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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第百十二話 美女とは創り上げるものでしょう?


 気球を前に、むくつけき筋肉男の閣下とその奥様、辺境伯のお相手は達はテスラとライオネル、ロイに任せて私はマルビスとイシュカ、ゲイルと共に迎賓館の二階にミレーヌ様とベガ様とその側仕えの女性をお連れした。

 薄化粧、出来ればスッピンでとベガ様にはお願いしておいたのだが、こちらの要望通りほぼスッピンに近い状態で、しかしながら鍔の広い帽子にベールを掛けていたが、その帽子も様々な商品を商業班の面々が各部屋に目一杯詰め込んでくれてある部屋の扉を開けると床に落とした。

 

 ウチのメインターゲットの客層は平民だ。

 だからといって貴族の方々がターゲットから外れるかといえばそうではない。彼等もまたウチの上客だ。

 とはいえ、あくまでもオマケ。

 新発売の品質の良い商品で数を絞って価格を吊り上げるボッタクリ営・・・ではなく、最新作を最高の品質で付加価値とプレミア感を演出し、それに見合った価格をお支払い頂いている。

 御本人達納得の価格ですから問題ありません。

 勿論、今現在流行っているふんわりとパニエやペチコートでボリュームを出し、ギャザーを寄せたフリルとレースいっぱいのティアードスカートデザインもウチが最初に売り出したものだ。

 もともとは平民向けの商品開発でひらめいたもので貴族のためのものではない。服を裁断する時にどうしても出てしまう布の細長い切れ端。この余り布をスカートの裾にギャザーを寄せたりしてレースの代わりに繋げて売り出した。短くなったスカートをどうしたものかと悩んでいたリメイク職人の女の子に提案してこうなったわけだが、よりデザイン的に高価なレースなどを使って何段にも重ねたのが今の貴族の御婦人の間での流行というわけだ。

 当然だが使うレースが多いほど、それが輸入品や手間の掛かるものであるほど値段は吊り上がる。だが見栄と流行の先取りを気にする大貴族の御婦人達には非常に高値で売れた。


 誠に良い商売である。

 追っても次の流行が出てくればすぐに廃れるものであるというのに女性のオシャレにかける情熱は本当に侮れない。何段にもレースやフリルを重ねれば当然だが重量も増す。普通の一枚布のドレスよりもかなり重いはずなのだが、それを笑顔で着こなす根性には恐れ入る。

 オシャレは我慢というが尊敬に値する。

 今の流行もそろそろ限界かなと思っているのでマルビス達商業班と次を仕掛けるつもりでいる。女性に可愛いからと何キロもあるドレスを着て引き摺らせるのも気の毒だし、可愛い系の女性だけが持て囃されるのはよろしくない。


 そこで目をつけたのがベガ様だ。

 予定より少し早くなってしまうが彼女にはその起爆剤になって頂きましょう。

 私個人的には背が高くて凛々しいグラマラススタイルの女性が様になってカッコイイのではないかと思うデザインなのだ。

 勿論、今流行に近いものも揃えてありますよ?

 広い部屋いっぱいに飾られたドレスの海にベガ様とミレーヌ様は目を見開く。

 輸入物の豪奢で精緻なレースや刺繍、ビーズをあしらった大人びた色合いのドレス。女性はそれらに引き寄せられる。

 可愛いピンクやブルーではどうしたって年若い幼さを残す容貌の方が似合う。

 同じ物、同じ色を着ていては勝負にならない。

 ならばどうすべきか?


「これらはハルト様の御意見、イメージ、感想をお伺いし、私達がベガ様にお似合いになるのではと考え、用意したもので御座います」

「どうぞ気に入ったものが御座いましたら袖を通してみて下さいませ」

 マルビスとゲイルが色褪せないようにと閉めていたカーテンを開けると大きな窓から眩しい太陽の光が差し込んで縫い付けられたビーズがキラキラと輝く。

 御婦人達の口からはウットリと感嘆の息が漏れた。

 帽子を外したのはこれらをベール越しでなく見るためだろう。

 やはり涼しげな目元の女性的な顔立ち。

 思った通りだ。


 ベガ様に着てもらいたい服は勿論ある。

 だが無理に勧めても反発を招く。まずは自分が着てみたいと思うものから。となれば今流行のデザインに近いものに目が行くのも当然で。

 ふらふらと引き寄せられるように近付いたのはそれらだ。

 全てパステルカラーとは違う落ち着いた色。肩から腰にかけてはシンプルなデザイン。しかしながら脇にはワイヤーが入っていて、ハミ肉を許さず、豊かな胸を盛り上げるための仕掛けがされる。代わりにスカート部分にはビーズを多くあしらっているのでそれなりに華やかだが装い方を間違えれば地味にもなりかねないものだ。

 ベガ様がどうしてもこのデザインが良いというなら似合うのはこれらの色。

 好きなものが必ずしも似合うとは限らない。

 派手目の色の宝石を多くあしらったゴージャスな首飾りをすれば服に映えるはず。一応コーディネートしてあるがかなりの値が張るシロモノ。多額の罰金が課された辺境伯の現在の財政状況からすれば厳しいと思うのだ。

 それに気が付いたのかベガ様は伸ばしかけた手を一瞬、止めた。

 

 成程、やはり聡明で物の価値と値段をよく御存知のようだ。

 お金持ちの貴族、特に上位の御婦人や令嬢の中にはドレスの値段を一切見ないで買う人もいる。それで財政が逼迫しないのなら一向に構わないが、大抵貴族の資金繰りが厳しくなるのはそういった妻や娘の散財だ。結果、借金で首が回らなくなったり、領民に重税を課したりとなるわけだが。

 普段ならば困らない状況でも何か事があればそれまであったゆとりがなくなり、ドレス一着も買えなくなる。

 その時に我慢できるか否か。

 ステラート領の財政はかなり豊かな方だ。

 但し、数カ月前の処罰の罰則金の支払いさえなかったなら。

 日々の暮らしが変わるほどではない。

 こちらからの取引で前倒しで資金調達の工面に協力もしている。数年もすれば経営状態も元に戻るだろう。

 でもそれは度を超えた贅沢をしなければの話。

 無理をして借金を作れば取り返しがつかなくなる。私の母様達も七年前はグラスフィートの経済状況を考えて古いドレスを工夫して着回していた。

 ミレーヌ様をチラリと見て、ベガ様はその複雑な微笑に伸ばした手を下ろす。そして少し前に流行った、今は値段も落ちた古いデザインのドレスに目を向け、輝いていた目が曇った。

 

 この人はやはり経営と自領の財政状況というものを知っている。

 欲しいと強請れば買ってもらえるかもしれない。でもそれが自分の領地にどのような影響をもたらすのか、多分知っているのだ。だから値の張る流行のものではなく、用意されたものから比較的安いと思われる物をその視線が探していたが、気に入ったらしい物を見つけて、それが高価と思われる材料が使われていると諦めたように他を探す。

 これならば、ウチの誰かに嫁に来てもらっても大丈夫だろう。

 嫁に貰ったは良いが身の丈に合わない金食い虫では困る。

 私はその様子に安心して声を掛ける。

「ベガ様、迷っておられるようですので、よろしければまずは私のオススメを着てみては頂けませんか?」

 そう声を掛けると迷ったように視線を彷徨わせる。

 高いものを売りつけられたらどうしようって思ってるのかな?

 流行の最先端であれば、そうでないドレスの倍の値段どころか十倍以上するものだってある。それを心配しているのかもしれない。

 だがそれをストレートに口にしては失礼だろう。

「着てみなければ本当に似合うかどうかもわかりませんし、様々な理由で購入を迷うのであれば買うのを止めれば良いだけのことです。

 大丈夫ですよ?

 私共はデザインやサイズ、色、価格、その他諸々の条件。御納得頂けないものまで売りつけるような商売はしておりません」

 私が笑顔でそう伝えると遠慮がちに尋ねてくる。

「着てみるだけになってしまってもよろしいの?」

 しかも慎み深くて遠慮というものを御存知だ。

 私の母様と姉様なんて一つだけと念押ししても泣き落として、甘い声で強請り、私からいつも二つも新作をもぎ取って行くんだよ?

 まあ身内の甘えもあるのだろうけど、それに比べれば雲泥の差だ。


「勿論です。私はベガ様に似合うドレスを選んで差し上げると御約束しました。でもそれは私の好みを押し付けるという意味ではありません。選ぶ権利はベガ様に御座います。

 どうぞ存分に時間の許す限り、御試着なさって頂いて構いませんよ? 

 お気に召さないものを買えなどとそんな無粋なことは誓って申しません。

 安心して好きなだけ試着してみて頂いて結構です。

 今日これらの部屋にあるのは私達がベガ様に袖を通して頂きたくて選んだもの。遠慮なさる必要は全く御座いません」

 大きく頷いて私がそう伝えるとベガ様の顔が喜色に満ちる。

「ですが、もしよろしければ、まずは私が『これだっ』と選んだものを着て見せて頂けると嬉しいですね。綺麗に着飾ったベガ様をお初目に見せて頂ける栄誉を与えて下さればそれだけで充分で御座います」

 そう言い置いたところでマルビス達を振り返る。

「マルビス、ゲイル、アレ(・・)アレ(・・)を持ってきて?」

「畏まりました」

 二人は私の言葉に部屋の奥、窓際の方に向かう。

 ベガ様は年齢だけでなく落ち着いた雰囲気が大人びてより年上に見える。

 少女に似合う色、似たデザインの服を着て勝負しては駄目だ。

 まずは色。

 淡いパステルカラー、華やかなピンクやブルー系ではアウト。

 選ぶなら同じ鮮やかでも濃いめの色合いで、年上の女性の色気で勝負っ!

 トルソーごと抱えて先に戻ってきたのはゲイル。

 今回はワインレッドでは渋すぎるかなとも思ったのでグラデーションのかかった濃いサファイアブルーで用意した。大きく開いた背中はそのままでは十代の女性では肌を見せ過ぎて問題視されかねない。その反感を抑えるために大ぶりのドレスと同色のワイヤーの入ったリボンで形を整えて背中を隠す。垂れたリボンの先はヒラヒラと動きを作り視線を誘導する。

 見えそうで見えない。

 これが男の妄想を掻き立て、目を釘付けにするのではないかと思うのだ。

 そしてスカートは全体的にふんわりさせるのではなく、まずは腰を限界まで絞ってそのスタイルの良さを際立たせ、ボリュームを持たせるのは後ろ、お尻のラインだ。丸みを帯びた女性らしいヒップラインを連想させ、強調するようなデザイン。全体的にS字を描くような流線型になっている。

 ティアードスカートに似ているがその控えめにひだを寄せたフリルのラインは並行ではなく斜め。後ろから見るとティアドロップ型にも見えるのだ。流行を取り入れつつ路線を少しだけ変えたものだ。

 女性陣から歓喜の声が漏れる。

 

「素敵ね。そう思わない? ベガ」

「これは新作のデザインなのですか?」

 ミレーヌ様とベガ様の目がキラキラと輝き、ゲイルの持ってきたドレスに釘付けだ。それにゲイルが小さく首を横に振る。

「新作では御座いますが、全く新しいというものではありません。

 ハルト様の御提案で流行りのデザインに少しアレンジを加えたもの。可愛らしい御方ではなく、ベガ様のような大人びたお綺麗な女性に着て頂けるようにと考えられたものです」

 色気のない私が憧れるのは艶めいたため息さえ甘く香るような大人の女性。それも芯の強さや聡明さを伺わせる凛とした瞳が煌めいていれば最高だ。

 だが折角の綺麗な顔立ちも俯いていては台無し。

 ベガ様には是非自信を持ってシャンと前を向いて欲しい。

 オシャレが嫌いな女性は滅多にいない。

 目の前に素敵なドレスを差し出せば手に取ってみたくなるのも当然だ。

 私はゲイルにベガ様の真ん前にそのトルソーを置いてもらうと少し前に歩み出てそのドレスの袖を持ち上げ、彼女の前に差し出した。

「よろしければまずはこちらを試着してみて下さいませ。私の見立てが正しいかどうか確認させて頂ければと」

 新作と聞けば相場は高いものと決まっている。

 それでもそれが流行の最先端となれば着てみたいと思うのが女心。

 こちらを伺い見るような彼女の視線が向けられる。 

「本当に着てみるだけでもよろしいの?」

「はい。勿論。御約束します。

 強引に売りつけるような野蛮な真似は致しません。

 ライラ、リリー、お着替えを手伝って差し上げて?」

 控えていたメイドの二人がトルソーからドレスを外し、『こちらへどうぞ』とこの客室の寝室の方へ誘導する。そうしてパタンと扉が閉まってところで振り返るとミレーヌ様の何か言いたげな瞳とかち合った。


「ハルスウェルト様。

 貴方、やはりなかなかの曲者ね?」

 

 曲者とは?

 至極単純、お手軽な性格のつもりですが?

「何のことでしょう?」

 トボケた調子でそう返すとミレーヌ様はベガ様の消えた扉の向こうに視線を向ける。

「確かにあれならばこの間のドレスよりずっとベガに似合うと思うわ」

「そうですね。お似合いになると思います」

 申し訳ないけどアレは酷いと思った。

 後で聞いた話によれば、やはりあれはベガ様の意思であのドレスと髪型を選んだそうだ。十五歳未満の女の子が殆どの中で、十七という年齢で相手が見つからないというコンプレックスから今時の流行りのパステルカラーでふわりとウェーブをかけた髪で少しでも若く見せようとした結果らしく、似合わないと忠告しても聞かなかったそうだ。年上である自分を更に上に見せるような格好で、余計に男性に敬遠されたらどうするのかと譲ろうとしなかったらしい。


 全く。

 これも年上の女性の良さを理解しない男が多い弊害だろう。

 瑞々しい花の蕾のような女の子にも魅力があるように、ミレーヌ様のような咲き誇る大輪の薔薇にも似た馨しい色気を持った美しさだってあるだろう。

 余程の美姫でもない限り、この世界の男に女性は選ばれる側だ。だからこそ貴族の女性は男達の目に留まろうと必死。自分より年下の女の子ばかりの中に入ればどうしたってベガ様は目立つ。十五で子供を産む女の子がいることを思えば大人びているベガ様は実際の年より歳上に見えるとなれば既婚者にもみられかねない。

 要するに独身男性に見初めてもらおうとした結果がアレ(・・)だったわけだ。

 気持ちは痛いほど解るよ?

 私も前世ではベガ様の倍の歳以上独身だったから。

 女性らしいという言葉には縁遠く、結婚は諦めていましたけれどもね。

 でも無理に若作りしたところで似合ってなければイタイ奴と思われるだけ、今度は憐れみの目を向けられた。『自分の歳を考えろ』と。

 もっとも図太い私はそれも知ったことではないと笑ってましたがね。


 どうせ笑われるなら好きな服を着た方がいい。

 自分で自分に似合うと思う服を。

 流行を追えるほど生活にゆとりはなかったが、ならば長く着られるお気に入りの服を。絶世の美女などではないのだ、何を言われたところで余程おかしな格好をしていない限りは人の記憶になど残らない。

 だから無理して流行を追う必要などないのだと。

 ベガ様が好きでしている格好であるならあれでもいい。

 だが、無理した結果がアレでは報われない。

「流行りを踏襲するのではなく、流行りを取り入れつつアレンジする。あのドレスはその類いのものです。ベガ様のような御方にはお似合いになると思います」

 背が高いということはあのようにスカートの部分を膨らませては使われている布地の分だけ大きく見える。そこに比較対象の御令嬢でも並べば尚更大きく見えるだろう。小さく見せたくて背を丸めているのに逆効果だ。

 あのドレスなら流行をそこまで外していないし、背が高く、腰の位置も高いベガ様ならカッコよく着こなせるだろう。

「そうね。確かにそうでしょうね。

 でも貴方はアレ(・・)アレ(・・)と仰った。つまり貴方がベガのために選んだドレスは二着あるということでしょう? 

 それに貴方は無難に、ではなく、ベガの魅力を引き出す服、靴、小物、化粧、髪型、他、全て揃えてみせると仰ったわ。貴方の言葉からするとベガに一番似合うのはあのドレスではないとお考えだということでしょう?」

 なるほど。

 それでミレーヌ様はあのドレスは『違う』と思ったのか。

 半分正解で、それは半分間違っている。

 確かに私一番のオススメは当然アレ(・・)ではない。

 もう一着の方なのだが、まずは次点、流行りのものでお似合いだと思うデザインを勧めただけ。


「やはりミレーヌ様は聡明でいらっしゃいますね。私の浅はかな思惑など見通していらっしゃる。

 仰る通りです。

 ですが、あのドレスも間違いなく似合うと思いますよ?

 髪型と化粧次第ですけど」

 

 女性は化粧で化ける。

 化粧を落とせば別人級なんて人も前世でいましたよ?

 言えませんけど。

 メイク技術が遥かに進んでいる異世界の記憶が私にはあるのですよ。男顔で女装だと言われていた私が苦労して身につけた技術です。すごく上手いというほどではなかったですけど、それでも男顔を如何に女らしく見せるか頑張っていたんです。宴会芸の男装はウケても取引先を回るのにイケメン顔では問題があると思っていましたから。

 必要以上に無理して女らしくはしませんでしたけど、顔を覚えてもらうのに男性アイドル顔を活かしつつ、それでも男でないと否定する程度に女らしく見えるように苦労してたんです。高価な化粧品になんて手が出せなかったからチープな百均化粧品も利用してたんで、肌荒れにも悩まされてましたけどね。

 しかしながら男の私から飛び出した、そんな台詞にミレーヌ様は目を丸くする。

「それはもっともなのだけれど、男性の貴方がそれを仰るとは思わなかったわ」

 まあそうでしょうね。

 前世の男顔だった私に比べればベガ様は恵まれていると思いますよ?

「私はミレーヌ様を信頼しています。ここだけの秘密、と御約束して頂けるなら後でその理由をお見せしても構いませんが」

 ベガ様をとっておきの美女に変身させてみせましょう。

「私のプライドに誓って黙秘を約束するわ」

 真剣な表情で約束して下さるミレーヌ様に頷く。

 まあバレてもたかがしれてるけど。

 ただ噂が広まるのはあまりよろしくない。私の噂は兎角おかしな方向に大きくなりがちだ。それは極力御遠慮願いたい。『かもしれない』程度の噂なら山程蔓延っている私ですから今更一つ、二つ増えたところで大差ない。

 約束していただけるならば、この腕、御披露致しましょう。


「ここに住まう者でも限られた者しか知らない、私の少ない特技の一つです。

 ですが、先程ミレーヌ様の仰る通り、私はあのドレスが一番ベガ様に似合うとは思っておりません。

 マルビス、もう一着の方を」


 重なるドレスの影にやや隠れた位置に待機していたマルビスを呼ぶと、ソレ(・・)を抱えてマルビスが現れて、ミレーヌ様の前に置く。

「これが私の一番のオススメです。

 最新作なのですが少々斬新なデザインでして。ミレーヌ様の意見も是非お伺いしたいと思いまして」

 それは私の趣味全開のデザインだ。

 胸元から腰の辺りまで革紐で編み上げたタイトなデザインにブラウンの豪奢な刺繍を施したベスト、ウエストは皮のベルトで締め上げて強調、そのバックルは精緻な細工が施され、その下のスカートはアシンメトリーにウェストから裾まで白のスカートにブラウンのスカートを重ねて大きなフリルで斜めに揺れてひらめく。

 前世でいうところの西部劇などでセクシー系美女が太腿に拳銃かナイフを隠して着ているような、ややロリータ気味のスチームパンク風と言ったところか。

 大股で歩けば右足が太腿の辺りまで見えそうだ。

 勿論、膝の辺りまでは見えないように裏から縫いつけてはあるのだけれど。

 ファニー系が流行りの今ならば、このドレスを着て歩けば相当に目立つだろう。

 

「率直に言うなら私は嫌いではないわ。男性に、というより女性ウケしそうな感じね。今流行りの可愛いとは真逆のカッコイイ女をイメージしているのかしら。

 でもこのデザインだと脹脛がドレスの裾から見えてしまうわね」

 そう、問題はそこなのだ。

「はい。その通りです。未婚の貴族の女性が膝下半分以上の素足を見せるのは『はしたない』とされる風潮があるのは私も存じ上げています」

 平民の女の子はミニスカートといかないまでも膝小僧が見えるようなスカートを普通に穿いている。なのに何故貴族の女性がそういうものを穿くと下品呼ばわりされるのか。そのあたりが納得できないところではあるけれど、まあ常識などというものは日々少しずつうつろいゆくものだ。

 少しずつオシャレの常識を変えていき、やがてはミニスカートも流行らせたい。

 だがいきなり素足を太腿までというのは些かブッ飛びすぎだろう。

 なので私は戸口脇に並んでいた靴の中から一足を選んでミレーヌ様の前に出す。

「このドレスはこのような靴とセットでお召しになって頂くものなのです」

「膝丈のブーツ・・・」

 そう、レースアップの脇にビーズをふんだんに散りばめた刺繍の施されたそれ。

 個人的な趣味に走った一品だが、これは綺麗でカッコイイ女性が身に纏ってこそ絵になると思うのだ。 


「これは美しい曲線美を自慢するが如く見せつけて歩き、周囲の視線を釘付けにする。そういった類の、ベガ様やミレーヌ様のようなスタイルの良い方でなければ様にならないドレス。

 現在の社交界の常識ではかなり目立つものと思われます」

 周囲の人並みに埋もれてしまっては声が掛からない。

 だからこそ美しく着飾って目立とうとする。

 それを考えるならこのドレスはこれはこれで『有り』だと思うのだ。

 難しい顔でジッとミレーヌ様がドレスを見る。

「素足を見せるのはマナー違反。でも確かにこれならばそれに引っ掛からないわ」

「このデザインは受け入れられると思われますか?」

 私の問い掛けミレーヌ様は少し考えてから口を開く。 

「そうね。難しいところだわ。

 この布が重なる部分が歩けば開き、少し裾を持ち上げれば素足が見えてしまうかもしれない」

「それは私も考えました。そこでこういった女性の乗馬用のズボンのようにピッタリとしたものを下に履いてもよろしいかと。そうすれば素足が見えることは御座いません」

 それは前世でいうところのスパッツみたいなものだ。

 これを穿いた上でブーツを編み上げればスカートが少々捲れ上がったところで素足は見えない。

「考えたわね。確かに女性でも乗馬を嗜むような活動的な方はガーデンパーティなどの御茶会、特に女性ばかりの集まりではズボンを履かれる方もお見えになる。貴方達がスカートにも見えるズボン、フレアパンツを流行らせてからは特に多くなったわ」

 成程。そういうところに出席する機会はないけれど、少しずつ常識的なものが変わってきているということか。

「とりあえず着せてみないことには服を見ただけでは何とも言えないわ」

 似合うかなと思って選んでも、実際に袖を通したらイメージが違ったというのはよくある話。

 それももっともだ。

「ではベガ様に試着して頂けるよう勧めて頂けますか?」

「いいわ。舞踏会はともかく、御茶会などであれば問題にならないと思うもの」

 

 ミレーヌ様の承諾と協力を得たところでドレスに着替えたベガ様が現れた。ドレスのサイズは合っていたようだがほぼスッピンの顔立ちが浮いている。 

 では、ここからが私の腕の見せどころ。

 

 ベガ様の騎士(ナイト)にも王子にも私はなれない。

 私がなるのはシンデレラの物語でいうところの魔法使い。


 胸を張って前を向いて歩くことが出来る、

 とびっきりの美女に仕上げて魅せようじゃないの。

 ウチの男どもがこぞって押し寄せて、

 口説き倒したくなるほどの美女に。


 そして是非とも誰かの嫁に来て欲しい。

 少々年は上だがミゲルなんてどうだろう?

 子供が産まれたなら後継者候補として教育して。


 取らぬ狸の皮算用。


 そんな私の企みは、見事に海の藻屑と消えることを、

 この時の私はまだ知らなかった。



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