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この世界がボクから独立するまで  作者: 月 千颯(つき ちはや)
第一章 惑星エムラ
27/43

第26話 「宮廷魔術師団団長の奮闘⑥―魔法陣―」

 ルウィージェス姉、惑星エムラの創造神、中級神のエムラカディアです。

 私がこの国建国の為に用意した始祖の魂の一つ、術の魂を持つエルンストが、魔法陣の研究を始めたようだったので、様子を見ていました。


 始祖の魂は、私の使徒を置く国造りの為に用意した特別な魂。私が建国時に用意したのは、剣の魂、盾の魂、術の魂と知の魂の4つ。その内、盾の魂は本人の希望で、全ての能力と記憶を封じ込め、普通の魂と同じ状態にしました。現在は、普通に輪廻に乗っています。

 重大な役割を果たしたそれぞれの魂には、自由を与えています。永久とわの自由です。術の魂と剣の魂は、その能力と記憶を維持する事を望みました。建国時、剣の魂の保護者だった知の魂は、保護者として剣の魂を守る為の必要最低限の能力は残すが、その他の能力は封印し、剣の魂の保護者の立場を維持する事を希望しました。

 剣の魂は、刺激のない天界での日々に飽き、刺激を求めて「転生」を望みました。それを聞いた知の魂も、保護者として剣の魂に付いて行く事を希望したので、今回は兄と弟という立場になるよう、手配しました。二人とも、転生中は過去の記憶の封印を望みました。知の魂には、剣の魂を守るための力として、権力を渡す事を了承させました。私の眷属となって、権力の盾で弟となる剣の魂を守れるようにしました。


 今回、術の魂に惑星エムラへの転生を願ったのは私です。建国という大役を果たした始祖の魂に、例え私が創造神で、魂を用意した本人であっても、命令は出来ません。しかし、古い魔素問題の解決策が全くない現状では、術の魂の能力を借りる他に、方法が見つかりませんでした。しかも、今回で2度目。本当に異例な事です。この件に関しては、流石に世界創造神に相談し、許可を得ました。

 特殊な能力を維持している術の魂と剣の魂には守護神を付けました。守護神は、転生したての幼い体でその力を使わないように、幼い体の成長に合わせて、その能力を徐々に出していくように、調節を担う役割を持っています。同時に、その特殊な能力を持つ転生後の幼い身の安全を図る役割も担っています。

 特殊な能力は、どうしても目立ってしまいます。どんなに抑えていても、その才覚までは隠せません。良からぬ考えを持つ者たちに目を付けられる事もあるでしょう。その為の守護神でもあるのです。

 今回、あのような事が起こるとは、本当に想定外でした。全く考えてもいませんでした。

 守護神を失った剣の魂の近くに知の魂がいた事は、本当に不幸中の幸いでした。

 しかし術の魂は…。あれは本当に危なかった。危うく、術の魂を失うところでした。あの時は咄嗟に、あの魂を守る為に記憶を封印しましたが、私の顔を知る魂です。私と会う事が封印を解くきっかけとならないように、なるべく術の魂には近づかないようにしていました。あの時はまだ転生して間もなく、付けていた守護神がしっかりとその能力を抑えていたので、うまく記憶の封印と、能力の一部の封印に成功しましたが、守護神を失って以降は、私が何とかするしかありません。ですが、記憶の封印の件がある為、直接やり取りするわけにはいきません。色々と試みましたが、やはり、専属の守護神のようにはうまくいきませんでした。突出したあの能力をもう少し隠したかったのですが。

 転生する際に術の魂が望んだのが、剣の魂と同じく、転生中は建国時と1度目の記憶の封印する事でした。全く新しい人生を楽しみたい、それが条件でした。

 それが吉と出るか凶と出るかは、本当に分かりませんでしたが、ルウィージェスを連れて王城に行った時、術の魂のエルンストが私の顔を見ても、記憶の封印が解ける事も、封印した能力の一部も解除される事なく、無事に面合わせは済みました。あの時は、本当に内心はヒヤヒヤしていました。ルウィージェスも、魔術師団団長の中にある私の神術の痕跡に気付いたようでしたが、幼いなりに、何かを感じたのでしょう。それに関しては触れませんでした。なかなかにさとい子です。

 その後、本来はルウィージェスの案内役として付ける筈だった魔鳥の卵に、まだ魔力を解放していなかった為に神力を与えてしまい、うっかり魔道神鳥を誕生させてしまいましたが、これまた予想外な事に、魔道神鳥が術の魂の持ち主エルンストに『守護の加護』を与えました。しかも、ランの属性は守護神。これは、本当に嬉しい誤算でした。


 『守護神』属性のランの加護を得た事によって、魔力の成長も威力も安定した術の魂の持ち主エルンストは、自分で魔導王ルウィージェスの魔法陣の鍵を見事に解明しました。もうそろそろ、封印した能力は解放しても良いかもしれません。

 欲を言えば、記憶を開封する機会が得られてから、能力の開封をしたいと思っています。その機会が得られると良いのですが。

 ルウィージェスの各【回復魔法】の治癒範囲が、自分たちとは全く異なっていた事が判明し、フォーゲル家の歴代の当主による記録にすら残っていなかった建国時のフォーゲル家の役割を知り、そして、魔法陣の常識が崩れたこの日。エルンストは激しい心身の消耗を感じ、団長に就任して以来、初めて体調不良を理由に自ら有給申請を行い、1日養生する事にした。


 夜、エルンストは発熱を自覚した。

 夕方に藍が【応援歌】を発動してくれたおかげか、体の方はそれ程ではないが、心の方が疲労困憊のようだ。

――――知恵熱か、ショック熱か。まさか、この年(43)で経験する事になろうとは。


 明かりを消そうとした時、コンコンと何かが窓を叩く音に気付いた。

 カーテンを開けてみると、そこには藍がハチドリらしく羽根を高速で動かし、空中に止まっていた。

 驚いたエルンストが窓を開けると、いつもなら直ぐに肩に止まるのに、今日は腕に止まり左足を上げた。

 そこには紙が小さくたたまれ、【風魔法:リング】で留められていた。

 この風魔法の【リング】は、紐がない時によく使われる魔法で、宮廷魔術師団でも仮止めとしてよく使っている。

 エルンストは【リング】を切った。

 『エルンスト団長へ ランが、団長が心配だと何度も訴えるので行かせました。ランは魔道神鳥なので、夜でも普通に飛行できるから安心してください。ランがしきりに看病したいと言っています。迷惑でなければそばに置いてやってください。安心したら勝手に戻ってくるので、いなくなっても心配しないでください。お大事にしてください。ルウィージェス』

 エルンストは藍の頬を撫でた。

「そうか、心配してくれたのか。ありがとう。ランがいてくれると和む。助かるよ。」

 藍は【応援歌】を発動させた。すると、気だるい感じが少し軽くなり、明らかに微熱にまで下がった。

「相変わらずすごい効果だな。おかげでゆっくりと寝られそうだ。ランがここに泊まるのは初めてだな。何か止まれる物を持ってこよう。一緒に来るかい?」

「ぴっ」

そう鳴くと、いつもの場所、エルンストの左肩に移動した。


 エルンストが居間に降りてくると、メイドが最後の片づけをしていた。数日前、引退した祖母の代わりに入って来た新しい子だ。名をシリーという。幼い頃から屋敷(ここ)で働く祖母と母の真似して、掃除を手伝っていた子。あの小さかった女の子が一人前になって働く姿を見るのは、なかなか感慨深いものがある。

「あ、伯爵様。大丈夫なのですか?」

 その時、エルンストの肩に青い鳥が止まっていることに気付いた。

「この小鳥はランと言って、リリーエムラ公爵のご令弟ルウィージェス様の鳥で、私が体調を崩したのを感知し、看病しに来てくれたのだよ。」

「まぁ、夜なのに。それに、伯爵様の体調を感知するって、なんか、すごい小鳥ですね。」

「ランは魔道神鳥と言って、神獣と並ぶ亜神だからね。」

「…私、初めて亜神様を拝見いたしました。…リリーエムラ公爵家って、やっぱりすごい一族なのですね。」

「あぁ、すごい一族だよ。ルウィージェス様の話しによると、親鳥に卵を託されたから孵化(ふか)させ、生まれたのがランなんだそうだ。」

「神鳥様を孵化させたのですか?…伝説級の話しですね。」

「既に宮廷魔術師団内でも、近い将来、伝説として語られそうな事、色々としてくれているよ。」

少し遠い目をしながら、引退後、彼自身が『伝説の魔術師団団長』と呼ばれることになる事を知らないエルンストは言った。

 その様子を見て、シリーは何かを察した。

「あ、…なんか、お疲れ様です。」

「ありがとう。ところで、」

エルンストは本来の用事をシリーに伝えた。

「何か、ランが止まり木にできそうな物はないかな?」


 色々探した結果、白樺(シラカンバ)の幹に同じく白樺(シラカンバ)の一種で、リリーエムラ公爵家が治めるハインライテル州領の奥の森にのみ生息が確認されている『アイトヨン』と呼ばれている木の枝を挿し、『縁起の良いお守り』として、また、『出世のお守り』として、よくプレゼントされるオブジェを藍は気に入り、自分の止まり木に選んだ。

 

 エルンストは知らなかったが、この白樺(シラカンバ)『アイトヨン』は下級神光の神の眷属で、別の神の眷属で森の守護神と言われている(わし)が好んで宿り木として使っている木だ。

 そして、藍が止まり木として使用した事によって、『アイトヨン』はルウィージェスの神力を得、本物の『お守り』となった。


 翌日の昼過ぎにはすっかり回復したエルンストは、書斎(ライブラリー)で昼食後の紅茶を楽しんでいた。

 この日は薄い雲が多く、日差しも柔らかく、風も非常に穏やかだった。窓を全開にして、部屋の空気を入れ替えている。虫が入ってきても藍が目ざとく見つけ、退治して(たべて)くれる。

 藍が気に入った白樺(シラカンバ)『アイトヨン』の飾り物も、止まり木として置いてある。しかし、藍はお気に入りのエルンストの左肩に陣取っている。


 大きく開け放った窓際に座るエルンストは、昨日ルウィージェスが作った【紙作成】の魔法陣を取り出した。

 何度見ても、初級の魔法陣には見えない。

 その時、藍が「ぴぴ、ぴぴ、ぴぴ」と鳴いたと思ったら窓から勢いよく飛び出し、数十分後に戻ってきた。

 腹の方に少し大きめの包みが括られ、左足には小さく折りたたんだ紙が【リング】で留められていた。


 「ランが、団長が魔法陣の研究をしようとしているから手伝え、と言ってきました。なので、【時空間魔法:魔法陣】と【時空間魔法:魔力流し】を同時に発動させる【時空間混合魔法:魔法陣読解】を作りました。これは、紙面に描かれた魔法陣を空間に再現し、魔法陣の中を通る魔力の流れを可視化する魔法です。ぼくにとっては初級魔法ですが、時空間魔法の属性がないと、少し魔力消費量が多くなります。長時間の連続使用は避けてください。ランの【応援歌】の下での作業をお勧めします。療養中の無理は厳禁ですよ、団長。それから、ランが『アイトヨン』の枝が良かったと言っていました。『アイトヨン』は下級神光の神の眷属です。なので、ランが使ったことでぼくの神力が流れ込んだ筈なので、広間(サルーン)など不特定多数が出入りする場所に置くと『お守り』になります。療養中なのをお忘れなく。ルウィージェス 追伸:ランはオレンジが好きです、と書けと言っています。すみません、催促しています。図々しくてごめんなさい。」


 「おぉーーーーー」

思わず声が出た。

 ルウィージェスからの手紙には【混合魔法:魔法陣読解】を()()()と書いてある。という事は、魔導王自作(オリジナル)魔法だ。時空間魔法を使える魔術師は確認されておらず、幻の帝級魔法とされている。しかし、藍の【応援歌】の下での作業を推奨しているとは言え、【時空間魔法】を持たない自分に教えてきた魔法だ。その魔力消費量は、おそらく中級程度と予測される。魔術師として興奮しない理由がない。

 そして、『アイトヨン』の正体だ。藍が気に入る筈である。


 エルンストは藍の腹に留められている紙の筒を見る。【空間魔法】で小さくしているようだ。だが、エルンストは【空間魔法】は使えない。どうしようか、と悩んでいると、【空間魔法】でネットのように紙を包み、それを【風魔法:リング】で止めている事に気付いた。

 エルンストは【リング】を切った。すると、ネット状になっていた【空間魔法】は消え、紙は元の大きさに戻った。よく見ると紙は2枚あり、両方とも同じ魔法陣が描かれている。一枚に「これも読んでいます?」とメモが挟んであった。ルウィージェスの心遣いがたまらなく嬉しい。


 「ラン、ありがとう!本当にありがとう!ルウィージェス様が()のために新しい魔法を作って下さったよ!ラン、もう感謝しかないよ。本当にありがとう!」

藍を頭から羽根まで、優しく何度も何度も撫でた。藍も嬉しそうだ。


 エルンストはベルを鳴らしてメイドを呼び、オレンジを切って持ってくるよう伝えた。

 

 早速、藍に【応援歌】を頼んだ。ステータス全般が強化されたのを確認し、【混合魔法:創造魔法:紙作成】に対し、【時空間混合魔法:魔法陣読解】を発動させた。消費魔力量は35だった。やはり、中級魔法程度の魔力消費量だった。

 しかし、この魔法陣の内容は過去に類を見ない貴重なもので、内容的には確実に帝級魔法クラスだ。


 目の前に【混合魔法:創造魔法:紙作成】の魔法陣が浮かび上がった。

 ルウィージェスの手紙には、【時空間魔法:魔法陣】と【時空間魔法:魔力流し】の混合魔法と書いてあった。エルンストは浮かび上がった魔法陣に魔力を流してみた。

 すると、流した魔力が可視化され、魔法陣の中を流れていく。

 魔法陣の中を魔力が流れていき、一つの魔法が発動する部分にくると、その部分がひと際強く光り、発動が終わると光りが消え、そして次の発動部分が強く光る。それを繰り返していく。

 ルウィージェスがエルンストの前で見せた、【紙作成】の工程その通りの順番で魔法陣の中で光が動いていく。


 エルンストは食い入るようにそれを見ていた。


 魔法陣の発動工程の再現が終わった。


「はは……はは……すごい、これは本当に凄い!」


 エルンストは宮廷魔術師団に早馬を出し、副団長のザビーネを呼び出した。


 約30分後、ザビーネがエルンストの屋敷に来た。


 「団長、もう体調は大丈夫なのですか?」

「あぁ、すっかり。すまないね、うちまで来てもらって。」

そう言い、ザビーネを書斎(ライブラリー)へ案内した。


 ザビーネはテーブルの上に藍がいるのに驚く。

 エルンストは昨夜のことを説明した。

「さすが、魔道神鳥様ですね。団長の体調の変化に気づくなんて。」

「あぁ、驚いたが、おかげですっかり良くなったよ。」


 エルンストは、ルウィージェスが藍の希望を叶えるべく、新しい魔法を作ってくれた事、その魔法陣を試したところ、あまりの凄さに感激し、ザビーネを呼ぶに至った事、その経緯をルウィージェスからの手紙と共に説明した。


 「はぁ?何ですか、その魔法は?えぇーーーー!?」

ザビーネが珍しく大声を出して驚く。

「今見せるから。とにかく見てくれ。本当に凄いのだよ!」


 エルンストの隣にザビーネが座り、先ほどと同じく、【混合魔法:創造魔法:紙作成】に対し、【時空間混合魔法:魔法陣読解】を発動させた。


 【時空間魔法:混合魔法:魔法陣読解】が完全に終わっても、ザビーネは無言のままだ。言葉を完全に失っていた。


 エルンストは黙って、ザビーネに温かい紅茶を勧めた。

 ザビーネも黙って紅茶を飲んだ。


 「これ、魔導王様の自作魔法(オリジナル)、なんですよね。」

「あぁ、ランが俺を手伝ってくれ、と言ってくれて、それに答えるため、ルウィージェス様が作って下さった魔法だ。」

 ザビーネは、エルンストの一人称が「俺」になっている事に気付いた。家族の前ですら、一人称の「私」を崩さないエルンストが。恐らく本人は気付いていない。それだけ興奮しているのだろう。

 学年的には2年しか違わないザビーネは、上級生エルンストがテューゲンリン王国王立アカデミー高等部で、『魔法陣の奇人』と陰で呼ばれていたのを知っている。昔から魔法陣の研究に余念がなかった。

 ――――興奮しないわけ、ないわよね。


 「これ、棟で使っても大丈夫なのでしょうか?」

「ルウィージェス様としては知られても良いと思われてのことだろう。そうでなければ、一言、この手紙に(しる)す筈だからな。とは言え、これは宮廷魔術師団、いや、王国にとって、魔法陣開発の要になる。国家レベルで隠匿する魔法になるだろう。門外不出は確実だろうな。それに、そもそもこれは時空間魔法だ。例え魔法陣からの発動だとしても、魔力消費量で使える人間が限られる。」

「団長でどのくらいの消費量なのですか?」

「俺はランから加護を貰っている。その上に、ランの【応援歌】でステータス増強している。その状態で、魔力消費量が35だ。中級魔法だが、本来は、限りなく上級魔法に近い魔力消費量だろう。」

「と言うか、この凄い魔法を発動させて魔力消費量が35というのが、そもそもあり得ないのですが。」

「魔法の内容と魔力消費量がこれほど合わない魔法も、そうそうないだろうな。」


 オレンジをたっぷり食べ満足したのか、藍はエルンストの左肩に戻ってきた。

 ザビーネをじっと見る。その視線にザビーネは気づく。

「ぴぴ、ぴぴ、ぴぴ?」

藍は【紙作成】の魔法陣の上に移動しぴょんぴょん跳ね、その次に【魔法陣読解】の魔法陣の上に移動し、同じくぴょんと跳ね、ザビーネを見る。

「え、私にやってみろと?」

「ぴ」

 ザビーネはエルンストを見た。

「特にこの後、大量に魔力を使う予定がなければ、やってみたらどうだ?」

「えぇ、特にその予定はありませんが、」

そう言うと、藍は【応援歌】を発動させた。

「あ、ありがとうございます。」

 エルンストに方法を教えて貰い、ザビーネは【魔法陣読解】を発動させた。

 大量の魔力を一気に消費したのを自覚した。


 「団長、これ、上級魔法です。魔力消費量50を超え、私、65程を消費しました!」

「なに、そんなに消費した?!ランの加護で、そんなに魔力消費量、低減されていたのか?!」

 藍は「ぴぴぴぴぴ」と鳴き、また開いた窓から飛び出して行き、数十分程で戻ってきた。左足にメモを持って。


 「ランが、団長がランの加護による魔力抑制効果で驚いていた、と言っていました。ランの属性は守護神なので、魔術の性質が守護神術に近いほど、その補正が強くでます。時空間魔法、空間魔法と光魔法、特に回復魔法がその代表格です。風魔法などの攻撃魔法はそこまでの補正はかかりません。ルウィージェス」


 「ルウィージェス様、授業中、何度もすみません。」

思わずエルンストは詫びた。


 「へぇ~、勉強になりますね~。」

「あぁ。ランは守護神なのだな。だから、あれ程の結界魔法が使えるのか。【応援歌】も、その効果を考えれば、確かに、守護神らしいスキルだな。」

藍はテーブルの上で胸を張る。「どうだ!」と言っているようだ。


 「しかし、時空間魔法と空間魔法が回復魔法と同じ守護神術に近い性質だったとは、思いもよらなかったな。」

「ほとんどの空間魔法の使い手が使う魔法が結界魔法なので、言われればそうか、と思うのですけど、ちょっと意外でしたね。結界魔法以外の空間魔法で有名なのは、幻の魔術【ゲート】と【転移魔法】ですからね。」

エルンストは頷いた。

 同時に、昨日ルウィージェスが言っていた『魔素障害を真っ先に受けるのは非戦闘系の魔法で、その中で顕著なのが、光属性の回復魔法と特殊属性の空間魔法』の意味が少し分かったような気がした。

 王国騎士団の団員に、魔力制御力が甘すぎて空間魔法属性を持っているにも関わらず、全く結界を張れない騎士団員がいる。だが、その騎士団員は、精度も低いし威力も弱いが、攻撃魔法なら放つことが出来る。攻撃魔法の方が古い魔素の影響が少ないから、あの騎士団員は攻撃魔法なら放てる、と考えられる。

 回復魔法も同じだ。魔力制御力がある程度ないと、光属性を持っていても【ヒール】ですら発動させることが出来ない。光属性を持ち、回復魔法を持ちながら【ヒール】は使えないが、攻撃魔法【光弾】は使える魔術師が自分の部下にいる。というか、いた。あの団員の【光弾】と攻撃魔法【風魔法】の威力はそれなりなのにだ。保持魔力量には恵まれているにも関わらず、回復魔法が使えなかったのだが、気付いたら、いつの間にか【ヒール】が使えるようになっていた。

 彼は、いつから【ヒール】が使えるようになっていた?思い返せば、スタンピードの時には【ヒール】が使えていた。

 ――――ルウィージェス様たちが来られるようになってから、だ。つまり、古い魔素が消えた後。それに、あの時はランの【応援歌】の下で、魔法を使っていた。

 確かに、とエルンストは思った。魔力制御の必要性を学んでからは、攻撃魔法の魔術師(つかいて)よりも、非攻撃魔法の魔術師(つかいて)の方が、成長が早かった。魔力制御力の事しか考えていなかったが、回復魔法と空間魔法が他の攻撃魔法よりも古い魔素の影響をより強く受けるのであれば、古い魔素が浄化された場所での訓練なら、非攻撃魔法の魔術師(つかいて)の方が、成長が早かったのも道理だ。

 ――――という事は、回復魔法と空間魔法は、よりきれいな、純度の高い魔力が必要である、と。しかし、今は古い魔素問題があるから、より純度の高い魔力を必要とする魔法である程、より高度な魔力制御力を必要とする、という事、になるわけ、…か。

 藍から加護を貰って以降、エルンストの魔力は古い魔素浄化能力を得て、純粋化した。

 ――――だから、全ての魔法の威力が上がったわけか。


 ザビーネは、「結界魔法以外の空間魔法で有名なのは、幻の魔術【ゲート】と【転移魔法】」と言っていたが、【ゲート】は空間魔法だが、【転移】は光魔法だ。共に帝級魔法の為、二人は知らなかったようだ。

 ついでに、ルウィージェス、カリンと藍が発動させる【結界】は光属性だが、一般の魔術師が使う【結界魔法】は空間魔法である。違いは、光属性の【結界】は、呪術も反射させはじき返すが、空間魔法の【結界魔法】は、純粋に、物理的飛来物を跳ね返す事しかできない。


 「そうなると、【回復魔石】と【結界魔石】の魔法陣の研究は優先順位が高いな。ルウィージェス様は、今、この惑星に留学中だ。いつかは神界に戻られてしまう。そうなると、ランも一緒に帰ってしまうだろう。現状、ランの【応援歌】による援護射撃は大きい。」

「大きいですね。時空間魔法の混合魔法【魔法陣読解】も、ラン様による補正が大きい【応援歌】の下で発動させて65程の魔力消費量でしたからね。【応援歌】なしでやったら、一体どのくらい魔力消費したのだろう、と思うと、恐ろしくてそう簡単には発動させられません。」

「ルウィージェス様が、【魔法陣読解】を口留めしないわけだ。」

エルンストは少し遠い目をしながら乾いた笑いをした。


 ザビーネはまだ仕事があるため、宮廷魔術師団の棟へ戻っていった。


 エルンストは、改編【火球】【水球】【風球】【石槍】の魔法陣を【魔法陣読解】で魔力の流れを確認してみることにした。

 すべて初級魔法であり、魔法陣の存在すら知らない子どもでも発動させる事が出来る魔法の為、ルウィージェスと知り合う前までは、これらの魔法陣に改善の余地があるとは思ってもいなかったし、そもそも、改めて魔力の流れすら確認したこともなかった。


 エルンストが初めて魔法陣を見たのは5歳の時だ。5歳のある日から、急に父親がエルンストに魔力制御法を教え始め、その時に、全ての魔法には魔法陣が存在していると学んだ。

 当時の事は断片的に記憶がある程度でしかないが、ただ一つだけ、はっきりと覚えている事がある。複数の円で描かれた幾何学模様の魔法陣に目を奪われた、あの瞬間。あの時の衝撃だけは、はっきりと覚えている。

 魔法陣の全体像は覚えていない。あれは何の魔法陣だったのだろうか。


 ルウィージェスの魔法陣を【魔法陣読解】で見ると、既存の魔法陣との差がより鮮明になる。

 既存の魔法陣と比べると、ルウィージェスの魔法陣は全体的に線が細く、魔力の流れを遮るものが少ない。つまり、一旦魔力が流れると、流れを阻害する余計な線がなく、(とどこお)りなく魔力が流れて行く。

 エルンストが学んできた魔法陣の法則では、魔法陣を描く時には必ず太い線を一つ入れる。太い線に一気に魔力を流し、発動魔法に勢いをつける。それが定番であり、正攻法と言われ、それに対して疑問を抱いたことはなかった。

 しかし、ルウィージェスの魔法陣にはそれがない。

 エルンストは改編【火球】を出してみた。旧【火球】よりも、魔力消費量が少ないのに勢いがある。しかも、魔法発動時に魔力を絞って勢いを付ければ、それだけ勢いのある【火球】になる。旧【火球】ではこうはいかない。まず、太い線に十分な魔力が流れないと、そもそも魔法が発動しない。


 「何故だ?」


 エルンストは、藍にもう一度【応援歌】を頼んだ。

 ルウィージェスは、【魔法陣読解】の魔法陣を2枚くれた。改編【火球】と旧【火球】の魔法陣を同時に流してみれば、何かが分かるかもしれない。


 エルンストは、完全に自分が療養中という事を忘れ、魔法陣の研究に没頭していた。


 ランが、「もう休め」と言わんばかりに、嘴でエルンストの頭をツンツンするまで、何度も改編【火球】と旧【火球】の魔法陣を同時に流し、比較してみた。

 藍の忠告通り、ちょっと夢中になり過ぎた。療養中の身として、少し反省。

 だが、収穫は大きかった。

 3度目だったか4度目だったか。ルウィージェスが作成する魔法陣の始まりに、共通項を発見したのだ。

 これがどういう役割になっているのかは分からないが、既存の魔法陣にはない法則だ。


 これ以上【魔法陣読解】を発動させたら、本当に藍に怒られるだろう。エルンストは、魔力の可視化で発見した部分を再現してみた。

「これ、もしかして…」

 エルンストは庭に出て、ちょっと試してみることにした。


 エルンストの屋敷からも王城を囲む池が見える。数軒先にはリリーエムラ公爵家がある。

 エルンストは何度か、ルウィージェスが池の(ほとり)で水鳥と(たわむ)れているところを見たことがある。

 ある日、池の畔に設置してあるテラスで、宮廷魔術師団の資料室で見つけた、フォーゲル家最大の魔術師とも暗黒時代の救世主とも呼ばれているアデル伯爵が残した魔法陣の資料を見ていた時、聞き覚えのある声が池の方から聞こえてきたので顔を上げたら、ルウィージェスが水魔法で滑り台を作って水鳥を遊ばせていた。微笑ましく見ていると、ふと、変わった水鳥が混ざっているのに気付き、興味半分に目を凝らしてみたら、陸鳥のキジが水鳥と一緒に水魔法滑り台で遊んでいるのを見てしまい、思わず資料を落としてしまったのはいい思い出だ。

 あの当時はまだ、ルウィージェスの魔法の規模に慣れていなかったからいちいち反応してしまっていたが、あの頃よりかは、エルンスト自身でもかなり免疫が付いたと思っている。それでも、まだまだあの規模に慣れる事は出来ない。いや、慣れる日は来るのだろうか?


 以前は考えたこともなかったが、今は時々、アデルに近付けるかも、と思う事がある。誰にも言えないが。

 ――――いや、それではダメだ。今自分は、アデルでさえ頂くことがなかった神鳥様から加護を受け、その上に、魔導王様から魔法を教えて頂く機会に恵まれたのだ。アデルを超えるつもりで魔導王様魔法を学び吸収しなければ、未来の子孫に酷評されるだろう。

 エルンストは、自分を叱咤した。


 ルウィージェスが屋敷に戻っているかどうかは水鳥を見れば直ぐに分かる。ルウィージェスが戻っている時は水鳥が集まり、ルウィージェスが出てくるのを待っているのだ。

 今は、水鳥は集まっていない。まだ学校から戻ってきていないようだ。


 エルンストは、前々から何とか改善したいと思っていた初級魔法があった。それは【火炎弾】だ。エルンストの【火炎弾】はそれなりに威力があるのだが、それも(ひとえ)に持ち前の魔力量で強引にやっているようなもので、エルンスト自身もそう数打てないし、部下の団員たちには、消費魔力量が多過ぎて非常に使い勝手の悪い魔法と認識されており、『使えない魔法』扱いになっている。しかし、【火球】よりも遠くまで飛ばすことができ、威力もある為、ゴブリンの様に弱いが数が多い魔物を相手にする際には、本来なら使い勝手の良い魔法の筈なのだ。

 エルンストは、右手で魔力の可視化で【火炎弾】の魔法陣を描いた。そこに、ルウィージェスが魔法陣の最初に組み込んでいる線を加えていく。そして、ルウィージェスの魔法陣には見られない太い線を細くし、魔力の流れを確認しながら不必要な線を消していく。

 左手に、改編【火球】の魔法陣を再現した。何度見ても芸術的な線の組み方だ。全く無駄がなく、魔力の流れが非常に滑らかで、勢いがある。

 ――――勢いがある…。そうか、勢いを付ける術式が組み込まれているのか!

 左手に再現した改編【火球】の魔法陣を少し大きくし、目の前に持ってきた。

 どこかに勢いを付ける術式がある筈だ。それは間違いなく、自分たちは知らない未知の術式。

 

 藍は池の上を飛び回っている。虫が水面近くを飛んでいるのだろう。藍は神鳥だから、夕方になっても、日中と同じように見えている。

 急に、藍がホバリングを始めた。どうやら逃したくない(エサ)を見つけたようだ。狙いを定めているのか、見事なホバリングで動かない。

 その瞬間、ねじり飛びをして、エルンストですらギリギリ追う事ができるスピードで水面ぎりぎりまで突っ込んでいく。羽根の勢いで水面(みなも)に模様が出来た。

 (エサ)は無事に捕れたようだ。小さな嘴をもぐもぐさせている。


 ――――ねじり飛び…。空気抵抗を減らす技術…。抵抗を減らす…

 エルンストはもう一度、改編【火球】を発動させた。今度は流す魔力を細くして、勢いを付けて魔法陣に魔力を流した。すると、流れる魔力の速度が変わる個所が複数あった。その場所の術式は、皆同じ。

 右手に再現した【火炎弾】の魔法陣に、改編【火球】に組み込まれている術式を、そのまま真似してはめ込んだ。そして、魔力の流れを確認しながら微調整していく。

 試しに、【火球】に組み込まれている術式を同じ数だけ【火炎弾】に組み込ませてみた。


 出来上がった【火炎弾】魔法陣の魔力の流れは、改編【火球】にかなり近い状態にまでなった。自分でも、非常に魔力の流れが滑らかで、勢いが出たと思う。


 「ラン、ちょっと新しく作り直した【火炎弾】の試し打ちをしてみるから、こっちに戻ってきてくれ。」

 ランがエルンストの左肩に戻って来たのを確認し、【火炎弾】を池に向かって発動させた。


 その瞬間、エルンストが予想していなかった事態が起こった。

 まず、水しぶきが自分の身長を遥かに超える高さになり、慌てて風魔法で防壁を作り、水しぶきを避けた。同時に池の水面が大きく揺れ、それが高さ30cmくらいの波となって、水面を走り広がってしまった。

 流石に、これを止める(すべ)はなかった。


 「…え?」

 エルンストは、自分のステータスで魔量消費量を確認したが、改編【火球】と同等の魔力量しか減っていない。

 しかし、水しぶきが2mくらいの高さにまでなった。これは初級魔法の威力ではない。

 今度は流す魔力を粒にして、少し勢いを付けて流すことにした。ただ、もう池で試す事はできない。

 そこで、子どもたちが小さかった頃に用意した砂場で試すことにした。一応念のため、風魔法で防壁を作り、砂場を囲んでおく。

 「【火炎弾】」

 流した魔力は微量。少し勢いを付けて微量な魔力を流して見ただけ。

 砂場の砂が風魔法で囲んだ防壁を飛び越え、四方に飛び散ってしまった。

 「……これは、…火力が強いのか?飛翔速度が速いのか?」

 土がむき出しになってしまった元砂場に触れてみる。

「思ったほど熱くはないな。という事は、飛翔速度…か?」

 エルンストはアイテムボックスから紙を取り出し、【複写】で【火炎弾①】とし記録しておくことにした。

 【複写】は火魔法と光魔法の混合魔法で、今では、両方の属性を持つ宮廷魔術師団の団員は、全員使えるようになった。


 今度は、魔力の流れが変わる個所を半分に減らしてみた。もし、あの部分の術式が速度に関係しているなら、これで減速する筈だ。

 微調整を済ましたエルンストは、術式を減らした魔法陣を【火炎弾②】とし、同じく元砂場に放った。

 減速はしなかったが、少し【火炎弾】が少し小さくなった。

「…飛距離に関係する術式じゃないのか?それに、何故、小さくなった?」

 今度は、魔力の流れが変わる個所の術式の長さを半分にして、【火炎弾③】とし、発動させた。

 今度は、明らかに減速し、同時に【火炎弾】もいっきに小さくなった。


 この結果から考えられるのは、この部位の術式は「増幅」に関連している、という事だ。

 そう考えると、一番可能性として高いのは、これは「螺旋」術式だ。

 「螺旋」術式なら、長くて数が多ければ、勢いも大きさも「大」となる。逆に、長さが短ければ、勢いも大きさも、増幅される時間が減るから「小」となる。


 「…という事は、」

 エルンストは、ルウィージェスの改編【火球】の魔法陣をもう一度見る。

 あの「螺旋」術式は、魔法陣の導入部分にも使われている。


 つまりこの「螺旋」術式は、魔力消費量を大きく軽減させる鍵という事だ。

 この「螺旋」術式が魔法陣導入部分に組み込まれているから、魔法陣を使って属性以外の魔法を発動させる時でも、初期魔法負担が大幅に軽減されるし、「螺旋」術式で、魔法の威力を増幅させるから、魔力量が少なくても、あれだけの威力の魔法になる、という事だ。


 「ハ、…ハハ、…やった…、やったぞ。ラン、やったぞ!解いたぞ!ルウィージェス様の魔法の謎、解けたぞ!!」


 この発見こそが、エルンストの退職後に『伝説の魔術師団団長』と呼ばれる最大の理由だった。

 第26話は、エルンストがのちに「伝説を作った」と言われる事を成し遂げた日の出来事です。

 エルンストが解読したルウィージェスの魔法陣の鍵は、全ての魔法陣に応用できる術式で、魔導王のルウィージェスが編み出した、古い魔素問題対策に特化した術式です。

 これ以降、エルンストは驚異的な速さで、数多くの魔法陣を改編していきます。

 いつか、閑話で書きたいなと思っています。


次の第27話では、ランが王国騎士団と宮廷魔術師団の訓練の歴史を変えるきっかけを作ります。


第一章第27話は、来年1月24日(土)20:00公開です。

第27話 宮廷魔術師団団長の奮闘⑦―騎士団との合同訓練―

来週もよろしくお願いいたします。


また、お会いできるのを楽しみにしております。


つき 千颯ちはや 拝

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