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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第三章

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第百十一話 強欲なのはいけないことですか?


 シルヴィスティアをみんなで満喫した翌日。

 私達は商会の船に乗って帰った。

 明後日には閣下達がやって来る。

 お出迎えの準備はロイ達に任せて私は執務室の椅子に座る。


 マルビスやゲイル達にはベガ様の改造計画に必要なものを相談だ。

「どのような御方なのですか?」

 ゲイルに尋ねられて記憶を思い起こす。

 全然似合っていないドレスに髪型、化粧。今時のふわりとした丸みを帯びたドレスでもハッキリわかるミツバチのようなグラマラススタイル。だからこそあの綺麗な身体の線を隠すようなデザインでは台無しだった。スレンダーな胸を盛るためのレースやフリルを豪華にあしらったドレスではベガ様の大多数の男が好きな豊かな胸を強調するどころかふくよかに見せてしまうだろう。折角の括れた腰よりも盛り上がったフリルが目に付いて魅力も半減だ。更にはボリュームのあるスカート部分が背が高いために大きく広がって殊更ベガ様の身長を際立たせていた。

 そのせいで背中を丸めて猫背になって、姿勢が悪くなっていて。

 気持ち的にはわからなくもない。

 自信がなければ俯いて、顔を上げて前を向けない。

 だから余計に表情も暗く、陰鬱として見える。

 それは前世の十代の頃の私を見ているようだった。


「背が高くてね、ミレーヌ様に似て脚が長くてすごくスタイルがいいんだよ。多分ヒールを履くとサキアス叔父さんくらいあるかなあ。今流行りの可愛いタイプとは真逆の綺麗系かな」

 男の人より高い身長は嫌厭される場合もあるけれど、それでも、ベガ様より身長がある人はいくらでもいる。サキアス叔父さんはウチではどちらかといえば身長は低い方だ。ただ、あの妙な存在感のせいで実際よりも大きくは見えているけれど。

 私の説明では漠然としかイメージ出来なかったらしいマルビスがイシュカ達の方を向く。

「イシュカとシュゼットもお会いしているのですよね?」

「はい。歳は十七とお聞きしています。どちらかといえば御父上似、ですか。ただ辺境伯のような精悍な顔立ちというわけではなく、あくまでもパーツが、ですが」

 確かに。辺境伯に似た切長で少し吊り上がった切り込んだような綺麗な二重だった。顔の輪郭自体はミレーヌ様寄りのような気がするけど、それとも女性だからこその線の細さか?

 シュゼットの返答にイシュカが付け加える。

「内弁慶だというお話で、御屋敷では聡明で気の強い御方だと辺境伯は仰っていましたが」

 うんうん、そんな話だった。

 ならば自信が持てれば俯いている顔も上げて前を向けるんじゃないかなって思ったんだもの。

「・・・それはまた、ハルト様が好きそうなタイプですね」

 ポツリと呟いたゲイルの言葉を私は否定しなかった。

 スタイルが良くて聡明な女性、そして勝ち気。

 正しく私の憧れる女性のタイプである。

 だからこそ俯いていたことだけが残念で。

「顔立ち的にはウチに似たタイプがいますか?」

 ゲイルも問いにシュゼットが少し考えて口を開く。

「そうですね。あえて言うならセリアが近いのではないかと」

「ああ、あのタイプですか」

 セリアって、あの商業棟にいる古代文字オタクか。

 他の知識はからっきしなのにも関わらず、考古学でも古代魔法でもなく、古代文字限定の才女(?)だ。それに限っていえば叔父さんよりも詳しいくらいだ。

 放っておけば一日中でも『美しい』と呟いて古代文字のレリーフなどをうっとりと眺めているところとかは石オタクのジェットと似たところはあるけれど、セリアの方がジェットと違ってちゃんと先まで考えて動く点だ。危険な場所であれば許可を取って、許可が降りなければ休暇を申請、実費で護衛を雇ってまで出掛けていく。本人曰く、『死んでしまったら二度とこの美しい文字を眺めることが出来なくなるでしょう?』だ、そうだ。

 サキアス叔父さん達を恐れない珍しい女性だが、生憎生活能力は叔父さんと等しく皆無に近く、寮の自室にはその関係の書物で足の踏み場もないらしい。

 その彼女もハンサム系の美人なのだが、何せドレスや化粧にまるで興味がなく、格好も着てればいい的なヨレた服を来ている。そんなものにかける金があれば古文書を手に入れると豪語する徹底ぶり。だが魔道具研究開発に於いて重要な位置にいる人物であることには間違いないのだが、その残念過ぎる行動と姿にオシャレすれば美人と判っていてもウチの男どもは近づこうとしない、『残念美人』と影で呼ばれている。

 辺境伯の面影があることからシュゼットは多分彼女の名前を上げたのだろう。

 だが、彼女よりももっと女性寄りだと私は思うのだ。

 それを考えるなら、

「違うよ、シュゼット。そう見えるのは辺境伯に似たあの目もとと似合ってないあの化粧のせいだ。

 多分、だけど、私は商業棟にいる司書のレーリアが近いと思う」

 本のムシで活字中毒の彼女。

 このアレキサンドリア領初の図書館の司書。

 仕事も休日も関係なく、いつも図書館にいる。残業するほど仕事があるわけではないのにも関わらず。仕事が無いのに残業代は出せないと忠告すると基本給だけで構わないので好きな時に図書館に出入りできる権利が欲しいと言った彼女だ。

 本から得られる雑学知識であるなら彼女が一番。

 レーリアという女性はここには覚えがある限る三人いる。ウェルトランドのクレープ屋の看板娘と一昨年まで屋敷のメイドをしていたけれど警備のナバルと結婚して退職、今や一児の母だ。

 司書のレーリアはハンサム系というより中性的な感じ。

 服と化粧でかなり変わるタイプだ。

 装い次第で凛々しくも女らしくもなる。

「成程。承知しました。ではその辺りを考慮して取り揃えておきます」

 ゲイルが力強く頷いて引き受けてくれる。

「化粧品とか小物も一通り揃えて置いてね」

「お任せください」

 そう言ってくるりとゲイルが背を向け、部屋を出ていく。

 メイクに関しては六年前の女装以降、私の腕に信頼を置かれているのがなんとも言えない。そりゃあ男性アイドル顔を如何に男っぽく見せるかとか、逆に男が女装しているように見えないように創意工夫をしていた前世の技術(?)がまさかこんなところで役に立つとは思わなかったのだが、以降、マルビスに女性向けのそういった商品の開発に協力させられていた。

 但し、私の名前を一切表に出さない条件で。

 もっとも商業棟にいる女性の間では周知の事実だが、自分の趣味や実益に関係ないものは話題にも出さない彼女達に口留めの必要もないのだ。実際、彼女達に私が化粧を施すのはそういう(・・・・)場に出る時のみ。殆どスッピンで歩いている人が多いので、ウチの男どものウケはあまりよろしくない。

 たとえ美人でも自分そっちのけで趣味や仕事に没頭されるのは御免被るのだそうだ。 

 趣味と仕事が一致しているのがここの商業棟。

 故に独身主義に近い彼等彼女達は恋愛に興味がない。

 それはすっかり『構ってちゃん』となった私も御遠慮願いたい人種なわけだが、構ってちゃんな上に私は手が掛かるので、ある意味商業棟に住まう変人達よりタチが悪いということは自分でもよく知っている。

 つくづくロイ達が世話焼きの物好きで良かったと思うのだ。

 絶対私だったら私みたいなのは御遠慮したい。

 なんにせよ商業棟は大なり小なりの生活能力の欠けた人達の集まる『隔離病棟』であることは間違いない。

 

「で、何か他にもあるんですよね?」

 ゲイルと一緒に仕事に出ていくと思ったマルビスがゲイルを見送ったところで私を振り返り、そう宣った。

 そのランランと輝く異様な迫力のある目、ちょっと怖いのだけれど。

 何故断定?

 マルビスに私は何か話したっけ?

 全然覚えがないのだけれど。

「なんでそう思うの?」

「波と風の音で上手く聞き取れませんでしたが、何やら『ウチの騎士達にも嫁を』とブツブツと、ミゲル様にも相談しなきゃと言っていましたので」

 つまり私はまたやらかしたと?

 いやまあバレても困るものではないのだけれど。

 マルビス達にはむしろ協力してもらえるところは協力願いたい。

 しかしながら、どうしてウチの側近、大幹部達は私の大したこともない妄想の独り言にこうも耳を傾けるのか甚だ疑問だ。

 ただでさえ忙しい商業班の面々は、ろくに休みも取らずに嬉々として働く仕事中毒が多いのだ。考えてみれば商業班が仕事をしているところは『隔離病棟』一階、つまり趣味イコール仕事という人種なわけか。

 どうしてウチはこうも病気(・・)の人間が多いのか。

 それはお前もだろうと言われそうだけど、私は全然違いますからね?

 できることなら、のんびり、のほほんとしていたい。

 ただ性分的にやらなきゃいけないことを先延ばしにしたくないというだけで、仕事が私目掛けて押し寄せて来るのがいけないのですよ。

 とりあえず、目下の目標は領地内に子供を増やすこと。

 このままでは高齢化社会まっしぐらなのですよ。

 私としては三十代はまだ若いと思っているが、この国の平均結婚年齢は二十歳以下。平均寿命が五十前後と短いせいもあるのではないかと考えているけれど、それらを考慮するならウチの、特に出会いの少ない騎士団員達は既に二十歳越えが多い、所謂『貰い遅れ』だ。早めになんとかせねば益々嫁の貰い損ねが増えそうなので早めに対処したいところだが。 

「それにさっきエルドにミゲル様の手が空いていたら呼んで欲しいと頼んでましたよね?」

 相変わらずマルビスは耳聡い。

 隠す必要性も感じないので正直にペロリと白状する。

「ちょっとウチの男連中の婚姻率を上げたいなあと思って。

 ウチの騎士団って独身率高いじゃない? 女の子の絶対数少ないからどうしてもあぶれる男が出てきちゃうし。だからイベント企画してみようかなって思ってさ。

 お祭り騒ぎ的な企画ならミゲルが適任でしょ」

 だから呼んだわけだけど。

 いるかなあ。

 結構フットワークが軽いから何かあればすぐ現場に行っちゃうし。

 エルドが言うには出掛ける予定は聞いてないって話だけど。

 あそこの部署の部屋はそれでなくてもほぼ空だ。

 でも今控えている一番間近のイベントは新しくアトラクション入りする気球の御披露目。おそらく敷地内か近場にはいるはずだけど。

 忙しいなら後でもいいか。夕食の時間なら会えるはず。

 そう思って先に他の仕事をと腰を上げとうとしたところで扉がノックされた。


「ハルト。呼んだか?」

 ノックとほぼ同時に入ってくるならあんまりノックする意味がないような気もするけど、まあいいや。呼んだのは間違いない。それに深刻そうな話の時はちゃんと許可を得てから入る。空気を読んだ結果だろう。

 私は頷いてソファを勧めると、執務机から離れてミゲルの腰掛けた前に座る。

「うん、呼んだけど、仕事は大丈夫だった?」

「ああ。今は資材搬入のチェックをしてるところだ」

 捲り上げた袖から覗く、ガッチリとした筋肉。身長はフィアの方が若干高いけど、肩幅は間違いなくミゲルの方が広い。多分、フィアと同じ年頃になればミゲルの方が背が高くなるんじゃないかなあ。

「忙しそうだね」

 このミゲルも今や仕事中毒の一人だ。

 大変なことも多いと思うけど、でもいつも楽しそうに仕事をしている。

 ミゲルはマルビスが入れてくれたお茶を飲みながら答える。

「そうでもないぞ? ウチのヤツらも設営するのにも大分慣れてきてるからな。前よりも早くなった」

「早くなったからって安全確認は怠らないでよ?」

 そういう時が一番危ない。

「当然だ。前に一度組んだのが崩れて以来、気をつけてるよ。客入り前だったからまだ良かったが、三日かけて組んだのを片付けて一からやり直し、完徹二日で間に合わせてから懲りてるよ。全員あれ以降、より慎重になったことや怪我人が出なかったことを思えば良い教訓だったかもな」

 そういえば一年前の収穫祭の時に夜中に大きな音がして慌ててその方向に駆けつけたら舞台が風で煽られて崩れたんだっけ。あの時は商業班と職人達も手伝いに駆り出されて大変だった。既に告知されているイベントで、既に前売りもソールドアウト、状況的に延期も中止も厳しかった。頑張れるだけ頑張って、駄目なら返金処理してお詫びするしかないかとは思ってたけどギリギリ間に合ったのだ。

 お客様に被害が出なくて本当に良かったけど。

 じゃなかったら笑い話では済まない。

 あれが戒めとなっているなら高い授業料を払ったと思えば確かにかえって良かったかも。慣れて気が緩んだところでお客様に被害ではシャレにならない。

 ウンウンと頷いているとミゲルが空になったカップを置いて私を見る。

「それで、ハルト。何か用があるから呼んだんじゃないのか?

 近況報告が聞きたかったというわけじゃないんだろう?」

 そうだった、話がつい脱線してしまった。

 これも私の悪い癖だ。

 というわけで、話をもとに戻す。


「勿論。ミゲル達企画部にお願いがあってね。

 女の子向けのイベント考えてもらおうと思って」

 表向きはあくまでも女の子限定。

 だが、実際には別の目的があるわけで。

「どんなのだ?」

「ウチの騎士団の男どもに彼女を作る計画。要はお見合いだよ」

 問われて私はそう簡潔に答えた。

 ミゲルは目を細めてジッと私を見る。

「お見合い? 既に案はあるのか?」

 案ってほどではないけれど、一応考えてみた。

 あんまり凝すぎてもこういうのは良くないと思うのだ。

 要は話すキッカケ、お互いを知るためのプロセスってヤツだ。

 外でナンパでは身元が不明確で女の子に声を掛けてもウチの騎士団員の迫力の御面相では逃げられる可能性がある。だからこそウチで企画して身元を保証した上で女の子にも恋人探しをしてもらおうと思うのだ。

 こういうのは焦っても、というかもしれないが、ある程度は焦る必要もあるのではないか思うのだ。良いものから売れていくのは商品だけの話ではないと思うのだ。

 残り物には福があるというのは稀だ。

 私はその『福』を引き当てまくったけど、ロイ達にハズレくじを引かされたと思われないように頑張らねばとは思っているけど。


「まあね。今すぐにってわけじゃないけど、なるべく早めに。

 冬に湖でスケートリンクが開放されるじゃない? だからさ、それを使って期間限定で女の子を呼び込んでもらおうかなって」

 そのついでにスケート人口増やすのも狙おうかと。

「どうやって?」

「ウチの騎士団の独身男達にスケートを滑れるようにさせてさ。

 『当日限定、アレキサンドリア騎士団員(独身)が貴方の騎士(ナイト)にっ!』的な煽り文句で出会いの場を設けるんだよ。他にもお化け屋敷とかでペアを組ませてとかでも面白いと思うけど、他にいいあればそれでもいいよ?」

 手取り足取りスケートが滑れるように教えますというのを口実に手を繋いで急接近とか、暗がりに怯える女の子を守ってエスコートとか、いいところを見せてカッコつけさせてあげようってわけだ。

 そうして女の子にトキメいて頂きましょうという企画だ。

 その計画の妄想を熱く語るとミゲルが目を輝かせて身を乗り出してきた。

「面白そうだな、それ」

 ワクワク顔のミゲルに『どうだっ』とばかりに胸を張る。

「でしょ? 恋人募集中の女の子限定ってことで。

 送り迎え用の馬車も出してさ。

 絶対女の子を不快にしないように配慮して? 

 好みじゃない女の子が当たったからって粗雑に扱ったら次回から参加権ナシとかペナルティ作ってさ。じゃないと女の子の評判落としたら次に参加してくれなくなるかもしれないじゃない? そしたら彼女作る機会を失くして嘆く男が気の毒でしょ」

 恋人が欲しいと思っているのは男だけじゃないはずだ。

 出会いに恵まれない女性もきっといる。騎士(ナイト)に守ってもらうなんてシチュエーション、女の子も憧れるんじゃないかと思うのだ。だって守ってくれるのは本物の騎士。お姫様気分を味わえる、そんな機会は滅多にないと思ってくれる女の子は居るんじゃないかなって。イベント企画なら気軽に参加してもらえるかなと。

 ミゲルと二人、盛り上がりつつもいろんな案を出し合う。


「わかった。仲間と他にも何かいい案がないか考えてみる。別に騎士団員に限らなくてもいいんだよな?」

「勿論だよ。商業班や職人棟にも独身男多いしね。

 女の子の意見もちゃんと聞いてよ?」

 商業班なら『貴方の御予算に合わせてハルウェルト商会(独身)商人が貴方に似合う服を提案します』とか、職人なら簡単な『工房手作り体験』なんてのもありだろう。季節ごとのイベントじゃなくてもこれなら空いた期間とかにもイベントが打てる。

 ミゲルが走り書きをした紙の束を抱えて立ち上がる。


「わかってるって。ハルウェルト商会は『人を楽しませて稼がせて頂くのが仕事』だろ?」


 そうそう、よくわかっていらっしゃることで。

 もうここに来て二年だもんね。

 その前からも色々手伝ってくれてたし。

 楽しそうな顔で足早に出ていくミゲルを私は手を振って見送った。



「・・・成程、そういうことですか」

 ミゲルが勢いよく扉をバタンッと閉めて出ていった方向を見てマルビスがポツリと呟く。

 ええ、そういうことなんです。

「と、いうことはベガ様の改造計画の裏にも何かありそうですね?」

 いや、まあその・・・

 チラリと視線を流されて私は口篭る。

 正直に言った方がいいのかなあ。

 ないこともないですよ?

 でも、それはできればってことで、あくまでもベガ様の希望優先。さりげなく逸らした私の視線をマルビスが追ってくる。

「別に、特に深い意味は・・・」

「ありますよね? 私に誤魔化しが効くとお思いで?」

 ハイ、ソウデスネ。

 誤魔化せるわけ、ないですよね?

「一応、辺境伯の許可は取ったんだけど・・・」

 そう前置きをして、私はフィアの誕生日会での辺境伯達との会話をかいつまんで説明した。ベガ様が十七歳でまだ婚約者が決まっていないこと、辺境伯の部下達にも嫁入りを遠慮されたこと、ベガ様が望めば平民の男でも嫁入りしても大丈夫だと言われたこと、頭が良くて経営や経理も任せられそうなこと。だから改造計画実行して、とびきりの美人に仕立て上げ、ウチの商業班のメンバーに口説かせ、嫁入りしてもらっていずれはウチの商業班初の女性幹部候補にと企んだこと。

 あくまでも希望。

 全ては飛ぶ鳥の献立、まだ咲かぬ花を数えたわけだけど。

 女性の幹部はなかなか難しい。頭が良くて優秀というだけでは正直現在の男社会では厳しいだろう。でも辺境伯の御令嬢という肩書きがあれば女だからとナメられることもないんじゃないかと考えたのだと。

 マルビスは私の話を真面目な顔で聞いてくれた。


「確かに、全くの平民の女性を幹部に据えるよりも反感が出ないのは間違いないでしょうね。ウチの商業班幹部の男が聡明な女性を好むというのも嘘ではないですし、女性の好む商品を多く扱っているウチとしては女性を幹部に据えたいのも事実ですからね」

 女性向けの商品を多く販売しながら大幹部には女性がいない。

 これは問題だと思うのだ。

 だが多くの男が前世でいうところの男尊女卑、女性は子供を産んで育ててこそ一人前的な風潮が強くて出産、育児休暇、ましてや託児所なんてものは存在しない以上、女性が働きながら子供を育てる環境が整っていない。子供も一家の重要な働き手、平民が学校に通うのも一般的じゃない。そうなると余程優秀で見込み有りとされる、学院入学許可が降りるような子供じゃないと両立が難しいのだ。

 将来のために子供を教育した方が得だと思える環境。

 これをまずは整える必要があるわけで、そのためには生活水準も上げる必要があるのだ。これは数年やそこらで変えられるものじゃない。私が領主の地位を賜って四年。やっと少しだけ従業員達の識字率と計算能力が上がってきた。その方がいい仕事にありつけると浸透し始めたからだ。

 でもそれも小さいながらも学校があるこの屋敷周辺だけの話。

 だからこそ他の地区にも学校を作ろうとしているわけだけど。


「勿論、ベガ様の意志が最優先。綺麗で頭が良いのに俯いて下を向いてるのも嫌だった。そういう下心があったのは認めるけど、自信を持たせて差し上げたかったのも本当だよ?」

 頭が良いということはベガ様がそれだけ努力をなされたということだ。素が良くても頑張りなくして知識は身に付かない。

 俯く必要なんかないのだと証明したかった。

「それは疑っていません。ただノリ気過ぎる理由が気になっただけです。貴方はいつも自ら女性に近づこうとはしません。ウチの騎士団や従業員の婚姻率を上げたいというならベガ様をわざわざ巻き込む理由がないのに何故だろうと思ったので」

 それがマルビスは気になったのか。

 確かに現在私は嫁を貰う気は全くないので自分から近づくことは滅多にない。ただ磨けばウチの商業班の男達が好きそうなタイプだろうなあとは思ったけど。

「ベガ様がキッカケで思いついたといえなくもないんだけど」

 女性が一人嫁にくればその友達が遊びに来てまた一組カップル成立なんてのもよくある話。

 成婚率を上げたいと前々から考えていたのも事実。

「ウチの領地で子供の出生率が高いのってルストウェル地区だけでしょう? 元からウチの領地に住んでたって人は屋敷周辺のハルウェルト商会に至ってはほぼゼロ。何もないところを開発したから当然と言えば当然なんだけど。後から仕事を求めて住み着いた若い人が多いからっていうのも理由の一つなわけだけど、このままじゃ人口先細りだよ。平均年齢がドンドン上がってベテランが増えても若い力が育たないと未来は明るくない」

 待つのは超高齢化社会。

 今は良くても落ち着いた雰囲気漂わせるベテランばかりでは明るさに欠ける。そしてベテランも引退すれば次の担い手がいなくて困る。

 若さというのはある程度は必要なのだ。

 特にウチのような娯楽産業を主とする商会ならば。

「それでお見合い大作戦を思いついたと」

「そう。嫁に来てくれるとしてもベガ様一人じゃ殆ど変わらないでしょ」

 いないよりずっとマシだけど。

「つまり貴方はまた一挙両得どころかそれ以上をついでと称して狙ったと?」

 そのマルビスの言い方が引っ掛からないでもない。

 だけどベガ様を誰かの嫁にもらって、ウチの大幹部にゆくゆくは迎えて、その友達や嫁ぎ先を探している婦女子も狙った身としては否定もできない。

 私はハハハハッと乾いた笑いを浮かべる。


「そう、なるのかな?」

 肯定した私にマルビスが小さく息を吐く。

「とにかく貴方の考えはわかりました。

 ミゲル様達企画部に振ったお見合いイベント企画も面白いと思います。ではそちらもシュゼットやゲイル、ビスクに補佐を頼んでおきましょう。貴方が仰るように領地に子供が増えるのは歓迎すべきことですからね」

 マルビスも私の意見には概ね賛成ということか。

「でもマルビス、さっき口を挟まなかったよね。どうして?」

 いつも私が何かボソボソ呟くとしっかりテスラと共闘して根掘り葉掘りと敏腕刑事真っ青の誘導尋問をカマしてくるのに。

 私の問いにマルビスが苦笑する。

「人には向き不向きがあります。私は商品を売り買いすることに関してはここに居る誰よりも優れていると自信がありますが、ハルト様とミゲル様ほどそういった『楽しい』を作る才能は生憎持ち合わせておりませんので」

 要するに自分は作り手とは違うって言いたいのかな?

 でも開発商品を上手く売り出す方法を考えて品切れになるほどのヒットを作り出す手腕を思えばマルビスもまた流行の『作り手』だと思うのだけれど。

「そんなもん?」

「そんなものですよ。努力して得られる才能というものもありますが、ヒラメキを持った天才には敵いません」

 自分は努力型の天才だって言いたいのだろうか?

 それはそれですごいと私は思うのだけれど。

「でもマルビスは商人としての才能は負けないんでしょ?」

「それは負ける負けないという話以前の問題で、負けるつもりがないという気合いと根性です。負けると思って挑む商人に勝ち目はありません。商人は自信家でしたたかでなくては生き残れませんからね」

 そういえばそうかも。

 あまりマルビスの自信の無さそうな顔って見たことないんだよね。

 出会ったばかりの頃に何度か見たっきりだ。

「なら良いんじゃない? 一つでも負けないものがあれば上等。

 私はマルビスのそういうところ、素直にカッコイイって思うもの。それに私達はマルビスをトップに置いて、みんなでハルウェルト商会を動かしているんだから」

 それでも人の上に立ちながらみんなの意見を素直に聞けるマルビスはスゴイと思うのだ。多くの人を動かすのは簡単なことではない。その人の得意なこと、不得意なこと、頑張ればできそうなこと、頑張っても無理なこと、何がどの程度在庫を所有していて何が間に合っていないのか、即座に判断して手配し、割り振る。マルビスが動かしているのはお金や物だけじゃない、大勢の人もだ。

 到底私には無理だ。

 マルビスのように私が胸を張って誰にも負けないって言えるものが果たしてあるだろうかと考えたところで思いつくのは馬鹿みたいに増えた魔力量くらいかと思い当たる。それも空の魔石に魔力を補充していろんな設備に使ったり出来るから、それを思えば全くの役立たずでもないだけマシだろう。

 結局、私はみんながいてくれなきゃ自分だけで出来ることは多くない。だから自信持って『これだけは負けない』って言えるマルビスはすごくカッコイイと思う。


「・・・そうでしたね。私に足りないものは貴方が、貴方にもないものはロイやテスラ、ミゲル様達が持っていらっしゃる」

 

 そうだよ。

 たくさんの人が増えて、味方も増えて、どんどん大きくなった。

 それがハルウェルト商会でしょう?

「そうそう。

 それに私は人は足りないくらいの方がいいんじゃないかなって思うよ」

 そう私が言うとマルビスが不思議そうな顔で見る。

 どうして?

 驚くようなことじゃないと思うけど。

 私は微笑ってその言葉の続きを紡ぐ。


「足りないからこそ、持っていない人の悔しさがわかる。

 人の気持ちを察して思い遣れる。

 だから優しくなれるんじゃないかなあって思うんだよ。

 それに私がもし仮に、完璧で完全だったら人の手を必要としないってことでしょう? そしたらマルビス達にも会えなかったんじゃないかなって。だから私に足りないところがあって良かったって思うよ」

 まあ足りないとこだらけでみんなに迷惑かけてるのは否めないけど。

 だからこそ、

「マルビス達には悪い思うけど、これからも私に足りないところは助けてもらうつもりだから。その代わり、私に出来ることがあったら遠慮なく言ってね。駄目なところがあるなら叱ってくれて全然大丈夫だから。直す努力はするつもりだけど、すぐには直せないかもしれないから少し猶予をもらえると助かるけど」

 そう言って、『ねっ?』と仕草で同意を求めた私にマルビスが破顔する。


「貴方はそのままでいて下されば構いませんよ。

 むしろ足りないから私達が必要だというなら一生足りないままでいて下さい」

 マルビスのその言葉に私は首を傾げる。

「何言ってるの?」

 それはおかしいでしょう?

 足りないところは埋める努力はすべきでしょう?

 そりゃあ不得意なことを得意にすることは難しいかもしれないけどそれはそのままにしておいて良いという話ではない。

 直せるところは直さなければ進歩だってないでしょう?

 それに一番大事なことを忘れてるよ?


「マルビス達は足りてても必要に決まってるでしょう?

 私の大事な人なんだから」


 仮に私の悪いところが無くなって、マルビスに助けてもらう必要がないくらい仕事ができるようになったとしても、それはマルビスが要らないという理由にはなり得ない。

 私は損得だけでみんなに側にいて欲しいと思っているわけじゃ・・・


 ううん、違う。

 私はこの先、未来もずっと、みんなに側にいて欲しい。

 誰一人欠けてほしくない。

 それは間違いなく私の願望、傲慢な望みなのだ。 

 私の幸せに必要だから。

 それは間違いなく私の『得』だろう。


 ならば私はきっと、

 この世で一番の強欲なのだ。



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