラウスに言った。

「知っているのか?」

「ルウィージェス様が私に作って下さった魔法だ。」

「へ?」

「これは、本当に凄いぞ。」

自分の部下たちがどんな反応をするか、エルンストは楽しみだった。


 「さー、これから魔力を流すから、しっかり見ててね!」

ルウィージェスはそう言うと、魔法陣の下に来て、魔法陣に触れた。

 すると、魔法陣に可視化された魔力の光が流れ始める。

「………」

皆無言で見ている。

 可視化された魔力の光が魔法陣の一番下まで流れ落ち、そして光が消えた。

 誰も一言も話さない。

 「もう一回流すよ~。」

ルウィージェスはそう言うと、再度魔力を魔法陣に流した。

 やっぱり誰も一言も発せられない。


 「クラウス団長、改編【火球】の魔法陣と魔力の流れ、覚えた?」

「あ、はい。」

「それじゃ【火魔法:火球】を、さっき見た光景を頭の中で再現しながら唱えてみて。」

ルウィージェスの言葉に続けて、エルンストが部下に言った。

「火魔法の属性を持っている者は、さっき見た魔法陣と魔力の流れをしっかりと頭の中で再現しながらやってみろ。」

クラウスと【火魔法】の属性を持つ魔術師たちが一斉に唱えた。


 クラウスは、先ほどの光景を思い出しながら【火魔法:火球】を唱えた。

 すると、初級魔法とは思えない程大きな炎が現れた。

「うぉっ」

余りに大きな炎にクラウスは驚き、反射的に手を振り払った。

「な…、な…、…なんだ、今のは?!」

クラウスの声には、驚きと、ほんの少しだけの(おのの)きが混ざっていた。団長に就任して以降、クラウス自身にも、こんな声を出した記憶はない。

 驚きに声を上げたのはクラウスだけではなかった。魔術師団も驚き騒ぎだした。


 ルウィージェスはクラウスの反応に満足したのか、笑顔で言った。

「ね?クラウス団長も大きな【火球】、ちゃんと使えるでしょう?」

そして、魔術師団の方に向かっていった。

「魔法陣だけでなく、魔力の流れも頭の中に再現すると、消費魔力量を増やさずに、火力が凄く上がるでしょう?」

 魔術師団で火魔法の属性を持つ者は、何度も【火魔法:火球】を試していた。


 ルウィージェスはエルンストに言った。

「エルンスト団長は、ぼんやりとだけど本能的に、ザビーネ副団長の言葉を借りれば、『通勤路をボーとしながらでも歩ける感じ』にこの工程をやっていたから、扱う魔力の威力が強かったの。でも、【魔法陣読解】を使い始めて以降は、しっかりと魔力の流れすらも意識して、その上でずば抜けた魔力制御力で魔力を発動させるようになったから、威力が更に劇的に上がった、というわけ。」

エルンストをじっと見て言った。

「自分が並外れている事、自覚してね?」

 エルンストは、もう、笑うしかなかった。

「はい、肝に銘じます。魔導王様」

ルウィージェスにだけ聞こえるよう、小さな声で言った。


 「それじゃ~、今度は【水魔法:水球】行くよ~。」

 【風魔法:風球】と【土魔法:石槍】も同様に行った。


 クラウスは土魔法の属性は持っていない為、【火球】、【水球】、【風球】を何度も試した。

 どれも初めて試した魔法であるにもかかわらず、初級魔法には見えない威力だった。


 「さてと、」

ルウィージェスは、ニンマリと含み笑いをしながらクラウスを見た。

「次は、クラウス団長の付与魔法に移りますか。」

そう言うと、魔術団の方を向いて言った。

「簡単に混合魔法を使う方法だから、皆も一緒に、どう?」

「お願いします!」

エルンストが皆に進める前に魔術師団団員全員が言った。

 混合魔法は上位魔法。そう簡単に出来るものではない、それが常識だ。それが、ルウィージェスに言わせると、そうではないと言う。

 宮廷魔術師団に属する高位魔術師として、この機会を逃す事はあり得なかった。


 ルウィージェスは、先ほどエルンストが作った紙に魔法陣を2つ描いた。一見二つに違いは見られない。しかしよく見れば、円の中を走る線に微妙な偏りがある。

「混合魔法って、実は、ステータスに載っていなくても、複数の属性を持っていれば誰にでも発動させることが出来る魔法なの。例えば、こっちが【混合魔法:熱魔法】で、こっちが【混合魔法:温風】。両方とも使っているのは【火魔法】と【風魔法】。単純に、【火魔法】と【風魔法】のバランスが違うだけ。【熱魔法】はより【火魔法】に多く魔力が流れて、逆に【温風】には【風魔法】に多く魔量が流れているだけ。実際に魔力の流れを再現するから見ていて。」

 そう言うと【混合魔法:魔法陣読解】を発動させ、魔力の流れを3回繰り返し再現させた。

 「クラウス団長みたいに、スキルとして持っていれば、直ぐに発動させることが出来るから、戦いの時には有利なんだけれど、魔力の流れを強く頭の中で再現できるようになれば、魔物との闘いの時にだって十分使えるよ。」

 ルウィージェスはクラウスに言った。

「クラウス団長は【熱魔法】を持っているから、今は持っていない【温風】を出してみて。イメージする時は、【風魔法】の方により多くの魔力を流す感じで。」

 エルンストは魔術師団に向かって言った。

「火と風の属性を持っているものは、より多くの魔力を流す方法を意識しながら、【熱魔法】と【温風】を発動させてみてくれ。」

 火と風の属性をもつ魔術師団団員は多いようだ。結構な人数が練習を始めた。


 エルンストも試してみる。

 しかし、他の者が【熱魔法】と【温風】を交互に発動しているのに対し、エルンストは、魔法陣を魔力の可視化で描き、単純に円の中の魔力の流れの方向を変えて、瞬的に【熱魔法】を【温風】に、【温風】を【熱魔法】に変えていた。

「お~、確かに。全く異なりますね~。」

 その様子を見たクラウスは呆れながら言った。

「本当に、器用だな…。」

「ルウィージェス様から、この『魔力の可視化で魔法陣を描く』方法を教えて頂く前は、ここまで意識できなかったと思いますよ。この可視化した魔力で魔法陣を描く方法を知ったから、より意識して魔力制御するようになりましたからね。そもそも、『魔法陣と魔力の流れを意識する』事が魔力制御の概念だという事にすら、気付いていませんでしたし。」

「…前に姉さまの書斎(ライブラリー)にある本で『知る事と気付く事は違う』って書いてあるのを読んだんだけど、今、その意味が凄く分かった気がする。」

ルウィージェスは、エルンストをじーと見ながら言った。

「それ、本当に良い言葉ですね。自分も覚えておきます。」

クラウスもエルンストをジト目で見ながら言った。

 エルンストは、思わず二人から目を逸らした。自覚ありが過ぎて反撃できなかった。


 次にルウィージェスが教えたのが、【氷魔法】だ。

「【氷魔法】って実は、二通りあって、【水魔法】と【風魔法】を重ねる方法と、もう一つが、【火魔法】と【風魔法】を使う方法なの。【火魔法】は火を出す魔法だと思われている節があるんだけど、実は、【火魔法】は熱そのものを操る魔法なので、【火魔法】で熱を吸収することが出来るの。」

 皆が大きく騒めく。エルンストですら目を見開き、息を飲んだ。


 「クラウス団長は、【氷魔法】を、飲み物を冷やす時に使うと言っていたけど、それは【水魔法】と【風魔法】による【氷魔法】。だけど、スタンピード時に使っていた【氷魔法】は【火魔法】で熱を取って【風魔法】で魔物の体内の水分、あの場合は血液だったけど、と周りの組織を瞬時に凍らせて、返り血を最低限にして、組織を軽く凍らせることで切れやすくしてスパっと切っていたの。」

 皆がまたどよめく。当のクラウスはキョトンとしている。


 ルウィージェスは、【火魔法:火球】の魔法陣を空に映し出した。

「今から、この【火魔法:火球】の魔法陣で【火魔法:熱吸収】を発動させる時の魔力の流れを再現するね。」

 ルウィージェスは魔法陣に触れ、魔力を流した。

 すると、魔力は上から流れてきたが、そのまま網目模様を辿るのではなく、一番外側の円を辿って一番下まで来た。そして、そのまま上で登っていった。

 それは、【火球】を発動させる時とは、真逆の魔量の流れ。まさしく魔力の逆流。

 そして、最後は外側の円を、最初とは反対側を辿り、一番下まで来て、そして具現化された魔力の光は消えた。


 「えぇーーーーーーーー」

音程の低い、言葉にならない声が響く。


 「これを、無意識にやっていたのがクラウス団長。ホントに、誰が、魔力制御、苦手だって?」

クラウスは何かを言おうとしたのだが、口をパクパクさせるだけで言葉に出来なかった。

 「ったく、本当に。どの口が、魔力制御苦手と言うのです?」

これにはエルンストも呆れ声だ。

 ルウィージェスはエルンストを見て言った。

「試しに、エルンスト団長もやってみない?【火球】を逆流させただけの【熱吸収】だけど、こっちの【氷魔法】は、威力も汎用性も全然違うから。」

 そういうとルウィージェスは、周りにいる魔術師たちを守るように、天上から床までに結界を張った。当然、エルンスト個人にも結界を張る。


 魔力を逆流させる、という事は、ある程度速度がないと魔法陣を昇れないかもしれない。そう考えたエルンストは一歩前に出て【火魔法:火球】の魔法陣を頭に描きながら、魔力走行に少し速度をつけて逆走させた。

 すると、床に何層にも重なった霜で氷が張り、天井には氷柱が何本も出来た。

 発動させたエルンストも含め、皆の目が点になる。

 「結界外して外の気温を体感したい人?」

ルウィージェスが皆に問うと、エルンスト、クラウス、ザビーネ、そして魔術師団員5人が挙手した。

「じゃ~、外すよ~。」

ルウィージェスが挙手した8人分だけ結界を外した瞬間、

「さ、寒い!!!なんだ、この冷気は?!」とクラウス。

「死ぬぅ!ぎゃー」と騒ぐのはザビーネ。

「えぇーーーーーーーー?!」

 言葉にならないエルンストと他の魔術師団員たち。


 ルウィージェスは彼ら個別に結界を張り、【温風】で温める。

 「し、死ぬかと思った…。」

ザビーネはしゃがみ込んでしまった。

「俺、…自分がこれを無意識に行っていたと?」

クラウスの問いに答える代わりに、ルウィージェスはカリンを見た。

「はい。クラウス団長は、熊種や大型猫種など、特に凶暴で一撃で倒すのにより力を要する魔物に対し、瞬間的に発動させ、一撃で倒していました。」

「し、知らなかった…。」

 クラウスは自分の事ながら、唖然とした。


 ルウィージェスは、近くにいた魔術師団の一人から魔法杖を借りた。

「クラウス団長のように瞬時に出す芸当は、本来はそれなりに練習が必要なんだけど、攻撃魔法として使用するための訓練方法としては、こんな感じでするといいと思う。」

 ルウィージェスは、魔法杖を前に構えた。

「まず、逆走【火球】、【熱吸収】を出す。」

そう言うと、魔力の可視化をした逆走【火球】が長さ1メートル程現れた。

「この状態を維持したまま、これに【風魔法】を纏わせる。」

今度は可視化した【風魔法】が【熱吸収】の周りをぐるぐる走る。

「これが第一段階。そして、これが出来るようになったら、【風魔法】の回転数を上げていく。」

すると、逆走【火球】の周りをふんわりと回っていた【風魔法】が高速回転しだし、間隔そのものも狭くなった。

「これが出来るようになったら、あとは簡単。【熱吸収】の冷気の範囲は【風魔法】が走る範囲に広がるから、倒したい魔物に向けて【風魔法】を走らせれば良い。」

 そう言うと、アイテムボックスから大きなスイカを5つ出した。

「夏に買って、食べる機会がなかったスイカ。切ってみんなで食べよう。」


 ルウィージェスはエルンストに言った。

「エルンスト団長なら、この状態から威力の調節が出来る筈。皆で冷えたすいかが食べられるように、【熱吸収】の威力を落として、シャーベット状になるよう、やってみて。このままで切ると、スイカ、カチコチになるから。」


 エルンストは、ルウィージェスから魔法杖を受け取った。

 「うん、常温だね、このスイカ。」

クラウスとザビーネは、スイカを確認した。

「店で買って、そのままアイテムボックスに放り込んだからね。」

 

 エルンストは、魔法杖に自分の魔力を流した。一瞬、渦を巻く【風魔法】が大きく揺れたが、直ぐに調節出来た。

 【熱吸収】の方に意識を向ける。すると、【熱吸収】が大きく揺れ、より強い冷気を出したことが感覚として分かった。結界が張ってあるため温度は体感できない。

 意識的に、【熱吸収】から魔法杖へ魔力を少しずつ戻してみる。すると、床の霜が少し溶けた。更に、魔力を魔法杖の方に戻す。今度は、天井から氷柱が溶けて落ちてきた。

 ルウィージェスが結界を解いた。あの強烈な冷気はなかったが、ひんやりと空気が流れているのを感じる。

 エルンストは、試しにスイカを1個切ってみた。

 表面を確認すると、切り面には薄い氷が張っていた。シャーベット状にするには、もう少し魔力を減らす必要がある。魔力を杖の方にもう少しだけ戻し、再度スイカを切ってみた。

 すると、今回は薄い氷は張らず、切り面そのものが少し凍った感じになった。

「おぉー、いい感じにシャーベット状になったんじゃない?」

「エルンスト団長、ここを薄くもう一度切ってもらえないか?」

クラウスが言った。

 エルンストは力の配分をそのままに維持し、薄くスライスした。

 エルンストが切ったスライスをルウィージェスが更に3等分し、クラウスとエルンストに渡して、自分も食べてみた。

「おぉ~、いい感じにシャーベット!」

喜ぶルウィージェス。

「シャリシャリする。まさか【火球】の逆走を調節するだけで、これほど温度調節が出来るようになるとは。」

エルンストも驚きを隠せない。

「いい感じに冷えていて、うまい。」

クラウスも、自分が無意識に使っていた【熱吸収】の応用性と汎用性に驚きながら食べていた。


 エルンストは、力の配分を維持しながら、全てのスイカを、魔術師団団員とカリンにいきわたるように切った。


 「これは、水を使わずに冷やすので、かなり応用が利きますね。」

「あぁ、温度調節さえ間違えなければ、水に浸けられない物も冷やせるのだからな。」

「というか、クラウス殿はこれを無意識にしていたのですよ?」

「…いや~、本当に、知ると気付くでは大違いだな。ハハハ…。」

「今回のは、それ以前の問題でしょう。」

 お互いの母方の祖父が兄弟で、実は親戚関係にある二人の、非常に和やかな(ほのぼの)団長会話(トーク)に周りの魔術師団団員は苦笑いだった。


 気付くとだいぶ日が傾いていた。この日はここまでとし、解散することになった。

 クラウスはルウィージェスに、騎士団にも魔法を使える者がいるため、剣への魔法付与方法を騎士団でも教えて欲しい旨伝え、了承を取った。


 エルンストはルウィージェスとカリンを馬車で公爵家まで送り届け、遅くまで二人を引き留めてしまったことをエムラカディアに陳謝した。


 その夜のエルンスト。今日も驚きの連続だったが、知恵熱は出さなかった。だいぶ、ルウィージェスの驚きの魔術にも耐性が付いたようだ。

 夕食後の団欒では、妻、息子と娘に日中ルウィージェスに『惑星最強の魔術制御力を持つ魔術師』と言われたことや、クラウス団長が凄い魔術を無意識に使っていた事など、楽しく話した。

 そして、今日初めて知った火魔法を逆流させる方法による冷凍術を加減して披露し、カットフルーツをその場で冷やしてみせた。これには、エルンストの家族もメイドも驚く。特に、カットフルーツの果汁が皿に流れ出ずにシャーベット状になった事への驚きが大きかった。


 娘のエヴァリンは火魔法を得意としている。父エルンストに魔法陣内の魔力を逆流させる方法を聞いて試してみたが、魔力制御力が足りず、成功させることは出来なかった。

 エルンストは、逆流を試そうとしていた団員には気付いており、同時に、誰も成功させる事ができなかったのを知っている。自分で言うのも何だが、まさか、逆流させる事がそれほど難しい事だとは思わなかった。


 魔力の走行を逆流させる事が出来る事を知ったのが、騎士のクラウスから、というのは、魔術師として悔しいが、と思いつつ、湯船に浸かりながらエルンストは思う。

 クラウスは何故、魔力を逆流させる(すべ)を知っていたのだろうか、と。

 本能だけでは説明が付かない。何故なら、現在までに確認されている魔法のほぼ全てが網羅(もうら)され、記録されている、宮廷魔術師団で管理している「魔法辞典」にすら、魔法陣内の魔力の流れを逆流させて発動させる魔法は、記載されていないからだ。

 自慢ではないが、フォーゲル伯爵家最高の魔術師、アデル伯爵が宮廷魔術師団の団長を務めている間にまとめ、その息子が製本し残した「魔法辞典」は、何度も何度も読み返している。今では、どの辺りにどの魔法陣が記載されているのかを記憶している程だ。

 だから断言できる。逆流させて発動させる魔法など、どこにも記録されていない、と。

 

 クラウスで思い出されるのが、初めて会った時の事だ。前国王アルフォンスから正式に、創造神から次男のアギディウスが使徒として選ばれ、次期国王となる事が、親族に知らされた時。そのパーティー会場で、まだ3歳だったクラウスと出会った。

 あの時、一目見て、あの子がシューバート家の者と分かった。初めて会ったにも関わらず。

 ――――あの時、俺は、何と声をかけた?

 あの時の事を思い出そうとすると、何故か、逆に記憶が遠くなる感覚に襲われる。

 ――――あの時俺は、あの子が剣の達人と知っていた。それは覚えている。…何故だ?何故、3歳児に対し、そう思ったのだろうか。

 頭の奥がチリチリと痛む。

 クラウスと次に会ったのは、テューゲンリン王国王立アカデミーの初等部高学年生の時だ。教師に頼まれ、初等部低学年生の魔法の授業を手伝った時だ。

 あの時、エルンストは15歳、クラウスは入学したての10歳。

 ――――そうだ。あの時もだ。俺は、クラウス殿に『君なら出来るよね』と言った記憶がある。それに対して、クラウス殿も出来る、と答えた。何故だ?まるで、俺はクラウス殿を知っていたかのようだ。でも、知らない。記憶がない。覚えているのは3歳の時のクラウス殿だけだ。

 頭の奥の痛み範囲が広がって来た。エルンストは、一旦考えるのを止めた。

 気づくとかなり長い時間、湯船に浸かっていたようだ。かなり湯が冷えていた。

 せっかく温めた体も冷えていた為、極小【火球】を湯に沈め、もう一度湯を温め直し、冷えてしまった体を温めた。

 

 メイドに髪を乾かしてもらっていた時だった。エルンストは、今日のルウィージェスによる一連の魔術訓練の時、一切藍の【応援歌】の補助を受けていなかった事に気付いた。

 もともと、藍の【応援歌】は守護術系の魔法を大きく補正し高めるが、攻撃系の補正値は、それほどではない。しかし、藍の【応援歌】の補助下で様々な魔術の訓練をしてきたため、エルンストの魔力制御力と魔力制御率が大幅に上昇していたのだった。

 それに気付いたエルンストは、夜、興奮してしまい、なかなか寝付けなかったが、気分は爽快だった。


 エルンストは、湯船で考えていた事を全く覚えていなかった。

第28話では、クラウスも自覚がないままに、エルンストが呆れる程の魔力制御力の持ち主であることが判明します。そして、クラウスが無自覚に発動させていた魔法は、過去にその存在が認められていない、全く新しい魔法でした。


次の第29話では、エルンストが新しい加護を受けます。


第一章第29話は、来年2月7日(土)20:00公開です。

第29話 宮廷魔術師団団長の奮闘⑨―ヴェズルフェルニルの加護―

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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