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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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閑話 フィガロスティア・ラ・シルベスタの考察 (3)


 ハルトと近衛達が戻ってくると連絡を受け港に駆けつけると驚いたことに、そこには叔父上とレイオット侯爵、ステラート辺境伯まで一緒にいた。

 聞けば魔物出現を聞きつけたと同時にこの三人は現場に急行。だが到着したものの既に魔物は討伐済みで見事に空振り。近衛やハルトの騎士達とその武勇伝を聞きつつ夜通し酒を呑み交わし、この船でやって来たということだ。

 そうして甲板から降ろされた魔物の頭部を見て絶句する。


 巨大だったということは聞いていた。

 だが頭部だけで叔父上よりも大きい。

 運ばれてきたブロック分けされた肉塊からもその大きさを想像はしていた。だが、予想以上に大きい。目を閉じていてもこの迫力だ。

 こんなのを前にしてもハルトは怯まなかったのか。

 いったいどんな胆力をしているんだ。

 呆然としていたのは私だけではない、私の警護達もだ。そうしている間にも解体された魔物は腐敗を防ぐためにハルウェルト商会所有の冷凍庫に運ばれていく。

 叔父上の話では既に陛下にはある程度の情報が届いているはずだという。

 それはそうだろう。

 そうでなければ叔父上がここにいるはずもない。

 とにかく証言を取るならば急いだ方が良いと手分けして事に当たることにした。ハルトや叔父上達は今後の様々な対策を練るためにもひとまずハルトの屋敷へ、密談するにはこの場所は向いていない。私達はマイエンツ達の手の者がやってくる前までに近衛達の半分に分けて交代で事情聴取を行うことにした。魔物素材は貴重で高価だ、冷凍保存庫前に見張りは必要だからだ。ハルト達の警備も借りても良いが、ここはハルウェルト商会保有の冷凍保存庫、それだと何かあった時にハルトに責任の追求が及ぶ。

 こんな状況だ。危険性があると思われる行動は徹底的に避けるべきだと主張するとアインツとレイオット侯爵も私の意見に同意した。かなり珍しい素材採集ができることを考えると王都からの解体作業員がやってくるのも、素材分けの解体にも時間がかかるだろう。研究員も多分それなりの数がやってくる。その中におそらくマイエンツ側の者が紛れ込んで買収、脅迫をかけてくる。

 これは地方で起きた事件である。地方監査の介入理由としても充分だろう。

 私達は手分けして今回の調査団に参加した者達から当時の仔細な状況を把握するために聴き取りを開始する。人の話というのは同じものを見聞きしても解釈や立場、感情によって解釈が変わったり、自分に都合よく変換されることも多い。それは悪意があるというわけではなく、自分の立場を悪くするようなことを無意識に避けていたり、味方に好意的に、敵対者には猜疑的に考えるなど理由は様々だ。とにかく感情抜きで実際に現場で起こったのであろう真実を見極め、確認しつつ齟齬を埋めていく。

 要約すると神殿跡の地下で見つけた暗号文を解読するのに語学に堪能なハルトの手を借り、アインツやフリードにも忠告を受けたが己が功を焦ったマイエンツ達の子息が警護の近衛の目を欺き、壁を崩そうとしたところ、そこに怪物を閉じ込めていた封印が解け、一人は即座にその地下で、もう一人は逃げて這い出してきたところを崩れた床から出てきた化物の手に捕まり喰われたということだ。

 その時、ハルトとアインツ、フリードは地上で食事中。封印が破れた直後にその扉の前にいたのは警護の忠告を無視して目を盗み、欺いたマイエンツの次男が扉の正面で捕まり、引き摺り込まれ、その悲鳴を聞き、振り返った護衛の近衛達が階段を昇ったはずのレッドベルグの長男を穴のぽっかり開いた扉前に見つけ、何かを喰む不気味な音に恐怖を感じて全員が階段を駆け上がり、一番地下の扉に近いところにいたレッドベルグの次男が逃げ出した者達の最後尾となり、第二の犠牲者となった、と。大筋はこんなところだ。

 これは完全に喰われた二人の自業自得。

 忠告を無視し、功績を独占しようと企み、近衛の目を盗んだ結果の悲劇。

 どんなに屈強な者を護衛に付けたとしても警護対象者が勝手をすれば守り切れる筈がない。我が儘を言う程度なら対応出来るからまだマシだが、勝手を通すために護衛を欺き、自分を警護する相手を自らの遠ざけた。

 しかしながら全て証言でしかない。証拠となる物証はなく、あったとしても瓦礫の下。証明するほどの効力もない。明らかに喰われた二人の落ち度だがそこを無理に捻じ曲げ、自分に都合よく改変し、他者を陥れようとするのが強欲な権力者だ。

 白いものを己の都合で黒く塗り替える。

 それが通ってしまうから同じようなことを繰り返す。

 悪循環だ。

 やはり正しく罪人を裁くためにもあの法案は早く成立させねばならない。そのためには傍目にも明らかな不正の証拠と有無を言わせぬ正当性、有用性が必要だ。

 もしマイエンツ達が強引に無理を押し通し、ハルトに罪を被せようとしたならそのキッカケにもなるかもしれない。

 ハルトは隙を極力作らない。

 それは自分に敵が多いと認識しているからだ。

 権力者の都合で無実の者が裁かれ、情状酌量の余地もない者達がのうのうと生き存える。そんなことがあってはならないのだ。

 私はやがて王を継ぐ者としてそれを容認するわけにはいかないのだ。

 我が国の民を身勝手な己の欲望のために犠牲にする。

 そんな存在を野放しにしてはならない。

 それは私が現在取り仕切っている地方監査局の仕事でもある。

 国の害悪としかならないような者を見逃せば、そういう輩は際限なく罪を重ね、自分以外の、国に有用となる優秀な者達をも喰い潰す。

 それを赦していては国の未来に翳りが差す。

 今回の件は私の将来、この国の未来にも関わってくる。

 国の繁栄も衰退もその国を治める国王(もの)の責任だ。

 体調不良で塞ぎ込んでいたことに対する私への不安視する声が残っているのも知っている。それを払拭するためにもこの一連の案件を全て見事収め、己に王たる才覚があると示してみせる必要がある。

 まずは予想通りハルト達が戻ってきた翌々日には、今回の子息達の死亡についての責任の所在をハッキリさせ、謝罪させたいと言う名目の下に介入してきたマイエンツ達を見張りつつ、夜にはデイラックやコルトバルに私の不在を悟られないように裏工作をしてもらい、緑の騎士団支部長のダイロン達を護衛にハルト達と合流、不法奴隷所持犯であるマイエンツ達を追い詰めるための策を練り、夜の闇に紛れて自室に戻るを繰り返し、綿密な計画を立てていく。

 そしてその二週間後、事態が動いた。

 ハルトに審問会への呼び出しが掛かったのだ。

 

 どう考えてもただの道案内、同行者でしかないハルトに責任の所在があるとは思えない。マイエンツはいったいハルトにどんな言い掛かりを付けるつもりなのか。

 しかしながら後に控えている検挙のためにもマイエンツをある程度泳がせておく必要もある。奴隷の不法所持問題は一つ間違えれば奴隷である者達の一斉虐殺にも繋がりかねない。

 不快なことに主人にとって彼等は所有物。

 代えのきく道具でしかないのだ。

 所持が見つかれば裁かれるとなれば証拠隠滅を図られる。そうされる前の現行犯で捕縛する必要があるのだ。

 私は審問会で大罪人のように扱われ、嘲笑されるハルトを黙って見ているしかなかった。私が動いてはこの先の計画が崩れる。私とハルトの交流が深いことは周知の事実。口を挟んだところで庇っているのだろうと取られかねない。

 マイエンツ達の目を私達地方監査局に向けさせてはならない。

 

 なんでハルトがこんな場でまるで罪人のように扱われなければならない?

 よくもまあそんな根も葉もない作り話をデッチ上げられたものだ。

 虫唾が走る。

 私は腿の上でギリリと拳を握り締める。

 自分の忍耐が試されているような気がした。

 大丈夫だ。

 ハルトはこんな作り上げた虚偽と欺瞞で捏造された冤罪などに負けはしない。シルベスタ建国以来の天才児とも称されるハルトが言い負かされる姿なんて想像もつかない。

 きっと。

 いや、必ずこの危機を乗り越えてくれる。

 親友である私がそれを信じなくてどうする?

 ジッと耐えて抗弁の機会がハルトに与えられ、それまで黙って大人しく聞いていたハルトが静かに喋り出す。


 無罪を訴えて叫ぶでもなく、

 言われなき罪に怒鳴るでもなく、

 ただ淡々と、一つ一つ、マイエンツ達の言い分の矛盾点を指摘しつつ、仲間に危害が及ばぬように防衛線を張りながら、下手に出ているような口調で、だが反論を許さぬ威圧を持って逃げ道を塞ぎながら、奴等の神経を逆撫でするように追い詰め、囲い込み、塗り固められた嘘を一枚一枚剥いでいく。

 叔父上達が絶対ハルトだけは敵に回したくないと言っていた理由もわかる。

 ハルトは手段を選ばない。

 それが違法でない限り。

 こんなふうに理路整然と言い逃れを許さず、顔色ひとつ変えないで薄ら笑いさえ浮かべて淡々と容赦なく徹底的に追い詰められて、やっと見つけたと思った逃げ道さえも実は罠、陥れられる。

 これはさぞかし恐怖に違いない。

 シルベスタ王国最強と名高い双璧すらも恐れるこの姿(ハルト)

 それは確かに慈愛に満ちた正義の味方ではない。

 これは、まごうことなき『魔王様』だ。

 

 まるで演劇の舞台を見ているみたいだ。

 それもハルトが主人公の、ハルウェルト商会の劇場で上演される、『ハルスウェルト物語』の一幕。

 その伝記が飛ぶように売れるわけだ。

 現実は小説より奇なり。

 こんな劇的な展開なんて滅多に見ない傑作だ。

 有名な物語もハルトの歩む人生の前では私には色褪せて見える。

 どんな苦難や立ち塞がる障害からも逃げずに立ち向かう。

 そんな主人公に待っている未来が、暗いはずもないじゃないか。


「では裁判でまたお会いしましょう。

 こちらはこれでも随分と勉強させて頂いたつもりなのですがね?

 ですが、この金額に納得されていないということであれば、今回は時間の関係で大雑把な概算でしか金額を提示できませんでしたけれど、しっかり、キッチリ全ての費用、経費を計算して、貴方がたにも理解できるよう、詳細な請求書を御用意させて頂きます。

 おそらくもっと高額になるとは思いますけど。

 私は商人です。

 御贔屓の賓客であればサービスも致します。

 ですが迷惑なクレーム客であればそのようにキッチリ対応し、掛かった経費はしっかり取り立てさせて頂きますのであしからず。

 貴方の反撃、楽しみにしていますね」

 

 そう締め括り、ふてぶてしくも不敵に余裕を見せてにっこりと微笑ったハルトのその顔に私は思わず吹き出しそうになる。

 『私は商人』、か。

 そうだね。

 君は侯爵位のくせにその権力を行使することは殆どない。

 ハルトが使うのは大抵仲間を守るための脅し。

 実際にそれを横暴に振り翳したことはない。

 何か事件や問題を解決する度に、君は多くの仲間を得て商会を大きくしてきた。行くあてを失くした者を受け入れ、仕事を与え、燻っていた才能ある者を救い上げ、表舞台へと導き、商会の戦力として、最高の仲間として育て上げて発展させてきた一流の、稀代の商人だ。

 何度転んでもタダでは起きず、利をもぎ取る。

 どんな苦難が立ち塞がろうと君は仲間を見捨てない。

 それを言葉と態度で示し続けたからこそ君を疑う君の領民はいない。

 だからこそ君は強いのだろう。

 誰に恨まれようと、

 何千という人間に嫌われようと、

 君は君を信じる者達のためにその力を振るう。

 仲間と共に。

 それは何ものにも代え難い君の宝、君の財産。


 マイエンツ達をクレーム客に喩えるなんて最高じゃないか。

 確かにそうだ。

 責任のない(ハルト)に責任を取れと騒ぎ立て、法外な賠償金を吹っ掛ける。

 またなんとも的を得ているあたりが笑いを誘う。

 

 審問会場からは偲ぶような小さな笑い声も聞こえてきた。

 それがハルトの耳に届いているかどうかはわからない。

 だがまるでこれはハルトが主役の喜劇か、勧善懲悪活劇。

 民を虐げる悪逆非道な領主の悪事を暴き、痛快にやり込める。

 そんなの物語としては出来過ぎだ。

 面子を丸潰れにされたマイエンツは頭から湯気を噴き、理性を失っている。

 それこそハルトの思うツボだと思いもせずに。

 残念だったね、マイエンツ。

 ハルトと貴様では役者というものが違うのだよ。

 無駄な足掻きはやめて早々に降参すべきだと忠告するよ。

 単なる端役でしかない君が主人公(ハルト)に勝てるわけもないだろう?


 陛下。


 貴方が仰るように『人がたくさん集まれば、たくさんの問題が起きる』というのも真実なのでしょう。

 でも私にはそれらの事件やトラブルは、

 もしかしたら、

 ハルトの人生の物語を彩る1ページになりたくて、

 押し寄せているようにも思えるのです。


 ねえ、父上。

 貴方もそう、思われませんか?

 


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